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~付き人・最終日~

第5章ー5





今日で付き人生活が終わる。

怒涛の1週間だった。

あっと言う間だったが内容が濃過ぎた。

3日目に起きたあの騒動…。

あれからは撮影に関わる役者をはじめ、全スタッフの意気込みが変わった。

お陰でNGも最低限に抑えられ、撮影は順調に進み最終日の今日を迎えた。




「はいっOKです!お疲れ様でしたぁ!」

「「「「「お疲れ様でした~」」」」」


無事、SPドラマの撮影は終了した。

やっと終わった…。

こんなに気を使う仕事なんかもう()だ。

会社員を辞めてから自由気ままな暮らしをしていた私は、2度と業界の仕事には関わりたくないとつくづく思った。

メインの役者には花束が渡されている。

次は劇場版ですね、なんて話題も出ているが私は一切関わるつもりはない。


「最後に主役の横山龍斗さん!」


花束贈呈って主役が最後なんかなぁ…って何気に見ていると、花束を抱えたRyoが入ってきた。

知らなかった女性スタッフの黄色い声がアチコチから上がっている。


「お疲れ龍斗」

「おっ、Thank You」


本気のイケメンが並ぶ威力は凄まじいな。

周りの性別・女は揃ってふにゃあっとした表情になり、仕事モードの戦闘態勢から解除されている。

確かに美形の2人だが、家にいる時とはまったく違う…仕上がったイケメンの破壊力は半端ない。

女の場合は【髪形・服装・化粧】の3つでいくらでも変われるが、男の場合は【化粧】がないからなぁ…と思っていた私は目の前の2人を見て、


「この2人は【髪形・服装・オーラ】だな」


と小さく呟いた。

元から出来上がってる(ツクリ)の男に化粧なんて必要ない。

ことさら若い頃からこの業界で頑張ってきた自信が顔に出ている。

うん、自慢できるなうちの子達は。

親バカ全開で場の主役になっている2人を微笑ましく見ていると郷田さんが近づいてきた。


「吉岡さん、お疲れ様でした」

「あっ、郷田さん。お疲れです」

「本当にありがとうございました。お陰さまで無事終わりましたよ。五十嵐も体調が戻って明日から復帰します」

「そりゃ良かったですね。私はもうコリゴリです」


そんな話をしている私達の所に助監督の谷さんがこっそりやってきた。


「お疲れ様でした」

「あっ、お疲れ様でした。不慣れなものでご迷惑をかけたと思いますがとても勉強になりました。短い間でしたがありがとうございました」


私は谷さんに頭を下げた。


「いえいえ、こちらこそ。吉岡さんのお陰で今回の"通過儀礼"はいつもより効きめがありましたよ」

「そうでしょう」


谷さんと郷田さんがニヤリと笑う。

ん?どゆこと?


「亀井監督の厳しさは業界でも有名で新人の役者はだいたい泣かされるんだけど、同様に新人のスタッフにも厳しくてね…」


郷田さんが続ける。


「いつの間にか各事務所が新人研修のごとく放り込むようになったんだよ」

「こちらとしてはいい迷惑なんですけどね?」


和やかに話す2人に私が尋ねた。


「じゃあ臨時の付き人になった私もそれに付き合わされたんですか?ド素人の新人として?」

「吉岡さんは違いますよ」


郷田さんが私の問いに答える。

そして谷さんが補足する。


「最近の若い子はネットの普及もあって境界線が曖昧でね、テレビ業界の仕事を舐めてる節があるんですよ。バラエティーなんかで素人がいきなり売れっ子になったりするでしょ?それを見て育ってる分、基本的なことが分かっていない子が多くてね…」

「はぁ」

「挨拶、言葉遣い、上下関係など当たり前のことが身についていないんですよ。権利は主張するのに義務は果たさないとか…。例をあげるとキリがないんですけど、友達感覚っていうか親や先生からも怒られず育ったんでしょうね」

「まぁ、そういう時代なんですかね?」

「それを否定しても仕方ないんですが亀井組(ウチ)は違います。戦後生まれの監督はふざけた人間が嫌いです。何事にも一生懸命に取り組まない奴は必要ないという信念がありますので。失敗しても反省してその失敗を取り戻そう、2度と繰り返さないよう努力する人間は認めますが、笑って誤魔化そうとする人間には厳しいですから」

「それには私も激しく同意します」

「吉岡さんに関してはこちらから郷田さんにお願いしていたんです。素人ですが社会人として培った経験がありますので。現場に代理の付き人をつけるなら()()()()人間を…と」

「…まともですか」

「新人である上に臨時のド素人、そんな人間でも出来ることが出来ていない、鼻っ柱を折ることで今回の通過儀礼は大成功だったと言えるでしょう」

「もしかして郷田さん、始めからこれを知ってて私に付き人頼んだんですか?」

「ははっ、すみません」

「マジかぁ~、すっかり騙されましたよ」

「でも監督はご機嫌でしたよ。今回は見所のある奴がいるな、ってこぼしてましたから」

「亀井監督が?珍しいな」

「それは俺も思った。吉岡さんを指差して、

『あれはどの事務所の新人だ?』

ってね。動きもさることながら勘がいいって誉めてましたよ」

「勘?」

「吉岡さん、他のスタッフの手伝いとかよくやってたでしょ?休憩時の弁当出しとかコーヒー出しも。監督の猫舌に気付いてコーヒー冷ましてから出していたの知ってますよ」

「そんなことまで!?」

亀井組(ウチ)は家族みたいな繋がりですから裏方のスタッフ達も気がついたことを監督に伝えるんですよ。龍斗君もそうですが吉岡さんのスタッフ受けも良かったですよ」

「ありがとうございます。それなら良かったです。郷田さんの顔潰すわけにはいかなかったから…」

「そういうところですよ。現場では個人ではなく会社を背負って仕事をしているという意識が大事です。個性がもてはやされる時代とはいえ、現場で問題を起こせば個人で責任が取れるわけないんです。必ず上司や会社に迷惑を掛けてしまう。自分の行動がその会社を見極める判断材料になるということを自覚しないとダメです」

「その点ではうちは合格ってことかな?」

「お前の勝ちだよ(笑)」


さてはお前ら賭けてたな。

急に砕けた話し方に変わった2人を見て、


「お2人って…」

「「大学の同期です!」」

「…あぁ、そういうこと」


私は一気に力が抜けた。

要するにダシに使われたわけだ。

ダメ新人に対する当て馬として。

チッ!私の緊張を返せッ!

漫画なら口から魂が抜けている絵面だろう。

そんな私達をよそにどうやらクランクアップの儀式は無事終了したようだ。

さっき中央で龍斗が挨拶してたもんな。

聞いてなかったけど…。


「典ちゃん!」


急に名前を呼ばれハッと前を向くと、


「「お疲れさん」」


龍斗とRyoの2人が花束を私に差し出しながら笑顔で立っていた。


「記念写真撮ろうぜ」

「えっ?」

典平(ノリヘイ)は真ん中な」

「俺は?」

「別に郷田さんはいいよ」

「何でだよッ!」

「仕事のたびに撮んのかよ?」

「典ちゃんは初付き人記念だから」

「チッ!」


そんなやり取りをしながら私は両手に花、それもかなり豪華な花をはべらせて記念写真を撮った。

周りからの羨望の眼差しが突き刺さるようで早く現場から離れたかった私。

撮るならもっと人が少ないところで撮ろうよ…。




「お疲れ」

(コウ)君!」

「「(コウ)さん!!」」


待ち合わせの店に先に着いていた(コウ)君が爽やかな笑顔で私達を迎えてくれた。


「本当にいいのかなぁ?」

「いいの、いいの」

「無事終わった慰労会なんだから」

「私もちゃんと確認したから大丈夫!」

「さっ、食べようぜ」


郷田さんが手配してくれた高級中華の個室で、私達は久々にゆっくりと会話を楽しんで美味しい料理を満足ゆくまで味わった。

やっと明日から重責(プレッシャー)から解放される。

家に着いた私は深い眠りに落ちていった。





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