~無茶な提案①強敵あらわる~
第3章ー1
あの放送から1週間ほどたっていた。
私の周りもだいぶ落ち着いてきたところだ。
誰か分からん相手からも電話やメールが来るのでごく一部の人間以外には同じ内容をコピペして送り、それ以降は返信していない。
【しばらくはそっとしておいてください。またRyoと龍斗に関わることには一切お答えしません。】
田舎の子供達も同様だ。
特に娘の亜紀には、
『約束守ったらRyoや龍斗に頼んでアンタの大好きなアイドルに会わせてもらえるよう頼んであげる!』
と念押ししたらスゴい効き目だった。
ファンってスゴいな、と感心したもんだ。
今週末はハロウィンでまた渋谷あたりは大騒ぎになるんだろうな、と思いながら現在私は日記を書いていた。
ハロウィンが土曜ってメッチャ騒ぐやろ?
警察も大変やろなぁ~。
私が若い頃なんかあんなイベントなかったし、コスプレなんかしたことないゎ。
その割りに雛祭りとか端午の節句みたいな日本古来のイベントって廃れてきてない?
流行り廃りって容赦ないなぁ、などと思いながら夢で見た内容をノートに書き出していた私だが、久しぶりに見た夢がちょっと気になっていた。
『この夢見るの見るのってあれ以来か…。』
昨日見た夢は私が死んだ最後の戦いだった。
事故で意識不明の時に見た長編映画のような、死ぬ前に見る走馬灯のような、とにかく19歳の私が魔物との決戦で勇者を庇って死んだ夢だ。
あれ以来ずーっと見てなかったのに、急に昨夜の夢では再放送のように鮮明に見ることができた。
「なんか嫌な感じやなぁ~。」
まさか虫の知らせとか、死亡フラグがたったとかじゃないよね?とか、自分の夢にこここまで振り回される人間って私ぐらいちゃう?などと思いながら、覚えている範囲で可能な限り日記に書き留めていた。
今日は光君が話したいことがあるから早めに帰って来る、って言ってたし私もサッサと日記片付けて晩御飯の支度に取りかかろうっと。
そう思っていた私はこの数時間後に起こる出来事をまだ何も知らず、呑気に晩御飯のメニューを考えていた。
「ただいまぁ~。」
玄関のドアが開いて光君の声が聞こえた。
食事の支度を終えてまったりとリビングでテレビを見ていた私はドアの開く音と共に振り返って返事をした。
「おかえ…えっ?誰?どちらさん?」
光君の後ろには見知らぬ男性が立っていた。続いて私よりちょっと年上?って感じの女性が頭を下げながら入って来ると、最後にRyoと龍斗のマネージャーである郷田さんと五十嵐さんも立っていた。
「もしかしてRyoの会社の人?」
私は登場人物から推測して光君に尋ねた。
「うん、そうなんだ。実は…」
「お客さん連れて来るなら先に言うてよッ!」
私はのんびり見ていたテレビを消して急いで立ち上がり、先頭の男性に近づいた。
「失礼しました。吉岡と申します。」
「いえいえ、こちらこそ。何のご連絡もせず急にお邪魔して申し訳ない。」
見た目で判断すれば、頭の白髪具合や顔のシワなどから60歳は軽く超えてそうな感じだな…と思っていたら、
「夜分に申し訳ございません。こちらはライト・エンターテイメントの神谷と申します。」
そう言って女性が差し出した名刺には
"社長 神谷明"と明記されていた。
「私は社長秘書の中村と申します。」
続けて自分の名刺を差し出した秘書の中村さんは、私が受けとるや否や本題に入った。
「早速ですが、本日こちらにお伺いしたのにはお二人にお願いがございまして…。」
ちょっと待ってよ!もう本題に入るん?
何でいきなり社長が来るん?
もしかして、この前のRyoとのケンカがバレて光君と別れろ、とか言うんちゃうやろな?なんて心配をしていると、
「まずは先日の番組ですが、急遽予定を繰り上げ生放送に変更しましたことをお詫びいたします。」
あっ、やっぱりか。
だろうなぁ~、とは思っとったけどね。
つうか、この秘書の中村さん?スゴいな…
私に口を挟む間を与えることなく淡々と用件を述べるなんてレアやで、レア!
「いえ、それはもう…」
私が中村さんと社交辞令の挨拶をしている間に光君は社長とマネージャー達をソファーに案内していた。
「とりあえず座りませんか?」
光君の一言で私は中村さんとの挨拶を切り上げコーヒーでも入れようかとキッチンへ向かった。だが、
「あっ、お構いなく。用件をお伝えしましたらすぐに失礼いたしますので。」
中村さんのペースに嵌まってる気がする。
仕方なく全員がリビングのテーブルを囲んで座ることとした。1名掛けのソファーに社長が、2名掛けのソファーに光君と私が、3名掛けのソファーに中村さんとマネージャーの2人が座り、まるで会議が始まるかのような雰囲気だ。
「急な訪問で申し訳ないが我が社に関わる重大なことなので、お二人に時間を取ってもらうよう私が頼んだんだ。」
初めて社長が喋ったぞ…と思ったら、
「詳細は私からご説明させていただきます。」
早くも秘書登場。
「ご存知かと思われますが、現在の我が社はRyoと龍斗の2枚看板が売りです。一昔前に売れっ子だったタレントも年齢を重ねるにつれドラマでは脇に回っているというのが現状です。いわゆるバイプレイヤーという立場ですね。大物俳優や大物アーティストと呼ばれるタレントは何人かおりますが、今現在での人気は?となると昔ほどではないのが実状です。そんな中、会社の顔であり売上でもトップを走っているのがRyoと龍斗なんです。」
「はぁ…。」
光君、その返事でホントに分かっとる?
「それゆえ、あの2人にはかなり融通をきかせていたのですが最近は目に余る行動が増え、さすがに放置するわけにはいかなくなったんです。」
分かる、分かるわ。
図に乗ってきたわけやね?
Ryoなんか俺様全開やもんな。
あんだけ見た目がよくて才能もあればある意味、
"地球は自分中心に回ってる"
って2人とも天狗になるん分かる気がするわ。
「さすがに社長の言うことには耳を傾けるのですが、毎回そういうわけにもいかず担当マネージャーの苦労が絶えず困り果てていたんです。」
「でしょうねぇ…。」
つい私の口から本音がポロっと出た。
「そこでお願いがあります。」
急に全員が前のめりになった。
特にマネージャー2人の目が恐い。
嫌な感じがプンプンするんやけど。
「仕事現場でのフォローは今まで通りこちらで対応させていただくとして、プライベートの管理をお二人にお願いしたく伺った次第にございます。」
「えっ?!」
「はぁぁぁぁ?」
声が出た、もちろん後者が私だ。
子育てが済んだ今、何であんなデカくてワガママな子供2人も面倒みないかんのやッ!
無理、むり、ムリ━━━━ッ!
「もちろんお礼も考えております。」
私達の意見を聞く様子もなく敏腕秘書は話を続け、光君に何やら説明をし始めた。
「ちょっと待ってください!」
嫌な予感が当たりそうなので私は話に割り込んだ。
「すみませんが、プライベートの管理ってどういう意味ですか?未成年ならまだしも、まさか成人した大の大人2人の面倒を見ろっていう訳じゃないですよね?」
私と秘書は真っ正面から向き合って、お互い目線を外さない。
ガッツリ臨戦態勢になっている。
最初に牽制した私の言葉を受けて敏腕秘書は冷静に次の攻撃を仕掛けてきた。
「面倒を見ろという言い方は少々聞こえが悪いですが、ある意味似たようなことかもしれませんね。私共の希望は"同居"という形で2人の私生活改善を提案させて頂きたいのです。」
「いやいやいや、ちょっと待ってください。」
私は敵の先制攻撃に多少ダメージを受けていた。
前世の私が魔獣の鋭い爪でいきなり襲われたことを思い出したくらいだ。
「同居って、ここであの2人と一緒に暮らすってことですか?」
私はかろうじて理性を保って話していたが、
『はぁぁ?寝ぼけたこと言うなやッ!』
というのが本心だっだ。
「どうして僕達と同居なんですか?」
ここで初めて光君が参戦してきた。
応援部隊が加わったことで、私は敵の二の矢が飛んで来る前に反撃に出ることにした。
「そうですよ。私達2人で暮らし始めたばかりなんですよ?放送見ましたよね?うちの子供達の勧めで第2の人生をスタートさせたばかりなのに、ここで芸能人と同居なんてあり得ないですよ!」
私の反論に歩兵のマネージャー2人はバツが悪そうな顔をしているが、飛車角級の秘書は一切表情を変えずに反撃してきた。
「芸能人といってもRyoは吉川さんの甥です。それに龍斗もRyoのツテで我が社に入ってきたのはご存知ですよね?あの時はそちらの無理をかなりきいて、各方面に色々と手を回したこともご存知だと思いますが?」
「えっ?どゆこと?」
そんなん初耳やし。
「確かにそうですが…」
そんなん知らんし、聞いてないし!
「ただ彼女は何も知らないんです。だから彼女に迷惑は掛けなくないし、業界のゴタゴタに巻き込みたくないんです。」
うわぁ━━━ッ!光君、男前ッ!
まず私のこと考えてくれたってだけで嬉しい。
惚れ直すやんかぁ~♥️
って、今はそれどころじゃなかった。
「あのぉ~、すみませんが私だけ話が見えてないんですけど…説明してもらえますか?」
「・・・分かりました。」
決定権のある王将が口を開いたことで停戦に入り、やっと私はこの戦いの根本の原因を知ることができた。
吉岡典子、42歳。一度死んで異世界で転生し、その異世界で亡くなった魂が元の体に戻るという、とてつもないイレギュラーな体験をした主人公。スキル持ち。二人の子供を持つバツイチのシングルマザー。現在、吉川光輝と"結婚しない"ことを条件にパートナー関係にある。
吉川光輝、37歳。あだ名はヨッシー&光君。バツイチのゲームクリエイター。身なりに無頓着でちゃんとしたらモテるのに敢えてオタクを装おっていたイケメン。物好きにも典子に惚れた奇特な男。
吉川涼也、24歳。Ryoと言う名前で活躍する超人気アーティスト。国民栄誉賞を与えたいイケメンNo.1。忙しかった両親の代わりに幼少の頃から親代わりに育ててくれた叔父の光輝を光さんと慕っている。吉川光輝の甥で横山龍斗の親友。
横山龍斗、21歳。若手No.1のイケメン俳優。テレビ、CM、映画と人気抜群の国民的スター。ただし15歳より前の過去は謎に包まれている。スキャンダルも人気のうちと流した浮き名は数知れず。それすら人気に繋がる、吉川涼也とは親友。
郷田さん。独身貴族の龍斗のマネージャー。
五十嵐さん。Ryoと同い年の新人マネージャー。
中村さん。Ryoと龍斗の所属する会社の社長秘書。
神谷明。Ryoと龍斗が所属する会社ライトエンターテインメントの社長。




