~秘密はバレる運命~
第4章ー7
「ただいまぁ~」
「おかえり、典ちゃん」
「もう聞いてよぉ~、光君!」
1泊の撮影が終わって家についたのは夕方だった。
帰った途端、私は撮影で楽しかったことやムカついたことを一気にまくし立てた。
「ゲームはわりと楽しかったんやで。謎解きって好きやし、単純に皆で夢中になれて面白かったし…」
「うん、それで?」
「でもさぁ、1人ムカつく奴がいてさぁ」
「おっ!典ちゃんの癇に触った奴がいたんだ?男?女?」
「男っ!めっちゃ腹立つ男でさぁ」
「ふ~ん、どんな風に?」
毎度のことながら光君は聞き上手だ。
「なんか俳優かじっててムカつく奴なんやけど、龍斗のドラマにチョイ役で出てることをドヤ顔で自慢気に言うんやって!」
「あぁ…なるほど」
「それに龍斗が事務所の力で楽して主役やってるみたいなこと言うし!」
「龍斗の事務所って中堅なのは確かだけど大手まではいかないのにな…」
「あの子が今までどんな人生を歩んで来たか、どんだけ頑張って今の居場所を手に入れたのか全く知らんくせに勝手なことベラベラ言いやがって!」
「それでムカついたんだ?」
「そりゃそうやろ?うちの龍斗に!」
「もう典ちゃんの中では龍斗も身内なんだね」
「当たり前やん!」
「龍斗に言ってやらなきゃな。喜ぶぞアイツ(笑)」
「いや、そこは内緒にしといてよ。恥ずかしいやん」
「身内に隠し事はダメなんじゃない?それにいつまで隠し通せるか…」
「たぶん後2回ぐらいで計画的に私は脱落するから大丈夫だと思うゎ。ちなみにそいつも道連れにするつもりやけどね」
「なら龍斗もクランクアップしてる頃だろうから、そこで話したら?」
「うん、そやね。そうするわ」
そんな話をしていた頃、一方では・・・
ドラマの撮影が大詰めを迎えていた龍斗は前室でスタッフと談笑していた。
「この前の動画見ましたよ!」
「あっ、私もぉ~」
またもや女性スタッフに囲まれた龍斗。
「あの白菜の牙が今スゴイの知ってます?」
「えっ、何が?」
「真似してSNSに上げる人が激増なんですよ!」
「あの翌日にスーパーから白菜が消えたってニュース知らないんですか?」
「マジで?全然知らねぇ…」
「あの後、どうなったんですか?」
別のスタッフが聞いてきた。
「あの後って?」
龍斗が聞き返すと、
「アイス食べちゃって怒られてたでしょ?」
「あぁ~、あれね」
「どうなったか気になって気になって…」
女性スタッフみんなが頷く。
「…後ろから蹴り入れられたよ」
「えぇ━━━っ!?龍斗君を?」
「容赦ない人だからね…」
「すごい信じられない!天下の横山龍斗に対してそれが出来るって考えられない!」
「元々は俺のファンだったはずなんだけどなぁ…」
「お互い信頼してるから出来るんでしょうね」
「ん~、そうかも…」
「「「「うらやましい~」」」」
そんな会話をしながら前室から出ると、エキストラの男共がスタンバイ待ちしながら何やら盛り上がっていた。
「何?どしたの?」
近くにいたカメアシさんに声をかけると、
「バンパイア軍団の中の1人がリアリティー番組に参加してるみたいで、誰狙いかで盛り上がってるみたいっすね」
「へぇ~、そうなんだ。俺も聞いてこようっと♪」
そう言うと主役の龍斗がエキストラの輪の中に飛び込んで行った。
「俺も仲間に入れてくれる?」
「!!!」
「っ!?龍斗さん!」
「「「「「おはよーござーす」」」」」
緊張感でその場が一気に張り詰めた。
「あぁ、そういうの別にいいから俺にも見せて」
「へっ?」
「誰かリアリティー番組に出てんでしょ?」
「あっ、俺っす!」
「へぇ~。俺そういうの出たことないからさぁ。で、どの子狙いなの?参加者見せてよ?」
「は、はいっ!」
龍斗にそう言われ、淳史はスマホを取り出し配信サービスにログインした。
自分が出ている番組を選び、先日方法された第1回目のメンバー紹介を再生した。
「これが俺で…」
「あぁ、ヤローは飛ばして女の方見せてよ」
「あ、はい…」
最近は女遊びもめっきり減った龍斗がワクワクしながら女性陣をチェックしていく。
「この参加者って全員年上のバツイチなわけ?
つうかバツイチだったんだ?」
「あっ、自分っすか?えぇ、まぁ…」
「再婚する気あんの?」
「あ~、っていうか名前が全国放送されるっしょ?それ狙いっていうか…。過去のシリーズ参加者でも番組で人気が出て仕事に繋がった奴いたんで…」
「なるほどね。で、何人いんの?あっ、この子可愛いじゃん」
「6:6なんで、その子が4人目で…」
淳史が説明をしようとした時、龍斗は信じられないものを見た。
「はぁ~?」
「えっ?何すか?」
「この人も参加者なの?」
「えっ、どの人ですか?あぁ、典江さん。えぇ、そうですけど龍斗さんタイプっすか?」
「まぁ、そうかもな」
「確か37歳で翻訳の仕事してるって…。昨日も泊まりがけの撮影で、今日の夕方に終わってからこの現場に直行っすよ俺?」
「へぇ~、泊まりもあるんだ?」
「別荘に泊まりがけで撮影っすよ。今日は動物園に行ってフリータイムのツーショットもあって…」
「この典江さんも誰かとツーショットになってた?」
妙に食いつきがいい龍斗に気分が良くなった淳史は、聞かれてもないことまで喋りだした。
「あぁ、フリータイムの時に誠って奴とツーショットになってましたね。龍斗さんタイプなら俺が今度紹介しましょうか?」
来週の撮影でもフリータイムはあるだろうから、全国放送で龍斗と画面に映れば番組での俺の価値もあがるだろう。
ちょうどドラマも放送中だし、もしかすると出番が増えるかもしれない。
などと皮算用をしている淳史を横目に、龍斗はスマホの中にいる典江が、自分の知らない女の顔をした典子だと確信していた。
「あの~、龍斗さん?」
「ん?あぁ、そうだな。会ってみたいかも?とにかく頑張れよ。俺も番組見てみるわ。何て番組だっけ?」
「ありがとうございます!番組名は、
【王子は魔女に騙されない】っす!」
「分かった。んじゃ、邪魔したね」
そう言って足早に控え室へ戻って行く龍斗。
その姿を見て俺にも運が向いてきたかも…と、内心小躍りして喜んでいた淳史。
龍斗が気に入った相手を紹介したら、何かあるかも。
「どういうことだよッ!」
さっきまでとは売って変わった表情の龍斗は控え室に入るなりスマホを取り出した。
「早く出ろよ」
まだ2回しか鳴ってない発信音にイラつきながら相手が出るのを待つ。
「もしもし?」
「Ryo!大変だっ、一大事だッ!」
電話の相手はRyoだった。
「何だよ?撮影で何かあったのか?」
アルバム製作中のRyoはほぼ作業も終わり、残すは細かな指示と詰めに入っていた。
「撮影が終わったらそっちに寄っていいか?」
「別にいいけど。一体どうしたんだよ?」
「会ってから話すよ。見た方が早いから」
「何か分かんねぇけど、じゃ待ってっから」
「うん。じゃ後で…」
電話を切った龍斗は何でこんなにも腹が立つのか自分でも分からなかった。
自分の知らない女の顔をした典子を他の男が知っていたことに腹が立ったし、何より光さんがいながらあんな番組に参加している事実が許せなかった。
同居し始めて正月も一緒に過ごしてから、自分でも不思議なくらい気を許していた。
自分にとって今まで周りにいた女性は性欲の対象ぐらいにしか意味を持たず、本気で心を許せる相手などいなかった。
そんな時に典子と出会い、本当の家族のような感覚を知ったのだ。
その龍斗にとってこの事実は裏切り以外の何物でもなく、絶対に許せないことだった。
そんな中唯一良かったことがあった。
今日の撮影シーンが、軍団を従えたバンパイアの王が愛する人を傷つけた組織に対して報復に出る、というものだったのだ。
リハーサルが終わり本番に入った龍斗は、監督も驚くほどの気迫と殺気でNG一切無しの一発OKで撮影を終えた。
残すは最終回の撮りだけとなった…。
「何だよコレッ!?」
スタジオで龍斗を待っていたRyoはスマホの画面を見ながら、正に怒り心頭という状態だった。
「龍!一体これはどういうことだよッ!?」
「俺も分かんねぇよッ!」
防音設備の整ったスタジオで助かったと思うくらい大声で話し合う美形2人。
「このこと光さんは知ってんのか?」
「それも分かんねぇけど、まず光さんがいるのにこんな番組に出ること自体おかしいだろ?」
「あのイメチェンはこういうことだったのかよ…」
日本一美しいと言われたRyoの眉間にシワが入り、クールと言われる姿は微塵も感じない。
「でもそれならおかしくないか?」
「何がだよ?」
感情的になったRyoを見て逆に冷静になった龍斗があることに気づいた。
「俺達が聞いた時、単なるイメチェンだって光さんも一緒になって説明してくれただろ?」
「そういえばそうだな…」
そう言われRyoも少し落ち着きを取り戻した。
「となると、光さんも知ってたことになるよな?」
「自分の彼女がこんな番組に出るの許すか普通?」
「だよなぁ。そこなんだよ」
「絶対何かあるぞ」
「俺もそう思う」
「とにかく2人が俺達に内緒で何かしてるってことは間違いないだろう…」
大好きな叔父が自分に秘密を持っていたことがかなりショックだったRyoはもう仕事にならなかった。
その時、
「おい、まだか?そろそろ帰るぞ?」
マネージャーの郷田さんがスタジオに入ってきた。
Ryoのマネージャーの五十嵐さんとさっきまで業務連絡をしていたが、そっちは終わったようだ。
「ちょっと待ってよ、郷田さん」
もう少しだけ時間をくれと龍斗が近づいたその時…
「おっ!吉岡さん、化けたねぇ」
左手に持っていたスマホの画面にアップで映る典子を見て何気なく郷田がそう言った。
「えっ?何で?」
龍斗が聞く。
「ん?何がだよ?」
そういう郷田の様子から何かを感じ取ったRyoが、
「まさか典子さんがこんな番組出るなんてさぁ。わざわざイメチェンまでして」
カマをかけてみた。
「まぁ、仕方ないだろう。お前らも大好きな吉川さんに頼まれたんだから。好きな人の頼みは断れなかったんじゃねぇか?」
Ryoと龍斗は顔を見合せ、目で合図した。
「郷田ちゃ~ん。その話もっと詳しく聞きたいんだけど、教えてくれるかなぁ?」
「えっ?」
スタジオには肉食獣に追い込まれた獲物と、孔雀のように華やかな見た目とは裏腹に今にも襲い掛からんとする鷹と鷲がいた。




