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魔王討伐パーティーの勇者、有能なサポーターを追放する~戻って来いと言いたいけどもう遅い。何者かに魔王を討伐され戻って来いと言う大義名分がなくなったので、彼から戻りたいと言わせたい~

作者: 狐の孫族

「キョウ、貴方をこのパーティーから追放するわ」


 勇者である私は今日、魔王討伐パーティーの一員であるキョウをクビにした。


「な、何故だ、何故俺がクビになるんだ? 教えてくれ!! スミレ!!」


 突然クビを言い渡されたキョウは狼狽えているが、クビになった理由を私から言わなければならないのか? キョウは聡い男だ、分かっているだろうに。


「貴方は確かにこの勇者パーティーのサポーターとして頑張ってくれてたと思う、だけどね。皆はもう、貴方抜きでも十分に戦える戦力になったの。それを貴方は理解してて、最近は手を抜いていたわね?」

「ぐっ!!」


 そう、私たち4人パーティーのうち、勇者である私、戦士であるヴァイオレット、魔法使いであるリリーは敵に直接攻撃を与える立場であるため、戦えば戦うほど様々な経験を積み、強くなっていった。だが、サポーターであるキョウは支援と回復という、同じ事の反復のため、経験の積みあがりが遅いのだ。


「貴方は私の幼馴染だから、幼馴染の仲ってだけでお目こぼしされていたのも仇になったとは思う。だから、貴方は一度私の元を離れ、本気で自分を鍛えなおしなさい。これがお互いに幸せになれる方法だと思うわ」

「し、しかし……俺はこのパーティーではサポーターだ。一人で戦う事など……」


 これは私たち他のパーティーメンバーにも落ち度はあったと思う。後衛を守らないとという意識が強くて、最近は欲しいサポート魔法を前衛が指定し、サポーターのキョウは何も考えずに言われたサポート魔法を放てば良いだけ、といった形を作ってしまっていた。


「私は知っているわ。キョウ、貴方がやれば何でもできる人だって。だから、貴方が十分に強くなったと判断出来たら、今度は私が迎えに行くわ。だから、頑張って」


 まだパーティーが結成して間も無い頃、キョウはサポーターと言う立場で俯瞰的に戦場を見渡し、そして的確な指示を出していた。私だけではなく、ヴァイオレット、リリーもキョウの力を買っているのだ。だがそれはあくまで、本気のキョウの力……


「……ホントだな? 俺が十分に強くなれば、またパーティーに迎えてくれるのだな!?」

「もちろんよ、だから、私に貴方の本気を見せて頂戴」

「分かった、俺の本気、見せてやる!! だから、見ててくれ、俺の全力の本気!!」


 私たちはキョウを追放した、だが、それはキョウに本気を出してもらうため。

 今のまま、キョウが私たちの指示で動くような関係性では、魔王との戦いも一筋縄ではいかないだろう。だからあくまでこれはキョウの武者修行の側面がある。もちろん、キョウが強くなれば私が迎えに行く。


 そう言ってキョウと別れたのが1か月前、そして今日……


――魔王討伐の報がもたらされた。


***


「勇者の威光の元、魔王は討伐された! 勇者スミレ、戦士ヴァイオレット、魔法使いリリー、そなたらの働き、誠に大義である」


 国王の謁見の間にて、片膝をつき王と謁見をする私たちに対し、王がこのような事をのたまう。


「「「はっ!?」」」


 私たち3人は王の発言に対し、皆同じ反応を返す、それもそのはず


――もうそろそろキョウを迎えに行き、魔王討伐に行こうかと話していた矢先の出来事であり、私たちは魔王の城に1歩たりとも立ち入ってすらないのだ。


 だが国王は、私たちの疑問の声を肯定の声と認識したようだ。王は上機嫌で言葉を続ける。


「先程、我ら国王軍が魔王城に侵入し魔王の亡骸を確認した。壮絶な戦いの末の勝利だったようだな。魔王城の謁見の間が暴れ回ったような大層な荒れようだったと聞く」


「あのー、陛下?」


「勇者スミレよ、魔王討伐の件、礼を言う。だが、先に我に報告があってもよかったのではないか?」


 いやだって、私たち倒してないもの。

 どうしよう、魔王討伐にキョウの力が必要だからってキョウを放り出した手前、魔王はもう居ないとなると……キョウを呼び戻す大義名分がない。

 いや、それどころか、魔王が居なくなったとキョウが知れば私たちの知らない遠くに行ってしまうのでは……それは困る!! キョウはそう……私たちの近くに居なきゃダメなんだから!!


「国王陛下、お言葉ですが、魔王は欲望に飲まれた元人間の慣れの果てでありました……魔王を討伐したと知れ渡ると、他の者の欲望が開放され、第二第三の魔王が生まれかねません」


 ああ、ヴァイオレットとリリーが私を驚いた眼で見てるのが分かる……魔王が倒れた、そうなると、キョウを呼び戻す理由がなくなるため、咄嗟についた嘘だったのだ


「そ、そうですよ陛下!! あんな怪物、もう2度と生み出さないように魔王討伐の報は内緒で!!」

「はい。私の見立てでは、魔王という絶対悪が居るからこそ他の人間が悪に染まってないと思われます。世界平和の為にも、魔王討伐はこの場限りの秘密としましょう」


 と思ったら、ヴァイオレットとリリーも私の話に乗っかってきてくれた。やはり持つべきものは友ね!!


「ふむ、我としては大々的に魔王討伐パーティーのお主らの活躍を喧伝したいところであるが……そのお主らが反対するのであれば従おう。だが、王としてお礼をさせて欲しい。何か望みの品はあるか?」


 いやー、やめてー。

 魔王討伐どころかまだ魔王城にすら行ってないのに、そんなものもらう資格無いわよ!!


「そ、その件については後日お話させていただいてもよろしいでしょうか?」

「分かった、ではまた後日」


***


「ど、どどどど、どうしよう!!」

「お、おおおおおお落ち着け!!」

「み、みみみみみみっともないわよ!!」


 国王の謁見の間を後にした私たちは、そのままどこにも立ち寄らずに拠点としている宿屋の部屋に引きこもり、そしてそのまま3人での会議が始まった……のだが、あまりに情報量が多すぎて皆整理が付いていないようだ。


 まず第一、魔王が討伐されていた。これ自体はどうでもいい事だから今回はスルーで。

 そして第二、その魔王討伐の功績を私たちの功績とされていた。魔王討伐の勇者は私だけだから、皆がそう勘違いしても仕方ない部分があるし、ぶっちゃけこれもどうでもいい。

 第三、これが問題なのだ。その理由とは……


「どうすんのよ、魔王討伐のためにキョウを呼び戻すつもりが、魔王もう居ないわよ!!」


 そう、あくまで追放したのはより上位の敵、ひいては魔王と戦うため。キョウ自身が自分の力で戦う感覚を思い出すための冷却期間だったはずである。その魔王が居なくなった今、私たちにキョウを呼び戻す大義名分がなくなってしまったのだ。


「今さら戻ってこいなんて、どの面下げて言えばいいのよ!!」


 私は頭を抱える。理由が無い以上、戻って来い、と言うのは憚れるのだ。


「魔王が倒れた事を秘密にして呼び戻す、ってのも不自然か……」

「流石にすぐに彼にバレると思うわ」


 そう、知らぬ存ぜぬで呼び戻したところで、そうしたら今度は魔王が討伐され、その報告が自分たちに回ってきていたという現実が枷となるのだ。

 特に、私たちは女3人に男1人のパーティーであったため、このままキョウを何の理由も無しに呼び戻してしまうと、キョウが理由もなく女に囲われている、といった図式になってしまう。

 キョウを呼び戻す場合、キョウの立場的にも、理由が必要なのだ。


「いっそのこと、国王に私とキョウの結婚を認めさせる……?」

「それはダメだ」「ダメね」


 ヴァイオレットとリリーが速攻で否定してくる。このパーティーを組んで特に序盤の頃、まだキョウが本気であった頃。サポーターであったキョウはヴァイオレットとリリーに対しても精いっぱいのフォローや気遣いを見せていたため、ヴァイオレットとリリーはプライベートではキョウを取り合う仲となっているのであった。

 まあ、それがキョウを甘やかす環境構築に繋がってしまったのだが。

 え? 私? ……私は幼馴染だから、一緒に居るのが当たり前なんだし……


「私がキョウを婿に迎える、これでいいな?」

「じゃあ、ヴァイオレットと私で共有する、スミレもそれでいい?」

「いいわけないでしょ!!」


 うんごめん、キョウを取られるのだけは嫌。


「ホント、どうするんだ? スミレ、このままだとキョウ、他の誰かに取られるぞ?」


 ヴァイオレットもお手上げのようだ。元々彼女は戦士で肉体労働タイプ。頭脳労働タイプではない。こうなると、頭脳労働に近い魔法職のリリーから妙案が出ないか……


「……要は、私たちから『戻って来てほしい』と言わなければいいのよね?」

「ああ、そうだな。私たちが『戻って来い』と言う大義名分がなくなったからな」

「それならば、逆転の発想はどうかしら?」

「逆転の発想?」


 リリーが何か含みを持たせて発言を溜める。一体何を思いついたのだろうか?


「私たちが『戻って来い』ではなく、彼が『戻りたい』と言えば、戻ってきてもらう理由になる」

「……なるほど、リリー、やっぱりお前、頭良いな!!」

「そ、それよ!! 彼の願いを私たちが受け入れた、それであれば問題無いわ!!」


 今になって思うと、この時の私たちはどうかしてたとすら思う。だって、彼から「戻りたい」と言う事、それは彼がプライドを捨ててでも私たちと一緒に居たいと宣言する事と他ならないのだから。


***


「キョウ、特訓の成果はどうかしら?」


 キョウを追放した、とはいえ、あくまでパーティーに戻す事を前提にしているので、キョウは前と変わらずに私たちと同じ宿に居を構えている。

 ここ2週間ほど留守にはしていたが、戻ってきたキョウは以前とは見違えるように逞しくなり、そして、顔つきも私たちに守られていた時のボヤけた顔つきでなく、以前の真剣な顔つきに戻っていた。

 その真剣な顔つきに居合わせたヴァイオレット、リリーも息を飲む。そして僅かに頬を上気させる。別に惚れてないはずの私ですら、同じリアクションを取っている事に気が付き、慌てて取り繕う。


「スミレ、ヴァイオレット、リリー。ただいま!! 特訓はボチボチってところかな?」


 キョウは私たちを確認すると、ニッコリと笑顔を向けてくれる。その笑顔が眩しくて、嬉しくて、惚れてるヴァイオレットとリリーだけでなく、私ですら真剣な顔とのギャップにドキッっとしてしまったのだ。


「そ、そう。それはよかった。ところで、もうそろそろ、戻りたい、とか思わないかしら?」


 私は努めて冷静に、キョウにそう呼びかける。

 大丈夫、キョウがあれだけ頑張ってるのも、私たちに迎え入れて欲しいからよね?

 分かってるわよ、戻りたいと言ったら直ぐに戻ってきてもらうから。


「そうだね、その為に頑張ってるから……戻って来いと言われるまで、頑張るよ!!」


 そうだったぁぁ!! 私が「迎えに行く」って言っちゃったんだったぁ!!

 どどど、どうしよう……


「い、いや、でも、キョウも頑張ってるし、戻りたいって言うなら戻ってきても、いいのよ?」

「いや、皆から戻ってきてほしいと言われない限りは、俺の甘えは抜けないと思う……だから、皆から戻ってきてほしいと言われるまで。俺はひたすら鍛錬するだけだ」


 なんで、なんで意固地になってんのこの子!! ちょっとカッコイイし!!


「心配するな!! 俺は皆の力になれるよう、頑張るさ!! 戻ってきてほしいって言ってもらえるよう、全力でやってやる!!」


「そ、そう……頑張ってね……」


 諦めない!! 私は、キョウから「パーティーに戻してください」と言われるまで、諦めないんだから!!


***


「やはりまだ、戻って来いとは言われなかったな……」


 キョウは1人、自分の部屋でそう呟く。ここ1か月の特訓の末、前衛後衛全てを一人でこなし、視野も広くなった。考えないで戦う事の危うさを知った。だからこそ


「追放されて当然、だな」


 何も考えずに戦っていた自分を恥じ、その責任を全てスミレ、ヴァイオレット、リリーの3人に押し付けていた自分が情けなくなった。

 内心は、地面に頭をこすりつけ、土下座をしてでも「パーティーに入れてください」と言いたいところであったが、それだとまた、今まで苦労を掛けた3人の重荷になるであろう、とキョウは考えていた。だからこそ「戻ってこい」の一言、この言葉をもらえない事には、戻るわけにはいかないと思っているのだ。


 さて、明日からまた修行の始まりだ、とキョウは気合を入れなおし、久しぶりのベッドに寝転がる。思い起こすのは修行の日々、そして、その時に倒したユニークモンスターの事。


(なんだっけか、エラソーに城でふんぞり返っていたあのモンスター、マ・オウだっけ? 倒すの大変だったなぁ。でも、あれが大量に居れば俺ももっと強くなれるはず……)


 そういえば、とキョウはその時のことをより深く思い出していた


(マ・オウとか言う奴が言ってた、そいつの上位種のシンノ・マ・オウとかいうやつ、そいつと戦えば、パーティーに戻ってこいと言ってもらえるかな?)


 キョウは知らない。彼が戻って来いと言われないのは、彼がその理由を潰してしまったという事を。


 こうして、戻りたいと言わせたい勇者と、戻ってこいと言われたいために戻って来いと言うための理由を自分で潰す追放者の話は拗れて行くのだが、それはまた、別の話。

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