~互いの近況報告~
ちゃんと更新する!・・・が、今年の目標!
第6章ー4
「お前、本当にあのリコか?」
ゴーシュが私に確認する。
「あのとは?」
私は質問の意味が分からず聞き返す。
「あの森で俺を庇って死んだリコかと聞いている」
「あぁ、はい。そのリコです。こうして目の前で話ができ光栄です。あの後どうなりましたか?みんなは無事でしたか?」
「……あぁ、あの後は死人は出ていない」
「じゃあ、ロンやルル達も無事だったんですね」
死人は出てないが、大量発生した魔物の死体が森の中を埋め尽くしたことは言わなかった。
良かったと胸を撫で下ろすリコを見る。
「ん?何ですか?」
「……俺は、お前に言わなければならないことがある」
「えっ!ゴーシュが私に?」
慌てて姿勢を正し真っ直ぐ目の前のゴーシュを見る。
「ありがとう」
生まれて初めての感謝の言葉だった。
もちろん今ではなく前世での話だが…。
「な、なんでゴーシュがお礼を言うんですか?みんなを助けてくれたのはゴーシュじゃないですか。あの時の仲間を代表して私こそありがとうございました」
「いや、違う…」
「えっ、何が?」
昼もまわり太陽の位置もずれ、少し肌寒くなってきた公園で40女が若い年下の男に頭を下げている姿はシュールだ。
「場所、移動しませんか?」
「あぁ…」
その後、ゴーシュは私の後を黙ってついてきた。
私はというと憧れのゴーシュと巡り会えた運命に興奮冷めやらず浮かれきっていた。
「ここなら大丈夫ですね」
「あぁ…」
近場のカラオケボックスに入った私達は、前世の思い出を語りまくった。8割は私が喋っていたような気もするが…。
「ゴーシュは今、何て名前なんですか?年はいくつ?私より絶対若いですよね?今何してるんですか?」
「1度に聞くな…」
「すいません…」
ちょっと落ち着こう私。
「俺の今の名前は黒井剛士だ。年は30。フリーの探偵もどき」
簡潔な説明どうもありがとう。
「じゃあ私より一回り下なんですね。不思議な感覚だなぁ。あのゴーシュが私より年下って…。でも、剛士ってゴーシュと似てて馴染みやすいですね。探偵ってとこもサラリーマンよりよっぽどゴーシュに似合いそうだし…」
「リコはどうしてるんだ?」
「あっ、私ですか?」
私はゴーシュに自分の説明をした。
この時代に生まれ育ち、結婚もして子供も出来た。離婚してシングルマザーとして働いていていたら、まさかの事故で死亡。その後、リコとして生まれ変わり冒険者となったが19歳でまたもや死亡──したと思ったら、何のイレギュラーか事故直後の自分に転生?らしき甦り方をして現在に至る、と。
「じゃあ、家族もいるのか?」
「生意気な子供が2人。今は一緒に暮らしてないですけどね」
「じゃあ1人なのか?」
「いやぁ~、これが素敵なパートナーが見つかりまして同居中でして♪」
「じゃあ、幸せなんだな?」
「もちろん!」
「ならいい…」
ゴーシュの周りの空気が柔らかくなった。
「えっと、どうしたんですか?」
「すまなかった、俺のせいで…」
「いやいや、そんなことないですよ」
私のことをずっと気にしていたという感情が伝わってきた。
「あのね、実は私、幸運スキル持ちなんですよ」
「えっ?」
私の唐突な発言にゴーシュは眉をひそめた。
「ここで死ぬ前の私にスキルなんてあるはずないでしょ?死んで転生してリコとして生まれ変わったからスキル持ちになれたんですよ。幸運スキルを手に入れたおかげで、親が殺された時に私だけ助かったし、念願の冒険者にもなれたし、死んだと思ったら元の自分に戻れたし、私ってツイてると思いません?」
「そうなのか?」
「そうですよ!死んだ元の自分に戻れたんですよ?生き返ったようなもんじゃないですか。それも前世の記憶とスキルというオマケ付きで。スキルのおかげで宝くじ当てられたし、仕事も手に入れた。パートナーと巡り会えたのも絶対幸運スキルのおかげですって。そのスキルは冒険者になったから手に入ったんですよ?冒険者になろうと思ったのは私の目標であるゴーシュに少しでも近づきたかったから。だから今の私があるのはある意味ゴーシュのおかげなんです。やっぱり私のヒーローだって!」
「・・・」
「ゴーシュ?」
無言になったゴーシュを見つめる私。
「・・・んだ」
「えっ?」
「違うんだ」
「えっ、何が?」
「俺はヒーローなんかじゃない。この世界に転生して俺はよく分かった。ヒーローは自分の為じゃなく人の為に動く奴だ。俺は他人の為に冒険者になったんじゃない。自分が生きていく為に冒険者になったら勝手に勇者にされただけだ。ヒーローなんかじゃないんだッ!」
ゴーシュは堰を切ったように言葉を吐き出した。
たぶん自分の中でかなりの葛藤があったのだろう。
以前の私では分からなかっただろうが、今の40歳を過ぎた私なら分かってあげられる。
勇者と呼ばれることへのジレンマが…。
「それでもリコにはヒーローでした。ゴーシュにとって単なる依頼された仕事の1つだったかもしれない。けど、あなたと同じ冒険者になって本当の意味で理解できたんです。失敗せずに依頼を達成し続けることの難しさを。あなたがどう言おうと結果が全てです。甘くて優しいことばっか言う失敗続きの冒険者より、無口で冷たくても必ず依頼を達成してくれる冒険者、どっちが上か一目瞭然でしょ。あなたは私の唯一無二のヒーローだったんです!」
「何でそう言える…」
「嘘も突き通せば真実になる、って言うじゃないですか?あなたは前世で勇者という役を演じきったんですよ。もういいじゃないですか。生まれ変わって別の人生を生きてるんですし。もう昔のことは忘れて自分の幸せを見つけたらいいんですよ。私も応援しますよ?何があっても私はゴーシュの味方ですから!」
「!!!」
その瞬間、ゴーシュが目を見開いた。
私はなぜか分からなかったが、その時ゴーシュは前世でのリコの言葉を思い出していた…。初めてギルドで私と出逢った日に、同じ台詞を叫んでいたリコを。
「そうだな、あの頃とは別の人生なんだな…」
「そうですよ、黒井剛士なんでしょ?」
「あぁ…」
「私も吉岡典子ですよ」
「お前も前世と似たような名前だな(笑)」
「あっ、笑った!」
「何だ?」
「ゴーシュの笑った顔、初めて見ました」
「俺も久しぶりに笑った気がする…」
胸にあったしこりを削ぎ落とすかのように、ゴーシュと私は色んな話をした。元々、冒険者同士はタメ口が基本だったし、今は私の方が年上なんだから敬語はヤメろとか、お互いの仕事の話とか、家族の話とか…。そこで私は今のゴーシュも前世と同様、孤児となっていたことを知る。
「じゃあ、ゴーシュが小さい頃に両親は事故で亡くなったの?」
「あぁ…」
「何でゴーシュばっかそんな人生…」
「まぁ、その事故で前世の記憶が呼び起こされたんだがな…」
ゴーシュも事故がきっかけだったんだ…、そう思った私の脳裏にふと気になることがよぎった。
「ちなみにゴーシュも私みたいに前世のスキルあんの?」
「一応な…」
「いやいや一応って。仮にも勇者だったゴーシュのスキルって半端ないやろ?」
「リコはさっき言ってた幸運スキルの他に何があるんだ?」
「私は大したスキルじゃないよ、元々B級だし。でも言語スキルのお陰で翻訳の仕事ができてるし、後は初歩の回復魔法と、亜眼ぐらいかな。ゴーシュは?」
「俺は身体強化と五大魔法、プラス闇魔法。後は魔眼だな」
「えっ!魔法使えんの?」
「前世に比べたらお子様程度のもんだがな…」
「それでもスゴいやん!私なんか回復魔法だけやで」
「俺は闇属性が強かったからか、自然界の五大魔法より闇魔法の方が合ってるようだ。だから人を癒す回復魔法のような魔法は一切使えない。五大魔法も無いところから出すことは出来ない。ライターの火を大きくしたり、静電気を強くしたりするぐらいだから、あまり役に立たないな。この世界は魔法より科学が発達してるからライターの火を多少大きく出来ても意味がない、火炎放射機を使った方が早いだろ?」
「確かに!」
「だが、闇魔法の方は思ったより役に立つぞ」
「えっ、どういうこと?」
「前世のような強力な魔法は無理だが、周りの人間の意識や感情が元になってるようでな…。自然界からパワーをもらう五大魔法と違って、闇魔法は正に人の闇の部分をパワーに変えるようだ」
「…というと?」
「嫉妬や憎悪、怒りのような負の感情…、まぁ簡単に言うと人の悪意を自分のパワーにしてしまうんだ。だから俺に敵意を向ければ向けるほど俺は強くなるというわけだ。身体強化や魔眼の威力が跳ね上がるって感じだな」
「魔眼って私の亜眼の特別版やろ?前世で聞いた話では人を操ったり、金縛りにかけたり出来るって噂だったけど…」
「今はそこまでの威力はない。せいぜい催眠で暗示をかけたり、威圧で戦意を喪失させるぐらいだ。後は他人の感情から敵意があるかないか見分けたり、オーラで人探しが出来るから探偵としては助かっているがな…」
「いや十分やし、それ!」
「リコのスキルの方がこの世界では実用的だな…」
「確かに!幸運スキルと言語スキルがあれば困ることないからね。前世と違って魔物が出たりしないし(笑)」
「だが、さっきみたいな奴等もいるだろ?戦闘スキルはないのか?」
「それに関しては残念ながら。記憶を頼りに体を動かしたりしてみたけど、年も年やし冒険者だった頃のような剣術スキルは使えないね。ゴーシュは?」
「闇属性の特性か、敵の悪意をそのまま自分のパワーにしてしまうので身体強化すると今の世界では負けナシかもな?こっちには魔物のような力や速さを持つ人間などいないからな…」
「やっぱ最強やん、ゴーシュ…」
「だが色んな剣術や武術があり習得するのは楽しかったぞ…」
「誰と戦う気なん?それ以上強くなってどうするん?」
「いや、つい…。強くなるため鍛える習慣が抜けなくてな…」
「そんなとこもゴーシュらしいけどな(笑)」
「フッ…」
気がつけばもう夕方になっていた。
カラオケボックスに来て1曲も歌わなかったのは初めてだ。
ゴーシュに歌ってくれとせがんでみたが、頑なに拒否されたし。
ゴーシュは楽しむということが苦手のようだ…。
自分にも他人にも厳しくストイックな印象は昔と同じで、なぜか私は嬉しく感じていた…。あの頃のままなんだと。
カラオケボックスを出た私達はお互いの連絡先を交換して、また会おうと約束した。今度は私のパートナーも紹介したいからと…。
ゴーシュは前世より喋ってくれるようになっていた。
じゃあまた、と手を振る私に左の口角を少しだけ上げたゴーシュは足早に去って行った。
────こんな偶然があるのか?
いや偶然なんかじゃない、必然だったんだ。
前世で唯一仲間になりたいと願った相手が、俺と同じように転生して今ここにいる…。あの頃と同じように俺の味方だと言ってくれる相手が目の前にいて話すことが出来た。
今度こそ俺は後悔しない生き方をする…。
あんな想いを2度と味わうつもりはない!
俺は今度こそリコを守ってみせる!
リコが大切にしている全てのものを必ず守る!
世界中を敵に回してもリコを守る!
それが生まれ変わった俺の人生の意味なんだ!
無口な男は無表情のまま、歓喜の声を心の中で叫んでいた…。




