~春の嵐がやってきた①~
第8章━1
さて・・・春が来た。
光君の仕事も落ち着き、新入社員も入って──矢野英介も無事入社したらしい──今は仕事の流れを教えてるぐらいだから余裕があるみたい。
Ryoは春夏の全国ツアーに出たし、龍斗は写真集の為に3日ほど沖縄に行くようだ。
亘は相変わらず仕事をしてるし、亜紀はこの春から高3だ。
ゴールデンウィーク前に1度香川に帰ってみよう。
その時はゴーシュも誘って♪
そのゴーシュも人間離れした能力を遺憾無く発揮して、相変わらずの日々を過ごしている。最近はオヤジさんのツテで探偵もどきの合間に警察の手伝いもやってるようだし…。
で、私はというと小説が一段落ついたから次は・・・と、担当さんに話していたら番外編で勇者ゴーシュの話を書くことになった。
自分の時よりもノリノリで書いている。筆が走る走る、締切なんか怖くないってくらいだ。
この前、勢い余って2日連続徹夜で書いていたら光君に叱られた。目の下にかなり凶悪なクマが2匹宿っていた…。
「あ~、ちょっと出掛けてみるか…」
最近は閉じ籠って書いてばかりいたので、久しぶりに買い物にでも行ってみよう、と私は着替えてから軽くメイクをして家を出た。
今度帰る時に子供達に何かお土産でも持って帰ろうと考えた私は、若者の街・渋谷へやって来た。
新学期も始まった昼間だというのに、なぜこんなにも若者がいるのだろう?学校サボってないか、お前ら?
私にとって都会をうろつく時、何よりも困るのはタバコを吸う場所が見つからないってことだ。
駅前にある喫煙所を見つけると気持ちはもう駆け出していた。
早く一服がしたいぞぉ━━━っ、と…。
「はぁ~」
一息ついてポケットからタバコを取り出すと、慣れた手つきで火をつけた。周りは仲間ばかりだし、気兼ねなく吸える。
この一服がうまいっ!
至福の時を過ごしていた私の耳に何やら気になる会話が聞こえてきた。
「え~、違うっしょ?」
「でもこれそうじゃん!」
「似てるけど…」
「絶対そうだって!」
「じゃあ、確かめてみる?」
「えっ、私が?」
などと、少し離れたところにいる喫煙仲間がこちらをチラチラ見ながら何やらモジモジしていた。
何だろうと思い、そちらに目をやると視線が合った。
私はタバコを吸いながら小首を傾げて軽く会釈をした。
するとその若い2人組が申し訳なさそうに話しかけてきた。
「あの~“吉岡さん”ですか?」
「へっ?」
「“典子さん”ですよね?」
「えっ、何で、誰?」
何で全然知らん赤の他人が私の名前知っとん?
こわっ!超怖いんやけど…。
つうか、この子達は誰?いったい何なん?
???マークが頭の中を駆け廻っている私に、ショートカットの女の子がスマホを見せてきた。
「はぁ?何じゃこりゃ?」
何で私の顔があるんじゃあ━━━━ッ!!!
「Ryoと龍斗と一緒に住んでるって本当ですか?」
「あの2人って普段どんな感じなんですか?」
「いやいや、ちょっと待って。これ何?何で私の顔が載っとん?」
若い2人の質問は華麗にスルーして、まずは状況判断に努める。
何か書き込みもされとるみたいやん?
「知らないんですか?」
「【RR】を検索すると関連サイトの中にあるんですよ」
「何で私が?」
「えっと~、あの~」
何やら言いづらそうやな。
「ちょっと貸して!」
「あっ!」
ショートカットの子からスマホを奪い取ると、私は画面をガン見して最初からジックリと目を通していった。
ふ~ん、へぇ~、なるほどねぇ~。
「ねぇ、これって誰が作ったサイトなん?」
「え?いやぁ、私らに聞かれても…」
「これって私にケンカ売ってるってことやんなぁ?」
「ま、まぁ好意的ではないですよね…」
「ふ~ん、ありがと」
吸いかけのタバコを最後に一服して灰皿に押し付けた私は、持ち主にスマホを返した。すでに気軽にショッピングをする気は失せていた。
とりあえず家に帰ろうとした私を背後から引き留める声が。
「あ、あの…」
「ん?」
「私達、【RR】見るの楽しみにしてるんです。あの2人って仲いいじゃないですか?テレビで見るカッコいい2人じゃなく、じゃれあってる素の感じとかギャップ萌え爆発で…」
「あぁ、ありがと。本人に伝えとくわ」
「えぇ━━━━っ!本当に?」
「名前なんての?」
「知香です!知る、香るで知香!」
「菜々美です!菜の花の菜々に、美しいで菜々美!」
「知香ちゃんに菜々美ちゃんね。分かった、じゃあね」
「「はいっ、よろしくお願いします!!」」
キァアァァ━━━ッ!と興奮して騒いでいる2人をよそに、私はスマホから光君にメールを打った。
今日、相談があるから早めに帰って来て欲しいと…。
そして用件はこれを見れば分かると、サイトのアカウントを貼り付けて送った。5分もしないうちに心配した光君から連絡がきたが、仕事中に迷惑をかけたくないので夜に家でゆっくり…、と伝え電話を切った。
その際、心配だから黒井さんに連絡して自分が帰るまで一緒にいてもらうよう頼んでおくとまで言われた。
子供じゃないしそこまで…と思ったが、ここでごねると長引いて余計仕事に支障をきたしそうなので、素直に返事をしてゴーシュの元へと向かうと伝えた。光君の電話を切って3分ほどで今度はゴーシュからの電話が…。
「リコ!今どこだ?すぐ行く!」
「いや、大丈夫やから…」
あの頃と違ってこんだけ大勢の人がいる真っ昼間の渋谷で誰が何をするっちゅうねん?心配し過ぎやって。
下手に暴走されると逆にこっちが困るから私がゴーシュのところへ向かうと告げた。待ち合わせは例のバー。オープンまで場所を借りたのかな?とにかく私は電車に乗った。
「お待たせぇ」
店の前に仁王立ちで待ち構えていたゴーシュ。
通行人をビビらせてどうする?
「無事で良かった…」
「いやいや、心配し過ぎやろ?」
「光輝から電話を受けて驚いたぞ」
「とりあえず中入ろうで」
ゴーシュと店の中に入ると裏の事務所へ案内してくれた。
従業員のロッカーや事務机の奥に小さなガラステーブルとソファーがあった。たぶんゴーシュはここで寝てるんだな。
あっ、奥にシャワールームらしき場所見っけ。
そんな風に室内を探っているとゴーシュがジュースを持ってきてくれた。私達はソファーに腰を降ろす。
「で、何があったんだ?」
「あ、それは聞いてないんや?」
「慌ててたんだろうな。取り急ぎお前のところに行ってくれってだけ言うと電話が切れた。あの光輝があんな風に連絡してくるなんて、よっぽどのことだと思って…」
「そうだったんや…」
「いったいどうした?」
「これ見てよ…」
私はスマホを差し出してゴーシュに渡した。
「何だこれは…?」
「私が聞きたいわ」
画面には私の写真と悪口が所狭しと書き込まれていた。
Ryoと龍斗のファンで私のことが気に食わないアンチの女達が書き込みをしているサイトだった。
要するに、妬み・嫉みの嫉妬の嵐。
『私の大好きな龍斗がオバサンと仲いいのが気に食わない』
『大好きなRyo様にあんな態度ってどうなの?』
『なんであんなオバサンが一緒に暮らしてんの?』
などなど・・・。
とにかく私のことが気に入らないってわけだ。
「どうするつもりだ?」
「それを光君と相談するんやんか」
「ヤるか?」
「いや、やらん!」
ゴーシュのヤるか?は殺るか?と言う意味になってしまうので即却下した。一気に日本の男女比が狂ってしまいそうだから…。
「私はネットに詳しくないからとりあえず光君に調べてもろて、Ryo達の会社の方にも苦情を入れて、このサイトの管理者に通報してアカウントを停止してもらう・・・ってのが第一やな」
「……第二は?」
「さすがゴーシュ、分かってるねぇ…」
「お前がこのままで済ますわけがない」
「売られたケンカは買うよ。私だけならまだしもうちの子の個人情報まで晒しやがって!」
そう、このサイトで私の家族のことまで晒したバカがいやがったのだ。一般人で未成年の亜紀の高校名や学校での集合写真、亘の学生時代の写真──卒アルから拝借したものだろうが──まで晒された日にゃあ、鬼になるよ母親は!
「で、どうするんだ?」
「こっからは他の人には言えんからゴーシュに頼むしかないんやけど…」
そこから光君が仕事を終えて迎えに来るまでの間、私とゴーシュは悪代官と越後屋のようなやり取りをして悪魔のような笑みを浮かべていた。
異世界の記憶を持ったアラフォーの母親を怒らせたらどんな目に合うか…、一切容赦せずに叩きのめしてやるから覚悟して待っていろ!身を持って知るがいい!
「お前、顔つきが前世に戻ってるぞ」
「魔物を罠にかける気分なんや」
「なるほどな…」




