~面倒事②~
第9章ー3
「はぁ?」
いきなり入ってきた臨時マネージャーの背後に見慣れた顔があった。
───なんで典平がいんだよ⋯⋯。
「よぉ!2週間ヨロシク」
軽いテンションで話し掛けてくる典平を横目に、臨時マネージャーはどこかビクビクしながら今週の予定を俺に告げている。
後ろから覗きこんでいる典平の方が俺より真剣に聞いてる気がする。
「ちなみに私は付き人やから」
「は?!」
付き人って何だよ?
そんなの付かなくていいよ。
何か嫌な予感がすんだけど⋯⋯
「どうせ社長か中村女史の指示なんだろ?」
「あ、あの⋯⋯」
サラリーマンとしては言いにくいのか⋯⋯。
「分かってんならわざわざ聞くことないやん」
典平が小馬鹿にしたような顔をして近づいてきた。そして真剣な表情に変わった途端、
「で、Ryoにケンカ売ってる奴って誰よ?」
「ッ!!」
知るはずのないことを俺に聞いてきた。
「いくら五十嵐ちゃんがハネムーンやって言うても、素人の私をわざわざ付き人につけるんやから、何か訳有りってことやろ?」
「知ってて受けたのかよ?」
「いや、そこまでは知らんかったけど、さっきチョロッと小耳に挟んだもんでね⋯⋯」
「チッ!」
俺は舌打ちしながら観念したように説明を始めた。
「新人が俺にイチャモンつけて炎上しながらバズッてマスコミに取り上げてもらおうとしてんだよ」
「なんじゃそれ?」
「典平は関係ないんだから大人しくしとけよな?」
「はぁ? 身内にちょっかい出されて黙ってる私じゃないんやけど!」
「!!」
典平の中ではもう俺も身内認定なんだな。
そんなことに驚いている俺をよそに、典平は臨時マネージャーの林を外に追い出しているし、何やってんだか。
「で、どんな奴等なん?」
俺に詰め寄りつつ噂の新人の確認に入る典平。
この前、香の件が落ち着いたばっかりだし心配かけたくなかったのに、何でこんなことになってんだよ。
まさか、光さんも知ってんのか?
仕事が忙しくて大変だって最近泊まりが増えてるってのに、俺のことで余計な心配かけたくないんだけど⋯⋯。
「なぁ、はよ教えてよ」
「はぁ~、諦める気なさそうだな?」
「当たり前やん。何事においても状況判断を下す前には、できる限り情報を仕入れて把握しとかなマズイやろ? そんなん基本中の基本やで」
「いや、それって冒険者時代の常識じゃねぇの?」
「どの時代、どの世界でも一緒やろ。特に敵に関する情報は多いに越したことないからな」
「完全に敵なんだな?」
俺は溜め息をつきながら、半ば諦めモードで問題の相手のことを典平に話すことにした。
「去年デビューしたばっかの四人組のグループで『JOJO』って言うんだけど、事務所がうちと仲悪いっつうか、妙にライバル視してくんだよな」
「バチバチなん?」
「いや、ハッキリ言えばポッと出の新人なんか相手になんねぇ。そもそも俺は自分のことをアーティストだと思ってる。あいつらはアイドルとして売り出してんだから、路線が違うのに勝手に張り合ってくんのが鬱陶しいんだよ」
「ふ~ん、私あんまり知らんのやけど?」
「そりゃ、典平世代がターゲットじゃねぇし。中高生がメインターゲットなんだから知らなくても仕方ないんじゃね? イタッ!」
叩かれたぞ、おい。
聞かれたことに答えただけなのに理不尽じゃね?
「顔が知りたければスマホで調べろよ」
「⋯⋯そうする⋯⋯」
椅子に腰を下ろした典平がバックからスマホを取り出したところで俺はマネージャーを部屋に呼んだ。
典平に廊下へ追いやられていた林マネージャーはオドオドしながら入ってきた。これじゃどっちがマネージャーでどっちが付き人か分かんねぇな。
「あのぉ~、もうお話は済みましたか?」
遠慮がちに声を掛けてくるマネージャーに向かって返事をしたのは俺じゃなかった。
「なぁ林君、この子らの名前教えてよ」
「えっ?! どの子ですか?」
典平の圧に負け、俺を素通りして自分に向けられたスマホの画面に近づいて行く林マネージャー。
「あ~ぁ、『JOJO』ですか。最近何かとRyoさんに絡んでくるグループですよね、特にこのリーダーの東條って子が⋯⋯」
「この子が東條ね⋯⋯。で、他の子は何て言うん?」
スマホの画面を指差しながら、マネージャーは典平に『JOJO』メンバーの個人名を順番に伝えている。
「左のこっちから、東條・西上・南場・北城です。全員の名前にある『じょう』って読みから『JOJO』ってグループ名になったそうです」
「じょう? あぁ、條・上・場・城ってことね。漫画から取ったわけじゃなかったんや。大冒険でもするんかと思ったわ」
典平のふざけた感想をスルーして、淡々と説明をしている林もなかなかの強者かも。
俺は口を挟まずに二人の会話を聞き流していた。
「とにかく、今時の若い子に好みの顔を揃えてますよね。今流行りのK-POPのアイドルみたいな中性的な綺麗で可愛い子を集めて売り出したんですよ」
「まぁ、確かに綺麗な顔はしとるよね⋯⋯」
「吉岡さんもそう思いますか?」
「私のタイプではないけど」
「そうなんですか? じゃあ、吉岡さんのタイプって?」
「えっ!? 私のタイプ?」
急に自分のタイプを聞かれた典平は返事に困った様子だ。だけど俺は知ってる。光さんに聞いてるから。
「俺と龍斗だよな?」
「ちょ、Ryoは黙ってて!」
照れ隠しなのか、大声で俺の声を遮る典平の態度から動揺が見て取れるのが面白い。
いつもはオッサンみたいなオバサンだと自分でも言ってるけど、たま~に女子になるんだよな、典平って。光さんの前とか特に。
「とにかく、私のタイプはどうでもえぇから今まで何があったか教えてよ。どんなことされたん?」
急いで話題を変えた典平は、俺に向かって取り調べをする刑事ような勢いで詰め寄ってきた。
「んなこと、いちいち覚えてねぇよ」
「私は五十嵐さんから引継ぎの時にいくつか聞いてますが⋯⋯」
「おっ、いいねぇ~林君。出来る男やん」
覚えてんのかよ? 引継ぎしてんじゃねぇよ、五十嵐!
そして尻尾振ってなついてんじゃねぇよ、林!
お前は俺のマネージャーだろうがっ!
そんな俺の気持ちも知らず、典平に誉められてちょっと浮かれたのか、林のやつ嬉しそうに報告してやがる。
「まず軽いところからですと、歌番組の出演順や控え室の広さに口を挟んだり、CDの発売日に文句をつけたり、たまに出るバラエティーの番宣番組の枠を寄越せと難癖つけたり⋯⋯ですね」
「なんじゃそれ、子供かっ!」
思ったより色々とあったんだな。俺の知らないこともあったぞ。なんだかんだで五十嵐もちゃんと仕事してたんだな。
「あとは公開の歌番組に事務所で雇ったサクラを大量に入れ、自分達の出番に人気爆発中とばかりに盛り上げる、同様に自分達のSNSより最近始めたばかりの【RR】の方がが登録者が格段に多いため、トレンドワードの上位になるようこちらもサクラを雇ってるみたいですね」
「金かけてんだねぇ~。そんだけ事務所が力入れてんのに、結果が出ないとなると本人達も焦ってくるってわけだ?」
「こっちとしてはいい迷惑なんですけどね」
林が溜め息混じりで愚痴愚痴喋り続けてるが、おおよそのことを把握した典平が今度は俺に照準を合わせたようだ。
「何だよ?」
ニヤニヤしている典平。
チッ。面倒臭いことになりそうだ。イヤな予感しかしねぇ。
「中村女史から頼まれるくらいやから、どうせRyoが爆発しそうなことをアイツらがやらかしたんやろ?」
「⋯⋯」
「で、何? 何しやがったん、あのガキ共」
もう喋るまで引き下がりそうにないな、こりゃ。
「あぁ~、さっきの話の中には俺の知らないこともいくつかあったんだけど、別にそんなことは無視すりゃ良かったんだよ」
「うん、それで?」
「実は、今度の夏フェスにアイツらも出ることが決まったんだけど、面倒臭いイチャモン入れてきたんだよ」
「へぇ~、どんな?」
「出番を俺より後にしろってさ⋯⋯」
「マウント取りにきたってこと?」
「別に俺は順番なんてどうでも良かったんだよ。俺が頭にきたのは身の程知らずにも程があるってことでさ」
「ん? どういうこと?」
「今回のフェスの目玉は海外の大物アーティストの参加なんだよ。大トリがそのアーティストで、その前のトリは今年でデビュー30周年のバンド。で、俺がその前って予定だったところに横槍が入って『JOJO』をラス前三番目にしろって。ただ実力、実績から言ってもそんなこと出来るわけないし、それが通るなら他の参加者も順番を入れ替えろって言い出して、ここにきて迷惑な話だよ」
静かな口調で喋っているつもりだったけど、どうやら俺の怒りは典平に伝わっていたようだ。
典平の目が据わっている。イヤな予感的中。
「へぇ~、確かにポッと出の新人が図々しいにも程があるな。普通ならそこで自分らから辞退すべきやん。何様のつもり?」
「さぁ?『JOJO』様なんだろ⋯⋯」
「ふぅ~ん⋯⋯」
危険信号が点滅してる気がするんだけど大丈夫か?
社長も中村女史も俺を抑える為に典平をつけたんだろうけど、何か逆効果な気がするのは俺の気のせいか?
「まぁ、五十嵐さんが帰ってくる頃にはフェスも終わってるし、そのガキ共も大人しくなっとるやろう」
典平が悪役顔負けのいい笑顔を向けてきた。
───絶対、ただで済みそうにないじゃん。




