~夏フェスの護衛試験①~
個人的に好きなゴーシュを書くときは筆が進みます。
第10章━4
すごい、スゴい、凄いっ!
初めて来たよ、米軍基地内に。
昨日、社長室からの電話でゴーシュに事情を説明すると二つ返事でOKしてくれた。それを聞いたキャシーは大喜びだったが、ボディーガードのDDはまだ信用してないようで、納得できるだけの実力を見せてみろと言われた。
で、今ここにいる。
昨日は時間も時間だったので一旦解散となり、翌日DDの指定する場所に集合することとなったのだ。別れ際のキャシーは既に希望が叶ったと満面の笑みを浮かべながら私に手を振っていたが、DDに関しては親の仇のような目で睨まれた。
理不尽じゃね? そもそもキャシーを満足させていれば起こらなかったことじゃん? 何で助け舟を出したこっちが悪者みたくなってんの?
とにかく夜遅くに連絡のあった集合場所は、横須賀の米軍基地だった。どうすれば一般人が米軍基地内に入る許可が得られるのか謎だが、元軍人のDDが関わってるのは間違いないだろう。
基地の入り口で名前を告げる。
《吉岡典子と言います。今日10時にここへ来るよう言われたんですが⋯⋯》
《話は聞いている。そこの受付を通って案内に従え》
《どうも⋯⋯》
私は軽くお辞儀をして言われた通り進んでいく。
当然その私の隣には言わずと知れた勇者ゴーシュが付き添っている。
「うわぁ~、ひっろ~広過ぎやろ?」
「そうか?」
広大な敷地に驚く私と違い、ゴーシュは相も変わらず無表情だ。
「だって日本の中にあってここはアメリカなんやで。狭い日本の中にこれだけの土地が治外法権って凄くない? ほら当たり前やけど外人ばっかりやし」
「前世では獣人とも暮らしていたのに何がそんなに珍しいんだ?」
「ま、確かにそりゃそうやけど⋯⋯」
初めての場所にテンション高めの私と違って、ゴーシュは通常運転だ。
昨夜の連絡でここを指定された時からだいたいのことは予想がついている私は、今から行われる採用試験より、初めて入った米軍基地の方が目新しくて気になっていた。
《吉岡さんと黒井さんですね? お待ちしておりました。ご案内いたしたします。こちらです》
《あっ、はい。お願いします》
丁寧な案内役の人が待ち構えていた。その後ろを素直についていく私達。その間の無言の時間⋯⋯居心地悪いなぁ⋯⋯。
《失礼します。お客様をお連れしました》
《入れ》
部屋のドアをノックした後、そんなやり取りをして私達は室内に通された。中にはリックとキャシー、それにDDを含むボディーガード三人。それに迷彩服の軍人が数人待ち構えていた。
《待ってたのよ、リコ》
《おはようキャシー。それからミスターロジャーに皆さんもおはようございます》
キャシーは挨拶をした途端抱きついてきて、私の腰に手を回し蝉のようにくっついている。それを横目で睨むDD達。怖ぇ~よ。
そんな朝の挨拶をする私にこの部屋の主が声をかけてきた。
《初めましてミス吉岡。私は司令官のジャスティン・コナーだ》
《初めましてミスターコナー。吉岡典子です。私のことはリコで結構です。こちらが本日の主役、黒井です。ゴーシュと呼んでください。この度は場所を提供いただき感謝いたします》
さすがに軍人のお偉いさんとの挨拶は緊張する。
出された右手を慌てて私も握り返す。
《君がミスター黒井か? 今日はよろしく。楽しみにしてるよ》
《⋯⋯あぁ、こちらこそよろしく頼む》
ッ! クララが立った!
じゃなくゴーシュが喋った! それも英語を!
「ゴーシュ英語喋れたん?」
「世界中あちこち回ってたんだ、片言の英会話なら多少な⋯⋯」
「さすがゴーシュ、凄いな⋯⋯」
そんな内輪の話をしている私達に、さっそくDDが本日の予定を告げる。
《英語が喋れるなら好都合だ。今からそいつがキャシーの護衛としての資格があるか試させてもらう。ミッションに挑戦してもらってクリアすれば俺も認めよう。だが、クリアできなかったら分かっているな? 今回の話はなかったことにする》
《なっ! 何でよっ! そんなの勝手過ぎるわ!》
DDの言葉に即座に反応したキャシー。
それを黙って聞いている周りの屈強な男達。
《いいだろう⋯⋯》
相変わらず言葉数が少ないゴーシュが短い返事をした。
代わりに私はひとつだけ条件を出した。
《こちらとしては問題ありません。ただし、後になって泣き言を言ったり、イチャモンつけたりするのは無しですよ?》
そう言った私を馬鹿にしたような視線が突き刺す。
どうせここにいる全員、私達を舐めてんだろう。どうせクリアなんて出来るはずないようなことを準備してんだろう?
だが──後悔しやがれ。
あんたら軍人でも知らない世界があるってことを。
そして世界最強の男を目の当たりにすればいい。
ニヤつきそうな自分を必死に押さえ、まだ文句を言っているキャシーをなだめながら訓練場に移動することとなった。
部屋を出ようとする私達の後ろから、この部屋の主であるコナー氏の声が聞こえた。
《ミスターリック。本日は誠に感謝いたします。一時間場所を提供するだけで、まさかあなたが一曲披露してくださるとは⋯⋯》
《いえいえ、こちらこそ。急なお願いを彼がしたのですから無理を言ったのはこちらの方ですし》
《今朝の緊急召集に「何事だ?」と緊張していた部下達のあの時の顔といったら⋯⋯(笑)。長らく母国を離れている部下への久しぶりの褒美になりましたよ》
《そう言っていただけると私も嬉しい限りです》
なるほど!
米軍基地の訓練場を借りる代わりに、慰問として世界のリックが一曲披露したってことか⋯⋯。
それにしてもさすがアメリカ、スケールがデカイ。
いくら世界的なスーパースターとはいえ、米軍基地内の施設を貸してくれるとは⋯⋯。日本で個人的に自衛隊の基地を貸してくれって言っても一蹴されて終わりやろ。こういうところでもお国柄っていうか、国の違いがハッキリと出るもんだ。融通が利くってことでいいのかな?
そんなことを考えながら私達は部屋を後にした。
舞台は整った。
後は勇者の実力を見せつけるだけだ。
たかだかアジアの小国、日本の護衛など取るに足らないとでも思っているんだろうが、知らぬが仏。身をもって知るがいい。
脅威との戦いが日常だった男の真の実力を!
《ねぇ、リコ。本当に大丈夫?》
不安気に私を見上げるキャシーの手をギュッと握り、私は散歩かスーパーに行くようなノリで繋いだ手を前後に揺らした。
そしてスキップでもしそうな感じの笑顔でキャシーに答えた。
《ねぇ、キャシー。最強のヒーローって本当にいるのよ》




