~王子は魔女に騙されない・番外編②~
第4章━12
「「「キャァァァ━━━━ッ!」」」
「本当にいいんですか?」
「「「嬉しい━━━━ッ!!」」」
「マジ、ラッキーっすよ」
「今回、参加して良かったぁ♥️」
「確かに記念になるよな?」
それぞれが思い思いの言葉を口にしているが、今は番組参加者の10人と私達3人を含めた夕食のシーンを撮っていた。
押さえておいた遊園地内の有名なステーキレストランでいったん集合してみんなでお食事といったところだ。
「典ちゃんどれにする?」
「私はこれかな?Ryoは決まった?」
「俺はコレ」
「じゃ、俺はコッチにするわ」
「なら分けっこしようよ」
「欲張りだな」
「色々食べたいやんかぁ。なぁ?」
急に話を振られたメンバーは私を見て、
『私?私に聞いたの?』
とばかりにアタフタしていた。
メンバーの緊張や興奮はさておき、私達3人は普段の家のように食事をしていた。
いや、1人テンションが高い奴もいたが…。
そう、龍斗だ。
やはり初体験の遊園地はかなり楽しかったのだろう。
龍斗とRyoだと龍斗の方が断然喋る。
だが食事中も普段よりよく喋った。
そのお陰でメンバーも少しずつだがリラックスしてきたようだ。
「普段もこんな感じなんですか?」
勇敢にも話しかけてきた強者がいた。
洋輔だ。さすがリーダー。
みんなも喋ってみたいが照れや遠慮もあって声をかけられなかったのだろう。
「ん?俺ら?そうだね。こんな感じかな?」
そう龍斗が答えると、
「龍、誤魔化すなよ。普段の典子さんはもっと怖いって正直に言えよ」
「Ryoッ!これテレビやで!忘れんな!」
「確かに、今日は優しい方だな(笑)」
そう笑いながら答えた2人の頭をそれぞれ左右の手で軽く叩いた私。
両隣にいる超絶イケメン達の頭を何の躊躇もなく叩いた私に女性陣からは悲鳴が、男性陣からは驚きの声があがる。
そりゃ、番組内では猫かぶってましたからねぇ?
プレッシャーと同じくらいの猫を100匹ほど背負ってたからねぇ。
「典江さんの彼氏ってどんな人なんですか?」
そんな中、勇気ある2人目が話しかけてきた。
もう1人の魔女役、桜だった。
「光さん?カッコいいよぉ~」
「最高の男だな」
龍斗に続き、わりと無口なRyoが食い気味に答えた。
ヤバい!光君大好きな2人にこの話題は!
番組と関係ない人物─それも顔も見たことない知らない男─の話がここから広がっても困る。
そんな私の心配をよそにさっそく2人は光君の魅力を力説し始めた。
「Ryoの叔父ってことから見た目は言うまでもないだろ?その上、中身も最高!」
「そう!俺の自慢の叔父だからね。仕事も出来るし性格も最高。あんな大人になりたいって子供の頃から憧れてた」
「俺は初めて信頼できる大人が光さんだった」
「「男が惚れる理想の男だよな!」」
若干、周りが引くくらいの勢いで喋り出す2人。
それも矢継ぎ早にベタ褒めだし。
これは早く締めないとキリがないぞ。
「とにかく私達って光君大好きな3人が一緒に住んでるって感じかな?」
「確かに光さんを中心に俺らって暮らしてるよな?」
「女の趣味だけは理解できないけどね…」
「Ryoッ!!!」
最後は私がオチに使われた気がしないでもないが、とりあえずこの話題は終了だ。
後は和やかな空気の中で食卓は囲まれた。
その後、また別行動となり私達3人は時間の許す限りアトラクションを楽しんだ。
もちろん私は龍斗の"初遊園地体験"を最高の思い出にすべく、残りのリクエストに全て応えた。
大型船のバイキングが1回転した時の龍斗の驚きの表情なんか、永久保存版で残しておくべきだろう。
おかわりを希望したジェットコースターも一緒に乗って、今はラストの観覧車前だ。
「じゃあ、すみませんがそういうことで…」
ふいにRyoがスタッフへと断りを入れた。
どういうことか尋ねる前に順番が来て私達は観覧車に乗り込んだ。
そこで初めて『長くてもせいぜい10分程度だろう観覧車の中だけは、撮影をストップして欲しい』とRyoがスタッフに頼んでいたことを知った。
有名になったからこそプライベートでなかなか来ることの出来なくなった遊園地。
(騒ぎになった場合の安全面などを考慮して)
だが、有名になる前から1度も遊園地に来たことがなかった龍斗の為に、最後に少しでもプライベートの時間を確保してあげたかったRyoの想い。
本当に2人ともいい子達だ…。
「どうだった龍?楽しめたか?」
「うん!最高だったよ!」
「良かったやん」
ホッとする私とRyoに向けて、
「ありがとう」
と、龍斗が真剣な顔で話し出した。
「典ちゃんも気付いてたんだろ?」
「えっ、何が?」
「俺が普通の子と違ってこういう思い出がないってことに…」
「………。」
何も言えなかった…。
というか、何て言えばいいのか分からなかった。
「いや、別に2人が落ち込む必要なんてないから。
『楽しかった』それが全てだよ」
そう言う龍斗に隣のRyoが肩を組んで、
「これからもっと楽しい思い出が増えるしな」
と、笑って言った。
私も目の前の2人を見ながら、
「そうやで龍斗。これからいっぱい楽しいことや面白いことが出来るんやから。まずは今日の遊園地動画をSNSにアップせないかんしな」
と、メリーゴーランドに乗っている2人を見せた。
「それ載せるの?」
「さすがに恥ずかしいからやめてくれ」
「まさに王子様やん(笑)」
観覧車の中の3人は今日1番の笑顔だった。
「龍斗、、、嫌なら答えなくていいよ?」
私は前置きして話しかけた。
「小さい頃、何か楽しかった思い出ってないの?」
そう尋ねた私に龍斗は、
「ん~、あっあるよ。ひとつだけ…」
少し考えた後、思い出したように答えた。
「俺の兄貴分がいてさぁ。まだ体も小さくて弱かった俺を守って鍛えてくれたんだ。俺が怒られて殴られそうになると庇ってくれたし、ケンカの仕方を教えてくれたのもその兄貴だった…」
「ケンカの仕方ってアンタ…」
「護身術みたいなもんだって、な?」
Ryoが助け船を出す。
「まぁ、そんなもんかな?なんせ虐待で弱っていく奴も多かったから、兄貴が鍛えてくれて…。練習してる時が1番楽しかったかも。他にすることがなかったってのもあるけど、何かに夢中になるって言うの?そんな感じだったな。技を覚えて兄貴に褒められると嬉しかった覚えがあるよ」
懐かしそうに思い出を語る龍斗にふと聞いてみた。
「その兄貴分とはどうなったん?」
「あぁ、兄貴とは年がかなり離れてたから先に施設から出て行ったんだよ。俺が8歳くらいの頃かな。いつか迎えに来るからって約束してたんだけど、その前に俺が飛び出しちまったからさ…、その施設も今はもうないしな。小さい頃の記憶でおぼろげだし、顔だって変わってるだろうからまた会える可能性はないだろうな…」
「そっかぁ、残念やな。でもそんな人がおったんや?えぇ兄貴分やん。あっ!だから龍斗は光君大好きなんや!年上の兄貴ってのが鍵やろ?」
「あぁ、なるほど!そう言われるとそうかも」
Ryoも納得したようだ。
「でも、光さんとしぃ君は全然タイプが違うぞ?」
「しぃ君って呼んでたの?可愛い~♪」
「可愛いってなんだよ。違うよ、俺が13番目で兄貴は11番目に入ってきたから」
「それで何でしぃ君になるん?」
「俺は13番目だったから十三って名前だったけど、兄貴は11番目だったから本当は十一って付けられてたんだ。でも十一って漢字で書くと"士"って読めるんだろ?それで兄貴は自分で、
『俺は"十一"じゃなく"士"だ。だから"士郎"だ』って言ってさ」
「えぇ~、カッコいい兄貴やん!」
「だろ?」
「いや、でも"四郎"って名前の奴はいなかったのかよ?」
Ryoが素朴な疑問を問いかけた。
「確かにいたけど死んじゃったから」
「「!!」」
Ryoと私は言葉を失った。
そうだ。
警察の摘発を受けたぐらいなんだから、まともな施設じゃなかったんだ。
虐待や育児放棄など何でもアリだったんだろう。
「それで"四郎"は欠番扱いだったから。"四"と"死"で縁起も悪かったんじゃね?」
「そっか…。元気でいるといいね」
「そうだな。でもしぃ君なら…兄貴なら絶対元気でいると思うよ、俺!」
「そやね。なんせ士だもんね」
「おうッ!」
「そろそろ来たんちゃう?」
湿っぽい話から切り替えるのに丁度いい具合にてっぺんにやって来た。
「写真撮ろうよ」
「そこは動画じゃねぇの?」
「どっちでもいいから早くしろよ」
3人でワチャワチャしながら夜景込みで思い出を撮ると、下に着くまではサービス動画も撮ってみた。
プライベートの楽しい時間はアッと言う間だった。
「お疲れさまでしたぁ~」
係員に促されて観覧車から降りた2人の顔は、さっきまでと違ってもう芸能人の顔になっていた。
降りてきた2人を見て、並んで待っていた人達が一斉に驚きすぐさま歓声があがる。
それに応えるよう完璧な笑顔を振りまく2人。
何だかんだ言ってプロだな。
私は黒子に徹しようっと…。
番組の女性ADが外していたピンマイクを再び2人につけようとしたが、
「今日はもう終わりっしょ?」
龍斗が小柄なADさんの肩に手をやりながらそう言うと、上司の意見を聞くまでもなく、
「はいっ。そうですね」
と上ずった声で返事をしてた。
嬉しかったんだな、きっと。
分かる、分かるぞ!
私も初めて空港で逢った時は同じ気持ちだったよ。
さすがに顔には出さなかったけどね。
「それでは失礼しまぁ~す」
明るく挨拶をする龍斗。
「色々とお騒がせしました」
大人の対応をしているRyo。
私はというと、参加メンバーと最後のお別れをしていた。
「典江さぁ~ん、寂しくなるよぉ~」
「本当は典子さんだっけ?どっちでもいいか」
「典さんでいいじゃん」
「色々とありがとう」
男女入り乱れてハグしまくってる。
「頑張れ、透!」
控え目な透にハッパをかける。
「じゃあね、桜」
そう言って桜とハグした私が耳元で、
「後は頼んだ、仲間よ!」
と囁くと、桜は一瞬目を見開いたが、
「任せといて!」
と笑って返事をした。
「頑張れよ、誠」
桜と同様に誠とハグした私が耳元で、
「誠なのに詐欺師ってウケる(笑)」
と呟くと、
「えっ!?」
動揺した誠が私をバリッと引き離した。
不思議に思ったみんな視線が集中したため、
「照れんなよ」
と言いつつ再度ハグして、
「やるからには徹底しな。半端すんなよ」
と餞別の言葉を残した。
驚いていた誠も冷静になったのか、
「あぁ、ありがとう」
そう言って握手をした。
「典平、帰るよ」
Ryoの意地悪そうな声が聞こえた。
「誰が典平やッ!」
すかさずツッコミを入れる私に、
「典ちゃん、ダッシュ!」
龍斗が両手を広げて私を待っている。
あぁ~、今の私の居場所はここなんだって思った。
やっと魔女役が終わって、素の自分に戻れると思うと心からホッとした。
早く家に帰って光君に逢いたい!
で、今日の出来事を4人で笑いながら話したい。
『楽しい時や嬉しい時に一緒にいたいと思う人、悲しい時や寂しい時に一緒にいてあげたいと思う相手はどちらも自分が好きな人なんだ』
ふいにそう気付いた。
だって今の私は飛んで帰りたいくらい光君に早く逢いたかったから。
たぶん2人も同じ気持ちだろう。
私が撮った動画や写真を見ながら、
「光さんに見せようぜ」ってはしゃいでる。
龍斗もRyoも私と同様に早く光君に会いたいのだろう。
「お待たせっ」
そう言いながら2人に近づくと、
「あっちで郷田さんが車で待ってるから」
と、龍斗が言った。
「えっ?郷田さんが迎えに来てくれたん?」
驚く私に、
「典平の荷物も積み込んでるよ」
と、シレッと答えるRyo。
「マジかッ!?こんなとこまで悪いやん。つうかRyo、典平っていつまで呼んでんのッ」
「フッ」
あっ、コイツ鼻で笑いやがったな。
「じゃあ、とっとと帰ろうかぁ~」
そう言って2人の間に飛び込んだ私を笑いながら受け止めてくれたRyoと龍斗。
最初の出会いから考えると信じられんくらい距離近づいたよね?
仲良くなれたと思うのは私の勘違いじゃないよね?
何か色々あったけど、結果楽しい1日だったな。
久々に子供らへ電話してみようっと。
そんな気分にさせられた1日だった。




