~付き人・初日~
第5章━2
あの後、マンションに帰った私達はそれぞれの休日を過ごした。
がっ!
私はそれどころでなかった。
急に付き人を頼まれても業界のことは全く分からないし詳しい話は明日教えてくれるってことだが、最低限のことは準備さておきたいという会社務めをしていた人間の悲しい性。
「なぁ、明日ってどこで仕事するん?」
Ryoと龍斗に尋ねる私。
「ん~?郷田さんが連れてってくれたとこで言われたように仕事するんだよ」
「なんじゃそりゃッ?」
龍斗が役に立たない返事をする。
仕方なくRyoに聞く。
「なぁ、Ryoは明日のスケジュール知っとんやろ?」
「だったら?何だ緊張してんのかよ典平?」
「そりゃするやろ!アンタらに恥かかす訳にはいかんのやけん!何着てったらえぇんやろ?やっぱスーツ?郷田さんいつもスーツやもんな?」
「典平はマネージャーじゃなくて付き人なんだから何でもいいんじゃない?」
「ホンマに?ジーパンとかでも大丈夫?」
「いや逆にスーツの方が目立つと思うけど…」
「そっか。ラフな格好の方が動きやすいしな」
「五十嵐ちゃんの代わりだろ?大して期待してないから、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」
「……アンタそれは五十嵐さんに失礼やで…」
「・・・」
「なんとか言えやッ!」
私の心配をよそに2人は光君がアップしてくれた自分達のSNSをチェックしていた。
「こん時の龍ってマジで子供丸出しだな」
「楽しかったんだよ」
「大ハシャギだったもんな?」
「見てたら分かるよ」
「今度は光さんも一緒に行こうぜっ」
「大人4人で遊園地ってのも案外いいかもな」
「ホント?光さんが行くなら俺絶対休み取るよ!」
「だよな、Ryo!典ちゃんもだろ?」
「はいはい、行きますよ~」
気分は引率の先生だけどね…。
「ほんで、反応はどんな感じなん?」
「凄いよ典ちゃん。見て、さすがだよ!」
光君がスマホを私に向けると、そこには短時間でアッと言う間に増えた『いいね』と歓喜のコメントが溢れていた。
「特に典ちゃんお薦めNo.1の『デートなう』風の動画は凄い反響だよ。龍斗バージョンとRyoバージョンもそうだけど、2人セットバージョンの反応がヤバいね」
「ふふ~ん、やと思った」
「何だよ典平、分かってやったのかよ?」
「考える間でもないやん。
アンタらみたいな超絶イケメン2人から、
『どっちと一緒に過ごしたい?』
って迫られて嬉しくない女がおるわけないやん!
気分はお姫様やで。自分を取り合うRyoと龍斗。
あり得んからこそ、この動画は萌えるんやぁ~」
「よく分かんねぇや、俺」
「俺も」
「ドラマの主人公気分になれるってこと!」
「「あ~ぁ、なるほど」」
「みんながみんなアンタらみたいな主役人生歩んでないからね?脇役が大多数なんやから。嘘でも嬉しいんやって。幸せ気分味わえるやん!?」
そう言いながら他も見ると、ジェットコースターで万歳しながらはしゃいでいる龍斗とRyoの動画があった。
光君が上手く編集しているが絶叫する私の声はしっかり入っていた。
「顔は編集でカットしても声はしっかり出てるな…」
「龍と典平、大笑いしてたもんな」
「アンタは必死につかまってたな?」
「大声で叫んで喉痛めないようにしてたんだよ!」
「ビビって声出なかったんちゃうの?」
「ちげぇ━よッ!」
日曜の午後は和やかな雰囲気の中で過ぎていった…。
そして月曜の朝。
早朝から郷田さんが迎えにやって来た。
Ryoは朝の生番組や昼の情報番組などでNEWアルバムと2時間SPの番宣をしてまわり、龍斗はそのSPドラマの撮影に向かうそうだ。
「しばらくは大変だろうから家のことは気にしなくていいから。典ちゃん頑張って」
「光く~ん、ありがとう~」
「光さん、俺も俺も」
「お前が頑張るのは当たり前だろ」
「ははっ、もちろん龍も亮も頑張ってな。あと、典ちゃんに迷惑かけんなよ」
「「はぁ~い」」
相変わらず光君にだけは従順な2人だ。
郷田さんの目が死んだ魚のように見えたのはきっと気のせいだろう…。
「では吉岡さんをお借りします」
「よろしくお願いします」
「「「じゃ、行ってきま~す」」」
私達の怒濤の1週間が始まった。
「ここが現場です」
そう言われて案内されたのは都内の撮影所だった。
短期間の強硬スケジュールで撮影する今回は、龍斗のドラマのSP版だ。
最終回には今までの最高視聴率29%を超えるのは確実と言われているドラマ"ヴァンパイアキング"の前日譚が主なストーリーのようだ。
「なぁ、龍斗。もう最終回まで撮ってるんやろ?結局最後はどうなるん?」
「それは見てからのお楽しみだよ」
「ちょっとだけでも教えてよぉ~」
「ネタバレは楽しみが減るよ?」
「まぁ、確かにそうかもね…」
ドラマはヴァンパイアの王として1000年以上君臨している龍斗が、遥か昔に想いを通わせた相手と瓜二つの生まれ変わりの人間の女性と、同種族の婚約者との間で揺れ動くラブストーリーだ。
単純な恋愛ドラマではなく、人間との違いやヴァンパイア種の身分の上下や歴史など、もちろんワイヤーで吊るされて夜空を舞うアクションもあって視聴率はかなり良かった。
最終回に龍斗がどちらを選ぶのか今ネットで盛り上がっている。
今回のSPドラマはその前日譚で、ヴァンパイアキングになる以前の話であり、唯一愛した相手との出会いから別れまでが描かれているようだ。
「私、冷静に見返して龍斗のラブシーンは恥ずかしくなるけど、この前の演技は凄かったと思うよ!」
「どれ?」
「ヴァンパイアの反乱軍との戦いのシーンやって」
「あぁ…」
「あん時の龍斗は"キング"って感じがマジでした。演技って分かってても画面ごしから怒りが伝わってきたもん!」
「だろうね、マジでキレてたから…」
「へっ?何で?」
「それより俺のラブシーンが恥ずかしいってどういうことだよ?下手くそってことか?」
「身内のラブシーンなんて恥ずかしいに決まってるやん!」
そんなことを言いながら撮影所に入っていった。
撮影所の中はセットがたくさんあり、見るもの全てが新鮮だった。
スタッフの皆さんに挨拶をしながら郷田さんに連れられ監督のところに案内された。
すでに他の事務所の人達が挨拶していたので、近くで順番をまっていた私はとても緊張していた。
「あの人が亀井監督?私、あの監督の映画好きなんや」
そんなことを言ってる間に私達の順番が回ってきた。
「おはようございます、亀井監督。横山龍斗です。よろしくお願いします」
「横山龍斗です」
まず郷田さんが挨拶して、龍斗を紹介する。
その後、龍斗本人が監督の前に出て頭を下げている。
郷田さんに促され私も龍斗の後ろから顔を出し仕事モードに切り替えて挨拶をする。
「吉川と申します。短い間ですが、よろしくお願いいたします」
「ん、うむ。よろしく」
続々とやって来る人のために、挨拶の場を譲って私達は前室に下がった。
緊張が解けたところで周りを冷静に見ると、各事務所の俳優の付き人らしき人達はみんな若い。
40歳超えてるのは私ぐらいだろう。
うぅ、体力では負けても私には20年以上の社会人としての経験がある、負けるもんかッ!
「周り若い子ばっかりですね?」
郷田さんにそう言うと、
「あっ、気づきました?」
「えっ、何か意味あるんですか?」
「まぁまぁ、吉川さんは臨時なんで気にしなくて大丈夫ですから」
「典ちゃんが1番新人なのに1番古株っぽい付き人だな(笑)」
「黙れッ!」
龍斗の頭をこづきながら1日のタイムスケジュールを確認して私の付き人初日が始まった。




