~運命の日①~
みなさん新型肺炎で大変だと思いますが、体調には気をつけて沈静化を祈りましょう。この次で6章は終わり、7章に突入する予定です。つたない文章ですが、お付き合いいただければ幸いです。
第6章ー7
決戦の日当日。
円卓を囲んで5人は座っていた。
典子から右隣に光君、その隣がRyo、その横が龍斗、その隣=左隣が剛士となっている。
ウキウキしていたのは私だけで、会った瞬間から何やら重苦しい空気が流れているのは気のせいではないはずだ。
なぜ?なぜだ?なぜなんだぁ━━ッ!?
私の大切な人ばかり集まっているのに、なぜ険悪な雰囲気になっているのか分からない━━ッ!
剛士が強面で無愛想だからか?
光君のお披露目のはずが、2人もおまけがいるからか?
つうか、そもそもお邪魔虫の2人がいることさっき知ったんやけど、どゆこと?
「あ~、とりあえず紹介するわ」
沈黙が怖くなった私はそれぞれ紹介することにした。
「こちらが黒井剛士。私の恩人でありヒーロー」
「リコ、その紹介はどうかと思うぞ?」
「何で?事実やん」
「それを言うならリコこそ命の恩人だろう」
「まぁ、それはいいから」
私が剛士の命の恩人となると、異世界で死んだことを説明しなくちゃならなくなるので非常にマズイ。なのでパスする。
「で、こっちが吉川光輝さんで私のパートナー」
「初めまして、吉川です」
「……どうも」
相変わらず無口だな、ゴーシュ。
「んで、その隣が光君の甥っ子の吉川涼也。Ryoって名前のアーティストなんやけど知ってるかな?」
「なるほど…似てるな」
「・・・」
Ryo返事しろよ!
「で、最後に横山龍斗。若手俳優の中でも1番人気なんやで」
「ども…」
「・・・」
今度はゴーシュが無言とか何なん?
「とにかく今、この4人で暮らしてるんや」
「リコの子供は来てないのか?」
「あぁ、子供らは東京じゃなくて香川にいるから急には無理やわ。また今度会わせるから楽しみにしとって」
「あぁ、分かった…」
と、ここまでほぼほぼ私しか喋ってないんやけど…。
クールが売りのRyoはまだしも、商売柄いつもは初対面の人に愛想がいいはずの龍斗がなぜか無口だし、人当たりのいい光君も何か変だし…、どうしたオイッ?
微妙な空気が流れる中、私達は黙々と中華料理を堪能していた。
「あっ、これ私好きなんやぁ」
そう言って鶏のカシューナッツ炒めを小皿に取った私。
「そう言えば典ちゃんナッツ系好きだよね」
「うん、アーモンドやくるみ、マカダミアナッツにカシューナッツ、ヘーゼルナッツも好きやな。光君も食べて」
「うん、ありがと」
隣の光君にも取り分けて、私は大好きな料理を食べた。
「みんなも食べなよ。中華はみんなで色んな料理をシェアできるのが醍醐味やんかぁ。あっ、龍斗!そこの青椒肉絲コッチに回して」
目当ての青椒肉絲を我が元に…と、台を回していると、
「木の実が好きなのは変わらないんだな……」
「えっ?」
剛士がポツリと呟いた。
「よく食べていただろう……」
「あっ!まぁね…ふふっ」
確かによく食べていた……、異世界でね。
孤児だった私に贅沢なお菓子が食べられるはずもなく、自然と木の実やフルーツがおやつとなっていた。
そんなことも覚えていてくれたんだと思うと、なんだか嬉しくなった。
後から思うと、その時自分でも気づかぬうちに“私と剛士2人だけの世界"という雰囲気を醸し出していたのかもしれない。
不機嫌MAXを隠しもせず吐き捨てるようにRyoが言葉を発した。
「いい加減にしろよ…」
「えっ?」
私が声のする方に目をやると、初めて会った頃のような敵意剥き出しのRyoが私を睨み付けていた。
「何?どしたん、Ryo?」
「涼、落ち着け」
「分かんねぇのかよッ!」
隣の光君が間に入ってくれたが、その甲斐もなく今度は龍斗が椅子をガタンッとさせながら立ち上がった。
──が、その瞬間、隣にいた剛士の左手が龍斗の右肩を抑えていた。
「座れ」
「なっ!」
いつ触れられたかも分からないくらいの早さで肩を押さえつけられた龍斗は剛士を見返していた。
命令とも取れる言葉に素直に従った自分にも驚いているようだけど、そりゃ仕方ないよ。あのゴーシュやもん。
闇の勇者に勝てるわけないし。
「……ひとつ聞いてもいいか?」
そんな緊迫した空間で、珍しく無口な剛士が口を開いた。
「会った時からこっちの2人は敵意剥き出しで、そっちは動揺が見て取れるんだがなぜだ?」
「えっ、ちょっと待って。何で?」
私も変な空気は感じていたが、初対面の相手だから警戒しているんだろうな…と、軽く考えていた。
まさかゴーシュ相手に敵意剥き出しって死ぬ気か?
自殺願望でもあんのか?
闇属性の強いゴーシュは他人の悪意に敏感だ。
敵認定された日にゃ、地獄を見るどころかマジで地獄行きやん。
「まだ分かんねぇのかよッ!」
椅子に無理矢理座らされた龍斗が吠える。
「光さんの前でよく他の男とイチャつけるな?正気か?」
「えっ?」
今度はRyoからまさかの言葉を浴びせられた。
「2人ともやめろ。ちょっと落ち着け」
光君が2人をなだめようとするが、1度口火を切ったら簡単に止まるものではない。困惑する私をよそに、Ryoと龍斗は我慢していた胸のつかえを吐き出すかのように一気にまくし立てた。
「だいたい彼氏に他の男紹介って何だよッ!」
「それも憧れのヒーローだって?ふざけんなよッ!」
「典ちゃんのこと見損なったわ」
「光さんの気持ち考えたことあんのかよ、典平ッ!」
「恩人って話だったけど典ちゃんより一回りも下って、マジ意味分かんねぇんだけど?どこで接点あんだよ?実は昔の男なんじゃねぇの?」
「なっ、違っ」
やっと険悪な空気の意味が分かった私は慌てて否定したが、2人はかなりヒートアップしていて収まりがつきそうにない。
ヤバい!どうしよう…。
言い訳・・・つうか、そもそも本当のことしか言ってないから言い訳すら思いつかない。濁して誤魔化しているのは異世界関連のことだけだ。でもそれが言えない、てか言っても信じてもらえないだろう。
何と言っていいのか、説明の仕方が分からないままアタフタする私の横から、ひどく冷静でとてつもなく威圧のこもった声が聞こえた。
「……分かった。俺が原因か……」
「ゴーシュ……」
その声に私を含め、他の誰も非難どころか言葉を発することすらできなかった。
「……今の話をまとめると俺とリコの関係を疑っているわけだ?」
相変わらず言葉は元より、身動きもできない。
久しぶりに感じる勇者の威圧。
受けたことのない人間がこうなるのも当たり前のことだ、仕方ない。
「……これがお前の言う幸せな家族か?」
私に視線を向け、ゴーシュが問いかける。
「お前の言うことを信じもせず疑っている恋人と、非難めいたことしか言わない奴等……、今のお前は本当に幸せになったのか?」
「ゴーシュ、ごめん。私が悪かったんや。ちゃんと説明してから会わせるべきだった。何でみんながこんな風になってたかやっと分かったゎ。確かにそう思い違いされてもしぁないとこ私にもあったから、お願い抑えて!」
私は必死で言葉を発した。
それを見たゴーシュはやっと威圧を解いてくれた。
3人は生まれて初めての強烈な威圧から解放され、緊張は解かれたが冷や汗をかいたまま椅子の背にもたれかかった。
「……リコ、お前は誰よりも幸せになる権利がある。いや、なるべきなんだ。俺の存在ぐらいで揺らぐような関係が本当の家族と言えるのか?」
「ゴーシュ落ち着いて、みんな勘違いしてただけやから。みんなもごめん。でも本当にゴーシュとはそんなんじゃないから」
なんとかゴーシュをなだめて、みんなにも念を押した。
だが、若さからかゴーシュの隣にいた龍斗が噛みついた。
「ちょっと強面だからって誰もがハイハイって言うこと聞く思ったら大間違いだぞッ!」
「龍斗ストップ!!」
私が止めに入るより早く、龍斗がゴーシュに掴みかかっ──たかと思ったが、当然のごとく目に見えぬ早さで反対に腕を締め上げられた。
「うっ、痛って…、離せッ!」
「すぐカッとなる癖は相変わらずだな……」
「なっ!?」
「えっ?」
「!?」
腕を掴まれている龍斗だけでなく、私達4人全員がゴーシュを見た。
「……変わったのは見た目だけか?デカくなったな、ジェイソン」
「ッ!!な、なんでその名前……」
「えっ、何?どゆこと?ゴーシュ、龍斗のこと知ってるん?」
「龍、ジェイソンって?」
話の見えないRyoが龍斗に問いただす。
「ま…さか……、しぃ君?」
「……その呼び方はやめろ。今の名前は剛士だ」
「えっ、しぃ君って確か龍の兄貴分だった?」
「うそッ!龍斗を助けてたのもゴーシュ?」
「・・・」
もう何が何やら、私との疑惑どころか長年所在不明だった龍斗の兄貴分がゴーシュってどんな運命なんよ?
龍斗は明らかに敵意から歓喜の表情に変わり、Ryoは戸惑いを、私はまさかの繋がりに驚きを隠せず、光君はもう声も出なかった。




