決してskipできない男
アクアニードの企みは、白日の下に晒された。
父親である宰相は息子の不始末を詫び、職を辞するという。
けれど私はそんなに優しくない。
うちの国は、息子の不始末くらいで隠居させるほどホワイト企業ではない!
「この国を任せられるのは、あなたしかいません。これからも王や王子を支えてください。それにアクアニードはもうオルフェードの魔力監視下にあります。投獄するより働かせて、罪を償わせることを望みます」
「もったいなきお言葉……!」
跪く宰相は、私に対して忠誠を誓ってしまった。粉骨砕身がんばるんだそうだ。
アクアニードに関しても、あれほど優秀な人材をばっさり処刑するのはもったいない。
「王女殿下は、神の遣いなのか……!?」
そんなわけない。宰相にそこまで感謝されると困る。
奉仕してくれる有能な駒が欲しかっただけ。もったいない精神が発動しただけなのに。
父はというと、私が三国寄越せと言ったことで大喜びの大爆笑だった。娘の成長がうれしい、とも言われた。
笑い事じゃない!こっちは大変だったんだから!!
私の希望通り、三国の統治権は無事に譲渡されることに決まった。オルフェード付きで。
王太子の後見役には、王弟である大公や宰相をつけることでまとまった。私は三国のことで忙しいから、しばらくの間だけでも弟の教育は国王陛下ら重鎮たちでがんばってもらうのがいい。
ナミアーテに関しては、しばらく父が検討するらしい。多分、アクアニードとの噂が消滅した頃を待って、騎士団長の息子であるダンテの元に嫁ぎ、政とは無縁の奥様暮らしをすることになるだろう。
エインリッヒは、どうなったか知らない。素行不良を叩きなおすため、フラヴィオ将軍がバトルアックス片手に魔導士団をしごいているという話は耳にしたが、エインリッヒの生存は不明である。
「フェアリス」
「何?」
謁見の間から出て、母が愛した薔薇園にてオルフェードが私に尋ねる。
「エインリッヒの方は、ナミアーテ様と色々あったことについて記憶の改ざんをすればいいのでは。そうすれば、関係を持ったことはなかったことになりますよ。もしくは秘密裏にやつを消すのもむずかしくはない」
「……あなたやっぱり悪フェードだわ」
うちの呪術師の発想がやばい。
ちょっと育て方を間違えたかも、私は後悔を抱き始める。
私が考える合理的は、非人道的なものではない。(多分)
「エインリッヒのことはもういいの。ナミアーテも反省するでしょう」
「そうですか?」
薔薇園には誰もおらず、オルフェードと私の二人だけ。
前歩く私は、両腕を上に伸ばして解放感に浸る。
「んー!疲れたぁぁぁ!!」
このひと月、結婚相手探しでとっても疲れた。知恵熱を出したくらいだもの。
肩の力を抜いた私を見て、オルフェードは笑う。
「さきほどは、立派な王女殿下っぷりでしたよ」
「でしょう?」
彼の方を振り返って、私はにこりと笑った。
けれど実は内心ドキドキが止まらない。ひやひやと言った方がいいのだろうか。
だって私は、結果的にはオルフェードに丸め込まれたというかはめられたと言うか、まんまと婚約者になってしまったわけなんだけれど、彼の想いを裏切って政略結婚しようとしたのだ。
それについては、きちんと謝った方がいいのかも。
いやいや、謝るも何もあれが私の正直な心と行動だったわけで……。
考えれば考えるほど、挙動不審になっていく。
見かねたのか甘えているのか、オルフェードは私の背後からぎゅうっと飛びつくようにして抱き締めてきた。
「フェアリス様、もう逃げないでくださいね?」
「…………時と場合によるわ」
「じゃあ、一生安心ですね」
「どうしてそうなるのよ」
「逃げる必要がなくなったからです」
そう言われてしまえば、元も子もない。
ルクレーア出身のオルフェードと結婚すれば、三国の統治もやりやすくなる。
おいしいことばっかりで、確かに逃げる必要はない。
「愛が重いのは、困るというか戸惑うんだけれど」
こんな風に抱き締められるのも、慣れないから何だか気恥ずかしい。
あぁ、満開の薔薇が何だか演出めいている気すらしてきた。恥ずかしい。逃げたい。
けれど、オルフェードは耳元で囁くように脅してくる。
「早く慣れた方がいいですよ?」
慣れるのも怖いな。
「でないと、この先が思いやられます」
「先って?」
「それはもう、色々と」
「…………やっぱり逃げてもいいかしら」
国盗ゲーってこんな溺愛ついてくるんだっけ?
んなわけない。もう本編は終了したんだ。とんでもないアナザーエピソードがやってきたものだ。
オルフェードはくすくすと笑い、髪や頭にキスを落とす。
うん、逃げられそうにないわ。
私の中で、諦めという文字がどーんと浮かぶ。
「もう、いっか」
そう呟くと、私はオルフェードの腕の中でくるっと体の向きを変える。
抱き合うようにして向かう合うと、宝石のような青緑色の瞳が私の姿を映していた。
「私の伴侶になるからには、放・連・創を守ってよね」
「放・連・創?」
オルフェードは私を腕にしっかり囲ったまま、目を瞬かせる。
あれ、言っていなかったかしら。これほど長く私に仕えているのに。
「ホウレンソウは、放置・連戦連勝・創意工夫よ」
「えーっとつまり?」
「放置してもきちんと仕事はこなす。誰が相手でも絶対に勝つこと。なるべく長くいい関係を築けるように、問題が発生したら創意工夫を持ってその都度関係改善に努めること!」
「え、それだけでいいんですか?」
「それだけって、これはけっこう高い要求よ?」
本当にわかっているのかしら。
じっと見つめると、彼はちょっと悪い顔をして言った。
「放置はさせません。どこまでもついていきますから。そもそも連戦連勝は、第一王女直轄部隊では絶対です。あぁ、もしも呪術師の俺に勝てる相手がいたらぜひうちの部隊にスカウトしましょう。それに」
「それに?」
「問題なんて発生する前に全部潰します。大丈夫、駆除は得意なんです」
駆除って一体何をどうする気!?
オーラが黒いわ、オルフェード。
するっと彼の腕から逃れた私は、さらに絶対に言っておかなければいけないことを念押しする。
「あと、それから!結婚についてなんだけれど、私なりに考えたのよ」
「はい」
オルフェードがうれしそうに微笑む。
私もにっこりと微笑んで、率直な気持ちを伝えた。
「私たち、まずはお友達からってことでいいかしら」
「…………は?」
「だって、これまで上官と部下っていう関係だったわけで、男女間のあれこれはなかったわよね?」
「キスしました」
「そ、それはあなたが勝手にしたことよ!」
一瞬で顔が真っ赤になる。思い出すと、叫び出しそうなくらい動揺してしまった。
「あれよ!いきなり結婚相手っていうのはハードルが高いから、せめてお友達という対等な関係から始めてはどうかって」
オルフェードがじとっとした目を向けてくる。
え、やっぱりダメ?
私は狼狽えて、目を泳がせた。
「フェアリス、手を」
「手?」
短い言葉。私が自然に右手を前に出すと、彼はそれをスッと取り、なぜかカプッと甘噛みした。
「ちょっ……!?」
ひぃぃぃ!
慌てて手を引っ込めると、勢いよくぎゅうぎゅうと抱き締められてしまう。
そしてオルフェードは、いつになく低い声で囁いた。
「友達……?今さらそんな関係で納得できるとでも?俺が何年待って、何人葬り去ったと思っているんですか」
待て。
葬り去った話は具体的に聞いていない。
私の知らないところで、一体どんなことをやっていたの?これって私は知らなくてもいいの?
必死で離れようと闘うけれど、私にオルフェードを跳ねのける力はない。
しかも背中や腰を撫でる手つきが怪しい!
「わー!待って待って待って!!」
半泣きで叫ぶが、彼はやめる気配はない。
「あなたのことは好きだけれど、オルフェードであってオルフェードじゃないっていうか、まだ混乱しているのよ!」
いきなりの急変に適応するには、もうちょっと時間が欲しい。現実を受け入れるにはまだ時間が足りない。
「仕方ありませんね」
「え?」
わかってくれたのか、と思って嬉々として顔を上げると、オルフェードは柔らかで優しい微笑みを浮かべていた。
そう、以前のようなかわいいオルフェードの顔で。
「フェアリス」
「っ!!はぁぁぁぁ!やっぱりかわいいオルフェードが好き!」
好みには抗えず、凝視してふるふると震えて感動してしまう。
「どっちも俺ですよ」
しかしすぐさま元に戻ってしまい、盛大にため息を吐かれた。
「ううっ、それはまぁ、わかっているんだけれど……」
困った顔で上目遣いに見つめれば、ふっと笑った彼が顔を寄せてくる。
労わるように優しくキスをされ、抵抗する間もなく次のキスが落とされた。
「かわいい」
「っ!!」
真っ赤な顔で睨んでも、きっと迫力はゼロ。この男、どうしてくれようか……!
「フェアリス?」
かわいいのはおまえだぁぁぁ!!
「怖い。篭絡されそうで怖い」
思わず出た本音に、オルフェードが悪い顔になった。
「へぇ、篭絡されてくれるんですか?戦姫とも呼ばれたお方が?」
「黙秘します」
両手で顔を覆い、下を向いて沈黙する。
オルフェードはそんな私をふわりと抱き上げ、意気揚々と歩きだした。
「さぁ!新居へ向かいましょうか!実はもう王都に邸を構えているんです。結界の構築に魔力を使いすぎて間に合うかちょっとだけ心配しましたが、誰にも邪魔されないようしっかり厳重な警戒網を敷きましたから安心してくださいね?陛下にはすでに転居の報告は済ませていますから」
「何それ、聞いてない!!」
「言っていませんからね~。あ、魔力が半分くらいになっているんで、邸に着いたらフェアリスの魔力を分けてくださいね?できるだけ優しくしますから」
あ、これもう本格的に逃げられないやつだ。
勝負服として選んだ漆黒のドレスが喪服に見えてきたわ。
自分の冥福を祈る私に向かい、オルフェードは言った。
「一緒にとことん堕ちましょう。幸せにします」
転生してまで恋愛しなくていいと思っていたのに……!
この男とのイベントはどれ一つとしてskipできないらしい。
私が育てた最凶呪術師は、今日から婚約者になります。
5月17日発売!
「皇帝陛下のお世話係」ノベル2巻&コミックス1巻
ノベル版は半分くらい書き下ろしで、新しいエピソードが満載です♪
紫釉様の成長や凛風の仕事ぶり、蒼蓮の深まる愛情と不憫がより楽しめる内容になっております!
どうかお楽しみください!
漫画版では、吉村悠希先生の描く麗しい世界観が最高です。
お兄ちゃんと蒼蓮の不憫かっこいい姿よ……!( ノД`)煌びやかな中華の世界、詰まってます。
なお、小説版もマンガ版もずっと名前にふりがなついてます。読めない・覚えられないが解消されて、ストレスフリーな中華をお楽しみいただけます。
ありがとうございます、スクウェアエニックスさん…!
※アニメイトさんなどでの特典配布は、なくなり次第終了です。





