~面倒事⑥バーベキュー・おまけ~
今回はオマケのため短めです。
第9章━10
これはバーベキューから帰ってきた、まだ興奮冷めやらぬ龍斗から聞いた話である。
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「ねぇ、ねぇ、何見せてくれるの?」
子供達は期待に胸膨らませているようだ。
「そうだなぁ⋯⋯兄貴、ちょっとしたの見せてやってよ」
「お前なぁ⋯⋯」
兄貴は困ったような顔をしながらも川辺に向かうとサッと右手を払った。
「うわぁ━━、魚だ!」
「すごぉ~い、どうやったの?」
子供達の足元には川魚がピチピチと跳ねていた。
「僕にもできる?」
「私にも教えて」
無邪気に詰め寄って来る子供達に兄貴の方が困惑しているようだ。こんな姿の兄貴は珍しい。
「お前達には無理だ⋯⋯」
「「「「「えぇ~」」」」」
ガックリという音が聞こえてきそうな子供達のリアクションを見て、俺は笑いを堪えつつ兄貴に言った。
「兄貴、他にも何か見せてやってよ」
「⋯⋯仕方ないな⋯⋯」
そう一言呟くと、兄貴がまた右手を払った。
すると今度は川の水でできた球体が子供達の頭の上にフワフワと浮かんでいた。
「うわぁ~、何これ?」
「スッゲェ━━ッ!」
子供達は目を輝かせてジャンプしたり拍手したりと大興奮だ。実は内心俺も同じだった。
「いくぞ」
兄貴がそう言った瞬間、空中に浮かんでいた球体がパチンと割れて、子供達の頭上に細かな霧状のミストが降り注いだ。
「うわぁ━━、気持ちいい━━ッ!」
「すごい、すごい、すごぉ~い」
もう大はしゃぎだ。俺も一緒にミストを浴びたかったな。
「この暑さならすぐに乾くだろう」
街中にある機械で作ったミストより、川の水で作ったミストの方が冷たくて気持ちいいに決まっている。子供達は何度も「もう一回やって」とおねだりしている。
「やり過ぎるとさすがに風邪をひくぞ。川の水は冷たいんだからな」
兄貴が子供達をたしなめるように言う。
だが、子供達は諦めない。さすが子供だ。怖いもの知らずだな。
「じゃあ、他のやって」
「もっともっと!」
「⋯⋯はぁ~」
ため息をつきながらも、兄貴は子供の一人を抱き抱えると森の木の枝に跳び移った。誰が見ても普通じゃないジャンプ力だが、子供達にはテレビのヒーローのように見えているだろう。
「うわっ、スッゲェ~」
「次、私も!」
「僕も、僕も!」
「俺が先だぞ!」
残る四人の子供達も大騒ぎだ。
足をかける場もない大木に、あり得ない跳躍力で数メートル先の枝に跳び乗り、子供をそっと座らせると同じことを繰り返した兄貴。
子供達はまるで一軒家の二階の高さから見下ろす景色に口を開いて驚いている。ちなみに俺もやってもらったけどな。
大木の枝の上は、日射しも避けられ思ったより涼しかった。
「すっごい遠くまで見えるよ!」
「あっちの山がハッキリ見える」
山の中の景色に子供達が騒いでいると、その中の一人が声をあげた。
「あっ、あそこにリスがいた!」
「嘘ッ?」
「ホントに?」
「どこどこ?」
木の枝の上なのに立ち上がって探そうとする子供達を、兄貴が静かに注意する。
「危ないからおとなしくしていろ。落ちたらケガするぞ」
「「「「「はいッ!」」」」」
さすが兄貴!
もう子供達のハートをガッチリ掴んでるぜ。
「待ってろ⋯⋯」
そう言うと兄貴の姿が一瞬で消えた。
「えっ、えっ?」
「どこ行ったの?」
不安そうに周りを見回す子供達だったが、ほんの数秒後には、
「ほら、コイツだろ」
と言って、子リスを捕まえた兄貴が戻ってきた。
「それって、さっきのリス?」
「あぁ、そうだ」
「スッゲェ━━ッ!」
「カワイイ!」
「抱っこさせてぇ~」
野生のリスにテンション爆上がりの子供達だったが、冷静な兄貴はすぐには渡さなかった。
「危ないから一旦下へ降りてからだ」
そう言うと、次々に子供達を地面に降ろしていった。
無事、地に足のついた子供達は兄貴から手渡されたリスを逃がさないよう、細心の注意を払いながら順番に手に乗せていたが、
「あっ!!」
とうとう逃げられたようだ。
「おじちゃん、リス逃げちゃったよ」
「⋯⋯おじちゃん⋯⋯」
「プッ⋯⋯」
笑っちゃいけない。
兄貴がおじちゃん呼ばわりされて少しフリーズしている。見ていて分かるが怒っているわけじゃない。
ただ単にどう対応すればいいか分からずに困っているんだ。
あの兄貴をおじちゃんと呼び、親しげに近づいてくる子供が今までいなかったんだろう。親戚の子供でもいなけりゃ、おじちゃんなんて言われる経験ないよな。まぁ、普通に暮らしていても近寄りがたい存在だしな、兄貴って。
でも今はバンパイアキングの俺の側近って体だから、子供達もテレビの中の不思議な人だと思ってるんだろうな。
戦隊モノやライダー系が好きな男の子は尊敬の眼差しで兄貴を見上げてるよ。
「おい、兄貴はおじちゃんじゃねぇぞ。ゴーシュだ!」
俺は一人残された枝の上から大声でそう叫んだ。
そして続けざまにこう言った。
「兄貴は勇者ゴーシュと呼ばれた男だぞ!」
この日、兄貴には猛烈なファンが五人誕生した。




