~吉川光輝の過去~
第3章ー8
「ちょっとはゆっくりしたら?」
洗い物をしている私に光君がそう言った。
「片付けたらね」
「洗い物なら後で俺がするよ」
「ありがと。そう言ってくれるだけで十分やゎ。でも明日の朝絶対起きれんから先に準備しときたいんや」
「なら、こっちは俺がやるよ」
そう言って光君はフライパンや鍋などの大物の洗い物を担当してくれた。
全員で写真を撮った後、さっきまでみんなと晩御飯を食べながらクイズ番組を見て騒いでいた。
解答者なったつもりでテレビに向かい一緒に早押し(?)で答えたり、誰が1番早かったとか、誰が1番バカだとか言いながら元旦の夜が過ぎていったのだった。
そして今、はしゃぎ過ぎた子供らが"おやすみ"と言って自分の部屋に消え、リビングには4人が残った。
「ねぇ、ちょっといい?」
珍しくRyoが私に声をかけてきた。
片付けがほぼ終わっていた私は、
「後はやっとくよ」
という光君の言葉に甘えてリビングのこたつに入った。
「何?どしたん?」
一仕事を終えた私はタバコに火をつけながらRyoに尋ねた。
すると真剣な顔でRyoが、
「今から込み入ったこと聞くけど、きちんと答えてくれる?」
と、私の目をまっすぐ見ながら聞いてきた。
さすがの私も普段と違う雰囲気を感じて、
「分かった。可能な限りちゃんと答えるゎ」
そう答えた。
するとさっきまで漫画に夢中だった龍斗も読んでいた漫画本を閉じて横に伏せた。
片付けが終わり、その状況に気づいた光君がこたつにやってきて私の隣に座った。
「で、どしたん?」
私から切り込んでみた。
Ryoから私に話があるだなんて…。
「今日ここんチ着いた時に龍斗と一緒に驚いたんだけど、この家って新築で建てたんだって?」
「うん、そうやけど…」
「それって慰謝料か何かで?」
「はっ?」
そう聞くRyoに続いて龍斗も詰め寄る。
「または遺産とか?」
いつもの2人と違って本当に真面目に質問していることが私にも分かった。
それなら私も真剣に答えよう。
私の隣には何ごともないような顔でビールを飲んでいる光君がいる。
話してなかったんだな、と思った。
「あぁ、元手のことね。どっちも違うよ」
私は一服してから答えを告げた。
「宝くじ当たったんや。」
「「へっ?」」
日本屈指の美しい2人の顔が一瞬歪んだ。
「だからぁ、宝くじが当たったん。ロト7で10億!」
「マジでッ!?」
「マジかよッ!?」
「本当だよ」
そこでやっと光君も会話に参加してきた。
「だから典ちゃんは金目当ての女じゃないよ」
はぁ?
おいッ、ちょっと待てぃ!
私ってアンタらにそう思われてたん?
「香とは違うから・・・」
光君がそう言った途端、場の空気が凍った。
「典ちゃんも知ってるから大丈夫だよ」
「ッ!光さん、話したの?」
「えっ?何?誰の話?」
どうやら龍斗は知らないようだ。
光君の前嫁、香のことを…。
「じゃあ、アノことも・・・?」
「…あぁ、知ってる…。」
「ッッッ!!!」
Ryoはバッと私を見て、
「それで良かったの?」
そう尋ねた。
「えっ何が?いや、つうか何の話?」
主語がないから訳分からんやん。
「俺、話に入れないんだけど?」
龍斗が不服そうに言う。
「ま、この機会に龍斗にも知っといてもらった方がいいかもな。一緒に暮らしてるし、涼也の親友だから家族みたいなもんだしな…」
光君がビールをこたつの上に置きながら、ふっと苦笑いをしてそう言った・・・。
「龍斗は俺がバツイチだって知ってるだろ?」
「うん、それは知ってるよ」
「別れた理由は聞いてるか?」
「いや、Ryoもそれは教えてくれなかったから…」
「言ってなかったんだな…」
光君は苦笑いしたままRyoを見た。
「当たり前だろ!」
「そっか…」
光君はそう言ってRyoの頭をワシャワシャ撫でた。
今からあの事を龍斗に説明するんだな…と、さすがに私も気づいた。
光君から初めて話を聞いた時、私がガチ切れして泣いてしまった話を・・・。
「俺の元嫁は大学の時から付き合っていた香っていう彼女だったんだけど、就職を機に結婚したんだ。どっかのアイドルみたいに可愛いタイプで、つい"俺が守ってやらなきゃ"って思う感じの子でな…」
私の大好きなイイ声で、いつものように優しいトーンでゆっくりと喋りだした光君。
「わりと早い結婚だったし、俺も就職したばっかだったんで子供は30までに作ればイイと思ってたんだ、彼女もそれで構わないって…」
「…うん、それで?」
龍斗が先を促す。
「25の時、俺らの結婚記念と親の金婚式を兼ねて家族旅行でヨーロッパに行ったんだよ。そこで事故に巻き込まれて…、うちの両親は亡くなり俺は体に傷を負った…」
「昔、大怪我をした話は聞いたことあるけど…」
「…その怪我が元で子供が出来なくなったんだ」
「ッ!…嘘だろ?」
私は黙って立ち上がり冷蔵庫に飲み物を取りに行った。戻って来ると話は核心に近づいていた。
「…で、半年近く入院していた俺が退院してマンションに帰ると、家の雰囲気が変わっててな。香は自宅療養している俺を置いて何かにつけ外出が増え、見た目も服装も変わってきて…」
「まさか…」
「そう浮気してたんだよ。それも実は結婚前から」
龍斗が大きく目を見開き驚いている。
その横でRyoがこたつ布団を握りしめていた。
「俺も若かったし、正直甘かったと思うよ。後で分かったことなんだけど俺は結婚相手として選ばれて、遊び相手は他に数人いたんだとさ。将来安定した生活が送れると思って俺と結婚したのにその事故で長期入院、そして退職。で、うちの両親も亡くなって猫を被る必要もなくなり、療養中の俺の看病にも鬱憤が溜まってたから頻繁に遊びに出掛けるようになって…」
「で、バレたんだ?」
「まぁな…知らぬは俺ばかりって感じだよ」
自虐的に笑う光君が痛々しい。
「俺のせいだよ…」
急にRyoが話に割り込んだ。
「まだ子供だった俺はちょくちょく光さんチに顔出してたんだけど、アイツいつもいなくて。で、ある日マンション出たとこで見かけたから後をつけたんだよ。そしたら…」
「なんだ、その女ッ!」
その後は龍斗も簡単に想像できたのだろう。
「で、離婚することになったんだけど慰謝料で揉めてな…。事故のトラウマだの看病からくるストレスだの、自分の描いていた結婚生活はこんなはずじゃなかったって…」
「ふざけんなよッ!」
龍斗は今ここにいない見知らぬ女に対して激しい怒りをぶつけた。
「だろッ!?龍もそう思うだろ?」
いつもはクールなRyoが身を乗り出して感情的になっている。
「だから俺はうちの親父に相談して、動けない光さんの代わりに探偵と弁護士雇ってもらってアイツに不利な証拠を集めて離婚話を進めたんだよ」
それは私も初耳や。
ナイス!Ryoってば、やるときゃやるな。
「まぁ、涼のお陰で無事離婚できたってわけだ。ホントあの頃は涼が心配して毎日のように付き添ってくれてたよな?」
「当たり前じゃん!光さんは俺の親代わりだぜッ!?本当の親父より親らしかったんだから。それは散々世話になった龍斗も分かるだろ?」
「あぁ、もちろん!」
この2人マジで光君大好きやな。
ちょっと妬けるやん。
日本一モテる男2人にベタ惚れされとる光君って、ある意味スゴいな。
「で、まだ続きがあるんだよ。」
興奮している2人を横目に光君が淡々と話を続ける。
「いろんな事が1度に起こったもんだから、俺も精神的に追い込まれてなぁ…。完治したのに何もやる気にならなくて、家に閉じ籠もるようになったんだよ」
そりゃそうだ。
人間不信になるわなぁ…。
いや、この場合は女性不信か…。
「そんな時に真鍋が外に連れ出してくれて…」
「真鍋って、光さんと一緒に会社を立ち上げた同級生のあの真鍋さん?」
「そうそう」
えっ?龍斗は真鍋さん知っとんや。
私は噂だけでまだ会ったことないんやけど。
「アイツ、"昔から女につけられた傷は新しい女で癒せって言うだろ?"って、無理矢理合コン組んだり…」
「へぇ~、いいとこあんじゃん」
「あぁそうだな。で、いざ合コンで意気投合した相手とホテルへ行ったんだけど…」
「けど?」
「ダメだったんだよ…」
「えっ?」
「できなかったんだ…」
「それって…」
「うん、勃たなかったんだよ…」
「ッ!!!」
さすがの龍斗も何と言っていいか分からなくなったのだろう。
女の私よりも同じ男として掛ける言葉が見つからないのだろう。
「病院で診てもらったら"ED"って診断されたよ。事故のショック、両親の死、仕事も辞め、嫁の浮気、、、何より子供を作れなくなった自分。メンタルやられたみたいでな…。医者いわく、肉体的には大丈夫なんだけど精神的なものが問題だって…」
「そんな…」
いたたまれない空気が流れる中、龍斗がハッとして急に振り向いた。
「じゃあ、もしかして…」
私をジッと見る。
何も言わない私の代わりに、
「そうだよ。俺と典ちゃんはそういう関係にまだ1度もなってない」
光君が事実を明かす。
龍斗はかなり驚いているようだ。
動揺することなくビールを飲んでいるRyoは薄々分かっていたんだろう。
「典子さんはそれでいいの?」
龍斗が遠慮ない質問をぶつけてきた。
男3人が私を見る。
質問の内容が内容やのに、聞いてきた相手が日本屈指のイケメンって。
さすがの私も恥ずかしいわ。
だけど今日は正直に答えるって最初に約束したし、中途半端にはぐらかすべきじゃないよな。光君がここまで全部さらけ出して話してるんだから。
「いいも悪いもないわ。前に光君も言ってたやろ?私は光君とヤりたいからパートナーになったわけじゃないよ」
「そりゃ、そうだろうけど…」
納得できてないようだ。
「そりゃ、アンタらみたいに若けりゃまた話が違ってくるんかもしれんけど、私もう40越えてるんやで?」
「じゃあ、これからもずーっとそういうこと無くて大丈夫ってこと?」
攻めてくるなぁ、龍斗。
「そやね。じゃあ、逆に聞くけど龍斗は光君とヤってないから嫌いになるん?」
「んなわけないだろ!」
「それと一緒!」
「一緒じゃねぇだろ?男と女じゃ話は別だろ?」
「確かに男と女じゃ違うことも多いけど、根本的に私は光君のこと人として好きだから」
まだ納得のいかない顔をして私を見る龍斗。
「だから人として…っていうか、まず友達として好きになって、次に男として好きになって、今は家族として好きだってことよ」
「家族・・・?」
ピンとこないようだ。
「う~ん、私も上手く説明できんけど人それぞれの形があるやん?見てるだけで幸せとか、燃えるような情熱的なとか、穏やかな小春日和のようなとか、相手の幸せをただ願うとか。ぶっ飛んだ考え方すれば、相手と体を貪りあう肉欲に溺れるってのもある意味アリかもよ?」
「だから逆に何もなくても光さんが好きなら構わないってことかよ?」
「そうだね(笑)」
笑って答えた私を龍斗が刺すような視線で見る。
不思議とあれだけ私を嫌っていたRyoが何故かあたたかい眼差しで見ている。
逆に怖いんですけど…。
つうか、そんなに見んといて。
抱かれたい男ランキング常連の2人に、こんだけ至近距離で見つめられたら普段なら卒倒しとるで!
以前の私ならとろけとるわ。
「だからぁ~、ヤるとかヤらないとかそんな低次元な話じゃなく、光君のことが本当に好きなんだって…人としても男としても。考えてみて。こんだけイケメンで、仕事も出来て、性格も最高、家事もこなす。何よりうちの子供たちと自然体で過ごすことができる凄腕の人たらし。アンタらもそうやん、これは天性のモンやで!」
光君のことが好きな理由を言いながら徐々にテンションがあがってきた私。
「確かに…」
2人が頷く。
「嫌いになる理由がある?どこに?あるなら言うてみてん?」
「「ないなッ!」」
2人の返事がハモった。
「やろぉ~。そんな人が物好きにも私なんかを好きになってくれたんやで。こんな奇跡みたいな有難い話ないで。それやのに、たかだかセックスできんくらいで嫌いになるか?気持ち冷めるか?ならんやろ、普通。私は神に感謝しとるぐら…」
「もうヤメて…」
興奮して光君を褒め称える言葉がマシンガンのように口から発射される私を当の本人が止めた。
「そこまで言われるとさすがに恥ずかしいよ」
私の言葉に「うん、うん」と同意していた2人は、
「そんなことないよ!」
「そうだよ光さん!」
照れる光君に"褒め殺し"というさらなる攻撃を重ねてきた。
結局、私のお財布事情を説明するはずが光君の痛々しい過去やトラウマの原因、そして私たち3人の光君への溢れる愛をひたすら言い合う時間となった。
私以外はアルコールも入っていたので、普段見せない姿も披露していた。
ファンが見たら昇天ものだろう。
なにせ素面の私と3人で光君を取り合ったんだから(笑)。
光君の後ろからバックハグをかました私に対して、左右の腕をそれぞれ引っ張りあうRyoと龍斗。
子供かッ!?
いや完全な子供やな、ガキや。
酔っ払ったRyoは、
「光さんの彼女として認めてやるよ」
って、何様やッ!(Ryo様なんやけど…)
何目線で言うとんじゃあぁぁ!
龍斗に関しては、
「俺、知らなかったから女遊びバンバンしてた。ゴメンよぉ光さん。俺ちゃんと考えてやるようにするよぉ」
って、結局するんかいッ!
何の話しとんじゃいッ!
突っ込みどころ満載のカオスな現場で、最後は光君の元嫁、香に対するディスり大会が始まった。
先に寝落ちした光君以外の3人で、それは明け方近くまで続いた。
優勝者はもちろん私だッ!!!
吉岡典子、42歳。一度死んで異世界で転生し、その異世界で亡くなった魂が元の体に戻るという、とてつもないイレギュラーな体験をした主人公。スキル持ち。二人の子供を持つバツイチのシングルマザー。現在、吉川光輝と"結婚しない"ことを条件にパートナー関係にある。
吉川光輝、37歳。あだ名はヨッシー&光君。バツイチのゲームクリエイター。身なりに無頓着でちゃんとしたらモテるのに敢えてオタクを装おっていたイケメン。物好きにも典子に惚れた奇特な男。
吉川涼也、24歳。Ryoと言う名前で活躍する超人気アーティスト。国民栄誉賞を与えたいイケメンNo.1。忙しかった両親の代わりに幼少の頃から親代わりに育ててくれた叔父の光輝を光さんと慕い、現在一緒に同居中。吉川光輝の甥で横山龍斗の親友。
横山龍斗、21歳。若手No.1のイケメン俳優。テレビ、CM、映画と人気抜群の国民的スター。ただし15歳より前の過去は謎に包まれている。スキャンダルも人気のうちと流した浮き名は数知れず。それすら人気に繋がる、吉川涼也とは親友。




