第22話「過去」
第22話になります!
拙い文章ですがよろしくお願いします(´っ・ω・)っ
本戦トーナメント1回戦第1試合目。
対戦カードはメルとバジェラ。
オーガ族同士の対戦ということで会場は大盛り上がり。
「し~ん~じ!」
「うわっ!!」
席で観戦していた信次の後ろに突如魔王サタンが現れた。
「あんた・・・普通に来れないのか?」
「まあまあ♪」
「・・何の用だ?」
「私もここでメルの勇姿を見届けようかなってね♪どうだい?メルは?」
「元々メルは強いが、リムドとも修行して基礎能力は大分向上した。経験は除いて力量だけ見てたら最前線で戦っている奴たちと遜色ないと思う。・・でもなんでメルは同族の奴らに落ちこぼれって言われている?」
「そうだね・・。メルは高い潜在能力は元々備わっている。だけど・・昔にトラウマがあって、そのせいで戦えない時期があったんだよ。」
「え?メルは好戦的だが・・。」
「あの頃のメルはふさぎ込んでいてね~。私が拾って城まで連れてきたのだよ♪」
「拾ってきたって・・。」
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メルは初陣の後、戦いにおける恐怖で精神的に傷を負い、戦えなくなっていた。
里からは「出来損ない」「落ちこぼれ」と揶揄され、身内である兄キドからは全く相手にされなくなった。
メルはいつも1人、里の隅で空を眺めていた。
自分は弱く、何もできない。
何かしようとしても絶対迷惑をかける・・。
そんな想いを抱えて日々を過ごしていた。
そんなある日。
オーガの里に突然の来訪者が訪れた。
「ま、ま、魔王様!!」
魔王サタンの突然の来訪に里全体がざわつく。
すぐさま族長が魔王サタンの前に出てくる。
「ま、魔王様!どうされたのでしょうか!?」
「いやいや♪最近城に引きこもってたからさ、気分転換に見回りをね♪・・・まあ、ベティスがうるさいから逃げてきたんだけど・・・・・おっと、今のは内緒ね?いやー、久しぶりにオーガの里に来たな~。ここは空気も美味いしいい所だねぇ♪」
「はぁ・・。」
「・・・というのは建前で、族長。今巷で噂の乗りに乗っているオーガの若者を見させてくれないかい?」
「乗りに乗ってる?・・・ああ、それは私の息子のキドでござます。」
「キド・・。族長の息子だったのか♪さすが族長の血筋だね♪連戦連勝、噂は城にまで届いているから一度見てみたくてね。」
「キドなら奥の森で鍛錬をしております。呼んできますゆえ少々お待ち下さい。」
「いいよいいよ。私が直接行ってくるよ。」
「ですが・・。」
「いいって♪」
サタンはそう言うとのんびり歩きながら森の奥へ向かう。
森を進むとオーガ族の鍛錬場に到着。
鍛練場では複数人のオーガが鍛錬を行っていた。
「ま、魔王様!!」
全員がすぐさま膝をつき敬意を示す。
「いいって。頭をあげな。・・・キドはいるかい?」
「はっ。私がキドでござます。」
「ん~、いい顔つきしてるね♪見ただけでわかる。君は強いね。」
「ありがたきお言葉感謝致します。」
「今日は君を勧誘しにきたんだ。」
「!!」
「その若さでその強さ。ぜひとも軍に加わってもらいたい。・・・どうかな?」
「はっ!仰せの通り、謹んで軍に参入させて頂きます!」
「キド。」
「はっ。」
「君は軍に入ったら何を目指す?」
「私は・・・いずれオーガ族だけの部隊を作り、オーガ族が魔族で一番強者の種族であることを証明します。」
「なるほど・・・面白いね♪」
「魔王様!!」
「・・・君は?」
「俺はバジェラといいます!キドと一緒に俺も軍へ参加させてもらえないでしょうか!?」
「・・いいよ♪・・・というかもとよりキドが選んだ者は連れていくつもりだったからね。」
「ありがとうございます!!」
バジェラほどの巨体が深々としたお辞儀した姿にサタンは何故か興奮した。
「んじゃ、近々迎えの者をよこすから待っててね~♪」
鍛練場を後にしたサタン。
「ん~、まだ城に帰るのもあれだし、もうちょっと暇つぶししていこうかな♪」
そう言うとサタンはオーガの里の森の探索を始める。
暫く歩き続けると森の開けた箇所に辿り着く。
そこには緑髪の小さな女の子がボーっと上を眺めて座っていた。
「どうしたの?」
「!!」
サタンが女の子を覗き込むとその女の子は驚いた表情を見せる。
「ま、ま、ま、ま・・・・。」
あたふたして言葉が出ない。
「落ち着いて落ち着いて。」
サタンは女の子に深呼吸をさせて落ち着かせる。
「落ち着いたかい?」
「ま、魔王様・・。」
「君は?」
「メル・・なのですぅ。」
「メルか。メルはここで何をしてるんだい?」
「何もしていないのですぅ・・。」
「そっか・・。ここはいい所だから何もせずこうやってのんびりするのもいいね~。」
サタンは寝転がり空を眺める。
「魔王様はなんでここにいるのですぅ・・?」
「軍への勧誘をしに来たんだ。」
「・・・。」
「メルはオーガ族なのに体が小さいね。」
「これ以上大きくならないのですぅ・・。」
「あー、ごめんごめん。女性に対して失礼だったね。・・・・メルは戦いは嫌いかい?」
「?」
「いや、なんとなくそう思ったんだ。」
「メルは・・落ちこぼれだから・・戦えないのですぅ・・。」
「落ちこぼれ?メルが?」
サタンは既にメルの資質を見抜いていた。
「なにかあったのかい?」
メルはサタンに初陣の戦で起きたこと、それから戦に出られなくなったことを話した。
「そっか・・・。そんな事があったのか。・・・・まあ、でもいいんじゃない?無理にでも戦いに出ることは無いと思うよ。魔物でも色々あるからね~。特にオーガは魔物でも上位種だから戦闘での価値が高い。戦いに出れないことを恥じだと思う者もいるだろうね。」
「・・・・・。」
「メルは戦いに出たいのかい?」
「・・・出たいのですぅ。みんなのために頑張りたい・・・だけど・・・体が動かないのですぅ。」
「初陣の際のトラウマか・・・。よし!決めた!」
「魔王様・・?」
「一旦里に戻ろうか♪」
サタンはメルを連れて一度里に戻る。
「魔王様!」
「やあ♪戻ったよ~。」
「ややっ!!メ、メル!!な、なんで魔王様と!?」
「ん?」
「魔王様申し訳ございません!うちの娘が、メルが何か粗相しなかったでしょうか!?」
「メルって族長の娘だったのか。・・・どうりで。」
「はい?」
「いや、なんでもない。メルには私のおしゃべりに付き合ってもらってたから全然問題ないよ♪・・・ところで族長。」
「はい、なんでございましょうか?」
「メルを城に連れて行ってもいいかい?」
「!?・・メルをですか!?・・この子は現在精神的に落ちている部分がございまして・・。城へ連れて行ってもご迷惑をかけるだけだと思いますが・・・。」
「だからだよ。話はメル本人から聞いた。なのでいっそのこと環境をガラッと変えてみようかなってね。」
「ま、魔王様がそう仰られるのであれば・・。」
「よ~し決まり♪じゃあメルはこちらで引き取るからね~♪」
そう言ってサタンはメルを引き取り魔王城へ帰還した。
「さあ、メル!ここが今日から君の住むところだよ!」
「ま・・魔王様。メルはここで何をすれば宜しいのですぅ・・?」
サタンはメルの頭を優しく撫でる。
「それはメルの自由だ。メルが自分自身で考え、やりたいことをすればいい。ここは里に居ただけでは得ることができないものも沢山ある。ここでなら戦闘訓練も魔法訓練もできる。周りの目を気にしなくていい。自分のペースでやればいいさ。」
「魔王様・・。」
「困った時は私に頼ってくれてもいい。いつかメルの力が必要な時が必ずくる。その時に備えていてほしいんだ。」
「・・・はい!なのですぅ!」
それから・・メルは城にいる者と積極的に交流を深めていった。
メルは元々持っていた明るさもどんどん取り戻す。
メルには精神魔法の資質があったのでサタンも協力し、自身に精神魔法をかけて少しずつ少しずつ徐々に戦いに対する恐怖心やトラウマを取り除くようにしていった。
そしていつの日かメルは完全にトラウマを克服。
バリアード等を同伴して小さい戦に出れるまでになったのだ。
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「・・・とまあ、そんな感じでみんなで助け合いながらメルのトラウマを克服させたのだよ♪」
「話が長い。」
「ええ!?」
やはり魔物ってのは俺の知ってる人間と違うなと思った。
助け合う・・・か。
「だけどトラウマは克服しましたが、メルの嬢ちゃんはどこかまだ力を抑えているような感じはしますね。」
「たしかにいつものメルの力じゃないな。戦いでの恐怖とはまた別のものがメルを押さえつけている・・みたいな感じか?」
「う~ん、こればかりはメル自身で超えなければならない問題だね。」
「どうした!?そんなもんか!?」
舞台ではメルとバジェラの攻防が繰り返されていた。
バジェラが先に攻撃を仕掛けメルがカウンターを食らわす。その繰り返し。
だが、何発打ってもバジェラの致命打にはならなかった。
徐々にジリ貧になっていくメル。
「力も弱えっ!体も小せぇっ!!今のお前に何ができるんだ!!」
バジェラの拳がメルにヒット。
「ああぁぁ!!」
「"クリーンヒットォォォ!!これはダメージが大きいかぁぁ!?・・・・おっとしかし!!"」
メルが必死に立ち上がる。
「俺はガザルが死んでからも必死でキドに食らいついてきた。あいつと対等になる為にな。ろくに戦えもしないお前とは違い、潜ってきた修羅場の数が違うんだよ!」
「・・・メルも違うのですぅ。」
「なに?」
「メルは誰かと対等になるとかそんなことのために戦ったことは一度もないのですぅ・・・メルは・・誰かのために戦ってきたから・・・。」
「誰かのためだぁ?お前の大好きな魔人様か?魔王様か?」
「だけど・・今は誰かのためじゃなく、・・・自分自身のために戦わなければダメなのですぅ!」
メルはその場で目を閉じる。
「あれは・・!?」
メルは自身の心の奥にある1つのことに対して無意識に精神魔法をかけて力を制御していた。
メルは戦いでのトラウマは克服した。だが、たった1つだけ未だに克服していないものがある。
それが同族であるオーガに対する感情。
この感情は同族に対しての恐怖。これは実の兄であるキドによって植え付けられたもの。
それがメル自身、無意識にブレーキをかけて同族に対しての攻撃を抑えていたものとなっていたのである。
そのせいでバジェラには致命打を浴びせることができなかった。
だから・・メルはこの時、自身にかけて今まで押さえつけていた精神の鎖を断ち切った。
同族への攻撃に対する鎖を。
「!!」
メルの目つきが変わる。
そして会場全体がメルの雰囲気が一変したことに気づく。
「そんな目つきするんだなメルよ。・・・いいぜ、来いよ!!お前の力見せてみろよ!!」
「行くのですぅ。」
メルが一気にバジェラの懐に潜り込む。
「!!・・ちっ!!」
バジェラは懐に入ったメルに攻撃するが・・メルは後方へ回避。
もう一度バジェラに向かって行く。
バジェラはタイミングを見計らってメルに攻撃を仕掛ける・・・が、メルは躱しカウンターを浴びせる。
「がぁっ!!」
バジェラの顔が上に跳ね上がる。
今まで喰らった攻撃を遥かに凌ぐ威力。
続けさまにメルは連打、連打、連打。
バジェラの巨体が宙を浮き、最後の一撃で吹っ飛ぶ。
「"な、な、な、なんという攻撃の嵐ィィィィィ!!!あの小さな体のどこにそんな力がァァ!!?あの対格差をものともせず吹っ飛ばしたァァーーー!!"」
会場が一瞬沈黙のあと一斉に盛り上がる。
「す、すごいっ!!加藤信次様!メルの嬢ちゃんが!!」
「ああ。あれが本来のメルの力だよ。」
吹っ飛ばされたバジェラは倒れたまま空を眺める。
メルのやつ、こんな力持ってたのか・・・。
こんな力があったのに・・・なんであの時・・。
倒れているバジェラだったが徐々に重圧が膨れ上がっていく。
そしてゆっくりと立ち上がり、メルを見つめる。
「メルゥゥ、こっからが本番だ・・。」




