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私の育てた呪術師がかわいすぎる【前】

 凱旋パレードが終わり、翌朝のこと。

 いつもは放任主義な父である国王陛下から、なぜか私に呼び出しがかかった。


 わざわざ通知が来るということは、家族としてではなく国政に関わることなんだろうと推察できる。


「ふぁ……一体何の用かしら」


 ペールブルーやホワイトを基調とした、飾り気のないシンプルな部屋。


 寝室には山ほどぬいぐるみが置いてあるけれど、わりと人の出入りがある居室は威厳を気にしてあっさりした感じにしている。もふっとしたぬいぐるみは、癒されるから好き。


 転生してから、私もあれやこれやでもう20歳。

 そろそろぬいぐるみもなぁ、と思いつつこのままにしている。


 モーニングティーを飲み、私はあくびをした。

 フェアリスとして転生して、こんなにのんびり朝食を摂れるのは今日がはじめてかもしれない。


 せめて午前中はのんびりしようと思っていたのに、父王からの呼び出しでそれは無に帰してしまった。


 この部屋には今、補佐官のジョーエスと侍女が2人いる。

 私が着ている紺色のドレスは謁見できる装いで、後はアクセサリーをつけて髪を整え直せば問題ない。


 大人っぽい顔立ちだから、ゴテゴテとしたドレスよりも優雅に見えるAラインのシンプルなデザインを選んだ。素材がいいと、何着ても映えるからすごい。ゲームキャラはずば抜けた美貌なのだ。


 長い銀髪はさらさらストレートで、朝起きたときからすでにきれい。

 前世では剛毛な黒髪だったから、朝起きたらものすごい角度に曲がっていたり、雨の日はごわついていたりしたけれど、ここではそんなことはなくずっとさらさら。異世界、すごい。


 さぁ、指定された時間まではあと一時間ほどあるので、束の間の休息を楽しむことにしよう。


 私は貴族向けではない大衆新聞に目を通しながら、サラダやスープ、焼き立てのパンを頬張る。


「まぁ、イズリード領で温泉ですって。これは一度視察に行かなくちゃ」


 大衆向けの新聞には、商売に役立つネタがたくさんある。

 国盗りだけでなく内政にも携わっていく私にとって、民衆の気を引きそうな話題や儲かりそうな話は大事だからできるだけ仕入れておきたい。


 第一王女って王位継承権はないけれど、国政にはバシバシ関われる立場なんだよね。

 私がこの5年かけてその地位を築いたのが大きい。


 だってせっかく国盗りゲームの世界に転生したんだから、死にたくないのは当然として、豊かで明るい国にしたいじゃない?王族の強権を発動して、民の生活水準を上げていかないと。


「庶民でも気軽に旅行できるような、楽しい国にしたいわ」


 もぐもぐと咀嚼しつつ文字を目で追っていると、部屋の扉を叩く音がした。


「時間通りですね」


 長い黒髪を一つに纏めたジョーエスは、くるりと振り返って扉の方へ向かう。白シャツに上下黒の正装という装いの彼は、暗殺者のジョブ持ちなので足音はない。


 ドMの変態だけれど、腕は立つ。

 だから、私の護衛はずっとジョーくんだけだ。


「今日はどなたか来るご予定でしたか、姫様」


 メイド服を着た侍女のシルキーが、猫獣人らしいふわふわの耳をぴょこぴょこと動かしながら尋ねた。その隣では、同じく侍女のブラウニーがフルーツを皿に盛りつけている。


 赤髪のシルキー、茶髪のブラウニーは双子の獣人侍女で、私が数年前に「かわいい!」とひと目惚れして拾ってきてしまった娘たちだ。


 今年16歳になったばかりだが、その容姿は身長140センチ程度とかわいらしい子どもにしか見えない。獣人とは寿命や成長が違うので、彼女たちは人族で言うと10歳前後みたい。


 ぴょこぴょこと動く二人の耳がかわいすぎて、朝からキュンが猛烈に私を襲ってくる。しかし王女らしい態度を崩すわけにはいかないので、余裕ありげに悠然と答えた。


「今日はオルフェードが挨拶に来るの。彼には領地を与えたから、すぐにそっちへ向かうんだって」


「「へ~、そうなんですか」」


 帝国一の魔導士であり呪術師のオルフェード・スノウは、私の2歳下で18歳。特殊なスキルを使って、見事この国を勝利に導いてくれた英雄だ。

(ちなみに、魔導士のレベルをカンストすると、呪術師になれるシステム)


 オルフェードは、ゲームだと終盤で戦うことになる敵国のラスボスなんだけれど、私が転生者特権で先回りしてスカウトしたから今はこっち側の部下。


 彼がまだ子どものときに、才能が開花する前の彼を仲間にしたのだ。

 反則?

 いやいや、ルールは私だから!って、いかにも王族っぽい偉そうなことを言ってみる。


 オルフェードは伯爵家の嫡男として生まれたけれど、自国が戦争で負けてしまったために一度は奴隷として売り払われそうになっていたんだよね。


 ここで本来は敵国の司令官に買われるんだけれど、私がその司令官を落とし穴に落として会場に来られないようにして(古典的かつ姑息な私!)、オルフェードを手に入れた。


 当時14歳だった私が奴隷オークションに参加するなんて外聞が悪すぎるから、親しくしていた将軍を唆して協力してもらった。奴隷を欲しがる少女って、今考えても将来が不安すぎる……。

 いやまぁ、理由があるんだけれども。オルフェードを救うっていう理由が!


 だって、強キャラレベル★5のオルフェードをスカウトしないなんていう選択肢はなかった。

 ゲームだと、私はオルフェードに二十回くらいやられてるからなぁ。

 彼が呪術師になると、レベル700で「物理・魔法ダメージ反転」という術を発動できるようになる。


 受けたダメージを全部そっくりそのまま相手にやり返すっていう、それこそ反則級の術。こっちのレベルが最大に達していないと、まず無傷ではいられない。


 私だってクリアしたときはパーティーメンバーのほとんどが戦闘不能になって、かろうじてリーダーだけが生存していた状況だった。


 ゲームなら何度でもやり直せるけれど、現実だと一度の死で終了だもの。

 オルフェードのスカウトが成功して、本当によかった。


「おはようございます、フェアリス様」


 ジョーくんに連れられてやってきた彼は、見た目こそ優しそうな好青年。

 だけれど、その実態はレベル798の最強呪術師である。


 あぁ、繊細そうな美形。今日も目の保養になってうれしい。

 濃茶色(ダークブラウン)の髪は、サラサラのストレート。肩より少し上の長さの髪を、左側だけ編み込んで髪飾りで留めている。


 出会った頃は前髪がものすごく長くて目がこっちから見えなかったけれど、今はさすがに右から左に流しているから陰鬱な感じはまったくない。


 この国の男性は何かしら髪を結んでいて、飾りをつけるのも一般的。髪飾りや装飾品は何かしらの宝石が入っていて、貴族はそれを身分証明に使うことも多い。


 オルフェードは女の子みたいにかわいい顔で、孔雀の羽根のような鮮やかな青緑色(ピーコックグリーン)の瞳は、ついついじっと見ていたくなる美しさだ。


 国盗りゲーの世界だけあって、屈強な戦士や騎士が多い中、オルフェードの物腰柔らかな雰囲気とかわいさは貴重。何とも庇護欲をそそるのだ。


「おはよう、オルフェード。座って?」


 にっこり笑うと、オルフェードも控えめに笑みを浮かべる。


「ありがとうございます」


 あああ、今日もかわいい!

 美青年の微笑み、ありがとうございます!

 目の保養、心の栄養、日常のオアシス!


 心の中で煩悩を吐き出すと、私のニヤニヤに気づいたオルフェードはちょっと戸惑いがちに「はは……」と笑った。


 引かないで。

 ただ、愛でたいだけなの。


 彼が着ている黒のベルベット素材で作られたローブマントは、肘辺りまでのショートタイプで動きやすいデザイン。


 黒の長いワンピースみたいな衣装は、彼の出身地である北方の人が好んでいる服装だ。中にはちょっと裾がダボッとしたズボンを履いているので、温かいらしい。


 黒い神官服に見える装いは、薄幸の美青年に見えてとても彼に似合っている。

 首元には、私が彼にあげた菫色のブローチが光っている。


「それ、いつも着けてくれているのね。うれしいわ」

「はい。殿下から賜ったものですから、当然です」


 大魔術の行使によってオルフェードは命を失うはずだったんだけれど、ゲームではともかく現実世界でそんな後味悪いことはできないということで、私がどうにか魔力補助の結晶石を見つけだしてプレゼントしたのだ。


 オルフェードは戦が終わったら返すと言って来たけれど、これは私から彼に下賜することにして所有権を譲った。


「お食事中に、すみません」


 申し訳なさそうに言う彼に、私は笑顔で言った。


「かまわないわ。オルフェードならいつ来てくれても」


 ええ、私があなたを修業に突っ込んで、何度か殺しかけたことに比べれば全然大丈夫です!


「朝食はまだ?一緒に食べていかない?」


「いえ、めっそうもない!きちんと朝食はいただきましたので……」


 残念。餌付けはできなかった。

 まぁ、きちんとごはんは食べているみたいだからちょっと安心ね。


 オルフェードは身長180センチくらいで、この国の男性としては平均的な体格だ。

 顔がかわいくて線が細いから小柄に見える。

 餌付けというか、太らせて手懐けたいと思うのは私の勝手な趣味である。


「失礼いたします」


 侍女のシルキーが、彼の前にスッとお茶を差し出した。

 彼は、いただきますと言って口をつける。


「今日、領地へ向かうの?」


 オルフェードは国の英雄になり、勲章と爵位を賜った。

 そのため、これからは領地持ちの貴族に仲間入りとなる。


 戦が終わった今、私が率いる第一王女直轄部隊に所属していても、ずっとそばにいることはできない。


 彼が今日王都を出発し、領地へ向かうということはずっと前に聞いた情報だった。


 紅茶のカップをソーサーに置くと、オルフェードは困ったように笑った。


「いえ、それがちょっと予定変更となりまして。一か月ほど、王城で留まって魔導士部隊の教育をするように仰せつかっております」


「まぁ……!確かにオルフェードなら適任だけれど、あなたのことが後回しになってしまうわね」


「国のためですから、こういうことも仕方ないです」


 うっ!!なんていう優しい子なの!?

 へらっと笑った顔がまたかわいくて、私は胸を撃ち抜かれそうになる。

 私のツボをとことんついてくる。


「それに、フェアリス様のお役に立てるなら本望です」


「オルフェード……!」


 そうよね。

 戦が終わり平和になれば、彼とは離れ離れになってしまう。

 式典や舞踏会で、年に2~3回会えればいい間柄になってしまうのよね。


「これからは、いつでも会えるってわけにはいかないのよね」


 しゅんと落ち込むと、オルフェードは眉尻を下げて笑った。


「そんなお顔をなさらないでください。フェアリス様が呼んでくだされば、いつだって駆けつけますから」


「ありがとう……!」


 もういっそ、一緒に住む?毎日おいしいものを食べさせてあげたい。


 そんな言葉を飲み込んだ私は、主君として堂々とした態度で彼に向き直る。


「あなたには本当に感謝しています。オルフェードがいなければ、帝国はこの七国戦争を機に滅んでいたかもしれません。私の方こそ、あなたのためにできることがあるなら遠慮なく言って欲しいわ。国を背負う王族である以上、いつでも優先するとは約束できないけれど、それでも心からオルフェードの幸せを願ってる」


「身に余るお言葉です」


 オルフェードは柔らかく笑った。

 温かな光が降り注ぐ窓辺。彼の濃茶色の髪が透けて、キラキラと輝いている。


「ねぇ、デザートだけでも一緒にどう?」


 性懲りもなくそう誘うと、彼は申し訳なさそうに笑って頷いた。


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