~王子は魔女に騙されない⑥~
第4章ー10
る
「じゃ、また来週だな…」
「このメンバーで会えるといいですね」
「なんか恋愛よりも男同士の結束が深まったな(笑)」
「「「確かに!」」」
部活の遠征帰りみたいなノリで盛り上がっていたのは、DIYで親しくなった男4人だった。
もちろん誠と淳史以外の。
残り2人は朝から帰る間際まで女性陣に愛想を振りまいていた。
翌朝、起きてから解散する昼12時までに、
『次回参加して欲しい相手に招待状を渡す』
というルールのもと参加者の間では生き残りを掛けた恋愛バトルが繰り広げられていた。
番組的にも誰が誰に渡したかバレないよう撮影していたようだが、少なくとも私は女性陣の行動はほぼ把握していた。
また男性陣へも少なからず私が脱落出来るよう上手く誘導できたと信じている。
それに私には最終手段があったからだ。
「じゃあ、みんなお疲れさま。来週も笑って会えることを信じてるから」
「うん、典江さん。ありがとう」
「昨日のお風呂から女チームは団結力あがったよね?」
「ホント!このメンバーで続けたいよ」
そんなことを言いながら来週の衝撃の土曜日までそれぞれが日常に戻って行った。
「じゃあ、そういうことで…」
「吉岡さん、これ本気ですか?」
「だから前もって確認したでしょ?」
「えぇ、まぁ、、、ですけど…」
「ルール違反じゃないですよね?」
「確かにそうですけど…」
「今回は新しいルールが追加されてるんだし、ぶっちゃけ何でもありでしょ?」
「でもこれは番組の根幹を揺るがすくらい反則ギリギリですよ?」
「じゃ、それを理由に私は脱落ってことで!」
「ホントに辞めたいんですね…」
「そりゃそやろ?魔女役なんて無理だし。本気で集まってる女の子の気持ち聞いたら余計に罪悪感ヒシヒシだし」
「最後の方は相談役になってましたもんね…」
「女チームでは私が魔女って薄々気づかれてるかもしれんよ?ま、他にもいるから番組的には安心なんだろうけど」
「えっ!」
「私も馬鹿じゃないからね?分かるよ。それに光君がいるのに他の男に媚び売るの疲れた…。元々こういうの向いてないし!」
「分かりました。では来週で卒業ってことで…」
「ありがとう!よろしくね♪」
脱落の確約をもらい上機嫌で帰宅した私だった。
「ただいまぁ~」
「おかえり~」
最近お決まりになった光君とのやり取りをホッとした気持ちで受け止めて荷物を置いた。
「お疲れさま。今回はどうだった?」
「ん~、最後だと思うと私は割りと気楽だったかな?」
「最後? 来週もあるでしょ?」
「あぁ、来週は脱落メンバーの発表だから落ちたら帰るだけだし、実質は今日がラストだね」
「そうなんだ…」
「どうかした?」
「えっ!いやぁ別に。単に典ちゃんのこんな姿も見納めかと思って…」
「こんなのが好きなん?」
「どんなでも典ちゃんなら好きだよ」
「ふふっ、ヤッパ光君最高ッ!」
そう言って光君に抱きついた私。
しかし光君の表情はどこか冴えなかったことを私は気づいていなかった。
そして何事もなく1週間が過ぎ、やっと私が解放される土曜日がやってきた。
一応、参加者としては合否の発表があるまで分からないという体なので、1泊の予定で荷物は準備していたが、今日の夜には帰って来る予定だった。
「じゃ、行ってくるね」
「うん、気をつけて」
「あっ、Ryoと龍斗も今日は早めに帰って来るって言いよったやん?2人ともこの1週間忙しそうだったけど、今日で仕事片付くんやろ?」
「ん?あぁ、まぁ…」
「なら、帰ったら全員で打ち上げやな!何か2人の好きなもん作って、みんなで晩御飯食べながら今回のこと話そう。そんで隠しとったこと謝るわ」
「うん、そうだね…典ちゃんゴメン!」
「どした?急に改まって。仕事の関係で断れなかったんやから仕方ないやん。それも今日で最後やし。でも今後は絶対に受けんからね!」
「分かってる。とにかくゴメン!」
「はいはい、分かったから。じゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃい…」
私は別荘へ向かって意気揚々と出発した。
そして今、、、
現場は大いにパニクっていた。
「何?どういうこと…」
休みの日に草原で昼寝をしていたら、いきなり大型の魔物に出くわした時のように。
時間を少し戻そう・・・
「おっ、久しぶり~」
「あっ、典江さん!会いたかったぁ~」
そんな会話があちこちで聞こえていた。
1週間ぶりに別荘に集まった男女12人は運命の発表を前にわずかな期待と大きな緊張で誰もが普通ではなかった。
妙にお喋りな者、いつもに増して無口な者、異常にテンションが高い者…など、いずれにしても後少しで答えが出る。
そんな参加者が荷物を部屋に置いてリビングに集まって来た。
とうとう運命の時間が来たのだ!
「最後まで俺が読むのかよ…」
洋輔がため息をつきながらテーブルの上の封筒を手にした。
「いいか?開けるぞ?」
「「「「「うん…」」」」」
緊張した面持ちで誰もがソファーに座ろうともしない。
「じゃ、読むぞ!
『参加者のみなさん、1週間ぶりですね。今日は脱落者の発表ですが、その前にお知らせがあります。まず招待状をもらえなかった方は脱落決定です。逆に1通でももらった方は今後も番組に参加して頂きます。では、前回解散時に番組で預かった招待状の入った封筒を今からお返しします。名前を呼ばれた方から順番に一歩前に出てください。覚悟はよろしいでしょうか?』
だってさ…」
洋輔が読み終わると、全員の緊張はピークに達した。
抱き合う陽子と弘美。
連帯感の出来た泰之や透達は4人で手を繋いでいる。
余裕の表情を浮かべていたのは、直接手渡しで封筒を受け取っている者だった。
だが、半数以上の参加者が直接渡さずに"スタッフ預り"を選んでいたため、今日まで自分に招待状が届いているか分からない者の方が多いのだ。
そして運命の発表が始まった・・・
黒服にピエロの仮面を着けた男性が2人リビングに入ってきた。
『では今から名前を呼ばれた方は封筒を取りに来てください』
どうやらボイスチェンジャーで声を変えているようだ。
クライマックスの盛り上げ感が半端ない。
『泰之』
1番に名前を呼ばれた泰之は逞しい体が一瞬ビクッとしたが堂々と前に出た。
『お受け取りください』
泰之には1通の封筒が手渡された。
『透』
次に呼ばれた透も1通の封筒を受け取った。
『健人』
同じく1通の封筒を受け取った。
『淳史』
以下同文。
ところが、ここからが今日の本番だった。
『誠』
名前を呼ばれて前に出た誠に渡された封筒は2通。
そうこれで封筒は6通。
女性陣も含め、男性陣までもがざわついていた。
まだ名前の呼ばれていない洋輔の封筒は無いことになる。
『洋輔』
リーダーとして最後まで落ち着いた態度を崩さなかった洋輔が前に出た。
『お受け取りください』
「「「「「「「「えっ!?」」」」」」」」
洋輔に渡された封筒も2通。
「なんでっ?」
「どういうこと!?」
リビングが急激にザワついていた。
『では次に女性陣にお渡しします』
騒然とする場を無視してそう言うと、さっきとは違うもう1人のピエロが前に出てきた。
『典江』
まだザワついている中、典江は1通の封筒を受け取った。
『彩華』
彩華は2通受け取った。
『陽子』
前に出た陽子に渡された封筒も2通。
『美幸』
美幸にも2通手渡された。
ここでさっきと同様にザワつき始める。
「えっ?」
「それはナイでしょ!」
まだ2人残っているのに渡された封筒は既に7通。
『桜』
ここで桜にも2通渡された。
もう全員が分かっていた。
渡した相手が1人1通じゃないということを…。
『弘美』
最後の弘美には何と3通の封筒が渡された。
女性陣に渡された封筒は全部で12通。
全員が封筒を受け取るという結果に、脱落がないと喜ぶメンバーや人数的におかしいことを不思議がるメンバーなど、様々な感情が入り交じっている中、ピエロが口を開いた。
『それでは封筒を開けて中の招待状を取り出し、誰から贈られた招待状か確認してください』
そう言われて参加者全員が一斉に封筒を開いた。
「えっ!?」
「嘘でしょ?」
「なんで?」
「何だよ、これ」
封筒の中にあった招待状には、
【◯◯へ
あなたのことが気になっています。
次回も番組に参加して欲しいので、
この招待状をお送りします。 △△より】
という文面が書かれていた。
これで自分に想いを寄せている相手が分かり、逆に自分の気持ちも相手にバレたということだ。
ただ他の参加者には分からないが…。
だが、みんなの視線は典江に集中していた。
「ちょっ、典江さん…」
「これってどういうこと?」
女性陣が典江に詰め寄る。
そうこれが私の反則ギリギリと言われた最終手段。
女性陣の封筒の数が多かったのは典江が自分以外の女性メンバー全員に封筒を送っていたからだった。
そして他にも理解が追い付いていないメンバーがいた。
「典江さんッ!これどういうことだよっ?」
淳史だった。
唯一、私が手渡した男性メンバーの淳史。
余裕たっぷりの立場から一転、かなり気が動転している様子だ。
なぜなら淳史が封筒を開け取り出した招待状には何も書いてなかったからだ。
そう招待状ではなく、白紙の紙が入っていたのだ。
一体どういうことなのか、典江以外の11人はリビングで混乱をきたしていた。
『それでは発表させて頂きます。』
ピエロの仮面をつけたスタッフが説明を続けた。
『今回、脱落するメンバーは淳史!』
ザワつく中で脱落者の1人目が発表された。
『続いて、典江!』
これには淳史を含め、他のメンバーも驚いていた。
『補足説明をさせて頂きます。
今回、招待状を1通も受け取れなかった淳史は番組のルールに則って脱落が決定となりました。
また、招待状を受け取りはしましたが、異性のメンバーに対して1通も渡していない典江は、"参加する意志無し"と見なし失格とさせて頂きます』
この発表には残留の決まったメンバー全員が異議を唱えた。
「1通でもあれば脱落しないって言ってたじゃないですか!」
「典江さんが失格って…」
「そもそも招待状の枚数がおかしくないか?」
「なんで俺達、男チームに8通あるんだよ?」
またもリビングは騒然としていた。
『みなさんの疑問にお答えします。
まず番組としてお伝えしたのは、
【次回参加して欲しい相手に封筒を渡す】
という条件であって、招待状は1人1通と制限しておりませんでした。
こちらに関しては収録の最中に気づいた典江さん本人が確認を取りに来られました。
確かにおっしゃる通りルール上では問題ないことを伝えると、典江さんは一部のメンバーにそのことを教えておりました。』
たぶん放送時には回想シーンが入ると思うが、これはルール上問題ないか前もってスタッフに確認していた。
「"次回参加して欲しい相手"ってだけで、異性って但し書きはないですよね?」
番組史上過去に例のない提案をされたスタッフは、異例のスタッフ会議を開き私の提案はしぶしぶ了承された。
たぶんこれ以降のシーズンには異性のという文章が追加されるだろう。
「典江さん、なんで…」
「最後まで一緒に居たかったのに…」
前回の撮影で仲良くなった陽子と弘美が涙ぐみながら私に抱きついてきた。
そんな中、冷静にピエロの説明が続く。
『説明を続けます。
典江さんから複数の相手に招待状を渡してもルール上問題ないことを教えてもらったメンバーが、それぞれ2名に贈った為このような結果となっております』
そう告げるとピエロが私を手招きした。
私はみんなの前で最後の挨拶をすることにした。
「こんな終わり方で本当に申し訳ないんだけど私は番組を去ります。残った方は私の分も頑張ってください。短い期間でしたが青春って感じがしてとても楽しかったです。今日までどうもありがとうございました!」
女性陣はみんな泣いていた。
なぜか透も泣いていた(笑)。
「ちょっと待ったぁ━━━ッ!」
感動の空気を切り裂いて淳史が声をあげた。
「白紙ってありなのかよ?」
自分が脱落することに納得していない様子だった。
「典江が失格なら、これも無効だろ?」
残留しようと淳史も必死だ。
『その論理でいくと、封筒に招待状が入っていても典江が失格ならあなたの招待状は無効となり脱落決定です。他の人から招待状をもらえなかった時点で、あなたはどちらにしても脱落が決定したのです』
残酷な言葉だった。
「何だよそれッ!」
怒りで感情的になった淳史が典江に掴みかかろうとした、その時!
そして今に至る・・・
「いい加減にしろよ…」
「みっともねぇなぁ…」
2人のピエロが淳史を制して典江の前に立ち塞がった。
だが、問題はそれではない。
ボイスチェンジャーを使っていたピエロの声が普通の声になっていたのだ。
それも聞き覚えのある声に…。
典江の前に立つ2人のピエロが、仮面に手を取りそれを外した途端、
「「「「「キャ━━━━━━ッ!!!」」」」
「「「「「マジかッ!?」」」」」
「「「「「嘘だろ!?」」」」」
カメラに抜かれた顔はRyoと龍斗だった!
「何で?何で?何で?」
「うそぉ━━━ッ!?」
「カッコいい━━━━━ッ!」
さっきまでお別れの涙を流していた女性陣から今度は歓喜の涙が溢れていた。
淳史を含め、男性陣はもう言葉も出ないようだ。
そして私は焦っていた。非常に焦っていた。
現場は大パニックに陥っていた。
「脱落したからって女性に掴みかかるか?あり得ないだろ?」
Ryoがとろけるような美声を発した。
「それも俺達の典ちゃんに!」
龍斗、それここで言うか?
「えっ、どういうこと?」
ヤバいッ!彩華が気づいた。
「典江さん、まさかRyoと龍斗の知り合い?」
ヤッバ━━━い!気づかれた。
何とか誤魔化そうと頭をフル回転で稼働させている私の気持ちも知らず、
「知り合いっつうか、一緒に住んでるし」
「身内かな…」
龍斗が同居をバラし、Ryoが関係をバラした。
「「「「「「えぇ━━━━ッ!!!」」」」」」
たぶんここでCMに入るんだろうな…と、私は誤魔化すのを諦め冷静に今の状況を分析していた。
「だから俺達一緒に住んでんの」
日本屈指のイケメン2人が両隣にいて、私の腕を組みながらみんなに事情を説明している。
「そして典ちゃんは魔女でしたぁ~」
龍斗が明るくネタバラシをし始めた。
「えっ!?典江さん魔女だったの?」
陽子が驚く。
これには男性陣も驚いていた。
透なんかは最後まで、
「魔女は魔女でもいい魔女だったんですね」
なんて騙されていたのにお人好し炸裂だった。
番組からの依頼で魔女役を引き受けたこと、私にはちゃんとパートナーがいてその人と一緒に4人で同居していることなどを説明したのだが、最後のダメ押しが強烈だった。
国民栄誉賞を与えたいNo.1イケメンのRyoが一言…。
「俺達と暮らしてるんだ。白紙で当然だろ?」
これにはもう淳史も何も言えなくなっていた…。




