4, 八雲流ボッチ道
「我が心は陰の如く。
我が身は空の如し。
其が心陽成るも、
其が身は空と同じ」
僕は陽菜穂さんにボッチ道の道訓を覚えてもらう。
「わ、我が心は…陰の……如く?、我が身は…………何でしたっけ?」
「我が身は空の如し。もう一度言うから聞いててね。我が心は陰の如く……」
ぐぅ~とそこで僕のお腹が鳴った。
「我がお腹は腹ペコの如し(苦笑い)」
「ぷっ。アハハ、八雲君面白い~」
さっき迄は負のオーラだった陽菜穂さんに陽のオーラが戻ってきた。
「お腹空いたね。買い物に出ようか。陽菜穂さんにも必要なアイテムも買わないと」
時計を見ると夕方5時を回っていた。
「はい!初デートですね(ニコニコ)」
「ん? お買い物もデートになるの?」
女の子と付き合った事が無い僕だけど、デートと言えば映画を観に行ったり、遊園地に行ったりってのがデートだと思っていた。
「はい!私と八雲君でお出かけする時は、最後にデートが付くんですよ(ニコニコ)」
「コンビニ行くのは?」
「コンビニデート(ニコニコ)」
「お散歩行くのは?」
「お散歩デート(ニコニコ)」
「ゴミ捨てに行くのは?」
「ゴミ捨てデート(ニコニコ)」
楽しそうに笑う陽菜穂さんがいいなら、まぁいいか。
でも僕達ってさっき出会ったばかりで付き合ってないよね?
◆
アパートを出るとナチュラルに僕の手を握ってきた陽菜穂さん?
陽菜穂さんの手はとても柔らかくて、もう心臓バクバクいってるよ~。
ホントに対人恐怖症ですか?
アパートから駅前のデパートへと向かう人通りの少ない道のりでは陽菜穂さんはルンルンでニコニコしている。
「陽菜穂さん、楽しそうだね」
「えへへ、夢にまで見た八雲君とのデートですよ!萌えます!この一歩が二人の未来への第一歩なんだね~(ニコニコ)」
やはりこの道は僕達の未来に繋がっているみたいだよ?
人混みの多い街中にでた途端に陽菜穂さんが不安そうな目でおどおどし始める。
握っていた手にも力が入ってきていた。道行く人達が美しすぎる陽菜穂さんの顔をチラチラと見ては立ち止まる。
「陽菜穂さん大丈夫?」
震えている。陽菜穂さんの肩が、唇が、そして瞳が……。
彼女が言っていた対人恐怖症。見知らぬ人達の視線から彼女の豊かな想像力が彼女に恐怖を生み出しているのか。
「陽菜穂さん、ちょっとこっちに」
僕は陽菜穂さんの手を取り人の少ない路地に入って行った。
「陽菜穂さん、もっと僕に寄り添って」
「えっ?」
「おまじないを掛けてあげる」
僕は陽菜穂さんの肩から手を回して優しく身を寄せる。
「えっ、えっ、八雲君?(ポッ)」
「我が心は陰の如く。我が身は空の如し。其が心陽成るも、其が身は空と同じ。我が心は陰の如く。我が身は空の如し。其が心陽成るも、其が身は空と同じ………………」
僕はぶつぶつとボッチ道道訓を唱える。
「陽菜穂さんも心の中で唱えて」
僕はまだまだ道訓を唱え続ける。
僕のボッチ道はマインドコントロールだ。自分の心に、周りの情報を遮断し、陰の心で、自分を空気の様な存在だと言い聞かせる。
人と人とのコミュニケーションを必要最低限にする事で周囲からの孤立を目指す。
道行く人は基本的に全くの他人だ。ただ陽菜穂さんは見られているという感情が負のオーラを纏わせる。
負のオーラはダメ、陽のオーラもボッチ道ではダメ。
纏うべきは陰のオーラ。
僕は陰のオーラを精神統一で高めていく。陽菜穂さんが少しでもシンクロ出来れば、僕の陰のオーラで気配を消せるはずだ。
「陽菜穂さん、此れから道を歩くけど、僕と繋いでいる、この手だけを見て歩くんだよ」
「……はい(ポッ)」
僕は陽菜穂さんの手を取り、目的のデパートを目指す。
陰のオーラに包まれている僕らを気にする者は誰もいない。
◆◇◆◇◆
【ちょっとだけ陽菜穂視点】
暖かい……。
八雲君から暖かい気持ちが伝わってくる。
さっき迄感じていたすれ違う人達の視線も感じられない。
八雲流ボッチ道道訓は、私はまだまだ全部を言えないけど、八雲君が私に何を伝えたいか少し分かってきた。
そして今は八雲君が私を守ってくれているんだね。
私の想像通り、ううん、想像以上に八雲君は素敵な人だよ。
八雲君は突然押し掛けてきた私の事、どう思っているのかな?
嫌われている?
ううん、大丈夫。
私は、私を嫌う人を沢山見てきた。感じてきた。そして私はあの家から、学校から逃げてきた……。
八雲君からは私を嫌う雰囲気は全然感じられない……。
八雲君はこんなにも怪しい私を受け入れてくれている。何故受け入れてくれているのかは私には分からないけど……。
でも嬉しい……。凄く嬉しい……。
こんなにも落ち着ける場所は、父と母を亡くしてからは一度も無かったから……。
◆◇◆◇◆
繋いでいる手から、陽菜穂さんが震えていない事も分かる。
大丈夫、大丈夫。大丈夫。
僕らは目立つ事なくデパートのエレベーターに乗る事が出来た。エレベーターには僕らを含め数人が乗っている。
エレベーターに乗っている僕に、僕を見ている誰かの視線を感じた。
おかしい?
僕のボッチバリアーを突破出来る手練れがこのエレベーター内にいるって事か!
感じる視線の方向を見て見ると陽菜穂さんが僕の顔をじっと見ていたよ?
「ひ、陽菜穂さん? め、目立っちゃうとヤバくない?」
「大丈夫です。八雲君が守ってくれるから……(ポッ)」
頬を赤く染めた陽菜穂さんは、僕の腕に顔を埋めてモジモジしてきた。
どひゃーーーッ!
心臓ドキドキしてきたーーーッ!
いかんいかん!集中だ!集中!
「(ぶつぶつ) 我が心は陰の如く。我が身は空の如し……うひゃ~!…煩悩退散、六根清浄、煩悩退散、六根清浄……」
チーン
エレベーターは目的階に到着した。ヤバかった!ギリギリの攻防だった!超絶美少女天使の陽菜穂さんの腕に顔を埋めてモジモジ攻撃は激ヤバだった!
「八雲君?ここで何を買うの?」
「メガネ」
「八雲君の?」
「陽菜穂さんの?」
「?」
「陽菜穂さんの瞳は可愛い過ぎるから、メガネを掛けて少しでも誤魔化さないと」
「…………(ポッ)」
店員さんに話をしてフレームのみの購入希望を伝える。
店員のお姉さんは陽菜穂さんを見てギョッとしていた?
「可愛い彼女さんですね」(げ、激可愛なんですけど~)
彼女?
彼女ではないんですが、どう説明したらいいんだろう?僕が返答に困っていると
「えへへ~(ポッ)」
隣りの陽菜穂さんは頬を染めてデレ顔になっていたよ?
店員さんからクリアレンズタイプのサングラスが安価で良いのではと提案され、サングラスコーナーで探してみた。
幾つか試着して、陽菜穂さんの可愛い過ぎる顔を押さえるブルーライトカットがうっすら入った黒縁のメガネを購入した。
「おかしくないかな?」
「うんうん!落ち着いた感じがしていいと思うよ。ボッチ度上がったと思うよ」
「えへへ、そう?ボッチ度上がりましたぁ?」
黒縁メガネを購入した後に、僕らは雑貨屋さんに入っていった。
「今度は何を買うの?」
「陽菜穂さんが使うコップとかタオルとか?」
僕の部屋はボッチカスタムのため食器類やタオル類は一人分しかない。三日間限定イベントとはいえ陽菜穂さんの使う物は買い足さないといけない。
店内を見て回り、必要そうな物を陽菜穂さんはカゴに入れていく。僕の持つボッチパワーと黒縁メガネ効果もあり、陽菜穂さんは目立つ事もなく買い物が出来ていた。
「これも素敵ですね」
お茶碗を二つペアでカゴに入れていく。
因みにグラスもマグカップも取る物全てがペアでカゴに入れている。
僕の分は有るんですよ~と言ってもスルーされていたよ?
既に陽菜穂ワールドに入り浸っている陽菜穂さんには外野の声は届かないようだよ?
陽菜穂ワールドの僕は今どんな感じですか? お元気にしてますか? まだまだ朝方はお寒いのでお風邪など引かぬようお体には気を付けて下さい。
「荷物一杯になっちゃいましたね(ニコニコ)」
「そうだね(汗)」
カレー皿とか買ってたね。カレー作ってくれるのかな?
「何処かで食事して帰ろうか?」
「はい!(ニコ)」
とはいえ、僕が外食する場所といえばラーメン屋、牛丼屋、ファーストフードぐらいだ。ボッチの僕はレストランに行ったりしないのだ。
「最上階にレストランがあったような……」
デパートの上位階はホテルになっていて、最上階にはリア充御用達の夜景の見えるレストランとかいうものがあったはずだが、僕は勿論行った事はないけどね。頼む!リア充死んでくれ!
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