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Prologue

これ一話完結でもいい……よくない?


駄目?そう……

俺は、普通だった。


なんてことはない、只の学生だった。


その日も、いつものように友達とバカ騒ぎしながら、通学路の見飽きた坂を下っていた。


只の偶然だった。


たまたますれ違った子供が、手を滑らせたのか持っていたサッカーボールを落とした。


車道に転がり出たボールを追って子供が飛び出した、そのすぐ傍までトラックが迫っていた。


なんてことはない、子供を突き飛ばしてかばった俺は、そのままトラックに轢かれて死んだ。









次に目を覚ました場所は孤児院で、俺はそこで暮らす孤児の一人だった。




その世界では魔術が全てだった。使える属性は生まれた瞬間に決まるそうだが、幸い俺には六つもの属性に適正があった。


『才ある者は努力せよ、選ばれた者は責を負え』


俺はひたすらに努力した、そして俺は強くなった。






或る日、皇女様がこの街を、そして何を思ったのか、この孤児院を訪れた。


皇女様は大層なお人好しだった、この国(アトラス皇国)の孤児をなくすなどと(のたま)う程には。


戦乱のこの時代に、そんなことが許される筈もないのに。



皇女様は戯れがお好きだった、護衛が手薄の中襲ってきた刺客のうち、ただ一人を抑えることしかできなかった、何の身分も持たない俺を魔術師団へと引き込む程には。


四属性を使いこなす彼女は、その間に幾人もの刺客を仕留めていたというのに。



俺は玉座の前に立ち忠誠を誓った。


我が君は云った、『その命を賭して国へ尽くせ』と。


俺は言った、『じゃあ死なないように強くなります。』


我が君は笑った。


そして俺は魔術師団の一員となった。



俺はまたひたすらに学んだ。昼は訓練場で剣を振るい、夜は城内で魔導書を読み耽った。



我が君は豪傑な御方だった、騎士達が束になろうとも傷一つ付けられない程には。


そしてやはり戯れを好んだ、『守られる側より弱き者は騎士とは言わん』そう云って俺に剣を教えた。




皇女様は魔術にお熱だった。剣を学び終え書庫へと向かうと、そこには必ず彼女の姿があった。


彼女は紛れもなく天才だった、千を超える魔導書の中に彼女の知らない魔法はなかった。


そしてやはりとても気まぐれな方だった、唯の一魔術師に過ぎない俺に自らを名で呼ばせる姿は我が君をさえも呆れさせた。



俺は強くなった。


一軍を一人で相手取ることも容易くなった。


それでも俺は、強さを求め続けた。




俺と皇女(フィリア)様は数多くの新たな魔術を生み出した、それらは民に富を、帝国兵に死をもたらした。



気づけば俺は、魔術師団の長にまで登り詰めていた。




或る日。


ついに、俺の剣が我が君に届いた。



木剣を突き付けられた我が君は、見たこともないほど嬉しそうに笑った。


あの表情(かお)を、俺は忘れることはないだろう。



俺は、この国の騎士達の頂点に立った。




俺は嬉しかった。



これで我が君を守れる。



これでフィリア様を守れる。



全ては我らが皇国のために。





















でも、それももう終わりだ。





















ある時を境に帝国の侵攻が激化した。


幾千もの生贄(人柱)を捧げ放たれる禁呪の火力は、皇国の守りに穴を開けるには十分だった。



国境を守ろうと、多くの騎士が奮起した。



俺は彼らを止めようとした。



少数で行こうと命を散らすだけだ、兵が集まるまで待てと。



彼らは言った。



兵を集めるのにいったいどれだけの時を要するのかと。



その間にどれだけの民が命を落とすのかと。




我が君は、彼らを止めなかった。



俺は、彼らを止められなかった。





禁呪に手を染めた帝国兵どもは、もはや分散した兵力では止まらなかった。







数百万もの帝国兵の数がようやく半数を切った頃には、既に皇国は城にまで攻め込まれていた。







我が君は云った、これが最後の勅令であると。




我らが皇女様を連れて退け、さすれば皇国は滅びぬと。




我が君は強い。



フィリア様も戦える。



護衛が付かずとも、二人で逃げることは容易い。



そして俺も、御二方が退くまでの時間くらいは。



そういった俺の言葉を遮って、我が君は云った。







フィリアを、頼む。







我が君は、卑怯だ。 命を賭して国へ尽くせと、そう仰ったとはあなたではないか。




俺にとって、皇国は貴方だ。




俺の命を使うべきは今だ。




俺にだって、覚悟はできている。






なのに。






「御意に」










俺はフィリア様を連れ皇都を出た。





王城は燃え、そして崩れ落ちた。










俺たちはそのまま、盟邦である王国へと向かった。



彼の国はこの亡命を快く受け入れた。



数刻の後、俺たちは謁見の間へと通された。



そこには、





血に濡れた彼の国王の首と




数多の帝国兵の姿があった。





魔術を展開しようとした俺の腕を、そっと彼女が掴み。



そして、ゆっくりと首を振った。





――――嗚呼、フィリア様。貴女は疲れてしまったのですね。





――――大丈夫、人は死を迎えると、別の世界へと生まれ変わり、そこでまた生を得るのです。





――――はは、確かに兵へ聞かせていれば、士気も上がっていたかもしれませんね。





――――ええ。では、参りましょうか。







――――願わくば、貴女が次の世界で。







――――平和に、そして幸せに過ごせますように。










「「――――我等が皇国に栄光あれ」」

受験も近い(あと1年半)ので、次回投稿日は未定です。

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