国盗りの延長戦は始まっている
突然の結婚相手探しは、瞬く間に2週間が過ぎ去った。
ナミアーテは着々と彼らと親交を深めているようで、連日お茶をしたり手紙をやりとりしたり、デートに出かけているらしい。
ジョーくん情報では、どうやらナミアーテは逆ハーレムを築こうとしているらしい。みんなに愛されたい願望の強い妹らしいと言えば妹らしいが、この国で重婚は男女ともに違法である。
そのあたりをどうするつもりなんだろう。
誰か1人を夫に据えて、その他大勢は自分を愛して支えてくれる人にするの?
ちょっとした宗教団体みたいで怖いな……。
今のところ、妹に篭絡されたのは騎士のダンテと魔導士のエインリッヒ。
アクアニードは私と妹のどちらにもいい顔をしていて、イマイチ本音が見えない。
彼と二人で散歩したときは、差し触りのない会話をするだけだった。
「どうしたらいいのかしら」
「えーっと、結婚のことですか?」
魔導士団の持つ一室で、私はオルフェードに愚痴っていた。
彼も一応婚約者候補なんだけれど、オルフェードにその気がないので私は安心して愚痴っている。
外はぽかぽか陽気でいい天気。
けれど、私はオルフェードのそばで彼が魔法道具をいじるのを見ている方が心が休まるのだ。
「フェアリス様は、誰を選べばいいかで悩んでいるのですか?」
おそるおそるといった雰囲気でそう尋ねるオルフェード。
私はきょとんとした顔で言った。
「いいえ?」
誰を選べばいいか、なんて悩んでいない。選べる立場でもないっていうのもあるけれど、こんな乙女ゲームみたいなことは性に合わないのだ。
「私が悩んでいるのは、どうやったら誰と結婚しても国政に関われるかってこと」
「誰と、結婚しても?」
私は頷いた。
「本心を言えば、バリバリの政略結婚でよかったのよ。国を一緒に盛り立てていきましょうっていう部分の同意が取れればそれでいい」
「えええ」
「国政を任されるっていう部分において、ナミアーテははっきり言って頼りにならないわ。けれど、アクアニードとナミアーテが結婚するならそれはそれでありね。その場合、私は別の形で国政に食い込めるようがんばる必要がある。でも、ダンテとエインリッヒのどちらかをナミアーテが選べば、王太子の後見としては頼りないのよ。余ったアクアニードと私が結婚となれば、もちろん私が弟の後見役になることは間違いないわ」
「それではいけないと?」
「ええ、そうなの」
だって、どう考えても私はアクアニードが無理なのだ。
王族だから政略結婚なんて覚悟の上。けれど、実際にアクアニードと対面してみると、なんだかわからないけれどゾワッとする。
顔は文句なしのイケメンで、能力もある。
自分がいかに贅沢を言っているかはわかるんだけれど、どうしても無理なのだ。理由はわからないけれど、あの手に触れられると蕁麻疹が出そうで、キスやそれ以上をすると思うと拒絶反応がすごい。
「なんていうか、無理なの。アクアニードだけは無理なの」
高飛車でどうしようもない女だと思われたかな。
ちらりとオルフェードを見ると、彼は腕組みをして右手を口元に当て真剣に考えてくれていた。
「魔力が合わないのかもしれませんね」
「魔力?」
彼は私の問いかけに頷く。
「あまり知られていませんが、魔力は個性であり、それぞれに性質があるとわかっています。おそらく、フェアリス様とアクアニード様の魔力の相性が悪いのだと」
「でもそれなら、向こうも同じように感じていて、それを耐えているってことにならない?」
うわぁ、自分がそうなのに棚に上げて、耐えられていると思ったらちょっと凹む。散歩のとき、ずっとエスコートしてくれていたけれど、もしかするとお互いに苦痛な時間だったかも。
オルフェードも腑に落ちないと言う感じで首を傾げた。
「そうなんですよね。それがちょっと納得いかないといいますか……。失礼ながら、アクアニード様ほどの才覚をお持ちであれば、どちらの王女殿下と婚姻しても後見役になれますよね?となると、彼との結婚に後ろ向きなフェアリス様よりも、誘惑に弱そうなナミアーテ様を落とした方がてっとり早いかと」
「あなたけっこうストレートに言うのね」
「あ、すみません」
本当にその通りだと思う。
どう考えても、アクアニードは最有力候補だから、魔力の相性が合わない私を狙う必要はなく、一点集中でナミアーテを落とせばいいのだ。
妹のことだから、アクアニードに優しくされたらすぐに飛びつくに決まっている。
「なんでかしら……」
「なんででしょうね……」
結局この日、何か打開策を思いつくことはなかった。
あと3週間で結婚相手を決めなくてはいけないということは変わらず、オルフェードという癒しを前にしても私の心は重い。
「フェアリス様なら、何か奇策を思いつくのではありませんか?」
オルフェードは今日も儚げに笑う。
そして、私の手をそっと握って言った。
「俺はいつでもフェアリス様の味方ですよ」
「ありがとう」
そうだ。こんなところで負けるわけにはいかない。
国盗りと違ってシナリオなんて存在しないけれど、あがいてみなければ何も始まらない!
「私、がんばるわ!」
オルフェードの前で宣言した私は、急ぎ足で部屋へと戻っていった。





