妹に遭遇しました
戦勝祝いから明けて翌日のこと。
私は執務の途中、気分転換も兼ねて食堂へ向かっていた。
王女であっても、私は軍属であり将軍ポジション。
まぁ、前世の日本風にいえば、社長の娘が会社でバリバリ仕事をしていて食堂で食事するみたいなものである。
ナミアーテと違い王女様らしい暮らしはしていないので、周囲の文官や騎士たちも私のことは将軍たちと同じように扱ってくれる。
気安い存在ではないけれど、遠い遠い存在でもないのが私という第一王女だ。
「土地の権利問題はどうにかなりそうね」
「はい、フェアリス様のご命令なら喜んで土地を売る者ばかりでした」
ジョーくんが私の隣を歩きながら、トンネル計画について話す。
オルフェードも、今日はかわいい系の状態で私と共に行動していた。
「進みましたね~、トンネルの話は」
「そうね、トンネルの話は随分と進んだわね」
あぁ、オルフェードの笑顔に「結婚の話はどうなりました?」と書いてある。
私はあえて気づかぬふりをして、にこりと笑った。
白亜の宮殿を出て、二階にある回廊を過ぎると食堂に着く。
しかしちょうどその回廊で、ナミアーテに遭遇した。
いや、これは明らかに待ち伏せだな。
「あら、お姉様お久しぶりでございますわ」
うふふとかわいく微笑むナミアーテは、両サイドに騎士団長の息子であるダンテと、私が茶会以来まったく接触していないエインリッヒを連れていた。
両手に花?両手にイケメン?
そんな感じで、誇らしげに胸を張っている。
自慢?自慢かしら?胸があるって自慢だったら今すぐ戦闘になるわよ。
私は理性を総動員して、妹に笑顔を向けた。
「久しぶりね。ナミアーテがこんなところにいるなんてめずらしい」
ダンテとエインリッヒが自分と良好な関係を築いている、そんな様子を見せたかったんだろう。
自慢げな妹はさっそく嫌味を放ってきた。
「お姉様、随分と余裕ですのね!あぁ、そうね、お姉様は軍部のお仕事でオルフェード様を連れまわすくらいしかできませんものね。男性と親しくなることなんて、野蛮なお姉様が苦手とすることでしょう」
「…………」
相手にするまでもないけれど、妹のよしみで話に付き合ってあげよう。
「ナミアーテ」
「な、なんですの」
嫌味を言ったわりに、ちょっと低い声で名前を呼べば怯えた顔になる。
「あなた、姉がイカれた戦闘狂だったらどうするつもり?そんな風に露骨に嫌味を言ってしまって、いきなり私が切れて魔法で攻撃しないって保証はどこにあるの?」
「え?」
「私はご存知の通り、軍部の人間よ?刺客に襲われることもあるわ」
「だったら何だというのですか」
「何って、もしも今刺客がやってきて、私が防御しきれず誤って魔法を放って、それにあなたが巻き込まれる可能性だってあるってことよ。正確に撃てればいいんだけれど、誰にだって失敗はあるわ」
そんなことはしないけれど。
でも私がキレてナミアーテを攻撃し、それを偶然刺客がいて……ともみ消すことだってできるということを含みを持たせて伝えてみた。
ダンテとエインリッヒは蒼い顔をしている。
ナミアーテはぎりりと歯を食いしばり、ただ睨むしかできない。
「一言いっておくと、私たちは敵対しているわけではないでしょう。あなたが誰と親交を持とうと、私には関係ないわ」
これは事実。
だって、私はダンテとエインリッヒについてはもうどうこうなる気はない。
しかしナミアーテは、私の言葉を悪い方へ受け取ったらしい。
「何よ!この二人に価値がないって言いたいんですか!?」
こらこらこら!二人がショックを受けているからやめなさい!
価値がないって判断しているけれど、そんなこと本人に面と向かって言えるわけがないでしょう!?
私はため息交じりに、ナミアーテを諭す。
「価値がないとかそういう問題ではありません。私たちは王女っていう身分はあっても、別に彼らより偉いわけじゃないのよ?私たちが選ぶように、彼らにも選ぶ権利がある。ナミアーテはナミアーテの好いた人を選ぶといいわ」
拳を握り締め、わなわなと震えるナミアーテ。
相当、頭に来ているみたい。
「じゃあ、わたくしもオルフェード様とお話したいわ!」
「え?」
いきなりどうした、っておそらく私のそばから離れないオルフェードを誘惑しようと思いついたんだろう。なんていうか、子どもの喧嘩みたい。
「今から一緒に、お食事をどうかしら?」
ナミアーテは上目遣いでオルフェードを見た。
どうするのかしらと思って私もオルフェードを見上げると、彼はにこりと笑って一言だけ言った。
「遠慮します」
ばっさり断られたナミアーテは唖然としている。
「な、なんでよ!」
「食堂の日替わりメニューがグラタンだからです」
私はぎょっと目を見開く。
「今日グラタンなの!?」
「お姉様!今はこっちの話に集中してください!」
いや、グラタンってけっこう貴重なメニューなのよ?
六時間くらい煮込むらしく、めったに出ない人気メニューなのだ。
「ごめんなさい、ナミアーテ。とりあえずグラタンを優先してもいいかしら?っていうか優先するわ」
「はぁ!?」
「またあとで、手紙でもちょうだい。あぁ、執務室に来てくれてもいいから。お菓子も出すし、ね?」
「いりません!」
妹がわがままばかりだ。
困っていると、オルフェードがひょいっと私を横抱きにする。
「急がないといけないので、しっかり捕まっていてください」
「ひゃあああ!」
まさか飛ぶ気!?
私の悲鳴が消える頃には、立ちふさがっていたナミアーテたちの頭上を飛び越え、オルフェードは廊下の端までやってきていた。
「下ろして!」
「はい」
すんなり下ろしてもらえたけれど、まだ胸がどきどきしていた。
心臓に悪い。
いきなり抱えて飛ぶのは禁止しなくては。
「グラタン楽しみだな~」
うっ、文句なしにかわいい。キュンときた。
ジョーくんはのんびりと歩いてきていて、グラタン目的ではないらしい。
「行きましょう!」
「え、ええ」
オルフェードは私の手を掴み、食堂の扉を開けて突入した。
その後、ナミアーテから手紙が来ることも本人が会いに来ることもなかった。





