~衝撃の告白②~
第7章ー2
落ち着いた声でゴーシュが異世界の話をし始めた。
実際にあったことだが、私にとって記憶の始まりがこっちの世界なので、前世での出来事は壮大な物語を映画で見た感覚の方が強い。
何せ前世では19年しか生きてないが、こっちでは結婚・出産・離婚を経て40年以上生きているのだから。
だが、ゴーシュは違う。
私とは逆で異世界での人生の方が長かったのだ。
それも子供の頃に前世の記憶が甦ったとなると、
『見かけは子供、頭脳は大人』を地でいってることになる……それも勇者の記憶だ。かなりヘビーなことだっただろう…。
「前世の世界ではこの世界と違って科学より魔法が進んでいたようだ。記憶が甦った頃の俺は子供だったこともあって、かなり困惑したものだ。それで周りにも随分迷惑をかけた……」
「あっ……親戚の人?」
「あぁ。引き取った子供の周りでおかしなことばかり起きれば誰だってそうなるだろう……」
「何したん?」
「リコと同じだ。記憶の中にあるスキルや魔法が実際に使えるか試してみた」
そりゃ驚くわな…。
さっきの公園でしたことをやったとしたら下手したら悪魔付きだの超能力者だの大騒ぎになる可能性大やん。
「それに子供のはずが事故後にはこんな俺に変わったんだぞ?」
「そりゃ不気味に思ってもしゃあないかぁ…」
たぶん怖かっただろうな、親戚の人。
小学生の威圧に脅える大人達の図が簡単に想像できるゎ。
「とにかくこっちの世界のこと全てが新鮮でな、施設に入るまでに色んなことを調べた。俺の常識の基礎は異世界だったからな…。そしてこの世界には魔法なんてないし、スキルもないこと、平和で安全なことを知ったんだ…」
「平和で安全?」
光君が聞き返した。
そこで私が分かりやすく補足説明をした。
「ん~、私達がいた世界は南米のスラムみたいなところって考えてみて?気を抜けばいつ命を落としてもおかしくない感じ」
「そんな危ない世界なの?」
「確かに例えるならスラムのようだが、そんなもんじゃない。あっちには盗賊や海賊、魔物もいるのにこっちの世界のような自衛手段があまりない。だからこそ冒険者や傭兵という職業が成り立ってたんだろう…」
「でも魔法とかあるんだろ?」
今度はRyoが疑問を声にする。
「魔法自体使える者は限られている。普通の人間はこっちと同じで魔法など使えない。逆にスキル持ちは当たり前のようにいたがな…。だからこそ魔法が使える人間が冒険者になっていた。リコのようなパターンはレアケースだ……」
「えっ、典平がレアって?」
「私、魔法使えんかったから(笑)」
「「「はぁぁ???」」」
これまた衝撃の事実を知って驚く3人。
「異世界には魔力・魔素があったから素質があれば魔法を取得できたんやけど、私にはそれがからっきしでさぁ。5大魔法の1つも身につかんかったわ(笑)。唯一使えたのが回復魔法だけ。それも初級のしょぼいやつ」
「いやいや、それでよく冒険者やれたな?そもそも5大魔法って何?」
「回復魔法って何?」
Ryoと龍斗が次々と私を質問責めにする。
「火・水・土・風・雷の5つの属性があって、その属性があれば使える魔法が5大魔法。これが基本の魔法なんやけど、それ以外だと回復魔法とか光や闇の魔法。私の使えた魔法はこの初級の回復魔法だけ」
「俺は回復魔法が使えなかったがな……」
「えっ!兄貴、勇者なのに?」
「あぁ……」
「ゴーシュには必要ないやんか!状態異常の補正スキルあるんやろ?体力消耗しようが大怪我しようがすぐ元通りになるやん。それに身体強化のスキルもあるからそもそも怪我なんか滅多にせんかったやろ?」
「……まぁな……」
「それに比べたら私のショボい回復魔法なんて必要ないやん」
「「「・・・」」」
これには3人も無言になった。
まだ自分達はゴーシュの凄さの一端しか理解してなかったのだと…。
「えぇ~と、ちなみにその身体強化って?」
光君がゴーシュに尋ねた。
「通常の人間の数100倍肉体が強化されるスキルだ。今はそこまでの能力はないから、せいぜい数倍だ」
「それでも十分スゴいよ!」
「…ちなみに兄貴は100m何秒で走れる?」
「何秒?測ったことはないがTVで見たネジみたいな名前の奴よりは速いぞ?」
「金メダリストじゃん!世界新!」
「もう人間の域を超えてるね…」
もう光君は呆気に取られていた。
「じゃあ、さっきの公園で簡単にジャングルジムの上に飛び乗ったのも?」
「身体強化だな。地面を蹴り上げる力とジャンプ力を強化した……」
「うわぁ、もう無敵じゃんか……」
「だから言うたやろ?勇者は別格なんやって!」
「典ちゃんの憧れのヒーローってこと納得したよ。そりゃ、誰でも憧れるよ」
「スゲェな兄貴!カッコいいじゃん。俺も憧れるわ」
はしゃぐ龍斗をよそにゴーシュがポツリと一言。
「俺はお前達が羨ましい……」
「「「えっ???」」」
3人は思いがけない言葉に声を失った。
──時間は夜中の1時近くになっていた。
だが誰もが興奮して眠気など起こりそうもなかった。
「以前リコにも言ったが、俺はなりたくて勇者になったわけじゃない。強くなければ生き残れなかったからだ。弱い奴から死ぬ世界で身を守る為に強くなり、生き抜く為にさらに強くなった……」
「じゃあ兄貴は目的を果たしたわけじゃん?」
「いや…俺が本当に手に入れたかったものは強さじゃなく、共に笑い助け合い生きていく仲間だった…。だが、皮肉なことに俺自身が強くなればなるほど助け合う仲間など見つかる訳もなく、ますます孤独を感じるようになった。そんな時、大きくなり冒険者となったリコと再会した……」
「えっ!いつ?」
これには私が驚いた。
私の記憶の中では最後の戦いで死んだ時がゴーシュに再会した時だ。
それ以前にゴーシュが私を知っていたなんて…。
「お前がB級に成りたての頃だ。ギルドで啖呵切ってたぞ……」
「あっ、あん時ゴーシュおったんや……」
「えっ、何々?」
珍しくフッと口の端を上げ、苦笑いしながらゴーシュが話を続ける。
「誰が最強かってギルド内で言い争っていたな…。俺にとってはどうでもいいことだったのに、こいつはムキになって……」
「兄貴だって?」
「あぁ……」
「そんなん当たり前やん!誰が何と言おうが私にとっての最強はゴーシュしかおらんかったんやから。一択やろ!」
「何かその時の典ちゃんが目に浮かぶな……」
光君、遠い目をしないでくれるかな?
「ギルドでもB級になったばかりのペーペーが上位ランクの冒険者相手に一歩も引かず、『文句がある奴はかかってこいッ!』なんてよく言ったもんだ……」
「典ちゃん最高!!」
「スゲェな、典平……」
「・・・」
「いや、その…若気の至りってやつよ……」
龍斗は喜んでるけど、確実にRyoと光君は呆れてるな…。
「その時の俺の気持ちが分かるか?今まで自分に味方など1人もいないと思って生きてきた。俺にとって他人は敵かそうでないかだけだった。そもそも敵じゃなくても味方とは限らない。もっと言えば敵か俺に敵意を持たない者でしかなかった。それなのに遠い昔、たった1度会っただけの俺を、ここまで信頼してくれる者がいたという事実に正直魂が震えた……」
「何でそんな考えを……」
「そういう世界だったんや、異世界は……」
光君には分からないだろう。
元嫁に裏切られたとはいえ家族や友人、それとこんなにも慕ってくれるRyoと龍斗がいたんだから。
「あの時、『世界中を敵にまわしても俺の味方だ!』と言い放ったリコのことが知りたくなってな。ちょくちょく情報を手に入れていたんだ」
「そうだったん!?」
「ちょっと間違うとストーカーだけど、ある意味完璧なSPだな」
「おいっ、Ryo!その言い方は兄貴に失礼だぞ!」
「典ちゃんを見守ってくれてたんだね」
「私、全然知らんかったゎ……」
「バレるようなヘマはしない」
「「「「さすが勇者!」」」」
これには全員一致で納得した。
「そしてあの大規模討伐で俺を庇ってリコが死んだ時、生まれて初めて俺に感情が芽生えた…。悲しい、悔しい、淋しい……という感情がな。なぜ生きているうちにお前と関わらなかったのか、話をしなかったのか、友人と呼び会う仲にならなかったのかと…。後悔したまま俺は生涯を終えた……」
「ゴーシュ……」
「兄貴……」
「「・・・」」
周囲から恐れられ、誰からも最強と認められた勇者ゴーシュが唯一望んだものは、B級冒険者に成りたての少女と過ごす時間だったのだ。
あまりにも切ない告白だった。
私は溢れ出る涙が止まらず、やむを得ずいったん洗面所に顔を洗いに行った。リビングには男4人が残っていた。
そして私のいない間にゴーシュの決意表明があったようだ。
それも驚きの内容が…。
「とにかく黒井さんは……」
「ゴーシュでいい」
俺はゴーシュという男に確認しておきたいことがあった。
典ちゃんと前世からの繋がりのある男。
聞いただけでもかなり深い想いをお互い持っている相手に。
「じゃあ遠慮なくゴーシュと呼ばせてもらうね」
「あぁ……」
「ゴーシュは典ちゃんのことどう思ってるの?」
それ今聞くか?と、正直その場にいたRyoと龍斗は心の中で盛大に突っ込んでいた。気持ちは分かる。自分の彼女にとんでもない繋がりのある最強の男が現れたんだから。
でも、さっきまでの生死に関わる話の後で恋愛話ってのは、いささか……、何と言うか……、ねぇ…。
「この転生は運命だ!」
ゴーシュは俺の目を見てハッキリと言いきった。
「今度こそ俺はリコの楯となり幸せを見届ける。前世の借りを返させてもらう。それが俺の幸せだと確信したからだ!」
切ない告白の後のまさかの告白に俺達3人は言葉を失った…。




