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~無茶な提案②強敵に屈する~

第3章ー2





結局、話が長くなりそうなので全員分のコーヒーを入れることになった。

五十嵐さんが手伝ってくれたので全員に配り終えるのは割りと早く済んだが、これからの話は長引きそうだ。

そう思いながら私は(コウ)君の隣にそっと座った。

重苦しい空気を感じ、さすがに緊張してきた私は失礼を承知で言った。

「ちょっと一服させてもらいますね?」

タバコを1本取り出した。

「あっ、じゃあ私もいいかな?」

社長が続いてタバコを出したので、私は大きめの灰皿を隣の部屋から取ってきた。

テーブルの中心に灰皿を置くと、今時珍しく秘書と五十嵐さん以外は喫煙者だった。

禁煙ブームの中、こんなに喫煙者(ナカマ)がいるのは久しぶりだが、楽しい話が始まるわけじゃないことは私も分かっていた。



「まず説明を始める前に、こちらの2人は帰らせてもらいますが、よろしいでしょうか?」

秘書の中村さんが口火を切った。

「えっ?どうしてですか?」

一番若い五十嵐さんが唐突にこの場から排除されることへの拒否反応を示した。

「ここからはかなりデリケートな話になるので、あなた方は今日のところはお引き取りください。」

「で、でも…」

「帰るぞ、五十嵐。」

郷田さんが立ち上がり、五十嵐さんを促した。

「元々はお前が言い出したことだ。中村女史に相談し、社長に話が通った時点で任せるってことだろ?」

「・・・分かりました。」

しぶしぶ立ち上がった五十嵐さんは、後ろ髪を引かれるようにして郷田さんに連れられ玄関から出て行った。

「何から説明すればよろしいでしょうか…」

マネージャー2人が去ったリビングで、私だけ知らなかったRyoと龍斗の過去を中村さんから聞くこととなった。



「まず龍斗についてお話させて頂きます。」

中村女史はソファーに座り直すと、静かな口調で淡々と話し始めた。

「吉川さんは別として、龍斗が孤児だったことを吉岡さんはご存知でしょうか?」

「えっ!?」

そんなん知るわけないやんっ!

「いえ、知りませんでした。初耳です。」

ミステリアスな雰囲気で売り出す為にあえて過去を非公表にしてるんだと思ってたわ。

「では最初からお話しします。」

それからは龍斗が物心つく前に孤児院前に捨てられていたこと、その孤児院の環境がかなりひどかったこと、義務教育である中学生の頃には不登校になり、そこも飛び出し繁華街で使いっ走りのようなことをして暮らしていたことを聞かされた。

冷静に話を進める中村さんとは対照的に、私はあまりにも過酷な幼少期を過ごした龍斗を想像し、いつの間にか涙が溢れていた。

「今でこそ摘発されてその孤児院はもうありませんが、そこで特にひどかったことのひとつが子供達に対する呼び方です。」

「呼び方?龍斗だから(リュウ)とかでしょ?」

「それは私共(ワタクシドモ)が引き取ってから付けた名前です。あそこで龍斗は十三(ジュウゾウ)という名前でした。」

古風な名前だったんやな…と呑気に思った私はその後の話を聞いて自分を殴りたくなった。

「摘発された当時、あそこにいた子供達の名前は一郎、二郎、三郎・・・」

「ちょ、ちょっと待って。まさか・・・」

「ご想像の通り、孤児院に入って来た順に頭に数字をつけて名前として呼んでいたんです。龍斗は13番目の男の子だったため十三(ジュウゾウ)と名付けられ13番と呼ばれていました。」

「な、なんてっ…最低やん…。」

もし私に火魔法や雷魔法が使えたら、今すぐそいつらに向けて放ってやるのに!

「そんな大人達の中でまともな愛情も教育も受けずに育ってしまった龍斗は、中学にあがると孤児院を飛び出しました。」

「そりゃそうなるわ!誰だってそうやろ?」

感情的になっていた私はつい叫んでいた。

あまりにもそいつらに腹が立って憎くて、そして龍斗が可哀想で仕方なくて…。

「そんな時、龍斗はRyoと出逢います。

龍斗が14歳、Ryoが17歳の時です。

この頃のRyoは父親が今の再婚相手と付き合いだしたこともあり、いわゆる反抗期でした。以前から叔父であるこちらの吉川さんのマンションによく来ていたようですが、高校に入学してから前にも増して入り浸るようになり吉川さんの仕事を間近で見ているうちに手伝いもするようになっていたそうです。」

「えっ?そうだったん?」

「あぁ、そうなんだ…」

私、知らんことばっかりやし・・・。

「元々は亡くなられた母親がRyoにピアノを習わせていたためゲーム内の音楽に興味を持ち、それから自分でも曲を作るようになって今のアーティストRyoが誕生したんです。」

「そうだったんですね…」

Ryoが(コウ)君にあんなにも執着して、私を敵視する気持ちが今やっと分かった気がした。



コーヒーは冷めていたが、誰も飲んでいなかったし飲む気にもなれなかった。

「話を戻しますが、我が社のHPやタレントのブログの仕事で吉川さんの会社とお付き合いがありました。Ryoは吉川さんの仕事に関わっていた縁で大人との付き合いも自然と増え、そんな打ち合わせの帰りに偶然立ち寄ったゲームセンターで龍斗と出逢ったそうです。」

「ゲームセンター?」

「えぇ。歌舞伎町のゲームセンターです。リサーチも兼ねてたまたま立ち寄ったところに龍斗がいて、そこで対戦し互いにゲームの実力を知り、徐々に話をするようになって気づけば兄弟のような無二の親友になっていたそうです。」

「そうだったんですね…。」

だからあんなに仲が良かったんだ。

単に業界人同士で仲良くなったわけじゃなく、それ以前からの知り合いだったんだ。

(コウ)君はもちろん知ってたよね?」

私が尋ねると無言で頷く(コウ)君。

だからか。

だから龍斗はあの時、(コウ)君のことを"信用できる大人"って言ってたんだ…。

「話を続けます。龍斗とRyoがそれぞれ中学と高校を卒業する時に将来のことで相談を受けました。その時すでにRyoは覆面作曲家として活動してましたから、卒業後はうちへの入社が決定してたんです。ただその時、龍斗も一緒に…とRyoから頼まれたんです。あの子からの初めての頼みでした。」

「俺も(リョウ)から頼まれたんだよ…。」

珍しく(コウ)君が話に割って入ってきた。

「龍斗の身元引受人になってくれって。

あいつを今の状況から救ってくれって…。

夏あたりからつるむようになったアイツらを俺はずーっと見てきた。Ryoが高3になった頃にはほとんどうちに入り浸ってたから…。そん時、龍斗の生い立ちも聞いて中学卒業後の相談をされたんだ。」

「吉川さんとRyoから相談されて一度会ってみようという話になったんです。ただし、うちで預かる代わりにRyoも覆面作曲家ではなく、アーティストとしてデビューすることを条件として。」

「えっ?何で?」

「何で…ですか?逆になぜ?でしょう。あのルックスとあれだけの才能があるのに裏方ってあり得ませんよ。以前から我が社としてはRyoのデビューには前向きだったんです。ところが当の本人が首を縦に振らない。そこへ降って湧いたような話ですよ?こちらも慈善事業ではありませんからギブ&テイクですよね。」

「そうかもしれんけど…」

シレッと言うてるけどエグいな…。

中村さん、あんた恐いゎ。

いや、実際の決定権は社長やから本当に恐いのはこの社長なんかも…。他人事(ヒトゴト)みたいに横でタバコ吸ってるけど。

「そして実際に会ってみましたら素晴らしい原石でした。こちらとしても損のない取引です。卒業後には我が社の養成所で演技の勉強をさせながら、色んなオーディションを受けさせました。CMから火がついて17歳で俳優デビュー。それからの活躍はご存知でしょう?」

確かに龍斗の初めてのドラマは脇役での出演だったのに主演のアイドルを喰う人気ぶりで、それから映画もドラマも主役張り続けてるもんなぁ。

「Ryoも同様です。今まで覆面作曲家として他人に曲を提供していた彼が、ビジュアルを公開して自分自身で歌った途端ミリオンを連発。そして龍斗の作品にはRyoの楽曲が提供され、RyoのPVには龍斗が出演するという"売れること間違いなし"の鉄板の法則が生まれたんです。」

「なるほどねぇ…」

すでに私の耳には中村さんの説明はBGMのように右から左に流れていた。

目の前であの2人の人気と実力がどれだけスゴいか力説している敏腕秘書。だが私にとって、自分の子供と変わらない年の2人が肩寄せ合って生きてきたとしか思えない。だから、つい口から出てしまった。

「会社のドル箱スターである"大事な商品"にケチがつかないよう見張って欲しいってことですか?」

涙は止まっていたが、私は赤くなった目で真っ直ぐ中村さんを見据えて言った。

「そういう取り方もありますね。」

相変わらず淡々と受け答えをする中村女史。

「いくら実力があってもこの業界は人気商売です。ファンやスポンサーが離れたら全て終わりなんです。そうならない為にも彼らのことを考えての提案なんです。」

「それは分かりますけど、でも…」

「無理ということですか?」

敏腕秘書(テキ)が畳み掛けてくる。

「こちらとしましても大の大人のプライベートまで口出しするのは野暮だということは重々承知しています。ですが、何かあった場合の違約金や損害賠償などを考えた時に、大変な思いをするのはあの2人なんで…」

「誰も無理だなんて言ってないです!」

私は敏腕秘書の声を遮った。

「おっしゃってることは十分理解しました。大人として社会のルールを守らなければならないことや我慢しなければならないことがあるのは当然です。でも私は"大事な商品に傷がつかないように"じゃなく、あの2人に普通の家族というものを知って欲しいと思うから、守ってあげたいと思うからOKするんです。もし何かあって芸能界から消えるようなことになっても2人の面倒ぐらい私がみます!決して会社のためじゃなく、あの2人のためを思って同居しますッ!」

言っちゃった。

売り言葉に買い言葉で、ついつい反射的に言っちゃったよ私…。すると、

「ありがとうございます。」

さっきまで置物みたいにただ座ってタバコを吸っていた社長が、いきなり頭を下げてお礼の言葉を続けて発した。

「そう言ってくださると信じてました。

本当にありがとうございました。」

あッ!もしかして、、、

「社長、言った通りの女性でしょう?やはり私が見込んだだけはあります。」

呆気に取られている私を横目に満足そうな社長と敏腕秘書…というか策士やな、この女。

「もしかして、、、私が自分からこう言うように仕向けたんですか…?」

「仕向けたなんてとんでもない!今言ったことは全て本当のことです。ただ吉岡さんならそうおっしゃってくださると思ってました。そして、一度口にしたことを反故(ホゴ)にするような人ではないと信じています。」

やられたッ!

完全にこの敏腕秘書(オンナ)にやられたッ!

「ゴメンよ、典ちゃん…」

ここでまさかの(コウ)君からネタバラシ!

「えっ!どゆこと?まさか(コウ)君もグル?」

「ぃや、そうじゃなくて。典ちゃんがOKなら俺は構わないって言ったもんだから…」

はい、話し合い終了。

だから中村さんは私の説得に必死だったんだ。

引くに引けなくなった私は近々母親業復活の狼煙(ノロシ)をあげることとなった。



吉岡典子、42歳。一度死んで異世界で転生し、その異世界で亡くなった魂が元の体に戻るという、とてつもないイレギュラーな体験をした主人公。スキル持ち。二人の子供を持つバツイチのシングルマザー。現在、吉川光輝と"結婚しない"ことを条件にパートナー関係にある。


吉川光輝、37歳。あだ名はヨッシー&(コウ)君。バツイチのゲームクリエイター。身なりに無頓着でちゃんとしたらモテるのに敢えてオタクを装おっていたイケメン。物好きにも典子に惚れた奇特な男。


吉川涼也、24歳。Ryoと言う名前で活躍する超人気アーティスト。国民栄誉賞を与えたいイケメンNo.1。忙しかった両親の代わりに幼少の頃から親代わりに育ててくれた叔父の光輝を(コウ)さんと慕っている。吉川光輝の甥で横山龍斗の親友。


横山龍斗、21歳。若手No.1のイケメン俳優。テレビ、CM、映画と人気抜群の国民的スター。ただし15歳より前の過去は謎に包まれている。孤児。スキャンダルも人気のうちと流した浮き名は数知れず。それすら人気に繋がる、吉川涼也とは親友。


郷田さん。独身貴族の龍斗のマネージャー。


五十嵐さん。Ryoと同い年の新人マネージャー。


中村さん。Ryoと龍斗の所属する会社の社長秘書。


神谷明。Ryoと龍斗が所属する会社ライト・エンターテインメントの社長。


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