~再会~
第6章ー1
久しぶりにのんびりした朝を迎えた。
すでに9時は過ぎていたが、光君は私を気遣ってこっそり出社したみたいだ。
とりあえず起きてトイレに行こう、と私がベッドから出るとリビングから声が聞こえてきた。
「お~い、朝飯は?」
んん━━━っ、朝から面倒くさいな。
たまには自分でやってみろよ。
「はいはい、おはよう」
「おっ、典ちゃんおはよう!飯は?」
「黙って顔洗って着替えといで」
「その間によろしく」
龍斗は鼻歌まじりで自分の部屋に行った。
それっ!今のうちにトイレだ。
急いで用を足し、食べ盛りの奴等の為に朝食の準備に取りかかった私だった。
郷田さんと復帰した五十嵐さんが迎えに来たので、さっさと私は2人を引き渡した。
さぁ、今からは私だけの時間だ。
仕事はしばらく大丈夫だし、今日は完全に自由だから買い物にでも行こうかな?
そんなことを考えながら洗い物を終わらせ出掛ける支度をした私は、まずは久々に公園で生命力を吸収しに行くことにした。
「とりあえずコンビニで飲み物とおやつだな」
私は公園近くのコンビニで買い物をして外に出たが、こんな日に限って嫌な気分にさせるバカが発生するのは何かの呪いだろうか?
コンビニの前で強引なナンパをする野郎3人組。
20代前半くらいの女の子がものすごく迷惑そうな顔で断っているのに気づかないのか、気づかないふりをしているのか、しつこく言い寄っていた。そして3人組の周りにはモヤっとしたオーラが見える。
「はぁ」
ため息をひとつした私は大声で、
「えりちゃん、帰るよ」
と、見知らぬ女の子に声をかけた。
ナンパに多少なりとも恐怖を感じていた女の子は小走りで私のもとに駆けてきた。
チッ!と舌打ちして私達から離れて行こうとした3人組だったが、女の子の一言でせっかくの助け船が泥舟と化した。
「ありがとうございました」
「しぃ━━っ」
「あっ!」
この一言で私達が他人だと気づいた3人組はきびすを返してこっちへ向かって来た。
「おいおい、おばさん。何やってくれんだよ?」
「危なく騙されるとこだったな」
「ふざけた真似してんじゃねぇぞ」
親だと思ったら諦めるのに、なぜ他人だと分かると再挑戦する気になるのか理解不能だ、バカはやはりバカなのだろう。
自分でも見知らぬ他人のためにバカだなぁ、とは思うが我が娘と変わらぬ年頃の女の子が困ってたら、いち母親として放って置けなかった。
「はいはい、分かったから」
「何が分かったんだよ?」
「この子は今から大事な用があんの。だから私がコンビニで肉マンでも買ってあげるから諦めて」
「ふざけんなよッ!」
3人組が文句を言いながらこちらに近づいて来たので私は彼女に小さな声で、
「…走って」
と、つぶやいた。
でも…、と困惑する女の子に大丈夫だからと私が合図すると、彼女はペコリと頭を下げ後ろに振り向いた途端一目散に駆け出した。
「ちょ、おい待てよ!」
「はいはい、ストップ」
「ババア邪魔なんだよ!」
「誰がババアじゃコラァッ!」
「「「!!!」」」
急にドスの効いた声で言い返した私を驚いたように見たバカ3人は一瞬戸惑ったが、ハッと我に返るとしつこく追いかけようとする奴や私に因縁をつけ始める奴、あぁ…と残念そうに諦める奴と三者三様バラバラの反応をした。
私は追いかけようとした奴の首をラリアットのように右手を伸ばしてロックし、目の前でガンを飛ばしてくる兄ちゃんに向かって言った。
「しつこい男は嫌われるで」
違う意味で私がターゲットになった瞬間だった。
「今の世の中、下手にでしゃばるといいことないんだぜ、おばさん?」
「代わりに色々奢ってもらうか?」
「おい、もう行こうぜ…」
「お前は黙ってろ!」
「お前が黙れ」
「「「!!?」」」
最後に私が黙れと言ったことで3人のやり取りが急に止まった。仲間を引き留めようとした男は私の態度にオロオロし始めるし、逆に残りの2人はお怒りモードに突入したようだ。3人のオーラの色もそれぞれ違ってきた。
「ババア何様のつもりだよ!」
そう言いながら1人は私の肩をドンと押し、もう1人は右手でダウンジャケットの襟元を掴んだ。この2人のオーラはさっきよりドス黒く変化していた。
「何様もクソもあるかッ!アンタらみっともないことしよる自覚ないん?」
そう言いながら私を掴む男の親指の付け根を思いっきりつまんで押した。
「あっ、痛っ!」
反射的に手を離した男はこちらを睨み返し、もう1人が今にも殴りかかってきそうな空気になった瞬間、3人組の後ろから声がした。
「やめとけ」
3人組が振り返った隙間から1人の男性が見えた。
20代後半か30代前半くらいの男性だが、明らかに素人じゃない雰囲気を漂わせていた。
だが自分と同じような匂いというか、懐かしいというか、不思議な感覚になっていた。
「なんだテメェ!」
「やんのか!」
「お、おいっ…」
血の気の多そうな2人より冷静だったもう1人が何かに気づき小声で話した。
すると、急に3人組は私を素通りし小走りになって駆けて行った。
「何だアレ…?」
訳が分からずにいた私をよそに、男性は何もなかったかのようにコンビニへ入って行った。
私は助けてくれたお礼を言おうともう一度コンビニに入ると男性を追いかけた。
「ありがとうございました」
「いや、別に…」
弁当のコーナーにいたのでつい私は、
「何かご馳走させてください」
「いや、弁当買うし」
「じゃ、弁当奢ります」
「いや、大丈夫」
「何かお礼させてください」
と、感謝の押し売りババアと化していた。
男性は無表情で言葉少な目ではあったが、私がグイグイ話し掛けるためどこか戸惑っているような感じがした。
支払いを終えた男性の後ろについてコンビニを出た私はしつこく話し掛けていた。
「お弁当は家で食べるんですか?」
「いや、適当なところで…」
「じゃあ、近くの公園で一緒に食べませんか?」
「はぁ?」
「今日は天気もいいし、ねっ?」
「いや、あの、ちょっ」
ほぼ強制的に上着に引っ張りながら公園へと連れて行った私だったが、後から冷静に考えるとさっきの3人組と変わらないことをしていた気がする。
「日当りいいとそんなに寒くないですよね?」
「あぁ…」
公園の隅にあるベンチに座り買ってきたものをテーブルに広げ、ピクニック気分でランチタイムに突入した私を尻目に、男性は相変わらず言葉少なく弁当を口に運んでいた。
「私、吉岡って言います。さっきは本当にありがとうございました」
「別に…」
「あの子達、あなたのオーラにビビってたね」
「オーラ?」
「いや、オーラっていうか威圧感かな?」
「・・・」
「でもホントいつの時代でもあぁいうのっているんやなぁ…、久しぶりにゴブってる奴見たゎ」
「っ!ゴブってる?」
「あっ、何でもない」
「ゴブってるってどういう意味だ?」
無口だった男性が食いついてきた。
『ゴブってる』とは前世の冒険者が人拐いや強引なナンパをする奴等のことを、人間の女を無理矢理さらっていくゴブリンに例えた造語だ。私もよく使っていた。今の女子高生が言葉を短く略すようなものだ。だが、改めて他人に聞かれると答えに窮する。
「ええっと、何て言うか盛りのついた感じ?」
「・・・」
「私の地元で使ってた言葉なんや」
「へぇ…面白いな」
「やろう?」
「他もあるのか?」
「えっ?」
「他にも似たような言葉があるのか?」
急に会話が弾み出した理由が分からないまま、私は前世で使っていた言葉を必死に思い出して手繰り寄せていた。
「えぇっと他には…、あっ、アルコールに強いことをウワバミならぬ『ドワバミ』とか、ものすごく強くなった人のことを『ドラゴる』とか…」
「お前、何者だ!?」
急に押し潰さそうな威圧を感じ目の前の男性を見ると、彼の体の周りには凄まじいオーラが漂っていた。
「えっ、まさか…」
そのオーラには見覚えがあった。
忘れるはずがない。
いや、忘れられるはずがなかった。
私が冒険者を目指したきっかけであり、冒険者でなくなる─死に至った─原因になったある人物と同じオーラだったからだ。
「まさか、、、ゴーシュ?」
「ッ!お前は誰だッ!」
自分でも気づかぬうちに涙を流していた私は、その場で立ち上がり右手の拳を心臓に当てながら、
「第14ギルド所属、B級冒険者リコと申します!」
目の前の男性に最大級の敬礼をしてみせた。
「……勇者ゴーシュですよね?」
「お前、まさか本当にあのリコなのか…?」
「再びお会いできて光栄です!」
冬の公園での平和なピクニック気分から一転、前世の記憶が一気に溢れだし涙が止まらない私の姿があった。




