第8話「メル」
新章突入!
第8話になります!
拙い文章ですがよろしくお願いします(-ω-)/
信次は王都ラフィリムから瞬間移動して魔王城に連れて来られた。
瞬間移動の魔法を行ったのは魔王サタンの側近ベティス。
瞬間移動はベティスの固有魔法である。
「ご苦労様、ベティス。」
「はい。」
「ニンゲン・・コロス」
信次は未だ我に返っていなかった。
そこでサタンは立ち上がり魔法を唱える。
サタンが使用した魔法は精神操作魔法。
信次の感情を抑え、信次は意識を失いその場に倒れた。
体を纏っていた黒い瘴気と黒い肌が元の状態に戻った。
「ベティス、彼を部屋まで運んであげて。」
「はい。魔王様。」
ベティスは信次を抱え、魔王の間を出る。
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「・・・ん。・・・ここは?」
信次が目を覚ます。
目に映るのは見たことがある風景。
「ここは・・・」
信次が寝ていた部屋は以前ユリウスに寝床として準備してもらっていた部屋だ。
前まで鍛錬を終えて疲れたら信次はこの部屋でよく寝ていた。
「あれ?俺、王都に居たはず・・?なんで城に・・?」
「やっと起きたのですぅ!」
「うおっ!!」
ベッドの下からいきなり女の子が顔を出してきた。
「誰だ!?」
「メルなのですぅ!」
緑色の髪、頭に二本の角が生えている女の子。
ユリウスと同じ様に人間に近い顔つきをしており、人間でいうと大体10歳前後の少女。
「えっと・・なんでお前はここにいるんだ?」
「お前じゃないのです!メルなのですぅ!」
メルは両腕を組んで頬を膨らませる。
「・・・メルはなんでここにいるんだ?」
「魔王様に加藤信次様のお世話係を任命されたのですぅ!!」
「お世話係!?・・な、なんで!?」
「なんでって言われても、メルは任命されたのですぅ!!」
「急にお世話係って言われてもな・・。何か聞いてないのか?」
「メルはお世話するのですぅ!!」
あ、ダメだ。話が通じないタイプだこの子。
「・・俺はどのくらい寝てた?」
「5日ですぅ!」
「5日か・・。でもなんで城に戻ってきたんだ?・・記憶が無い。」
「それは私が説明しましょう。」
部屋にユリウスが入る。
ユリウスは信次が王都で暴走し、ベティスによって城に戻ってきた事を信次に伝えた。
「そんなことが起きたのか・・。でもなんで俺は暴走したんだ?」
「それは未だ力の制御が出来ていなかった・・ということでございましょう。詳しいことはいずれ魔王様から説明がございます。それで加藤信次様、今回の遠征にて何か得られたものはございますでしょうか?」
得たもの・・・。
目的だった最高位魔法に関しては結局何も手がかりを見つけることができなかった。
「いや、王立図書館の中には入れたんだが、時間も無くて最高位魔法に関する文献は見つけられなかった。」
「ほっほっほ。加藤信次様、それは当たり前でございます。」
「え?」
「最高位魔法というのは国をも滅ぼすことが可能と言われている魔法です。そのようなものが記されている魔法書があるのなら国が厳重に保管管理しているはずです。一般開放されている図書館に置いてあるはずがありませんぞ。」
た、たしかに・・・。
そんな魔法は国家機密レベルで普通に考えたら図書館に置いてあるはずない。
バ、バカだ俺は・・・。
「王都まで行ったのは無駄足だったのか・・。」
「いえ、そうでもないと私は思いますぞ。」
「どういうことだ?」
「人間の力、そして勇者の力がわかったはずです。」
・・今思い出すだけであのウィズって野郎を殺したくなる。
「なあユリウス、この世界の勇者ってみんな廃人なのか?」
「エルザート王国以外でも廃人を利用し、勇者を対魔族用として戦わせておる国もございます。・・・しかし廃人からなる勇者というのは所詮勇者もどきです。」
「もどき?」
「はい。世界の中には本物の“勇者”が存在している国がございます。」
「そいつは廃人ではなく普通の人間なのか?」
「はい。人間ながら圧倒的な魔力量を持ち、我々魔族の脅威となっております。」
「人間なのにそれくらいの力がある奴がいるのか・・・」
「ぶーー!!メルも話に混ぜてほしいのですぅ!!」
メルが信次とユリウスの間に入り込む。
1人だけ話に乗れなくてつまらなかったらしい。
「では加藤信次様、貴方様はまだ起きたばかり・・しばらくは城で休養すると良いでしょう。メルよ、しっかりお世話をするのですよ。」
「はーい!」
ユリウスはそう言って部屋を後にした。
メルがなんで俺の世話係なのかの理由を聞くの忘れてしまった・・・。
「加藤信次様!加藤信次様!これから何をするのですぅ?」
「何をって・・今ユリウスに休養しろって言われたばかりだからな・・。特に何もすること無いから寝るかな。」
「えーーー!?それだとつまんないのですぅ!!つまんない!つまんない!!」
う、うるさい・・・。
なんだこの子は・・顔だけじゃなくて性格も子供なのか?
このままにするとずっとうるさそうだ・・・。
「・・・じゃあ、お前は何がしたいんだ?」
「お散歩したいのですぅ!」
「あっそ、じゃあ勝手に行ってこい。」
信次は寝転がる。
「それじゃダメなのですぅ!!メルはお世話係なので一緒に居なきゃダメなのですぅ!!」
信次の服を引っ張り駄々をこねる。
ベットが揺れすぎて壊れそうだ。
あまりにも執拗に散歩行きたいと媚びるので信次は観念した。
「・・・たく、わかったわかった。じゃあ散歩行くぞ。」
「やったーー!!」
永遠に駄々をこねそうなのでしょうがなく散歩することにした。
部屋を出て城の廊下を歩く。城は基本吹き抜け窓になっているので外の景色がよく見える。
「加藤信次様!加藤信次様!翼竜が飛んでるのですぅ!!」
「加藤信次様!加藤信次様!凄い滝なのですぅ!!」
「加藤信次様!加藤信次様!・・・・」
う、うるさい・・・。
散歩してもずっと無邪気に喋りかけてくる。
俺は今まで女性と話したことなんて片手で数えられるくらいだからどうも苦手だ・・。
女性に免疫が無いからどう喋ればいいのかが分からない。それがこんな子供でもだ・・。
てか女の姿した魔物は女性と言っていいのか?
でも、魔物でもこんな無邪気に笑うのか・・。
「加藤信次様!加藤信次様!」
「あ・・えっと、メルよ。なんでお前は俺の世話係をしているんだ?」
「それは魔王様に任命されたからなのですぅ!・・だけど、異世界から召喚された加藤信次様というお方はどういう人なんだろうって前々から気になっていたの!修練場でも一生懸命鍛錬してたのを見て、お近づきになりたいって直接魔王様に頼んだのですぅ!」
「そ、そうなのか・・。」
「けど実際・・加藤信次様とお話させてもらったらとても良いお方だったのですぅ!!メルとこんなにお話してくれてありがとうなのですぅ!!」
いや、ほとんどお前が一方的に話をしてたけどね。
だけど「良いお方」、「ありがとう」・・・か。
この世界に来てから思ってたけど魔物って人間と違って凄く素直だと感じていた。
ユリウスや鍛錬してくれたバリアードやクガンも思ったことは俺が魔人だからといって遠慮せずバシバシ言ってくれる。
魔物には裏表が無いんだ。
人間みたいに嫌味や妬みが無い。
だから居心地が良い。
「加藤信次様!加藤信次様!」
「メル、・・・加藤信次ってフルネームで呼ぶのは面倒くさくないか?」
「フルネーム?・・では何てお呼びしたらよいのですぅ?」
「好きに呼びやすい言い方でいい。」
「うーん、・・・じゃあ!信次様って呼ぶのですぅ!」
ドキッとした。
いや、このドキッとしたというのは恋とかそういうものではなく、下の名前で呼ばれた経験が無いからだ。
あっちの世界では友人と呼べる者はいなかったからな。
「信次様?どうしたのですぅ?お顔が赤いのですぅ。」
「いや!何でも無い!・・それよりメルよ、この散歩はいつまで続けるんだ?」
「わからないのですぅ!」
「はあ?」
「信次様と一緒に散歩してるだけでメルは楽しいのですぅ!」
「・・たく、しょうがない奴だな。」
メルと信次が城内を散歩しているといきなり信次の目の前に瞬間移動でベティスが現れた。
「うわっ!誰だ!?」
「ベティスなのですぅ。」
「ベティス。こいつが俺を城に連れ戻した奴か?」
ベティスは魔王の側近。
メルと同じく女型の魔物。
身長が高く、妖艶な雰囲気を醸し出している。
「加藤信次様。魔王様がお呼びです。」
「・・わかった。」
ベティスの魔法で信次とメルは魔王の間に移動した。
「来たね♪」
「・・魔王様、何の用で・・ございますか?」
「ははは!固い、固いよ。同じ魔人同士、もっと気軽にいこうよ。」
「魔王様。それでは貴方様の威厳が・・」
「いいんだよベティス。私は人間の王みたく自分では何もしないくせに偉そうにふんぞり返るのは嫌なんだ。私にとってここにいる皆は家族みたいなものさ。家族は仲良くしないと。そうだろメル?」
「はい!なのですぅ!」
「それで・・今回のエルザートでの一件、ご苦労様。実は一部始終ここで見てたんだ。」
「・・見てたのか。」
「ああ、君がこんなに早く扉を開くとは思わなかった。」
「扉?」
「君が暴走したことだ。」
「・・・俺はその時の記憶が無い。ユリウスから事情は聞いたけどなんであんな事になったんだ?」
「それは未だ君の器が小さいからだよ。」
「器・・」
「ああ!ごめんごめん!器が小さいって、そっちのことじゃないよ。君の感情を収める容器が小さいってこと。」
「・・?・・どういうこと?」
「わかりやすく言うとコップに沢山の水を注ぐと水がコップに収まりきらなくて溢れるよね?それと同じさ。君の中の負の感情が体で収まりきらず溢れた。だから負の感情に支配され、自我の無い状態に陥ってしまった。なんとなくわかったかな?」
「・・なんとなく。」
「負の感情というのは魔人にとって強さの源の一つでもあるんだ。」
「?」
「魔人はね、負の感情を魔力に変換することができるんだ。」
「そうなのか!?」
「人間に対しての負の感情が限界点を超えたら“闇落ち”して、耐えた者が魔人になる。魔人になった後は既に人間に対して絶望してるからそこまで負の感情が出ることは無い。だけど魔人は自分だけでなく、周りにいる者の負の感情も自然に取り込むことができるんだ。」
「自然に?」
「ここで言う負の感情というのは人に対してだけでない恐怖や悲しみ、怒りの感情も取り込む。これらの感情は体の中に蓄積されるものでね、その蓄積された感情が一定量、つまり器に収まりきらず溢れた時、溜めていた感情が一気に外に開放されて自動的に魔力に変換し、通常よりも強大な力を手に入れることができる。それを我々は“扉”と呼んでいる。」
魔人がなんで人間を超越した存在なのかなんとなくわかった気がする。
何千、何万という人の負の感情を一気に取り込んで自分の物にしたからこその圧倒的な魔力量。
俺が暴走した理由は自身の感情の他にも王都に居る沢山の人の恐怖や怒りを取り込んだからだ。
「器ってのは少しずつ感情を取り込んで徐々に大きくしていくものなんだけど、君の場合は器がまだ小さいのに一気に感情を取り込み過ぎたせいで暴走しちゃったんだね。」
「器から溢れたら毎回今回みたいに自我を無くして暴走するものなのか?」
「いいや、それはコントロールできる。魔人になった者は必ず通る道だよ。扉が開いた状態をコントロールできるようになればさらに強くなる。」
「どうすればコントロールできるようになる?」
「まあ、ぶっちゃけて言うと慣れだね。」
「は?」
「何回も暴走してればそのうちなんとなくコントロールする感覚が掴めるようになるよ。ははは。」
なんとなくって・・・。
「なので君には今後コントロールできるようにしてもらう為にメルを君のお世話係に任命させてもらった。」
「メルを?なんで?」
「メルはこう見えても精神系魔法の使い手でね。君が暴走したとき鎮めてくれる。尚且つ彼女は鬼の種族で素の戦闘力は高い。傍付きとして非常に頼りになると思うよ。」
「えっへん!」
メルは鼻を高くして誇らしげにしている。
「ちょっと待て、なんで俺がコントロールできるようにならないといけないんだ?」
「君は他の魔人と違って未だ不完全な存在だ。あまりにも器が小さく不安定。だから魔王候補としてこの地に住む魔物のためにも頑張って欲しいと思っている。魔人というのは魔物にとって憧れの存在でもあるからね。あとは・・ちょっとしたことでいちいち暴走したら・・・止めるのが面倒臭い。」
最後のが本音だろ。
だが、魔王の言うことにも一理ある。
俺は魔王になるつもりは無いが居心地が良いこの場所を人間から守るために力をつけたいと思った。
「わかった。コントロールできるように鍛錬する。でも、どう鍛錬すればいいんだ?暴走を繰り返して感覚を掴むって言ってもどこでやればいいんだ?」
「それなら器を大きくするのと扉を開くのに丁度良い修行場所を教えてあげよう。ついでに調査も行いたかった場所だしね。」
「調査?」
「君には“ムヴルヘイム”に行ってもらう。ムヴルヘイムはドラゴンが生息している地域でね。ドラゴンの勢力を調査してもらいたい。」
「なんでドラゴンを?」
「今この世界では3つの勢力がある。我々魔族、人族、そしてドラゴンだ。基本ドラゴンは中立なのだが、最近ちょっと動きがあってね。少し慌しいんだ。だから修行のついでに調査して来て欲しい。」
「勢力を調査って具体的には?」
「ドラゴンの力と数をお願い。久しくドラゴンと接して無かったから現状の強さや数が分からないんだ。こちらもドラゴンの情報を持っておかないといざって時に困るからね。」
「・・・わかった。じゃあムヴルヘイムに行ってくる。・・と言っても場所わからないな。」
「ユリウスに聞けば分かるよ。」
「ああ、了解だ。」
信次が魔王の間から出ようとした時、
「・・あーそうそう、ドラゴンの調査の際“竜人”には気をつけなよ。」
「え?なに?」
聞き返した瞬間、部屋の扉が閉まる。
「あ・・、あいつ最後何て言った?・・まあいいや、ユリウスに場所を聞きに行くか。」
「ユリウスの所に行くのですぅ!」
「てかユリウスっていつも何処に居るんだ?」
「さあ?」
「こりゃ誰かに聞くしかないか・・。」
ユリウスがいる場所を聞くため、城を歩く。
暫く歩いていると前方から男が歩いてきた。
「お前・・たしか・・異世界から来た候補野郎か?ここで何してんだ?」
この金髪男はたしか・・魔王候補者の1人で・・名前は・・ギルティ。