~真夜中の言いたい放題~
第3章ー9
「俺も悪かったんだよ…」
目は閉じているが辛うじて会話は成り立っている光君は現在、猛烈な睡魔と戦っていた。
深夜2時をまわり、アルコールも回って完全に出来上がっている男衆と素面の私。
「光さんに悪いとこなんかねぇよッ!」
「そうだよ!悪いのはあの女だよ」
龍斗とRyoが必死に慰めている。
「典子さんもそう思うだろ?」
龍斗が私に同意を求めた。
「そやねぇ~。結婚前から他に男がいたんなら事故も無職も全部関係なく、完全に元嫁が悪いわ!」
私もハッキリ言い切った。
「ほら、同じ女の典子さんから見ても悪いのはアッチなんだから、光さんが気にすることなんかねぇよ」
「龍斗の言うとおりだよ」
「でもなぁ~」
光君はまだ自分にも非があったように言う。
「光君…」
「ん?うん…」
半ば夢の中にいる光君に私は話しかけた。
「もし光君に悪いとこがあったとしたら、
"若気の至り"ただひとつやろ?
そんな女だと見抜けなかっただけ。
それ以外、光君には何一つ落ち度はない!」
私は光君の頭を撫でながらそう言った。
「そうだよ!典子さんイイこと言った」
酔っぱらいの龍斗がゲッツポーズで私を指す。
「若い頃の恋愛の失敗談なんか誰でもあるんやし、光君は自分を責め過ぎ。」
「…そっかなぁ~」
だんだんこちらの言葉に耳を傾け始めた。
ここでダメ押しだ。
「そうやって。光君は優しいから1度は好きになった相手のことを悪く思いたくないんやろ?結婚した相手なら尚更そう思うんは仕方ないよ」
「…ん、そうかも」
「私は光君が好きやから、どうしても光君寄りになってしまうんは事実や。それでも客観的にみて彼女が悪いんは一目瞭然なんよ。だからもう気にするんヤメようで。忘れられんかもしれんけど今の光君には私がおるやん?それじゃダメなん?」
「そんなことないよ。典ちゃんがいてくれて俺がどれだけ助かってるか…」
この時だけは半分ほど目が開いた。
「俺達だっているし!」
「そうだよ!」
2人も乗っかってきた。
「…うん、ん、ありがと…」
そう呟くと光君はすーっと夢の中へ旅立った。
「さっきのは良かった」
Ryoが焼酎のお湯割りを作りながら私に話しかける。
気づけば缶ビールから焼酎に移行していた。
「ん?何が?」
「"若気の至り"みたいなヤツ」
「あぁ、そやろぉ~(笑)」
Ryoの背中をバンバン叩きながら私が答える。
2人が光君を私のベッドに運んでくれたので、リビングにいるのはRyoと龍斗と私。
珍しいパターンだった。
「でも正直、光君の前やからあぁ言うただけで、ホンマは元嫁を張りまわしてやりたい気分やけどな」
私が本音を告げた。
「そりゃ、そうだろ!」
トイレから戻ってきた龍斗が加わる。
「今日初めて元嫁の話を聞いたけど、俺は今まで以上に光さんのこと好きになったし尊敬するよ」
龍斗が熱い。
「自分がそんな時に、よく俺のことまで面倒みてくれたなぁ…って。俺マジで光さんに惚れた!」
「だろ~。光さんはスゲェんだよ」
興奮して熱い龍斗とは逆に、あまりお酒に強くないRyoはかなり酔いが回っているようで喋り方が可愛くなっている。
「俺の自慢の叔父さんだからねぇ~。光さんのことは昔から誰よりも俺が1番知ってるんだからねぇ~」
ちょっと可愛い過ぎるんやけど(笑)。
抱き締めたくなるやん。
いつものCOOLな王子様キャラはどこ行ったん?
光君が甘やかすの分かるゎ。
「なぁ、Ryo。ほんならちょっと聞きたいんやけど、元嫁のことも知っとんやろ?実際会ったことあるんアンタだけやし」
私が元嫁、香のことを聞くと急に態度が変わったRyo。
「あぁ、そりゃ知ってるよ。初めて会った時から俺は気に入らなかったけどね」
いやいや、アンタは誰が来ても気に入らんやろ?
今までの私への態度でだいたい予想はつくで?
まぁ、今それは言わんけど…。
「どんな女だったん?」
「それ、俺も聞きたい」
私と龍斗が身を乗り出してRyoに詰め寄る。
「女のヤなとこが詰まったような感じ?女友達少なそうなタイプだったし、"涼也く~ん"って俺に媚びてくるところも虫酸が走ったな。子供好きアピールが見え見えで」
「典子さんとは正反対だな」
「おいっ!」
確かにそうやけど他人から言われるとムカつくな。
「上目遣いの甘えた喋り方も、いかにも男受けしそうなファッションも気に入らなかったし」
「マジで私と正反対やん…」
「はははっ、自分で言ってらぁ~」
バシッ!
「イテッ!」
龍斗の足に教育的指導をかます。
「で、事故のあと自宅療養になった光さんを俺が何度も見舞うんだけど、あんだけ金魚のフンみたいに光さんにくっついていたヤツが留守がちでさぁ。変だとは思ってたんだよ」
「なるほど、そんで?」
「たまたまアイツが出掛けるとこに出くわしたから後つけたんだよ。そしたら男と腕組んで、メシ喰って、ホテルに…」
「っざけんなよぉ━━ッ!!!」
Ryoが言い終わる前に私がキレた。
「じゃあ、何?まだ自宅療養中の光君を部屋にひとり残して自分は男と遊んどったん!?」
「そ、そうだけど…」
怒り心頭の私にちょっと引き気味のRyo。
「百歩譲って…いや、千歩も万歩も譲って結婚前から男がおった女やから遊んでたんも想像つくわ。そりゃ男遊びもするやろうな!でも光君がそんな時ぐらい…見も心もボロボロの時ぐらい側におってやれよッ!?そうやろがぁッ!?」
「典子さん、Ryoに言っても…」
Ryoに掴みかかる私を龍斗がなだめる。
「あぁ…そうやな。ゴメンゴメン」
慌ててRyoに謝る私。
「いや、別にいいよ。典子さんの言う通りだよ」
Ryoが話を続ける。
「俺がもっと大人だったら上手く説明できたんだろうけど…。まだガキだったから俺。光さんに言っても相手にしてもらえなくて…。今思えば、光さんにとって最後の砦だったんだよ、たぶん。爺さんたちが亡くなって、仕事も辞めて、怪我で身動き取れなくなった光さんにとって、嫁のアイツが最後の砦だったんだよ。だから信じたかったんだと思う。なのに俺が意地になって…、親父に頼んで調べて証拠を突きつけたもんだから…。光さんの落ち込みようったらなかったよ…」
今度はRyoが自分を責めている。
「Ryoは悪くねぇよ!」
龍斗がすぐさまフォローする。
「そん時Ryoがやらなかったら、光さんずーっと騙されたまんまだったんだぜ?もしかすると今までずーっと!」
そうだ!良いこと言った龍斗。
「最近の光さん見てみ?不幸に見えるか?幸せそうだろ?それはお前のお蔭なんだぞ?」
「そうやッ!」
私も参戦する。
「Ryoのお陰で元嫁と別れられたんや。だから私とも出逢えたんや。光君も私もRyoに感謝しとるで!」
「…典子さん、、、」
バッチリ二重にキラキラの瞳、そこからうっすらと湧き出る涙がまつげを濡らしている。
「ほらぁ~、もう泣かんの。飲め飲め」
Ryoの頭をポンポンする私。
「泣いてねぇし…」
強がるRyoが年相応に見えて可愛かった。
考えたらうちの子と大して変わらん年やのに、Ryoも龍斗も苦労しているなぁ。
沸々と母性本能に火がつき始めた私だった。
「そのクソ女がまた光さんにチョッカイ出してるみたいだぜ?」
龍斗が焼酎のお湯割りを飲みながら言う。
「はぁぁぁッ!?どうゆうこと?」
「ちょ、なんで龍斗がそんなこと知ってんだよ?」
私とRyoが龍斗を問い詰める。
「いやいやいや。お、俺もちゃんと知ってるわけじゃないけど、さっき話に出てきた真鍋さんからちょっとだけ小耳にはさんで…」
「それなんやけど、なんで龍斗が光君の同級生の真鍋さんのこと知っとん?」
「あぁ、典子さんは知らないか。光さんは龍斗を社長の会社に入れるか、真鍋さんのツテでゲームの下請け会社に入れるか迷ってた時があんだよ」
「えっ?そうだったん?」
初耳やし。
「でも全くの素人がゲーム会社ってのも無理があるし、俺と一緒の方がいいだろうって。それに龍斗はこの顔だから素人の頃から女にモテたしな」
「的確な判断やな…さすが光君」
「ま、そういう繋がりで真鍋さんのことは知ってるんだけど、この前のサプライズの放送後に電話があって…」
「うん、それで?」
「元嫁から会いたいって連絡があったんだって…」
「はぁぁぁッ!?ふざけんなよッ!」
「ぶち殺すぞッ!クソ女ッ!!」
Ryoと私、どっちがどっちの台詞を吐いたかは想像がつくだろう。
「典子さん恐ぇよ…」
「どの面下げてんなこと言えるんやッ!殺さんにしてもその自慢のアイドル面ボコボコにしてやろうかッ!?」
キレた私はいい年して口調がヤ○ザ。
「ちょ、待って。ちょっと落ち着こう」
龍斗が私をなだめる。
「いや、典子さんの怒りはもっともだろ…」
酔っ払ったRyoがまさかの私陣営に!
いつもなら何でもかんでも私と反対意見だったのに。
「まさか、会ってないよね?」
「当たり前だろ?光さんはそんな男じゃないよ」
「うん、メールがきたようだけど光さんは無視してるみたいだよ」
「良かったぁ~」
「ほら見ろ!さっすが光さん」
「でも、真鍋さんいわく簡単に諦める女じゃないから気をつけろって」
なんですと?
「ちょっ、それどういうこと?」
私は真顔で龍斗睨みつけた。
「分かんないよ!分かんないけど、放送後の光さんに対する女子社員の態度があからさまに変わったんだって。みんながチヤホヤし出したって…」
「今更かよ…。クソ女ばっかだな」
もともと光君に心酔しているRyoにすれば、急に態度を変える女なんて問題外なんだろう。
「それも俺らと親しいことが原因みたいで…」
「はぁッ?光さん自身じゃなく俺ら目当てってことかよッ!?ろくな女いねぇな、その会社!」
「大丈夫やで、Ryo!私が初めて会った時もそんな感じだったけど、光君はバカじゃないからそんな女ども相手にせんから」
私はなつかしの陣内さんを思い出していた。
元気にしてるかなぁ~。
婚活は進んでんのかなぁ~。
「そうそう。真鍋さんも同じ事を言ってた」
「やろぉ~」
「ならいいけど…」
Ryoにとって、マジで光君"絶対"なんやな。
「で、続きがあって。真鍋さんが言うには香って女は面倒くさいタイプなんだって」
「どういうこと?」
まぁ、面倒くささは感じてたけど。
「ほら、SNSとかでリア充アピールしてる女とかいるじゃん?周りにチヤホヤされたいっていうか…」
「あぁ、承認欲求の強い女!かまってチャンやね?」
私がそう言うとRyoが、
「うわッ、マジで面倒くせぇ」
吐き捨てるように言った。
「それッ!で、ここからが本題。放送見た元嫁は、本当なら自分が光さんの隣で俺らと一緒にテレビに出るはずだったのに、他の女と幸せそうにしていたことが気に入らなかったみたいで…」
「ちょい待ち」
私は龍斗の説明にストップをかけた。
「なんで元嫁の気持ちが分かるん?」
「そうだよ!会ってないはずだろ?」
「落ち着けって。真鍋さんが光さんの同級生なのは知ってるだろ?昔のツレから辿っていって元嫁と共通の女友達から仕入れた話だってさ」
「「なるほど!」」
納得する私とRyo。
「そこからの話だとかなり典子さんに敵意むき出しだって。"年増のオバサンが光輝をたぶらかした"って言いふらしてるみた…」
「なんやとぉぉぉ━━━ッ!!!」
こたつの天板をバンッ!と叩き身を乗り出す私。
「だから落ち着けって!」
「えぇ度胸やッ!私にケンカ売るやなんて!」
ただでさえ気に喰わんかった元嫁、香!
怒りMAXや!そのケンカ買ってやるわッ!
「もう2度と光君にチョッカイ出す気が起きんようにしたるわッ!」
「その話乗った!」
まさかのRyoも参戦!
「龍斗!アンタは真鍋さん通して元嫁の情報を逐一報告して。何か動きがあったらすぐ連絡するんやで!」
「えぇ━ッ!なんで俺が?」
不服そうな龍斗。
「アンタ、光君のためにやってやろうって思わんの?そんな女がまた光君の周りウロチョロして何かあったらどうするん?」
私の身勝手な言い分に隣で頷くRyo。
「やらんかったらアンタのメシだけ残念になるで?」
「えぇ━━━ッ!?」
「やるやろ?」
鬼のような所業だが、これが1番効く。
「分かったよ、やるよ。やればいいんだろ?」
「「よしっ!」」
なぜか私とRyoがハイタッチをかます。
その後はまだ見ぬ香にありとあらゆる罵詈雑言を浴びせて夜が更けていった…。
吉岡典子、42歳。一度死んで異世界で転生し、その異世界で亡くなった魂が元の体に戻るという、とてつもないイレギュラーな体験をした主人公。スキル持ち。二人の子供を持つバツイチのシングルマザー。現在、吉川光輝と"結婚しない"ことを条件にパートナー関係にある。
吉川光輝、37歳。あだ名はヨッシー&光君。バツイチのゲームクリエイター。身なりに無頓着でちゃんとしたらモテるのに敢えてオタクを装おっていたイケメン。物好きにも典子に惚れた奇特な男。
吉川涼也、24歳。Ryoと言う名前で活躍する超人気アーティスト。国民栄誉賞を与えたいイケメンNo.1。忙しかった両親の代わりに幼少の頃から親代わりに育ててくれた叔父の光輝を光さんと慕い、現在一緒に同居中。吉川光輝の甥で横山龍斗の親友。
横山龍斗、21歳。若手No.1のイケメン俳優。テレビ、CM、映画と人気抜群の国民的スター。ただし15歳より前の過去は謎に包まれている。スキャンダルも人気のうちと流した浮き名は数知れず。それすら人気に繋がる、吉川涼也とは親友。
香。吉川光輝の元嫁。
真鍋。吉川光輝の同級生であり、一緒に立ち上げた会社の社長。




