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~付き人・2日目~

第5章━3






付き人2日目。

朝から龍斗を叩き起こし、簡単な朝食を取らせてから家を出た私達。

昨日と同じく撮影所に着いた私は初日に覚えたことを頭の中で復習していた。


「まず龍斗は控え室で準備して、私は昨日と同じように身の回りの世話をする。そんで…」


やることを口に出していると、


「何?緊張してんの?」


龍斗が茶化してくる。


「今日から郷田さんはRyoについて回るんやから1人でもちゃんとせないかんやんか!」

「典ちゃんのすることなんて大してないから大丈夫だよ」

「そりゃ、主役のアンタに比べたら大したことないやろうけど、五十嵐さんの代わりなんやから私もシッカリせないかんやろ?」

「五十嵐ちゃんはシッカリしてないけど?」

「……もう黙れッ!」


そんな感じで控え室に着いた私は龍斗を"ハウス"させてからスタッフさんに挨拶へ行った。


「おはようございます」

「おはよう」

「おはようございます」

「おはよーす」

「おはようございます。あ、手伝いますよ」

「ありがとうございます。じゃあ、こっちへ運んでもらえますか?」


周りが働いていると自分も何かしなくちゃいられない仕事人間だった頃を思い出す。

やはり昭和生まれの私は泳いでいないと死んでしまうマグロのように、手持ちぶさたになると落ち着かないんだよな。

ただ忙し過ぎると鮫のように凶暴になるけど…。


「ありがとうございました。助かりました」

「いえいえ」

「そろそろ撮影準備も出来たようですから戻って下さって大丈夫ですよ」

「そうなんですか?ありがとうございます。じゃあまた」


そう言って私は龍斗を呼びに戻った。


「準備出来とる?」

「ん?どこ行ってたの?」

「おぉ、男前に仕上がっとるやん」

「当たり前だろ」

「喋んな。値打ちが下がる」

「なんだよッ!」

「そろそろ始まるみたいやで。役に入りなよ。王になる前とはいえ、龍斗のままじゃダメなんちゃう?」

「んなこと分かってるよ、見てろよ」

「おっ?言ったねぇ~」

「カッコいいって言わせてやるから」

「カッコいいのは知ってるけど?」

「典ちゃんは俺を褒めてんの?けなしてんの?」

「とにかく頑張ってこい!」

「分かった(笑)」


バカなやり取りをしてリラックスした龍斗が役者の顔になって現場へ向かった。


「横山龍斗さん入りましたぁ」

「おはようございます。よろしくお願いします」




さて、ここからは私の出番はない。

役者でもなく、本当のマネージャーでも付き人でもない臨時バイトの私なんて、撮影が始まった龍斗に対して出来ることなど限られてる。

せいぜい休憩の時に身の回りの世話をするぐらいだ。

なので、出来ることを探そう。

こんな機会は滅多にないんだからボーっとしてるのはもったいない。


まず控え室に戻って龍斗が散らかした部屋を片付けた。灰皿の吸い殻や飲み残しのペットボトルなどを処分する。

その後、廊下に出ると女性スタッフが昼の弁当の手配をしていたので一緒に手伝った。

役者用とスタッフ用に分けて、役者用はそれぞれの控え室に配膳してお茶と一緒にセットする。

龍斗の弁当が豪華だったのであわよくば分けてもらおうと思いながら…。


「ありがとうございました」

「いえ、大変ですね。こちらこそ勉強になりました」

「龍斗君の事務所の方ですよね?」

「あ、はい」

「撮影見てなくて大丈夫なんですか?」

「実は私、臨時の付き人なんです。役者の龍斗に素人の私が出来ることなんてないですから」

「そうなんですか?臨時でもあの横山龍斗の付き人なんて羨ましいです」

「うちの龍斗どうですか?ちゃんとやってます?」

「もちろん!私はこのドラマで初めてご一緒しましたけど、スタッフ受けイイですよ」

「ワガママとか言ってないですか?」

「そんなことないですよ(笑)」

「へぇ~、そうなんですね。ちゃんとしてるんだ」

「普段は違うんですか?」

「そこら辺の兄ちゃんと変わらないですよ」

「そんなことないでしょッ!?」

「まぁ、見た目が抜群なのは私も認めますけどね。でも私からすればヤンチャな息子ですよ(笑)」

「あっ!もしかしてSNSで龍斗君撮ってるのって…」

「私です、はい」

「えぇ━━━ッ!凄いじゃないですか!?」

「いや、大したことしてないですし…」

「私、いつも楽しみにしてますよ」

「ありがとうございます」

「じゃあ、仕事してる時の龍斗君のことはあんまり知らないんですよね?」

「そうですね」

「せっかくですからちゃんと見てあげてくださいよ。すごくカッコいいですよ。そろそろ休憩だと思いますし…」

「そうですか?じゃあ、ちょっと失礼して…」


現場へ行くとリハーサル最中の龍斗が真剣な顔で監督の指示を聞いていた。

確かにカッコいいやん。

真剣に仕事をしている男ってイイねぇ。

隅っこの方で見学していると本番の声がかかった。


このシーンは初めて心を奪われた愛する人を生涯の伴侶にしたいと若い龍斗が願い出るが、ヴァンパイアの一族から却下されるというところだ。


「ぐっ、うわぁッ!」

「カットッ!」


若き頃の龍斗が当時の王にはねつけられるシーンでカットがかかった。亀井監督が龍斗にアドバイスをしている。


「龍斗、ここは内に秘めた想いがもっと欲しいんだ。力では敵わない。が、愛する気持ちを偽れない。それが悔しい、でも譲れない。そんな葛藤する熱い思いを眼で表現してくれ」

「分かりました、やってみます」


出来るんかいッ!

あたしゃ、どう表現したらえぇんか分からんわ。

役者って凄いな。

そう思いながら龍斗に駆け寄り、倒されてついた衣装の汚れを払って、


「頑張れ」


そう一言告げた。

立ち位置に戻る龍斗の顔は男の顔だった。



何度もやり直してOKが出た時の龍斗の眼は、素人の私から見ても気迫が伝わる良いものだった。

監督も納得する出来だったのか、しきりに龍斗の頭をクシャクシャにしながら誉めていた。

…役者って大変やなぁ。

他人の─この場合は亀井監督─頭の中にある光景を演じなければならないなんて。

龍斗頑張ってんなぁ。

私なんか夢で見た過去を書き出すだけだし、翻訳もスキル頼みだし…。楽してんなぁ。

もっと頑張んなきゃ。


私は大道具さん達がセットの準備をしている間に龍斗を控え室に連れて行き豪華な弁当とお茶、それにタバコを渡した。


「急いで食べて次のシーンの予習しとこう」

「何張り切ってんの?(笑)」

「いやぁ、アンタ凄いわ!私、龍斗のことナメとった」

「はぁ?」

「普段からは考えられんぐらいちゃんとしてたやん」

「それだと普段ちゃんとしてないみたいじゃん」

「起きろ━って言っても全然起きなくて、毎朝私にベッドから引きずり出されてる奴と同一人物には見えんかったわ。あっ、そのエビ1つちょうだい」


私は龍斗の弁当からエビを拝借した。


「あっ、勝手に取んなよ。それに朝は眠いし特に今みたいに寒いと布団から出たくないわけよ。これ1個も~らい」

「ちょ、何しよん!アンタの弁当豪勢なんやから、ひもじい私のオカズ取らんといてよ」

「俺の弁当、チキン南蛮入ってないし」

「焼肉があるやん!牛やで牛!鶏と大違いやん!」

「ケチケチすんなよ」

「せっかく褒めてやったのに…」


そんな2人のやり取りを衣装を持ってきたスタッフが呆気に取られて見ていた。


「あっ、うるさくしてごめんなさい」

「典ちゃんが大人気ないから」

「うるさいッ!」

「………仲いいですね、お2人とも」


衣装さんが微笑ましそうに私達を見る。


「いつもこうなんですか?」

「こうって?」


龍斗が聞き返す。


「すごく自然体だなぁって。失礼ですけど、立場も年も性別も違うのにメッチャ仲いいじゃないですか?不思議だなぁと思って…」

「家族だからじゃない?」

「「えっ?!」」


スタッフと龍斗の声が揃った。


「えっ?って龍斗、それはないやろ。私はアンタを家族やと思っとるよ。息子に近い弟みたいな」

「そうなんだ…」

「当たり前やろ!もちろんRyoも家族やで。(コウ)君と一緒に4人家族として暮らしてるつもりやで私は。そりゃ、ホントの子供もおるけど、たいして変わらんやん(笑)」

「すごいですね、天下の横山龍斗とRyoを家族って言い切るなんて…」

「いつも一緒にいるから感覚が麻痺してるのかもね。だから役者の龍斗は凄いって素直に認めるわ。さっきの演技はマジで良かった。さすが()()()()やって内心自慢してたもん」

「親バカだな…」

「分かります!確かに良かったですよね。亀井監督があんなに誉めるの珍しいんですよ!」

「そうなんですか?」

「えぇ、ほんとに」


チラッと龍斗を見るとちょっと恥ずかしそうに照れていたが嬉しそうだった。


「じゃあ、次の衣装はこちらに置いておきますので、お邪魔しました」

「いえ、こちらこそお騒がせしました」

「あざーす」


衣装さんが出て行った後、私は龍斗の頭をクシャクシャと撫でた。


「何だよ?」

「良かったってさ」

「当たり前だろ、俺だぞ!」

「おっ?言うねぇ。じゃ、さっさと食べて次のシーンに備えよう!」

「俺、ほとんど終わってるけど」

「あっ、焼肉1枚欲しかったのにぃ~」

(オセ)ぇよ。早く喰えよ」

「龍斗のケチ」


その後、龍斗が台本を読み返している間に私は弁当を片付けて、自分が手伝えることを探しできるだけスタッフさんのサポートに努めた。

役者のことは分からないけど、裏方さんの雑用を手伝うくらいなら何とか出来るかも?って私なりに考えたわけだ。


弁当の空き箱を集めて業者に返したり、ヴァンパイア役の外国人の通訳をかって出たりして。新人だった頃を思い出すなぁ、と若かりし頃を懐かしみながら…。


そうして私の付き人2日目は過ぎていった………。




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