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~夏フェスの護衛試験②~

第10章━5




 さぁ、始めようか。

 ⋯⋯って、別に私は何もせんのやけどな。


 案内されたのは屋外の訓練場で、迷彩服を着た軍人がチラチラこちらを見ている。どうやら護衛試験の噂が出回っているようだ。

 人種のるつぼとはよく言ったもんで、色んな髪、肌、目の色が見てとれる。でも総じて私達を見る目は格下の人間を嘲笑うかのような冷めた視線だった。

 中には私達が英語を理解できないと思い込み、平気で馬鹿にした言葉を投げ掛けてくる者もいた。


《ここがスタート地点だ》


 そう言われて着いた場所はアスレチックのような広い敷地で、反対側には屋内訓練用の建物も見えた。


《屋内にいるところを襲撃されたため、護衛対象を外に逃がし安全を確保できればミッションクリアだ。ちなみに襲撃犯は三人組、チームで連携して動いているという設定だ》


 DDが試験内容を説明する。


《おい、聞いてるのか?》


 ここまで一言も喋らないゴーシュに、苛ついた雰囲気のDDが食って掛かった。まぁ、お世辞にも受けのいいタイプではないからな⋯⋯ゴーシュは。


《要は三人を片付ければいいんだな?》

《ッ! まぁ、そうだが⋯⋯簡単にできると思うなよ?》


 やっと喋ったと思ったら相手の気持ちを逆撫でするような台詞を吐くもんだから、周りの視線がかなり痛い。

 ゴーシュ本人はどこ吹く風とばかりに相変わらずの無表情だが。


《で、護衛対象はどこだ?》


 本当に必要なことしか喋らないな、ゴーシュは⋯⋯。

 もっと細かな説明を求めたり、ルールの確認をしたり、制限時間を聞いたりすればいいのに⋯⋯と普通の相手なら思うんだろうが、ゴーシュだもんな。何の心配もない。前世で過酷な生き方をしてきたゴーシュにとって、こんな簡単な試験など朝飯前だろう。

 そんなことを考えながら呑気にのほほんとしていた私の耳に信じられない言葉が聞こえてきた。


《護衛対象者なら隣にいるだろう?》

《はぁッ!?》


 マジかっ!? 私かよっ! 

 まさか今日の試験に私まで駆り出されるとは思ってもみなかったが⋯⋯たぶん計画的だな、こりゃ。

 これに失敗すれば護衛本人の面目は丸潰れだが、キャシーの私に対する好感度を下げるには私自身も関わらせようという嫌がらせの一種だろう。

 自信満々で推薦してきたご自慢のボディーガードに私自身が守られなかったら、二人揃って赤っ恥だ。キャシーから私への信頼度は確実に下がるだろう。嫌なやり方だが、なかなかやるな?


《何だ? 自信がないのか?》


 DDがそう私に尋ねる両脇で、ニヤニヤしながらこちらの反応を楽しんでいる残るボディーガードの二人。襲撃犯役の軍人三人も舐めた態度で準備している。


《いや、別に。急な大役に驚いただけです》


 突然のご指名に驚きの声を出してしまった私だったが、平静を装ってそう答えると、DDは念押ししてきた。


《この国で生活してきたなら襲撃されることなんて人生で初だろう? 怖かったら辞退しても構わないんだぞ?》


 フンッという音が聞こえてきそうなくらいの上から目線でそう言われた。これには少しばかりカチンときた。

 バカにしてんな? 喧嘩売ってんなら買うよ? こちとら以前(前世)は冒険者やで? 魔物や盗賊の襲撃なんか日常茶飯事だったわいッ!

 まぁB級だった私をバカにするのは仕方ないから許してあげる。

 だが、しかぁ~し、ゴーシュに対する舐めた態度は許せん! 私のヒーローをバカにした代償はキッチリと償わせてやる。勇者の実力をしっかりと理解させて(分からせて)やるからな!


 そこで私は笑いながら続けた。


《まさか! 彼の側にいて怖いなんて感じたことないですよ。私が驚いたのは護衛対象がキャシーと同じ子供じゃなくて、長い付き合いのある私でいいの? ⋯⋯ってことです》

《フンッ。自信満々だな?》


 虚勢を張っているとでも思ったのか、可哀想な相手を見るような目つきでそう言われた。

 ならこっちも言わせてもらおう。


《そりゃそうですよ。彼の実力は世界一ですからね。その一点にかけては恋人や家族よりも私は絶対的な信頼を置いてます》


 そう答えた私は、隣にいたゴーシュの()が一瞬見開いたことに気づいていなかった。

 そして煽るだけ煽ってやった。


《だから、さっき言ったこと忘れないでくださいね?》

《何だ?》

《終わってから油断してただとか、舐めてたから、なんて言い訳はなしですよ? 本気でやってくださいね?》

《《《ッッッ!!!》》》


 おお、おお、見る見る内に頭に血が登ってきてますね、皆さん。

 さっきまでの舐めた雰囲気から一転、確実に敵認定されたようだ。襲撃犯三人の視線がガラッと変わった。


《大口を叩いた責任は自分で取ってくれよ。お前達には建物の中で待機してもらう。スタートは10分後だ》

《⋯⋯分かった》

《はぁ~い》


 これまた必要最低限の言葉しか発しないゴーシュと、緊迫感のない私の返事に少々イラッとしたのか、DDが最後に捨て台詞を吐いてリックの元に行く。


《相手は銃を持った三人だ。模擬弾とはいえ当たったら痛いぞ? 銃に馴染みのない日本人がどれだけのものか、お手並み拝見としよう》


 それからきっかり10分後、ミッションスタートとなった。






 ──そして今。


 死屍累々とまで言わないが、プライドを叩き折られ、見事なまでに返り討ちにあった襲撃犯三人と、唖然とする観客(DD達)の姿があった。


《ご満足いただけましたか?》


 五体満足どころかかすり傷一つないままで、スキップするかのような軽やかな足取りと満面の笑みで近づいてゆく私。そして両腕で迷彩服を着た男三人を引きずっているゴーシュの姿。

 信じられないという視線がアチコチから突き刺さる。


 平和な日本。訓練、訓練の毎日で刺激の少ない日常。そんな中、退屈な基地内でのちょっとしたイベント。さらには世界のリックまで来ているとなれば観客(ギャラリー)も少なくなかった。


 たぶん生意気な日本人を叩きのめして、自分達の凄さを見せつけてやる⋯⋯ってとこだったんだろう。英語で喋れば分からないと思い込んでいた周りの米兵が、「わざわざあいつら出すか?」とか、「一瞬で決着がつくな」とか言ってたので、あの三人は兵士の中でも腕利きなんだろう。中には賭けをしている者もいたのだから。


 ところが実際は⋯⋯見るも無惨な結果に終わった。


《まさか、こんな⋯⋯》


 信じられない者を見るような目でDD達が近づいてくる。


《だから言ったでしょう? 彼は世界一だって》

《いったい彼は⋯⋯》


 安全大国日本で、名も知らぬ実力者がいたことに驚きを隠せない関係者一同。

 だが、本当のことなど言えるはずもない。

 仕方ないのでスタートまでに考えておいた設定を話す。


《とりあえず彼のことは公にしないでくださいね?》

《なぜだ? これだけの実力があればボディーガードとして世界中で引く手あまただろう? なぜ名前も知られていないんだ?》

《彼には地位も名誉も必要ないんです》

《なぜだっ!?》


 ゴーシュの実力を目の当たりにして、彼に対して興味津々のDD達。あからさまにさっきまでと見る目が違う。


《表の世界に出ないのが()()()()ですから》

《《《!!!》》》


 まさかッ! という表情でゴーシュを見る人達。驚きで声すら出ないようだ。私が準備しておいた()()という設定に⋯⋯。

 まぁそれも私の近くにいたDD達以外には聞こえてないようだけど。キャシーはテンション爆上がりだったが⋯⋯。

 襲撃犯役の三人は気を失って倒れていたため、周りで見ていた米兵が必死に声をかけていた。意識を取り戻した一人は、何がどうなったのか教えてくれと仲間に訴えかけている。

 まぁ、わかるわけないだろう。

 ゴーシュの姿を捉えることもないまま瞬殺されたのだから⋯⋯。


 こうして私達は無事、キャシーのシッターと護衛のバイトとして雇ってもらえる契約を結ぶことができ、横須賀米軍基地を後にした。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




《これは一体⋯⋯》


 部外者が立ち去った後、密かにコナー司令官の部屋では先ほど行われたミッションの全容が明らかにされていた。


《こちらの三人の装備に、こっそり小型カメラを仕込んでいたそうです》

《どうやら後で酒の肴にして笑い者にするつもりだったようですが⋯⋯》


 意気揚々とそれぞれ自分の部隊から精鋭を出した隊長達が、ミッション終了後に回収したカメラの映像を見ながら説明していた。


《まるで相手になっていないじゃないか?》


 そうコナー司令官は隊長達に吐き捨てた。


《えぇ! 我々も結果を聞き驚きを隠せませんでした》

《しかし、これを見て納得いたしました》


 完膚なまでに叩きのめされた軍人としてのプライドよりも、画面に映る謎の男の姿にすっかり魅了されてしまった隊長達。そしてそれに自分も納得せざるを得ない司令官。


《いったい彼は何者なんだ?》


 純粋な疑問をぶつける司令官に、隊長の一人がその問いに答える。


《今回の話を持ってきたDDというボディーガードの軍時代の同僚が我が隊にいまして。そいつから話を聞いたところ、何とぞ今回のことは内密に⋯⋯という約束をさせられたそうです》

《どういうことだ?》

《本人いわく表に出たくない、もっと言えば世の中に自分の存在を知られたくないのだそうです》

《なぜだ?》


 誰もがそう思うだろう。これだけの実力を持ちながら軍人や傭兵、格闘家としても世界的に一切名を知られていない謎の人物。過去の経歴も調べても一切不明で一般人としか言いようがなかった。


 ──欲しい。


 その実力から是非とも手に入れたい逸材だった。教官として雇っても構わないとさえ思った。

 しかし、次の言葉を聞いてそれは無理なことだと思い知った。


《彼は()()()()、いわゆるジャパニーズNINJA(忍者)の末裔だそうです》

《なッ!!!》

《一人の主を生涯守り抜くことこそが己の生きる意味であり、常に影となり仕えることが我が務めだそうです》

(それ)が彼女というわけか⋯⋯》

《はっ!》


 ふうっとため息をつき、司令官は画面に映る彼の姿を再度見た。


 ──とても同じ人間とは思えん。


 まさか極東の平和ボケした日本にこのような存在がいたとは⋯⋯。

 画面に映る三人は贔屓目抜きで優秀な兵士だった。驕ることなく冷静かつ綿密な連携を取りながら建物の中に侵入していた。

 だがしかし、捕獲対象(彼女)どころか彼の姿をハッキリと映している映像はほとんどなかった。

 まず彼女を見つける前に全員がやられたからだ。

 三人がお互い合図を取り合い建物に侵入したところ、小さな物音や揺れるカーテンなどに気を取られた途端、背後から一瞬で倒されていたからだ。映っているのは彼の手や腕、足の一部だけで顔すら映っていなかった。

恐るべし忍びの者⋯⋯。


 ──NINJA(忍者)か⋯⋯本当にいたんだな⋯⋯。


その日、司令官室では何度もこの映像がリピートされたのだった。





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