~衝撃の告白・その後~
第7章ー3
「起きてよぉ~」
朝……というには時間が経ち過ぎている11時前だが、私は皆を起こしていた。
ゴーシュが帰った時は夜中の3時を回っていた。
「典ちゃん、おはよう」
「おはよう光君」
1番にリビングへやって来たのは予想通り光君だった。せっかく休みを取ったんだからもうちょっと寝てても良かったのに…。
「ちょっとぉ~、あんたらは仕事やろっ!早く起きてよっ!」
残り2人の気配が全くしない…。
仕方なく部屋まで起こしに行く私。
いくら昨日のことがあったとはいえ、仕事に支障をきたすわけにはいかない。そもそも私が一緒に暮らすことになったのは、この2人の生活を規則正しくするためなのだから!
毎朝の恒例となった布団剥ぎ取り合戦に勝利した私は、敗者の2人にシャワーを浴びて朝食を食べるよう告げると、光君の待つリビングへ戻った。
「光君はまだ寝ててえぇんやで?」
「いや、どうせなら一緒に食べるよ。その方が片付けも楽だろ?」
「ふふっ、ありがと。光君のそういうとこ好きやゎ」
正直私もまだ眠たかった。
だが、子供2人を送り出すという重要な使命があるので、後で昼寝をするつもりだ。
あっ、やっとRyoがシャワーに行ったようだ。
「典ちゃん……」
「ん?」
光君が食べかけのトーストを持ったまま私に声をかけた。
「彼スゴいね…」
「ゴーシュ?やろ!そうやろ?」
「俺、反省してる。ホント自分が情けなくなったよ…」
「何々、どしたん急に?」
朝っぱらからテンション低いな…、暗いぞ光君。
「昨日、彼の生き方や過去、典ちゃんへの想いを聞いて正直負けたと思ったよ。男として完璧に負けた気がした…」
「光君…」
「昨日店で彼に、『典ちゃんのこと信じてないのか?』って言われたじゃん?」
「あ、うん、だったね。でもあれはしょうがないやん。私がホントのこと全部言ってなかったんやから…」
「彼は何があっても典ちゃんの味方だって言ってたよ。必ず典ちゃんの幸せを見届けて守るって。俺、もしかして彼は典ちゃんのことが好きなんじゃないかって……」
「あぁ~、ないない。絶対ないわ!」
私は深刻な顔で話す光君をよそに、軽く手を振って否定した。
「何でそう言いきれんの?!」
光君はまだ不安顔で私を見ている。
「あのね…、昨日の話を聞いても分かる通り、私達のいた異世界では毎日が死と隣り合わせだったんやで。ましてや勇者と冒険者、色ボケしてて生き残れるような環境じゃなかったし」
「でも今は違うだろ?」
「根っこは一緒。ゴーシュが私を守るって言うのも前世で私が死んだから今度こそはって話やろ?ゴーシュにとって今も昔も私は年下の子供のままなんやって」
「じゃあ、典ちゃんはどうなの?」
「私?私がゴーシュのこと好きかって?」
「うん、好きなんじゃないの?」
「そんなん当たり前やん!命の恩人で憧れのヒーロー、闇の勇者ゴーシュやで!だけど恋愛感情とは違う。ゴーシュとキスしたいとか、抱き締められたいとか思ったこと1度もないよ?」
「何で?好きなのに?」
「あのさぁ~、私にとってゴーシュは冒険者の憧れ、目標、心の師なんやって。恋愛対象として見たことなんてないわ。前世のゴーシュにそんな感情持つ度胸のある女ってどこを探してもおらんかったと思うよ?死ぬ気なんかって神経疑うわ…」
「そんなに怖かったの?」
そこへ龍斗と入れ替わりでシャワーから出てきたRyoがやって来た。
「おはよ。何?何の話?」
「昨日、ゴーシュの威圧受けたやろ、どうだった?」
バスタオルで髪を拭いていた手が止まった。
「超怖かったよ…、何あれ?」
「やろ~。でもあんなん子供騙しやで。前世のゴーシュのレベルからしたら話にもならんわ」
「そんなに凄かったの?」
「異世界の頃のレベルで本気で睨まれたら、たぶん心臓が止まってたんちゃうかな?」
「やべぇ、マジで?良かったぁ、こっちの世界で」
「ホントに規格外なんだな…」
2人とも昨日が運命の分かれ道だったんだよ、冗談抜きで。
「で、何の話してたの?ゴーシュの武勇伝?」
Ryoはコーヒーを淹れながら光君に尋ねた。
「ゴーシュが私のこと好きなんちゃうか?って疑ってたんやで。それと私もそうなんちゃう?って…、あり得んやろっ!?」
「それ違うって昨日言ってたじゃん」
「へっ?」
Ryoからまさかの回答が…。
「あまりにも熱く典平のこと語るから、好きなのかって直球で尋ねたら、『侮辱するなッ!』って怒鳴られたよ。メッチャ怖かったし」
「だろうね…」
まさか本人に聞いていたとは怖いもの知らずにも程がある。
「でも『侮辱するな』ってどういう意味?なんであんなに怒ったのか全然分かんねぇんだけど?」
「そりゃ、Ryo達には分からんわ。異世界とこっちでは考え方が全く違うんやから!」
「典ちゃん、それってどういうこと?」
話の意図が見えない光君が問いかけてきた。
「たぶんゴーシュは好きって感情を理解してなかったと思う。他人を信用してなかったし、特に女性はね…」
「だから何で?」
「ん~、やっぱ世界が違うからかな?」
「魔法のある世界だから騙されるとか?」
「いや、魔法はあんまし関係なくて…」
そこへシャワーを終えた龍斗もやってきた。
「おはよ。魔法がどしたの?兄貴の話?」
「まぁ、ゴーシュの話っちゃあそうなんやけど…」
「何々?俺にも聞かせてよ」
ゴーシュ大好きな龍斗が前のめりで食い付く。
「あのさ…、ぶっちゃけ恋愛って好きって感情だけじゃないやん?好きになったら手を繋ぎたい、キスしたいとか、欲望も湧いてくるもんやんかぁ…」
「あぁ…」
「まぁ、そりゃあねぇ…」
「確かにあるわな」
男3人は素直に同意する。
「で、ここからが問題。こっちと違って危険な世界で他人を好きになって恋愛まで進むには相手に対する信頼が不可欠なんや。でも他人を信用してないゴーシュが恋愛感情を持つと思う?」
「あ~、そりゃ難しいわな」
「ないな!」
「・・・」
3人揃って意見は同じようだ。まぁそうだろうね。
「そこで『侮辱するな』の意味を説明すると…」
「うん、どう繋がるの?」
「ゴーシュも人間だし健康な成人男性なら性欲は当然あるわけよ」
「げっ!朝っぱらからそんな話かよ?」
「Ryo、黙ってろ!」
「…ゴメン」
珍しく光君が強い口調でたしなめた。
私は話を続ける。
「じゃあ、他人を信用してないゴーシュが性欲を解消するために取る行動となったら?もう分かるやろ?」
「えっ?まさか…」
龍斗が気づいたようだ。
「たぶん当たり。それしかないやろ?」
「買うんだね、女性を…」
光君がハッキリと答えを口にした。
「嘘だッ!兄貴は勇者だったんだろ?女なんて選り取りみどりじゃんかっ!なんでわざわざ…」
「勇者だから余計に…なんやって」
「典平、どういうこと?」
「元々のゴーシュの性格に加え、勇者という孤高の存在という事実が他人との間に自然と壁を作る。簡単に他人を信用出来ないし、誰もゴーシュを理解出来ない。でも性欲は人並みにある…、となると娼館に行くしかないやん」
「娼館ってあんの?」
「そりゃあるやろ。人間がいる限り欲求は無くならんのやから。人間の3大欲求は食欲と性欲と睡眠欲やし。世界最古の職業は娼婦だって聞いたことない?」
「確かにゴーシュも人間だしな…」
「Ryo、兄貴を呼び捨てにすんなよ!」
「別に今その話はいいだろ?」
「じゃあ、俺も光さんのこと光輝って言うからな」
「お前、殴られたいのか…?」
「お前達…、今その話はどうでもいい」
光君が呆れながら話を元に戻す。
「でもね、こっちの世界と違って娼館で働いてる女性って未亡人が多かったんや」
「えっ、そうなの?」
「もちろん、王都なんかで貴族が通う娼館とかは別やで。若くて綺麗な女の子が愛人目当てでやってたけど、町の娼館とかは未亡人が子供を育てる為とか、幼い兄弟を育てる為に孤児の年長の姉がなる職業だったんや。だから今の世界のような職業差別みたいなのも少なかったよ」
「なるほど…」
「へぇ~」
「でも、未亡人ってオバサンじゃん?」
Ryoが失礼なことを言う。
「あんなぁ~、さっきから言うとるけどこっちと世界が違うんやって。未亡人になるような人の旦那はだいたい冒険者とか憲兵とか危険な仕事をしとるわけよ。だから旦那亡きあと小さな子供を抱えて仕方なく娼館に勤めるんや。年食ってたら子供もデカくなってるから、すでに親元を離れて巣立ってるわ。それにオバサンになる頃には旦那が冒険者を引退してる場合が多いから未亡人になる可能性は低い」
「なるほど~、納得したわ」
「中には私みたいに両親が死んで兄弟を支える為に娼婦になる子もいたけど、そういう若い子は馴染みの客と仲良くなって結婚したりするんや」
「え~、それって嫌じゃねぇ?」
「そこがこの世界と違うとこだって」
「えっ、どゆこと?」
黙って聞いている光君と違って、Ryoと龍斗は興味津々だ。
「あっちの娼館は女が生きていくために必要な仕事だったんや。そして男達が通うことによってその家族が助かる。ってことは自分達がもし同じように結婚して亡くなった時、相手の生活を考えたら冒険者は喜んで娼館に通うわ。知らん他人と寝て寝首を掻かれるようなこともないし、安心してコトを行えるからね。ある意味お金を介しているから、何よりも信用できるし嘘も裏切りも始めからない」
「うわぁ~、冷めた考えだな…」
「完全に割り切った関係じゃん?」
「そうやで。それに娼婦はその娼館お抱えの魔法使いに特殊な魔法をかけられてるから妊娠も病気の心配もない」
「マジかっ!?」
「それスゲェじゃんっ!」
「で、本題に戻るけど…、ゴーシュにとって女性は単なる性欲解消の割り切った関係、まぁ他にも情報屋ぐらいのもんだったんやろうね。だから女として見る=娼婦となるわけよ。生まれて初めて仲間と呼びたくなった私に対して女として見てるか?って聞かれりゃ、そりゃ『侮辱するな』になるやろ?」
「「「納得!!!」」」
これでやっと3人が理解してくれたようだ。
ここで最後のダメ押しを1つ。
「あとね……これは私の勝手な想像だけど、ゴーシュの記憶が甦ったのが子供の頃やろ?それから今まで、異世界の記憶とずっと一緒に成長してきたわけやんか?その中で思春期を経験してたら余計恋愛に対して嫌悪感示すと思うで?」
「典ちゃんは何でそう思うの?」
「あまりにも今の世界の恋愛がお手軽で信頼に値しないから。恋人がいても浮気や二股したり、結婚してるのに不倫したり、価値観が違いすぎるんや」
「あぁ~」
何故か、みな納得する。
「前の世界の結婚はお互いの命をかけた神聖なもので一般的には真名をかけて神に誓うんや」
「ふ~ん」
「まぁ、王族とか貴族は別やけど。跡取り問題や暗殺とかあるから第2夫人やらが必要不可欠だったんやと思うわ。でもそれは地位も名誉も金もある人の場合であって、一般的にはあり得んわけよ」
「うん…」
「ところが今って誰も彼も浮気だの不倫だのしてるやん?お前らどこの王族やねんって感じやん。愛人抱えることのできる人物はそれなりの援助ができる立場の人間やから成り立ってたのに、ごく一般的な平民がそれやったら無茶苦茶やん?まぁ、今の世界で平民って言い方もおかしいけどさ……」
「なるほどねぇ……」
みんなやけに頷いてるけど、光君に浮気の話は酷だったか?
遊び回ってた龍斗は逆に耳が痛い話かも?
「それも愛し合ってとか、生活の為とかじゃないやん?遊びとか単に寂しかったからとか軽い気持ちで浮気して、くっついては別れてを繰り返すようなお手軽な好きって感情をゴーシュは受け入れられんと思うわ……」
「俺……兄貴にどう思われるんだろう……」
「龍斗、あんたは黙っといた方がえぇと思うわ……」
「うん、俺もそう思う…」
「・・・」
ゴーシュに軽蔑されたらどうしようと焦ってる龍斗や、自業自得だと冷たく言うRyoを尻目に光君が私にそっと囁いた。
「ゴメン、典ちゃん。勝手に疑って見当違いな憶測で嫌な気分にさせたね。彼にも失礼なこと言ったのがよく分かったよ…」
あっ、これかなり凹んでるな?
「いいってば。だいたいゴーシュは昔から言葉が少ないからよく勘違いされてたし、育ってきた環境…っていうか世界が違うんやから分かるわけないやん。でも納得してくれて良かったわ」
「うん」
そうこうしている間に容赦なく時間が過ぎていた。
「あ━━っ!あんたらのんびり話聞いてる暇ないやん!」
「あっ、もうこんな時間か?」
と、その時ちょうど携帯が鳴った。
「もしもし、あっ、郷田さん。おはようございます。はい、起きてます。すぐに下に向かわせますので、もうちょっとお待ち下さい」
「やっべ。もう来たの?」
「早く行けよ龍」
「頑張ってな」
「じゃ、俺行くわ」
口の中の物をコーヒーで流し込みながら龍斗は着替えに部屋へ向かった。
Ryoも仕事に出る支度をしに自分の部屋へ消えて行った。
リビングに残ったのは私と光君だけになった。
「光君……」
「ん?」
私の心からの願いが口から零れ出た。
「私はね、ゴーシュこそ幸せになって欲しいんや……」
「典ちゃん……」
「あれだけ勇者として人を助けてきたゴーシュが誰よりも孤独だったんや。今度こそ自分の幸せを求めてもバチ当たらんと思うやろ?」
「うん……」
「今の私は離婚したけど2人の子供もおるし、何より光君がおる。Ryoや龍斗とも仲良くしてるやん?スキル使ったとはいえ仕事もプライベートも充実しとる、もう幸せなんやって……」
「うん……」
喋りながら涙が溢れてくる。
「でもゴーシュは?生まれ変わってまで家族を失い、施設に入れられ愛する気持ちも分からんまんまなんて……あ、哀れやん、可哀想やわ。何でゴーシュばっかり……」
「うん……」
涙が頬を伝う私を静かに抱き寄せてくれる光君。
私は光君の胸の中で涙が枯れ果てるまで泣き、その後また眠りについた。
夕方目が覚めた時、泣き腫らした両目に回復魔法
をかけて必死に冷やしたことはRyoと龍斗には秘密にしてもらった。




