~同居開始②~
第3章ー4
朝だ。
誰が何と言おうが、朝はやって来る。
そして同居して初めて全員が揃った朝だ。
私は隣で眠っている光君を起こさないように静かにベッドから抜け出すと、洗面所で顔を洗ってから朝食の支度に取り掛かった。
好き嫌い…は分かるはずもなく無難に鮭を焼き、玉子焼きと味噌汁の準備をした。ご飯は後30分位で出来上がるので大丈夫。
問題は何時に起こせばいいかだ。
光君は会社勤めでだいたい9時半から10時出社が基本だけど、後の2人は毎日予定がバラバラなので起こす時間をどうするか悩みどころだ。
光君に合わせて全員で一斉に食事をしてくれると私は助かる。片付けが楽だからだ。
だが、撮影なんかで夜中に帰って来る相手を朝の7時や8時に起こしていいもんだろうか?
さすがの私も寝かせといてやりたい気分になる。
が、元々は生活習慣を改善させる為の同居なのだから最初から遠慮していては始まらない。米が炊けたら全員起こそう!と、私は味噌を溶きながら決意した。
「おっはよう━━ッ!起きてぇ━・・・」
朝食の準備が出来た私はリビングから大声で全員に朝の挨拶をまとめてした。
かろうじて動きがあったのは光君だ。
寝室からゴソゴソと音が聞こえてくる。
大きな欠伸をしながら部屋から出て来た光君は、
「おはよう」と私に一言発して洗面所へ向かった。
残りの2人は返事どころか物音ひとつしない。
顔を洗って目が覚めたのかリビングに戻ってきた光君は改めて、
「典ちゃん、おはよう」
と、バックハグからの頬っぺにキス。
こういうことが自然にできる男はモテる!
中身がイケメンだぁぁぁッ!
「はい、おはよう。さ、食べなよ」
軽く照れ笑いしながら仕事へ行く光君に朝食を勧める私。お行儀の良い光君はダイニングの椅子に座ると「いただきます」と言って食べ始めた。
その姿を見ながら一緒に食べ出した私は、
「ねぇ、起きてこんのやけど?」
昨夜4人いたのは気のせいかと思うぐらい、私達2人の生活音しか聞こえてこない。
「まだ爆睡してんじゃないかな?」
「寝かせといても大丈夫なん?」
「郷田さん達が迎えに来るまでたぶん起きないと思うけどね」
「いつもそうなん?」
「うちに泊まってた時はだいたいそうだったよ」
「光君が仕事行った後はどうしてたん?鍵かかってたら入れんやん?」
「鬼電攻撃みたいだよ」
「出るまで電話鳴らし続けるってこと?」
「そうみたいだね。だから大変なんだろうね」
「それメッチャ迷惑やん。絶対嫌やわ」
「だから同居して欲しかったんじゃない?」
「う~わッ!それ責任重大やん」
「まぁ、そうだね。でも居所が分からなかった頃よりマシなんじゃない?ここに迎えに来ればいることは確かなんだから」
「迎えに来てから起きるんじゃ遅いやろ?」
私はお互いの食べ終わった食器を片付けながらそう告げたが、光君は仕事に出るため着替えをし始めたので真剣に聞いてないようだ。
「もう起こすよぉ~?」
「いいんじゃない?典ちゃんに任せるよ~」
部屋から光君の軽い返事が聞こえたので私は2人を無理矢理にでも起こすことにした。
「行ってらっしゃ~い」
「うん。じゃ、行ってくる」
光君が玄関のドアを閉めたところで私は2人を起こすためリビングから大声をあげた。
「起~き~てぇ~」
静寂がリビングを包む・・・
ため息をつきながらズカズカと部屋に入った私は爆睡しているRyoの布団を一気にめくり、
「朝だぁぁぁ━━ッ!起きろぉぉぉ━━ッ!」
火事だぁぁぁ━━ッ、の勢いで叫んだ。
「・・・ん・・・」
寝起きでもカッコいい人はカッコいい。
まだ目が開いてないのに、しかめっ面で答えた寝顔ですら超イケメン!黙ってたらマジで国宝級のイケメンやなぁ…と思いながら、しばしその美貌を堪能した私。
『あっ!それどころじゃなかった』
ふと我にかえった私は寝惚けながらも再び布団を掴もうとしているRyoの背中を叩きながら、
「起きんかいッ!」
耳元で怒鳴りつけた。
「・・・う、うるさい・・・」
よし、とりあえずRyoは起きたな。
次は龍斗だ。
隣の部屋に行き同じく耳元で叫ぶ。
「龍斗ぉ━ッ、起きてぇ━━ッ!」
すると寝ぼけた龍斗が、
「ん、おはよう・・・」
「うわっ、ちょ、ちょっと」
寝返りをうったついでに手を伸ばして私の腕を掴んで引き寄せた。
龍斗のベッドに倒れ込んだ私の目の前にはこれまた超イケメンのドアップがッ!
「おはよう」
目を閉じたまま私を抱き締めて耳元で囁く。
『きゃぁぁぁ━━━━ッ!!!』
一瞬、我を忘れてとろけそうになった私。
元々ファンだったし仕方ないよね?
日本中の女性が同じ気持ちになるはず!
今若手で1番人気のあるイケメン俳優にベッドで抱き締められてるんやで?夢やろ?壁ドンどころの話じゃないよね?
でもミーハーの高揚感より大人の責任感が勝った私はすぐさま夢の中から抜け出し龍斗の頬っぺたをツネッた。
「寝惚けてないで、えぇ加減起きなさい」
「あ、イタ、イタタタタッ!」
お━━っ、肌もツヤツヤだしツネッた顔でもやっぱりカッコいいやん。
だが今大事なのは見た目がいい子ではなく、サッサと起きる子だ。
「朝御飯できてるから」
そう言って私は部屋を出た。
リビングに戻った私はタバコを1本取り出した。
火をつけながら心の中で、
『いやぁ~、1日目の朝から先がどうなるか心配だったけど、ラッキーなこともあるもんや』
ちょっとテンションのあがった私だった。
10分後…何とか起きてきた若いイケメン2人は無言で朝食を頬張っていた。
「朝食どう?」
「「・・・」」
無視かよ、返事せぇよ…。
まぁ、ガツガツ食べてるところを見ると嫌いなもんはなかったようだな。
それにしても、さすが若いだけあって食べ方にも勢いがあるよね?あんだけバクバク食べてくれたら作り甲斐もあるってもんだ。
そう思いながら2人を見ていたら、食べ終わった龍斗が席を立とうとした。
「ご馳走さまは?」
私は龍斗に向かって声をかけた。
「は?」
何言ってんの?って顔で私を見る龍斗。
「寝惚けてたから"いただきます"は許したけど、食べてる間に目は覚めたやろ?なら、"ご馳走さま"は言えるよね?」
「そんなこといちいち…」
「いちいち言わんでも、そんなことぐらい常識で分かるやん?大人なら…」
龍斗の反論を最後まで言わさず先手を打つ私。
「…ご馳走さまでした」
仕方なくって感じで声にした龍斗は立ち上がって洗面所へ向かった。
「フッ」
鼻で笑っていたRyoも食べ終わったようで
「ご馳走さま」
と言うとリビングから消え去った。
食べ終わった2人の洗い物をしながら自分の今日の予定を思い出してみた。
小説と翻訳の仕事を仕上げて出版社に顔を出す、と何か頼みごとあるって言ってたなぁ。
光君からの伝言だったけど、会社の繋がりで知り合いから何か頼みごとされたって言ってたし。新しい仕事の依頼かなぁ?
忘れてたけど言語スキルってマジでチート。
昔よく読んでいた異世界小説では当たり前のように登場人物が言語理解とか使ってたけど、あんまし重要視されてなかったよなぁ。
でも現実世界ではマジ重宝するわ。
17時に出版社へ行くとしてそれまでにやることをやっておく。
そうこうしているうちにRyoと龍斗は軽くシャワーを浴びて着替えを済ませていた。
すでに悪ガキ2人じゃなく、テレビで見る芸能人のRyoと龍斗が出来上がっていた。
迎えに来る30分以上前に準備OK。
これなら責任をまっとうできたはず。
そう安心していた私にRyoが尋ねる。
「なぁ、毎朝あんな風に起こすつもり?」
「ん?」
「だから、毎日今日みたいに起こしにくんのかよ?って聞いてんの」
「自分で起きれるんならせんけど?」
「・・・」
そこは言い返せんのかよ?
嘘でも"できる"って言うてみろよ。
「え、何々?何の話?」
そこへ龍斗が割って入る。
「おはよう、おやすみ、いただきます、ご馳走さま、ありがとう、すみません…などなど、これ全部当たり前やから」
「何の話だよ?」
「人としてできて当たり前の話をしてるの。挨拶や感謝、お詫びの言葉は口にしないと意味がない。思ってるって言っても他人には分からないし伝わらない。超能力者じゃないんやから」
「だから?」
不満そうにRyoが聞いてくる。
「一緒に住んでる家族にでもちゃんと口に出して言わなきゃダメってこと」
「そんなことか…」
龍斗が言う。
「そんなことができてないけどね?」
私の言葉にムッとする龍斗。
「あと大人として仕事をする上で大事なことを忘れないように!」
「何だよ、それ?」
「人それぞれだろうけど、私の中では"想像力"と"実行力"と"責任感"の3つが絶対!」
私の真剣な顔と口調にとまどう2人。
「アンタらはまだ若いけど大人の世界で仕事をしてるんやから責任は必ずついて回るんやで。それによって周りに迷惑をかけることもあるって考えるのが想像力。だからやるべきことをキチンとやるのが実行力。とにかく自分の行動に責任を持って、こうしたらどうなるって考えてから実行するようにしなよ、ってこと」
珍しく黙って聞いている2人。
「とにかく仕事の時間を守るのも責任感の有る無しが分かるひとつ。遅れたらみんなに迷惑かけるやろ?特にアンタらが中心で仕事が進むこと多いんやから。アンタらの代わりはおらんのやで」
と力説していると玄関の呼び出し音が鳴った。
「あっ、マネージャーさん来たんちゃう?」
私は急いで玄関へ向かった。
「ありがとうございます」
「いえいえ」
ものすごく感謝されている私。
迎えに来て準備万端で待っていた2人にマネージャーが驚いたようだ。日頃どんだけだったんだよ…と呆れる私。
「じゃ、頑張って」
「ん…」
「何か忘れてない?」
私が意地悪く言う。
「「・・・行ってきます・・・」」
「はい、行ってらっしゃい(笑)」
ホント1日目の朝から大変だ…。
吉岡典子、42歳。一度死んで異世界で転生し、その異世界で亡くなった魂が元の体に戻るという、とてつもないイレギュラーな体験をした主人公。スキル持ち。二人の子供を持つバツイチのシングルマザー。現在、吉川光輝と"結婚しない"ことを条件にパートナー関係にある。
吉川光輝、37歳。あだ名はヨッシー&光君。バツイチのゲームクリエイター。身なりに無頓着でちゃんとしたらモテるのに敢えてオタクを装おっていたイケメン。物好きにも典子に惚れた奇特な男。
吉川涼也、24歳。Ryoと言う名前で活躍する超人気アーティスト。国民栄誉賞を与えたいイケメンNo.1。忙しかった両親の代わりに幼少の頃から親代わりに育ててくれた叔父の光輝を光さんと慕い、現在一緒に同居中。吉川光輝の甥で横山龍斗の親友。
横山龍斗、21歳。若手No.1のイケメン俳優。テレビ、CM、映画と人気抜群の国民的スター。ただし15歳より前の過去は謎に包まれている。スキャンダルも人気のうちと流した浮き名は数知れず。それすら人気に繋がる、吉川涼也とは親友。




