~面倒事③~
第9章ー4
Ryoがスタジオに入ったので、しばらく私の出番はないな。ちょっと一服してこよう。
林君に一言断りを入れて喫煙所に向かう私。
さっきの話は気分のえぇ話ではなかったな。うちの子に何ちょっかい出してくれとんじゃい!
だいたいRyoは日本一の称号を持つイケメンアーティストやで。人気と実力を兼ね備えた相手に対して、去年デビューしたばかりの尻の青いガキが何ケンカ売ってきとんじゃッ!
不機嫌を隠そうともせず、私はスマホを取り出して今日の約束を取り付けだした。
相手はゴーシュだ。
探偵らしきことをしているゴーシュは色んなことを調べるのが得意だ。そう、色々と⋯⋯。
「ヴヴヴ、ヴヴヴ⋯⋯」
さっそく返事がきた。
簡素な返事は『OK』の一言。
さすがゴーシュ。必要最低限のことしか言わない、書かない、伝えない。男だねぇ~、正に昭和の男! ん? ゴーシュはこっち生まれじゃないけど、黒井剛士はこっち生まれだから⋯⋯ま、どうでもえぇか、そんなことは。
念のため光君にも連絡を入れておく。もし今夜早めに帰ってきて私がおらんかったら心配するかもしれんしな。
あと、面倒だけど龍斗にも連絡しておこう。黙ってゴーシュと会ってたことが後でバレるとうるさいからね。
『兄貴と会う時は俺も行くから絶対に声かけてくれよ』って嫉妬か? ヤキモチか? 彼女じゃあるまいし⋯⋯。そんなことを考えていると、
「で、何時にどこ?」
龍斗からのメール。返事はやっ! 仕事中やろ? 確か新春ドラマの撮影中だったんちゃうか、あの子。まぁ、龍斗は思ったよりしっかりしとるから大丈夫やと思うけど⋯⋯問題はRyoやな。
あの子は龍斗と違って普通に守られて育ってきてるからな。
龍斗は今でこそあぁだけど、小さい頃の経験から周囲の顔色を見ることに長けてる。空気を読むのが上手いんだよね。ふざけた態度やヤンチャなイメージもあるけど、実は冷静に状況判断を下すことができる。だからあんだけ醜聞が世の中に広まってても、人気は落ちることなく俳優を続けられている。愛されキャラって龍斗みたいな子のことやろうなぁ。
逆にRyoは見た目も中身もSランク。大切にされ愛される要素満載だし、たぶん自分でもそれを自覚してる。だからこそあの態度が許されるんだろうし、それがRyoのキャラとして認められてる。孤高の存在って感じだもんね。そのRyoが龍斗といる時だけは違う顔を見せるから【RR】がバズッたんだろうけど。
一緒に暮らし出してから気づいたんだけど、龍斗の心の扉って解放しているように見えて実はチェーンかかってんだよねぇ。ドア付近で会話は出来るけど中には入れないって感じ。人見知りしないから誰にでも優しい顔してすぐに仲良くなれるんだろうけど、踏み込み過ぎて地雷を踏むと防火シャッターが瞬時に降りるんだよねぇ。そして二度と元には戻れない⋯⋯。だから本当の龍斗を知らない人達から博愛主義とか八方美人とか言われてんだろうけど。
で、Ryoはと言うと最新式の防犯設備が施された扉だよね。まず開けない。インターホンを鳴らそうが大声で叫ぼうが無視。Ryoが扉を開けるのは自分が認めた本当の身内だけ。龍斗には扉全開、フルオープンだけど。光さんに至っては合鍵渡してるよね、絶対。私は⋯⋯秘密の小窓から潜り込んだ感じかな。見つかると怒られるけど、一応許してくれる対象。ただ、泥棒や悪質なセールスが来ると最新の防犯設備が反応して攻撃を加えそうだけど⋯⋯。
動物に例えると龍斗は愛想のいい柴犬、Ryoは気位の高いシャム猫、光君は癒しのラブラドールレトリバー、ゴーシュは絶滅した日本狼ってのがしっくりくるわ。
そんなどうでもいいことを考えながら付き人としての一日は過ぎていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「お待たせ~」
軽いノリで挨拶する私を無表情で迎えるゴーシュ。
「思ったより早かったな」
カウンターごしに返事をしながらパインジュースをそっと出してくれるゴーシュが私は大好きだ。
「今日はカウンターに入る日なん?」
「いや、たまたまだ。隣の居酒屋に酒を持って行ってるんだ」
「なるほどね」
マスターがいない理由は分かった。
じゃあ、こっちはこっちで本題に入ろうか⋯⋯。
私はサラッと本日の議題に入り、手に入れた情報全てをゴーシュに伝えた。相槌だけを打ちながら聞いていたゴーシュだったが、説明が終わるやいなや、おもむろにスマホを出してどこかへ連絡し始めた。そしておよそ5分にも満たない時間で電話は終了した。
「情報が入り次第、連絡が来る手筈だ」
「ありがとう、助かるゎ」
そう言って私達はグラスを合わせて乾杯した。
それから小一時間ほど経った頃⋯⋯。
お互いの近況報告が終えたくらいでゴーシュのスマホが鳴った。
「⋯⋯あぁ⋯⋯」
相変わらずの無愛想。ゴーシュは電話に出ても「もしもし?」も「はい、黒井です」とも言わない。相手が「黒井さんですか?」とか「もしもし◯◯です」と言ってから「あぁ」と一言。
怖ぇ~だろうな、相手の人。
ちなみに電話をかけてきた場合は「俺だ」から始まる。かなり言葉が足りない。やはりゴーシュは昭和の男が似合う。
そんなどうでもいいことを私が思い浮かべている間に用件は済んだようで、アッサリと電話を切ったゴーシュがスマホを差し出してきた。
「ん?」
「見てみろ」
差し出されたスマホの画面にはJOJOの詳細に渡る情報がデータで送られてきていた。
「これってスゴくない?」
「だな⋯⋯」
「いやいや、こんなに詳しい内容どうやって⋯⋯」
当然の疑問を投げ掛ける私に対して、背を向けたまま二杯目の生ビールをグラスに注いでいるゴーシュ。知り合いのツテで⋯⋯って簡単に言うけど、こんなことを簡単に調べられたら一般人はたまったもんじゃないよ、普通。
「で、どうする?」
ゴクリと喉を潤しながら私に今後の方針を確認してくるゴーシュは、さながら冒険者時代に戻ったかのような雰囲気をかもし出している。ギルドのクエストを請け負った時にみんなとこうやって事前の打ち合わせをよくやったもんだ。そんなことを懐かしく思い出しながら私はゴーシュに答える。
「Ryoいわく、フェスさえ無事に済めば後は今まで通り無視するからどうでもいいんだって」
「そんなもんか?」
納得いかない様子のゴーシュ。
「だって殺すわけにはいかんやろ?」
「俺は別にそれでも構わんが⋯⋯」
「いやいや、さすがに世界が違うんやからあの頃と同じようにするんは無理があるでゴーシュ。それに私はゴーシュにもうそういうことはしてもらいたくないし⋯⋯」
「それに近いこと今もやってるぞ?」
「でも確実なトドメは刺してないやろ?」
「確かにそうだが⋯⋯」
私だって馬鹿じゃない。今のゴーシュに裏社会の影がチラホラ見え隠れしていることに気づいていた。だがあえて聞かなかった。だってそれは野暮と言うもんだ。施設を出て今に至るまで綺麗事だけで生きてこれる訳がないのは明白だったからだ。
「それにRyoはそこまでヤワじゃないよ」
「⋯⋯」
「あんな新人ら実力で黙らせるから大丈夫やって」
「分かった」
どうやらゴーシュも納得してくれたようだ。
「ならどうするつもりだ?」
私の意見を優先してくれるようだ。
「とりあえずフェス本番までRyoの周りから無用な雑音を消して欲しいんや」
「分かった」
その一言だけで十分だった。達成率100%のゴーシュが受けた依頼を失敗することなど有り得ないのだから。私達はお互いのグラスを軽く交わして一気に飲み干した。




