第21話「本戦開始」
第21話になります!
拙い文章ですがよろしくお願いします(^o^)丿
武闘大会1日目。
メルとプリネラは無事予選通過。
本戦は明日。
夜に信次・メル・プリネラ、バリアードとクガンが集まって祝賀会が行われていた。
「それでは~予選通過に乾杯!」
バリアードが乾杯の音頭をとる。
「かんぱ~い♪」
「なのですぅ!!」
バリアードがグビグビと勢いよく酒を飲み干す。
メルとプリネラも勢いよくグビグビと飲む。
メルたちは勿論お酒ではない。
「ぷはぁ~!いや~!メルの嬢ちゃんもプリネラの嬢ちゃんも良い戦いぶりだった!」
「ええ、関心しました。」
「そうだな。お前たちよくやったな。」
信次は二人の頭を撫でて今日の闘いぶりを労う。
「へへへ・・・。」
「もっと撫でて信次様~♪」
「調子に乗るな。」
信次は撫でるのを止めた。
「けち~。」
「ところでプリネラ殿、この度の魔法の闘いは見事でした。“操作”はどこで習得されたのですかな?」
クガンが興味本位でプリネラに質問する。
「あれは竜人様に教えて頂いたものです。」
「なんと!そ、それはまことでございますか!?竜人は他にどのような魔法を使用されるのですか?」
かなり食い気味でクガンがプリネラに聞いてくる。
「ん~、光魔法だったかな。ビュン!ビュン!ってもの凄く速い魔法ばかりだったわ。」
「光魔法!?闇と対をなす希少属性の光!・・・あー、私も一度お会いしてみたいものです。加藤信次様は竜人と手合わせはされたのですか?」
「ああ。とんでもない強さだった。」
「竜人ってのはどのくらい強いのですか?」
バリアードが肉をかじりつきながら質問してくる。
「1ヵ月修行に付き合ってもらってやっと一発当てることができた・・・くらいだな。」
「んなっ!?加藤信次様ですらそこまで歯が立たない程とは・・・。いやはや、敵には回したくないものですな。」
「そうだな。・・・そういやこの武闘大会の前には合同訓練ってのをしてたんだろ?どうなんだ?良い感じなのか?」
「そうですね。各部隊ごとに特徴がありますから互いに刺激を受けて訓練に臨んでおりました。」
「そっか。」
この後も久しぶりにバリアードやクガンと話をして盛り上がった。
「・・・明日は本戦だ。予選通過したのは隊長・副隊長クラスばかり。予選の時みたく上手くいくかわからない。気を引き締めていこうな。」
信次はメルとプリネラの肩に手を置く。
「はい!なのですぅ!」
「任せといてよ!私はやるわ!」
本戦の組み合わせは当日に行うらしいからな。
良い組み合わせになってくれればいいが・・・。
「明日も試合がある。今日は早めに寝とけよ。」
「えー!もっと信次様と話がしたいぃぃ!」
「メルもなのですぅ!!」
「・・・・寝ろ。」
「・・・はい。」
バリアードとクガンと別れ、2人を寝室まで見送り、信次も自室で寝た。
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そして翌日。
「"さぁさぁ!!やって参りました!!武闘大会2日目!!昨日予選を勝ち上がってきた総勢32名の猛者共が今日も熱い戦いを見せてくれること間違いなしっ!!みんなで盛り上がっていこうぜぇぇぇ!!"」
アナウンサーが会場を盛り上げる。
「"今日行われる本戦は、負けたら終わりのトーナメント形式だ!!これから順番に番号が書かれているくじを引いてもらい対戦相手を決めるぜ!!"」
舞台には予選通過した32名が集結。
舞台の上には大きな紙が広げられトーナメント表が書かれていた。
参加者は順番にくじを引いて各々番号を確認。
「メルは何番だった?」
「1番なのですぅ!」
「1番って最初の試合!?うへー、緊張するわね。」
「プリネラは何番なのですぅ?」
「私は29番だったわ。昨日は最後の組で今日の出番も後ろの方ね。」
「プリネラと戦うならどこまで行けばいいのですぅ?」
「この組み合わせなら決勝ね。決勝戦が私たち2人なら信次様も喜んでくれるわきっと!!」
「頑張るのですぅ!!」
「"さぁ!!みなさんくじは引きましたね!?それでは対戦カードを発表しますっ!!本戦第1試合目は・・・・・・加藤信次組メル 対 第5部隊副隊長バジェラ!!!″」
会場がざわつく。
一番最初の試合が同族同士の試合だったからだ。
「"これはいきなりの好カード!!戦闘種族として名高いオーガ族同士の闘いです!!"」
「ふっふふふ、はっはっはっ!!」
バジェラが高笑いをする。
「最初からメルとかよ!昨日から落ちこぼれが調子に乗っているようだから思い知らせてやるよ!」
「・・・負けないのですぅ!」
両者鋭い眼光で睨み合う。
「"では試合する選手以外の方は舞台の外に出て下さーい。"」
メルとバジェラを残して他の者は全員舞台から離れた。
信次は昨日同様幹部席で観戦。
「1回戦目からオーガ部隊の副隊長とか・・メルの嬢ちゃんは大丈夫でしょうか?」
バリアードが不安げに聞いてくる。
「・・・・大丈夫だ。」
本日一発目の試合。
会場は緊張に包まれる。
そして・・・
「"それでは参りましょう!!本戦第1試合目・・・・・スタァァァァーート!!!"」
ゴーンと銅鑼が鳴る。
だが、銅鑼が鳴り試合が始まるが両者は動かない。
「キリマスの野郎を倒したからって調子乗ってるんじゃねぇぞ。」
「調子になんて乗ってないのですぅ。」
「そうかよ・・。まぁいい。ここで力の差ってやつを思い知らせてやる。」
バジェラは態勢を低くし戦闘態勢に入る。
それを見てメルも構える。
先に動いたのはバジェラ。
その巨体から想像できない速さでメルに接近。
右腕を振りかぶり一撃を放つ。
メルは後方へサッと回避。
バジェラの一撃で舞台に大きな凹みができた。
一気に会場は盛り上がる。
「"なんという威力!!たった一撃で舞台の床が!!"」
「さすがオーガ族。」
「しかもあのデカブツ、特に強化魔法を付与せずにあの威力だ。他のオーガとは違うな。」
「あのバジェラは第5部隊の中でも戦場で自ら先陣を切り敵に突っ込む特攻を任せられている者です。さらにバジェラはオーガの中でも恵まれた体格です。」
「オーガってみんな大きいのか?」
「はい。オーガ族はもともと体が大きく力が強い一族です。幼少の子供でも身長は人間の大人と同じくらいの大きさに成長します。」
たしかに昨日の予選で見たオーガたちは全員デカかったな。
「オーガの女も大きいのか?」
「はい。」
「じゃあメルのあの小ささは珍しいものか?」
「そうですね。オーガ族でメルの嬢ちゃんほどの小ささは珍しいです。オーガは生まれた時小さくてもすぐに大きくなるのですが・・。」
信次とバリアードが話をしている間もバジェラは攻撃の手を休めない。
「どうしたどうした!?逃げてるだけじゃ俺は倒せないぜっ!?」
メルはバジェラの攻撃を回避しつつ反撃のチャンスを伺っていた。
「おら!!いくぞ!!」
バジェラが足に強化魔法を付与し速度が上昇。
先ほどより段違いに速く、一気にメルの懐に接近し右手を振りぬく。
「待っていたのですぅ!」
メルの反撃チャンス到来。
バジェラの攻撃を紙一重で躱してメルの得意技であるカウンター炸裂。
バジェラの顔にクリーンヒット・・・したかに思えたが。
「なんだ?これがお前のパンチか?」
「!!」
バジェラは顔にカウンターを食らっても平気な顔をしていた。
次の瞬間、バジェラの左拳がメルにヒット。
「うっ!!」
メルは吹っ飛ばされ舞台に転がる。
「メルのカウンターをもろに食らったのにダメージが無い?あいつ・・タフさ半端ないな。」
「軽い・・・。軽いんだよお前の攻撃は!」
「うう・・・。」
「体も小さい、攻撃も軽い・・。だからお前は落ちこぼれなんだ。お前には最初期待していた。・・・なぜならキドの妹だからだ。」
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キドの家系は代々から受け継がれているオーガ族族長の血筋。
オーガ族を導く家系。
俺の家系はオーガ族の中でも下級の出。
体だけが他より大きいが動きは遅く、戦闘では味方をも巻き起こみ足を引っ張るので里では土木作業等の戦闘以外のところでしか役に立たない家系だった。
そんな家に生まれたからこそ、戦に出て武功を上げ、オーガ族で1番になることを幼き頃よりずっと夢見ていた。
だから生まれた時から武闘のセンスに恵まれていたキドが羨ましかった・・。
「なあバジェラ、俺たちもオーガ族として誇れる存在になろう。そしていつか魔王軍で活躍するんだ。」
そう言ったのは同じ下級の出の幼馴染であるガザル。
「ああ、ぜってぇ成り上がってやるぜ。キド様よりも活躍して、認められて、オーガ族で1番になってやる!」
「ははは、キド様よりか?あのお方は既にオーガ族の歴史上最強と言われている方だぞ?俺たちと同い年なのに既に戦に出ていくつもの武功を上げている。」
「だけどそれより上に行ってやる!ガザル!お前よりもな!」
「ああ・・・そうだな。なあバジェラ、俺たちは強くなって里を、みんなを守れる存在に絶対なろうな。」
「ああ!人族からも、敵対する魔物からもみんなを守れるとなったら俺たちは英雄だ!絶対なろうぜ!」
俺たちとキドは同い年。
だが、元々兼ね備えているものが圧倒的に違う。
だけど武功を上げてオーガ族で一番になることを夢見ていた俺たちは努力した。
下級の出だが戦に出て活躍できるってところを見せつけてやりたかった。
ガザルと共に毎日毎日鍛え、鍛え、鍛えた。
周りの奴らが引くほど鍛えた。
体つきが大人と変わらない程に成長した俺たちはキドと一緒に小さな戦に出る事が多かった。
俺たちが必死で戦っている中、キドは涼しい顔で飄々と敵を倒していく。
戦場で感じるキドとの差・・。
だが俺は諦めなかった。
いつかこいつを抜くためにさらに鍛錬を積んだ。
体が大きくてのろまと言うのなら速くしてやる。
足腰を鍛え、瞬発力も鍛えた。
オーガ族の中でも大きいこの体を武器にした自分なりの闘い方に磨きをかけた。
・・・いつの日か、いつの間にか俺たちは周りから認められていた。
オーガ族の若手の中で期待されるまで成長した。
だけどキドにはまだ追い付かない・・。
そんなある日、キドに妹ができた。
名前はメル。
オーガにしては体は小さかった。
だがオーガはすぐ大きくなる、しかもキドの妹だ。こいつも持っているものが違うのだろう。
予想通りメルの戦闘センスは抜群だった。
しかし・・何年たってもメルの体は大きくならなかった。
メルにとって初めての戦場での実践の日。
俺とガザルとメルは同じ組になった。
戦では1組4~5人のグループを作り敵と対峙する。生存確率を上げるためだ。
なぜメルは兄貴のキドと一緒ではないのか?
指揮官に直接尋ねるも「お前には関係ない」と返答された。
「メル様、この度の初陣は私たちと一緒でございます。メル様は私たちがお守りしますゆえご安心を。」
ガザルがメルに優しく話しかける。
「よ、よろしくお願いします・・・ですぅ。」
「・・・ガザル、なんでメル様がもう戦場に出るんだ?体も小さいし戦場に出すのは早くないか?」
「バジェラ、上が決めたことだ。俺たちがとやかく言うことじゃない。メル様が同じ組になった。その意味わかるな?」
「・・・ああ。」
戦場では一瞬の判断ミスが命取りとなる。
メルはオーガ族族長の娘、キドの妹・・・。
上官からは特に何も言われていなかったが同じ組にメルを入れたということは「メルを守れ」という意味だろう。
だが、今回戦の相手はよりにもよって“マッドゴブリン”だ。
マッドゴブリンはゴブリン種の中でも異質。
普通のゴブリンとは違い好戦的で、尚且つ戦闘狂。いくつもの他種族の里を襲撃し蹂躙している。
個々の戦闘力はオーガと比べて大したことないが数で圧倒してくる。
オーガ族が住む近辺にまで進攻してきたので討伐隊が組まれた。
オーガ族の討伐隊がマッドゴブリンと相対すまでさほど時間はかからなかった。
オーガとゴブリンが出くわした途端闘いが始まる。
激しい乱戦。
力で劣るゴブリンは数で迫る。
ゴブリンたちはどんなに傷を負っても逃走という概念はなく、噛みついてでも死ぬまで喰らいついてくる。
キドのいる組は最前線で数多くのゴブリンを葬っていた。
ゴブリンの断末魔が後方にいる俺にまで聞こえていた程。
俺も前線であいつ(キド)と闘いたい・・・。
だが・・・。
俺たちのいる戦場でメルがうずくまっていた。
「メル様!!どうしました!?どこかやられたのですか!?」
バジェラはメルが怪我をしたのだと思い声をかける。
「・・・・・い。」
「なんです!?」
「・・・怖いのですぅ・・。」
メルにとってこれが初めての実践。
怖い気持ちは分かる。俺も最初はそうだった。
だが・・・。
「メル様!!立てっ!!初めてで怖いのはわかる!!・・だが、いつまでも座ってる訳にはいかねぇ!!」
バジェラがメルを必死で鼓舞。
メルが涙目でバジェラを見る。
「バジェラ!メル様はまだ戦える状況じゃない!メル様を中心にしてこいつらの攻撃をしのぐぞ!!」
ガザルが掛け声を発し、円状にメルを囲んだ陣形でゴブリンと戦う。
「ちっ!こいつら数が多すぎる!!」
「バジェラ!耐えろ!!そのうち後ろの組が俺たちに追いついてくる!!」
「「ギャァァァァァァァ!!!」」
後方で叫び声が轟く。
そして後方から段々と何かが近づいてくる。
バジェラたちの前に体格がオーガと匹敵するゴブリンが現れた。
さらにそのゴブリンは大きな剣を所持。
「デカいな・・。」
巨漢のゴブリンは何かをバジェラたちに投げつける。
投げつけてきたのは同胞の死体。
「てめぇぇぇ!!!」
バジェラは巨漢ゴブリンに突進。
「バジェラ!!待てっ!!」
ガザルの制止を振り切ってバジェラは巨漢ゴブリンに襲い掛かる。
巨漢ゴブリンが剣を振るうがバジェラは避ける。
バジェラの拳と巨漢ゴブリンの蹴りがぶつかり合う。
「!!!」
吹っ飛ばされのはバジェラの方だった。
「・・なにっ!?」
「ウゴォォォォ。」
ゴブリンの体から放たれる異様な雰囲気。
「バジェラ大丈夫か!?」
「ああ・・。」
「こいつ、今までの奴とは違う・・・。嫌な感じだ。」
「ガザル、俺らでこいつをやるぞ。」
「ああ、・・・だが。」
ガザルは後ろを振り向き、メルがまだ震えてうずくまっているのを確認した。
バジェラとガザルが巨漢のゴブリンと対峙した場合、残るのはメルを含めた3人。
メルは戦える状態では無いため実質2人で他のゴブリンと応戦しなければならない。
「くそ・・どうする・・。」
「ガザル!大丈夫だ!!メル様は俺たちに任せてバジェラと共にそのゴブリンをやってくれ!!」
「どう考えてもそのゴブリンが一番厄介だ!お前たちに頼む!!」
「ああ・・わかった!耐えてくれよ!!・・いくぞバジェラ!!」
「おうっ!!」
バジェラとガザル2人で巨漢ゴブリンに応戦。
オーガ族若手有望株の2人が一気に巨漢ゴブリンを追い詰める。
その間、残った2人はメルを守りながら他のゴブリンと応戦。
その時、巨漢ゴブリンが既に死んでいる他のゴブリンの握っていた剣を拾い、力強く遠投。
剣は真っすぐ飛んでいく。
「ぐあああぁぁ!!!」
巨漢ゴブリンの遠投の狙いはバジェラたちではなく後方で他のゴブリンと応戦していたオーガたちであった。
投げた剣は1人のオーガに命中し突き刺さる。
「なっ!?」
一瞬。
バジェラとガザルが一瞬目を後ろに逸らした瞬間、
巨漢ゴブリンの強烈な一撃がバジェラたちに放たれた。
「ぐふっっ!!」
巨漢ゴブリンは2人を吹っ飛ばし、そのままメルたちがいる方へ走り出す。
剣を構え一気に振り落とす。
メルを守っていたオーガが一刀両断。体がパックリ2つに切り裂かれた。
そして、巨漢ゴブリンの次なる矛先は・・メル。
「あ・・ああ・・。」
メルは恐怖でもう声がでなかった。
巨漢ゴブリンは再度剣を構えてメル目掛けて振り落とす。
「させるかぁぁぁ!!!」
バジェラが勢いよく巨漢ゴブリンに体当たりして押し倒した。
ガザルも少し遅れてメルのところまで戻る。
「はぁ、はぁ・・バジェラ!よくやった!」
「これ以上仲間を殺されてたまるかっ!!」
「あ・・・あ・・。」
メルは未だに震えが止まらない。
「メル様!!」
「!?」
「俺はこれ以上仲間の死ぬところは見たくねぇ・・。この現状、俺たちだけじゃお前を守れねぇ・・。だから・・・お前も戦えっ!!!」
「!」
「バジェラ・・。」
「戦って生きるんだよ!!ここから!!まだ俺らは死ぬ時じゃねぇぇ!!」
「だな・・。メル様、ここを凌いで生きましょう。」
「・・・・です。」
メルはボソッと呟く。
そして、
「生きるのですぅ!!」
メルは吹っ切れた顔をして戦闘の構えをとる。
巨漢ゴブリンとその他大勢のゴブリンが3人に襲いかかる。
当初3人は立ち回り良くゴブリンたちをさばく。
だが、段々とメルの実践での経験不足が露わになり隙が生じた。
しかしそこはガザルがフォローする。
「俺がこのデカゴブリンとやるっ!!ガザルとメル様は周りのゴブリンをやれっ!!」
「了解だ。」
バジェラが巨漢ゴブリンに猛攻を仕掛ける。
・・そしてついにバジェラは巨漢ゴブリンを討ち取った。
「ふしゅーーー。・・・よし。手こずらせやがってクソが、お前たち大丈夫か・・・。」
バジェラはガザルたちがいる方を向き、驚愕した。
「クッ・・・。」
ガザルたちの周りをバジェラが倒したのと同等の巨漢ゴブリンが囲んでいたのだ。
よく見るとメルが気を失って倒れており、そのメルをガザルが庇っていた。
ガザルは片腕が斬り落とされ重傷の状態。
「嘘・・だろ?クソッ!!」
ダッシュで近づくとガザルがメルを抱えバジェラに投げた。
「メル様を・・守れ。」
「ガ・・ザル・・。」
次の瞬間、無情にもゴブリンたちの刃がガザルに突き刺さる。
「ガザルゥゥゥゥゥ!!!」
バジェラは後ろを向きメルを抱えてダッシュで走る。
既にバジェラには巨漢ゴブリンたちと戦えるほどの余力は残っていなかった。
「クソッ!クソッ!!クソォォォォォッ!!!」
友が殺された悲しみと自分の弱さに悔しくて叫んだ。
だが、ガザルを殺した巨漢ゴブリンたちはバジェラの後を追いかけてくる。
ちくしょう・・。
なんでだ?なんであんなゴブリンたちが固まっている!?どこから湧いてきた!?
ガザル・・・・。
お前の仇・・・俺がとってやる!!
バジェラは走るのを止め、立ち止まって振り向き、抱えていたメルを地面に降ろす。
「ウゴォォォ・・。」
「てめえら、皆殺しにしてやる・・・。」
巨漢ゴブリンたちが一斉にバジェラに襲い掛かる。
その時、
前列の巨漢ゴブリンたちが一瞬でバラバラに切り刻まれた。
「!!?」
バジェラの前に現れたのはキド。
「キ、キド・・様。」
巨漢ゴブリンたちは仲間が一瞬で殺され、慌てた様子になる。
「・・・・メル。」
「キド様、俺たちはメル様を守るために戦ってましたが・・・・俺以外の奴らは殺され、残ったのは俺だけになりました。」
「・・・守る?メルを?貴様が?」
「?・・・はい。」
「・・・期待外れだな。」
「は?」
キドはメルに近づき無理矢理起こす。
「キド様、何を!?」
「メル、起きろ。」
「・・・に・・・にいさま・・。」
「お前、何をしている?お前を何のために戦場に出したと思っている?」
キドはメルをゴブリンたちの前に放り出す。
メルは巨漢ゴブリンたちを目の前にして足がすくむ。
「あ、ああ・・・・。」
「キド様!何をしているのですか!?」
「戦え。」
「メル様は戦える状態ではない!」
次の瞬間、キドはバジェラの首を掴む。
「なんだ貴様は?誰に言っている?」
キドの目は冷酷でバジェラは恐怖を感じた。
「弱い者は死に、強い者だけが生きる。それがこの世のつねだ。メルは弱い。だが族長の娘として生まれたからには強くなければならん。だが、こいつは戦う意思というものがそもそも弱い。それを矯正させるためにこの戦に出させた。」
「きょ、矯正・・?」
「だからこの戦である程度窮地に立たせれば開花するものだとふんでいたのだが・・・・。期待外れだったようだ。」
「窮地に立たせた・・?開花?ど、どういうこと・・ですか?」
「弱い魔物では意味ないからな・・・。ゴブリンの中で強い者をメルのもとへ向かわせるようにしたのだが・・。」
「!?」
キドは最前線で戦いを行っており、この巨漢ゴブリンたちは元はキドたちと戦っていた。
しかしキドの前では巨漢ゴブリンは赤子同然でしかなく、次々と殺されていく同胞を目にしてゴブリンたちはキドに恐怖。
だが、キドはあえて巨漢ゴブリンたちを逃がした。
「後方には我々オーガの中でもイキのいいのがいる。それを殺せたら貴様らの勝ちでいい。」とゴブリンたちに耳打ち。
そしてゴブリンたちはキドから離れ、迂回してバジェラたちがいる後方へ向かったのだ。
「じゃ、じゃあこいつらが俺たちのところに来たのは・・・。」
「私がそう仕向けた。」
「あ、・・あんた、なんてこと・・しやがる・・。」
「メルのためだ。」
「!?」
「メルには闘争心というものが薄く、自身の感情に鍵をしてしまっている状態。それを開放させようとしたまでだ。・・・・だが、同胞が目の前で死に、自身の危険が迫っているというのに・・・一向に開花させないとは・・・。」
「お前っ!!」
バジェラがキドを睨む。
しかし、キドのバジェラの首を掴む手がより強くなる。
「ぐっ!!」
「貴様・・・誰に向かって睨んでいる?」
「お、お前のせいで・・・ガザルは・・同じ組の奴らが死んだ!」
「・・・私のせい?・・何を勘違いしている?死んだのは貴様らが弱いからだろう。私のせいにするな。」
「ぐっ・・・。」
「そもそもこんなゴブリン共にやられてる程度の者はオーガとして恥ずべきだ。」
冷酷な目でバジェラを見つめる。
「こ・・この野郎・・・。」
キドは掴んだ手をほどき、バジェラは膝から地面に落ちる。
「ごほっ!ごほっごほっ・・・。」
「メル。この者たちと戦え。オーガとして族長の娘として力を示せ。」
「あ・・・ああ・・・・。」
怯えるメル。
「・・・・はあ。・・・もうよい。戦わないのならば・・・ここで死ね。恥晒しめ。」
落胆した表情でため息をつき、残酷な言葉を実の妹であるメルに浴びせるキド。
「お前は弱い。弱いことは罪だ。弱い者は要らぬ、戦わない者は要らぬ。」
弱い?・・・弱いことは罪・・・?。
「メル。お前が弱いから仲間も死んだ。」
弱いから死んだ・・?仲間が死んだのはメル様のせい・・・?。
「お前が弱いのが悪い。」
弱いことは悪いこと・・・?。
「オーガ族族長の血筋は強者でなければならない。なのにお前は同じ組の者数人ですら守れず殺した。」
メル・・・が・・みんなを殺した・・・?。
でも・・誰が仕向けた・・?
キド・・・みんなを殺した・・・?。
「お前の責任だ。」
メルの・・・・せい・・・キドの・・・せい・・・。
妹を強くするために・・・周りを巻き込んで・・・。
ガザル・・・・。
巨漢ゴブリンがメルに襲い掛かろうとした時、
「がああぁぁぁぁぁ!!!」
「!」
バジェラの中で何かが切れた。
怒り・悲しみ・憎悪といった感情が渦巻き、巨漢ゴブリンたちに襲い掛かる。
そこからは一方的であった。
バジェラが巨漢ゴブリンたちを滅多打ち。
肉片が四方八方へ飛び散る。
たった数分間でその場に立っていたのはバジェラのみ。
「ほう・・。」
「はあ・・・はあ・・・。キド・・てめえも殺してやる・・・。」
バジェラは怒りの感情に任せてキドに襲い掛かる。
「・・分をわきまえろ。」
キドの膝蹴りがバジェラの腹部にめり込む。
バジェラはその場にうずくまり倒れる。
「がっ・・・・・は・・・・。ちく・・しょう・・。」
キドはバジェラの髪を引っ張り無理矢理自身の顔に近づけた。
「今のは良かったぞ。・・・貴様は見込みがあるな。どうだ?私についてこい。」
「て・・てめえを絶対殺してやる・・。」
「目つきも良い。私の傍にいれば私を殺す機会はいくらでも訪れる。どうだ?悪い話ではないだろう?ついてこい。」
キドとバジェラはその場から森の奥へ歩き出す。
「・・・あれはいいのか?」
バジェラが座り込んでいるメルを指さす。
「あれは使い物にならん。ここへ置いていく。弱者はオーガ族に必要ない。」
キドは冷たい目をメルに向け、切り捨てた。
俺は弱者にはならねえ・・。絶対強くなって・・・こいつを殺す。
そのままキドとバジェラは森の奥へ消えていった。
その後メルは他のオーガに助けられ里へ帰還。
メルは戦いの恐怖によりトラウマが刻みつけられた。
それからメルは一切戦いに出る事はなく、ふさぎ込む日々。
周りからは「オーガの面汚し」「落ちこぼれ」と揶揄されるようになった。
俺はあの戦のあともキドを殺すためにずっと傍にいた。
一緒に戦い、殺す機会を伺っていたが・・・・。
キドとの差を痛感させられるだけだった。
・・・いつの日からか、キドへの憎悪は次第に無くなり、キドの強さに憧れを抱くようになった。
それからはキドの片腕、相棒として日々戦いに明け暮れ、今では部隊副隊長にまで上りつめた。
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「メル、てめえは弱い。弱いのは罪。弱いやつは弱いやつなりに分をわきまえろ。・・ここはお前の立つ場じゃねえ。」
「・・・・・・う。」
「なに?」
「・・・・メルはもう昔とは違うのですぅ!!」
「違うだぁ?・・・ふふふ。・・じゃあ見せてみろよ!その違いってやつを!!」




