~ひとときの休日~
第5章━1
マンションに着いた時は夜中になっていた。
ドアを開けて勢いよく入ると、わざわざリビングから光君が出迎えてくれた。
「3人ともお帰り。楽しかった?」
「光君、ただいまぁ~」
「メッチャ楽しかったよ!」
「お守りが大変だったけどね」
「とりあえずコーヒー入れてるから暖まりなよ。
あっ、典ちゃんはカフェオレにしてるから」
真冬の深夜に帰って来た私達にコーヒーまで入れて─それも私の好みまで把握して─待っててくれる出来る男、それが光君だ!
さすが私達が惚れ込んだ男!
「やっぱりお家が1番やねぇ~」
そう言いながらタバコに火をつけた私に、
「お疲れ様」
と笑いながらカフェオレを差し出す光君。
最高に萌えるわぁ~。
なんでこんなえぇ男が私に惚れたのか未だに謎やゎ。
やっぱ"幸運スキル"のお陰かな?
光君見てると幸せを実感する。
ずーっと見ていられる。
あっ!
もちろん龍斗やRyoも見てるだけならマジで幸せ。
鑑賞用イケメン枠では間違いなくTOPの2人。
間近で見ることができるのは女冥利に尽きるけど、中身が子供だからなぁ。
ヤッパ大人の魅力を兼ね備えた光君の域にはまだまだ届いてないね。
つうか、惚れた欲目かも(笑)。
そんなことを考えていると昼間のテンション冷めやらぬ龍斗が、光君に動画や写真を見せながら今日1日の出来事を説明していた。
遠足から帰ってきた子供かよ、と思いつつ私も会話に参加した。
「光君さぁ、コレをSNSに載せたいんやけど?」
「遊園地の?」
「そう、私が写ってるのは外して」
「どれにすんの?」
「最後のジェットコースターと白馬の王子様は絶対だし、観覧車の中で撮った"デートなう"風の動画は外せないっしょ?これは番組のカメラで撮ってないからレアもんだし。絶対話題になるって!」
ファンからしたら涙もんやで。
そう確信していた私の横からRyoが口を挟む。
「メリーゴーランドはやめろよなっ」
「なんで?」
「いい年してカッコ悪いだろ?」
「Ryoはそうかもしれんけど龍斗は楽しんでたで?」
「イメージっつうもんがあんだろ?」
どっちも引かない私達を仲裁できるのは只1人。
光君が慣れたように止めに入った。
「はいはい、分かった。じゃあメリーゴーランドは写真でアップして、ジェットコースターと観覧車は動画でアップしよう。後は上手く編集するから」
「光さんがやってくれるなら任せる。なっ、龍?」
「俺は何でもいいよ」
「えらい態度ちゃうやん」
「光さんと同じだと思ってたのかよ典平?」
「アンタその呼び方気に入っとんやろ?」
「わりと(笑)」
「俺は典ちゃんって呼ぶよ、光さんと一緒だし」
「龍斗はえぇ子やなぁ~」
龍斗の頭をナデナデしてやる。
「典平ってアダ名つけられたの?」
「そうなんやって、遊園地で急に『典平』って!」
「別にいいだろ…」
「なんて呼べばいいか悩んでたもんな?」
「ちょ、ちょっと、光さんっ!」
「えっ?どゆこと?」
「吉岡さんとか典子さんは他人行儀だし、
俺の彼女を典ちゃんって呼ぶのは失礼だし…って、
亮なりに気にしてたんだよ」
「そうだったん?」
「光さんッ!!!」
相手が光君なだけに怒ることもできす、恥ずかしそうに拗ねた顔をしているRyoは可愛かった。
いつも私に対して毒舌のRyoだけど少しは認めてくれてたんだなって嬉しくも思った。
「そっかそっか。身内に対する愛情を込めたアダ名だったわけね、典平は。なら許そう(笑)」
Ryoの頭もナデナデしてやる。
すると、
「そっちだって身内に対する愛情で決めたんだろ?」
「えっ?何が?」
ナデナデする私の手を振り払いながらRyoが言う。
「知ってんだぜ。何で脱落の道連れにするターゲットを淳史に決めたのか」
「えっ?!」
「それ俺も聞いた!嬉しかった」
「淳史って奴が龍のことバカにしたんだって?
それでターゲットとしてロックオンしたんだろ?」
「典ちゃんサンキュー♥️」
「光君ッ!!!」
「ゴメンッ!つい…」
明日は─すでに今日だが─日曜ということもあり深夜のバカ騒ぎはまだまだ終わりそうになかった。
翌朝・・・
全員休みということもあり、久々にゆっくりとした朝を迎えた。
光君がアップしてくれた2人のSNSの反応を後でゆっくり見ようっと。
10時を余裕で回っていたので、こりゃあ朝昼兼用のご飯を作らねば…とキッチンへ向かった。
その時!
携帯の音がリビングに鳴り響いた。
まだ3人は寝ているので─あの後アルコールも加わり明け方まで盛り上がったため─起こさないようにダッシュで携帯を手に取る。
「はい、もしもし」
「あっ、吉岡さんですか?おはようございます、郷田です。朝早くからすみません」
もう昼前で早くもないが、昨日家まで送ってくれた郷田さんは深夜に帰宅したことを知っているため、一応気を遣ってくれてるみたいだ。
「いや、それは大丈夫ですけど。どうしたんですか?今日は2人ともオフですよね?」
「えぇ、それはそうなんですけど…。
ちょっと問題が起きまして…」
なぜかイヤな予感がする…。
「近くに来ているので少しお時間頂けますか?」
「まだ2人とも寝てますよ?」
「じゃあ、2人が起きたらちょっと出て来れますか?もちろん皆さん一緒に。ちょうどランチも兼ねていい時間ですし…」
「はぁ…じゃあ起こしたら連絡しますね」
「よろしくお願いします。◯◯って龍斗も知ってる店にいますので」
「分かりました、じゃあ後程…」
そう言って電話を切った私はとりあえず3人を起こしにかかった。これが1番大変なんだよなぁ。
龍斗、Ryo、光君の順に起こして回った。
外出するならどこで誰に見られるか分からない芸能人は身だしなみにも気を配らないとね?
先に起こして身支度させなきゃ!
本音は可能な限り光君の睡眠を邪魔したくなかったからだが、それは2人には内緒だ。
待ち合わせの店に着いた時は12時を少し回っていた。
日曜のランチタイムで店は混んでいたが、郷田さんが伝えていたのか入るとすぐに店員が奥のテーブルへと案内してくれた。
「おうっ、待ってたぞ」
「なんだよ、郷田さん」
「オフの日まで顔見たくないよ」
「何とか起こして来ました…」
「いつも2人がお世話になってます」
それぞれが思い思いの言葉を口にしながらテーブルにつくと、まずは腹ごしらえだとばかりに郷田さんはメニューを開いて私達に渡してくれた。
私と光君は軽めに済ませたが、若い2人はガッツリ食事を取っていた。
そして食後のコーヒーを飲んでいる時に本題へと入った。
「実は明日からのことなんだが…」
郷田さんがカップを置きながら口を開いた。
「龍斗…ドラマ撮り終えたばかりだけど、すでに2時間SPが決定してるのは知ってるよな?」
「えっ!そうなんですか?」
知らなかった私は驚きながら龍斗を見た。
「監督から聞いて知ってたけど、それが?」
「龍斗すごいやん!ドラマが好評だったからやろ?」
「やったな、龍」
私と光君から褒められて満更じゃない様子の龍斗は少し照れたように笑った。
「それで2時間SPは他の出演者のスケジュールもあって来週からの1週間ほどで一気に撮り終える予定なんですよ」
「へぇ~、大変ですね」
自分が出るわけじゃないので─所詮他人事─軽く受け流す私。
「回想シーンはすでに撮影済みのものを差し込むので新たに撮るのは実質1時間半分なんですけど、かなりタイトなスケジュールになってるんです…」
「なるほど、スタッフの皆さんも大変ですね」
相づちを打ちながら受け答えをしているのはなぜか私で、当の龍斗本人は食後のデザートまで頼んでいた。
「そうなんですよ。それにこの2時間SPではRyoのNEWアルバムから挿入歌が選ばれているんです」
「そうなん?やるやんRyo」
「当たり前だろ」
素っ気なく答えるRyo。
「それでどうされたんですか?」
ふいに光君が郷田さんに問いただした。
「わざわざ休みの日に呼び出すなんて何かあったんですよね?」
核心をついた発言だったのか、
「はい。吉岡さんにお伺いしますが、リアリティー番組は脱落したので今後の撮影はありませんよね?」
「へっ?あ、はい」
「その番組に参加するために翻訳の仕事やらをまとめて片付けたんですよね?」
「えぇ、まぁ。迷惑かけられないんで…」
何かイヤな予感が的中しそう…。
「お願いがあります。申し訳ありませんが明日からの1週間、スタッフとして撮影のお手伝いをお願いできませんでしょうか!」
「「「「はぁぁぁ?」」」」
さすがにこの発言には全員が『?』となった。
「実はRyoのマネージャーの…」
「五十嵐さん?」
「はい、その五十嵐がインフルにかかりまして…」
「マジかッ!?」
これにはいつも冷静なRyoが1番に突っ込んだ。
「さすがに声が命のアーティストRyoにインフルの人間がつくわけにもいかず、五十嵐は休みを取らせたんです。でも明日からRyoのNEWアルバムと龍斗の2時間SPのプロモでアチコチ回るんですが、五十嵐の抜けた穴を埋める人手が見つからなくて…」
「事務所に他のスタッフさんもいるでしょ?」
「この2人はちょっと扱いづらくて…」
「「何だよ、扱いづらいって!」」
おっと、珍しくツッコミがハモった。
「昔のお前らの行動を思い出してみろッ!
人見知り激しいし、ワガママ放題だし、スタッフたちがビビってんだよッ!」
「「・・・」」
「なるほどねぇ…」
事務所のドル箱スターである2人に強気に出ることができる人間がいないってことか。
「それって、私に対するお願いですよね?何で光君まで呼んだんですか?」
「…実は中村女史いわく、吉川氏がいた方がスムーズに話が進むと言うものですから」
あの天敵かぁ━━━ッ!
敵ながら見事な洞察力。
「おおまかな仕事はもちろんこちらでこなしますので、2人の付き人ってことで身の回りの雑用をお願いしたいんですよ」
「どうせ拒否権なんてないんでしょ?」
しかめっ面で呆れながら聞き返す私に、
「ありがとうございます。本当に助かります!」
満面の笑みで頭を下げる郷田さん。
最初っから出来レースやん、コレ。
私の仕事の状態まで調べあげて頼んできてるし。
恐るべし中村女史。
「ちょっと待ってよ!」
そこに待ったをかけたのはRyo。
「明日から1週間、俺らにつくってこと?
俺らの意見は?」
「俺は別に典ちゃんでもいいけど?」
「龍は黙ってろよ!」
「お前ら2人に反対する権利はないからな。
今までの行いを考えてみろ?」
「チッ!」
「そういうことで、よろしくお願いします」
「はぁ。なにせ右も左も分からないので、邪魔にならないように頑張ります」
なぜか1週間限定の付き人になることが決定した。
番組からやっと脱落して、仕事もしばらく入ってないからノンビリ過ごすつもりだったのに…。
「典ちゃんなら安心だよ」
と、呑気にコーヒーを飲みながら微笑む光君が少しだけ恨めしかった。
吉岡典子、42歳。一度死んで異世界で転生し、その異世界で亡くなった魂が元の体に戻るという、とてつもないイレギュラーな体験をした主人公。スキル持ち。二人の子供を持つバツイチのシングルマザー。現在、吉川光輝と"結婚しない"ことを条件にパートナー関係にある。
吉川光輝、37歳。あだ名は光君&ヨッシー。バツイチのゲームクリエイター。身なりに無頓着でちゃんとしたらモテるのに敢えてオタクを装おっていたイケメン。物好きにも典子に惚れた奇特な男。
吉川涼也、24歳。Ryoと言う名前で活躍する超人気アーティスト。国民栄誉賞を与えたいイケメンNo.1。忙しかった両親の代わりに幼少の頃から親代わりに育ててくれた叔父の光輝を光さんと慕っている。吉川光輝の甥で横山龍斗の親友。
横山龍斗、21歳。若手No.1のイケメン俳優。テレビ、CM、映画と人気抜群の国民的スター。ただし15歳より前の過去は謎に包まれている。スキャンダルも人気のうちと流した浮き名は数知れず。それすら人気に繋がる、吉川涼也とは親友。
郷田さん。独身貴族の龍斗のマネージャー。
五十嵐さん。Ryoと同い年の新人マネージャー。
中村さん。Ryoと龍斗の所属する会社の社長秘書。




