~仕事復帰~
まだまだイケメンは出てきません(笑)
第1章ー3
翌日、精密検査を受けることとなった。
特に目立った外傷はなかったが、頭を打っていたので頭部と内臓関係を調べるということだった。一時は心停止したこともあり、CTやらMRIなど念入りに検査されたが医者も驚くぐらいの回復だったようだ。結局、大した異常も見つからず一週間は安静を言い渡されたはずが、しばらくは通院することを条件に明日にでも退院してOKとの許可が降りた。
「ただいま~。」
久しぶりの自宅に戻るとホッとして、涙が出そうになった。たった一週間くらいの出来事だったのに、夢のせいか何年も帰ってなかった気持ちになった。
「お帰り~、もう大丈夫なん?」
子供達が玄関にかけてきた。
「心配かけたけど、もう大丈夫やで。あんたらも仕事や学校あったのに大変だったやろ?」
「そんなん気にせんでもえぇのに…」
荷物をリビングに運びながら息子の亘がそう言った。
「お母さん、しばらくは家で安静にしとくんやろ?」
娘の亜紀が尋ねてきた。
「う~ん、事故のことで保険会社とバス会社に連絡取って、だいたい落ち着いたら仕事に復帰するつもり。まず会社に今の状況を伝えとくわ。」
「そんなすぐ働かなくてもえぇんちゃう?」
「そうやで。大事故だったんやし。」
子供達が心配そうに私を見る。
生きていて良かったと改めて実感した。
「そうやけど、元々会社の出張帰りの事故なんやし、労災降りるかの確認もあるし、いつまでも休んでおれんやん。」
「そうやけど…」
「まぁ、検査して異常なかったから退院できたんやし、一度会社に顔出してくるゎ。」
そう言う私に亜紀が、
「無理せんといてよ?」
家族がいて本当に良かったとしみじみと感じさせる言葉をくれたのだった。
第1章ー4
「もう大丈夫なん、吉岡さん?」
事故後、初めて会社に顔を出した私を上司や同僚は総出で出迎えてくれた。
「まだ無理せんでもえぇんやで?」
そう言ってくれたのは直属の上司だったが、
「仕事溜まってませんか?」
という私の問いに、
「いやぁ~、まぁそうやけど…」
と、バツの悪そうな顔で答えた。
40歳になる今まで勤めたこの会社では私はお局様と化していて、仕事もかなり抱えていた。
今回の出張も会社で使っているパソコンシステムの入れ替えに関しての研修だったし、私が戻らないと研修システムの内容が従業員に周知されないだろうと思ったから、無理をしてでも顔を出したのだ。
「あの~。」
同僚の後ろから見知らぬ顔が見えた。
『誰コイツ?』
と、心の中でつぶやいた私に、
「今回の事故で本社がSEを派遣してくれたんや。時間もなかったし、吉岡さんの退院がいつになるかも分からんかったから四人も。」
と、さっきの上司が自慢そうに話してきた。
「初めまして、吉川です。」
そう挨拶してきたのは30半ば頃の一言で言えばオタクのような雰囲気の男だった。
「私は下田です。」
「初めまして、私は上野です。」
「お噂は聞いています、私は中井です。」
と、残りの三人も挨拶をしてくれたが、私は最初に声を掛けてきた吉川という男が気に入らなかった。
まずボサボサに伸びた髪、掛けている眼鏡が隠れるほどの前髪、無精髭に、ヨレヨレの服。
おいおい、普通そんな格好で取引先に来るか?
と目を疑うような出で立ち。
他の三人はみんな20代に見えるが、キチンとスーツで髪もセットされ、身だしなみを整えているのに、一番年くってそうな奴がこれかよ?と、心の中でツッコミを入れていた。
「お世話になっています。吉岡です。」
営業スマイル全開で心の声をかき消し、
「今回は私の事故のせいでご迷惑をお掛けしました。どこまで説明が進んだかは後で聞くとして、こちらの業務内容とシステムのすり合わせを先にしておいた方がいいと思うのですが?」
大人の対応を心掛けた。
「あっ、じゃあ吉川さんと打ち合わせをお願い事できますか?」
若手の中では一番先輩風な上野という男がそう言ってきた。
「このシステムに関して一番詳しいのは吉川さんなので、代表して打ち合わせして頂くと助かります。」
『マジかッ?』
こんなボーッとしたオタクやのに?
いや、オタクだからこそ詳しいのか?
と、心でツッコミの嵐を巻き起こしながら、
「分かりました。じゃあ吉川さん、よろしくお願いいたします。」
にこやかにオタクの受け入れ体勢に入った。
「吉岡さん、ハズレ引きましたね(笑)」
私の後ろから後輩の陣内が呟く声が聞こえた。
入ってきた時から結婚相手を探しています、という婚活モードが溢れていた陣内さん。
若手の中でもまずまずの中井君にマンツーマンで教えてもらってるようだ。
後で上司に聞いたところ、四人来てくれたはいいが女性社員が若手の三人に集中し、オタク吉川に誰も近寄らないため実質三人で廻しているような状況だそう。
一番詳しいというのは本当のようで、質問されて分からないことがあると、若手はオタク吉川に尋ねているそうだ。
『はいはい、なら仕方ないな。』
ココは職場で自分は男を探しているわけでもなく、休んでいた分の遅れを取り戻すためにも一番詳しい奴に担当してもらった方が手っ取り早いしな…と、オタクはお局が受け持った!と、ある意味で開き直りとも取れる意気込みで、私はオタク吉川と自分のデスクについた。
吉岡典子、40歳。一度死んで異世界で転生し、その異世界で亡くなった魂が元の体に戻るという、とてつもないイレギュラーな体験をした主人公。二人の子供を持つバツイチのシングルマザー。
吉川光輝、35歳。身なりに無頓着なSE。
吉岡 亘、20歳。
ゲーム好きの典子の息子。普通の会社員。
吉岡 亜紀、15歳。
しっかり者の典子の娘。アイドル好き。