~Ryo's side~
第6章ー6
「ちょっといいか?」
「どしたの、光さん」
「いや、ちょっと相談したいことが…」
「光さんが俺に?相談って何の?」
アルバムのレコーディングが終わり、春からのドームツアーに向けてリハーサルを重ねている中、久々に家でゆっくり過ごしていると珍しく光さんが俺の部屋にやってきた。
お互い家でも仕事してることが多いし、プライベートを尊重してるからリビングにいる時はまだしもわざわざ部屋に来ることはそうそうなかった。
「涼は何か聞いてないか?」
「何かって、何?」
「いや、典ちゃんから…」
「典平?何かあったの?」
急にマジな雰囲気になった。
なにせ光さんは離婚の時ですら誰にも相談せずに自分1人で全てを終わらせた人だ。
あの頃の俺がまだ子供だったのもあるだろうけど、光さんから女のことで相談をされるとは思いもしなかった。
それも典平のことでって何?
まぁ、だからこそこんな夜中なんだろうけど。
龍はドラマの打ち上げで今日はいないし、典平が寝たのを見計らって俺んとこに来たんだろうな…。
「とりあえず適当に座って」
「悪いな、涼」
「長くなりそうな話?まさかの結婚とか、もしくはその逆ってこととか?」
いきなり核心をつく話題から聞いてみた。
「まさかッ!別れる気は全くないよ!」
「ハァ、良かった」
「涼も典ちゃんのことは認めてくれてんだな」
「えっ、何で?」
「だって『良かった』って言ってくれるってことは別れない方が良かったってことだろ?」
「まぁ、今の光さん幸せそうだし…」
「……ありがとう、涼。じゃあ、ちょっとコーヒーでも淹れてくるよ」
そう言って一旦リビングへ向かった光さんの後ろ姿を見ながら、どうか悪い相談ではありませんようにと今まで信じてもいなかった神に祈った。
これ以上、光さんに不幸が訪れませんようにと、光さんにこそ誰よりも幸せになって欲しいと思っているから。
「お待たせ、涼も飲むだろ?持ってきたぞ」
「あぁ、ありがと」
「じゃ、邪魔するな」
そう言って床に座りベッドにもたれかかった光さんは、椅子に座っている俺に向かって本題を喋り始めた。
「今日、典ちゃんご機嫌だったんだよ」
「うん」
「それも超ご機嫌で今度会ってくれって…」
「えっ、ちょっと話が見えないんだけど、どゆこと?」
どうやら俺が帰ってくるまで1人で飲んでたようだな。
光さんの話が飛びまくってるぞ。
「憧れのヒーローに再会してめっちゃ嬉しかったんだってさ」
「ヒーロー?なんだそれ?」
「恩人なんだってさ」
「だから誰それ?」
「俺、久々に嫉妬したよ」
「だから誰?」
「知らねぇよ俺だって!だから今度会って欲しいんだってさ」
「その知らねぇ奴が典平のヒーローってこと?」
「そう」
「何で会わなきゃいけねぇの?」
「典ちゃんが紹介したいからって」
「典平も男心わかってねぇなぁ」
「聞いた限りじゃホントに憧れてるだけみたいなんだけど、あまりにも誉めまくるからさぁ、俺としては何か引っ掛かって…」
「昔の男ってわけじゃないんだろ?」
「それは違うみたい」
「それで会いたくないって話?」
「いや、典ちゃんがあんだけ言う相手なら1度会ってみたいってのもあるんだけど、男として負けてんじゃないかって自信がなくてさぁ…」
「光さんは負けてねぇよ!最高の男だよ!」
「でもなぁ…」
「俺や龍にとって光さんが憧れの男だよ。それに典平だって光さん以上の男はいないって言ってたし!」
「……いつ?」
「正月に典平ん家で言ってたよ」
「……ホントに?……マジで?」
「大丈夫だから!光さん自信持ってよ」
「心配なんだよ、不安で仕方ないんだよ」
俺にどうしろって言うんだよ。
だいたい典平が光さんに惚れてるの見てたら分かるし、俺としては無駄な心配だと思うんだけど?
「で、どうして欲しいの?」
酔ってるから同じ事をグルグルとリピートする光さん。
ホントに珍しい光景だけど、ちょっと嬉しい。
光さんに相談されるって頼りにされてる感じがして嬉しい。
「……欲しい」
「えっ?」
「……ついてきて欲しい」
「えっ?」
「そいつと会う時についてきて欲しい」
「俺が?」
「…うん」
中学生かよ!初デートに付き添い誘ってる中学生かよ?
何か可愛いぞ、光さん。
「典ちゃんのヒーローに俺1人だと負けそうだから、涼もついてきて欲しいんだよ。もう今日の俺ダメージ深いから」
「なら、龍も誘って完璧な布陣で迎え撃つ?」
「それっ!それだよ!」
酔ってるな。マジで光さん酔ってるわ。
普段なら俺らにこんなこと頼まないのに、まさかだな。
「いいよ、時間取るよ」
「マジッ?忙しいのに大丈夫か?」
「それぐらいは何とかするよ」
「よしっ!助かった。ありがとう涼」
「龍にも言っとくよ」
「頼んだ!」
安心したのか、光さんは満足気な表情で俺の部屋を出て行った。それには俺も満足したが、まさかの相談だったので取り急ぎ龍にも話を通しておこうと携帯で伝言を残しておいた。
帰ってきたら龍に相談しようっと…。
次の日。
「今晩は喰って帰るからメシいらない」
と、典ちゃんに伝えた3人はある一室に集まっていた。
仕事が終わってから光さんの会社に寄ることにしていたのだが、警備員室からコッソリ入ったはずなのに残業していた数人の女子社員に見つかり大騒ぎになった。
とりあえず真鍋さんに頼んで会議室を一室押さえてもらい現在に至る。誰も近づけないように伝えると俺達は本題に入った。
「で、どんな奴か全く分かんないの?」
「典ちゃん曰く、最強の男で憧れのヒーローだって…」
「なんだそりゃ?」
光さんの説明に龍斗がツッコミを入れる。
「とにかく心配し過ぎだって言ってるのに、光さんが自信喪失してるから俺達も一緒に会って欲しいんだってさ」
「なんだ、そんなことか。光さん、任せといてよ。俺がしっかりその男を見極めてやるよ!」
「龍……、ありがとう」
「ほら、だから光さん元気出してよ」
「そんなんじゃ、仕事にも集中できないんじゃね?」
「うッ、いや…」
龍斗が鋭い一言を放つ。
こんな状態の光さん見たくないんだけど、俺。
これはさっさとカタをつけた方がいいな。
そう思った俺は、
「光さん、それでいつ会う予定なの?」
まず、敵と戦う日取りを知らないと話にならない。
「いつでもいいって典ちゃんが言ってた。仕事が一段落ついたら教えてくれって」
「じゃあ、俺ら3人が揃う日にしようぜ。涼はどう?」
「それでいいよ。龍は今忙しいの?」
「そうでもない。この前の撮影終わって落ち着いてるし」
「俺もツアー始まる前なら時間作れるよ。光さんは?」
「今抱えてるのは後2~3日で終わる予定…」
「じゃあ、この週末でいけそう?」
「たぶん…」
「俺も大丈夫!」
「じゃあ、決まりだな。典平のいうヒーローとやらを俺らで返り討ちにしてやろうぜ!」
俺は会ったこともない相手に敵意剥き出しだった。
俺の憧れのヒーローにダメージを与えるような野郎はどんな奴か知らないが認めたくない。
子供じみてると自分でも分かってるけど、こればかりは引くわけにはいかなかった。




