~それぞれの1日~
第2章ー10
やっと1人になった私は抱えていた仕事を終わらせ、出版社の担当に連絡してデータを送信すると一息ついた。
だいたい私の仕事って睡眠中に見た内容を思い出して書き出すだけの夢日記=小説になってるし、翻訳は言語スキルを使っているため見た文章をただ書き写すだけだから、そんなに時間もかからないし苦労もない。
これで収入があるんだから本当に助かる。
時計を見ると昼の1時過ぎ。
今朝は3回も回復魔法を使ったので近所の公園で森林浴をして鋭気を養おう、そしてランチだ…と私は出掛ける準備した。
昨日はメチャクチャ疲れた1日だったので今日はゆっくり過ごそう、と冬が近い晩秋の晴れた空を見上げて公園へと向かった。
「昨日の生放送見ましたよ。」
吉川光輝は同僚から昨日のテレビ出演をいじられていた。今まで関わりの無かった女子社員から妙に親しげに話しかけられた上、噂を聞いた同じビルの他社の女子社員まで覗きに来ていたのだ。
「まさか吉川さんがあのRyoと親戚だったなんて驚きましたよぉ?」
「まぁ、そうですよね…」
「サインとか頼めますかぁ?」
「一度会社に呼んでくださいよぉ~♥️」
勝手なことを口々に言うバイトの女の子達。
「もう昼休み終わってるから仕事に戻って。」
「はぁ~い。」
「チェッ。もっと話聞きたかったのに…。」
やっと離れてくれた。
「はぁぁぁ~。」
ついついタメ息が漏れた。
こうなるのが嫌で今まで隠していたのに、まさか全国放送でバレるとは。
「おいっ吉川、ちょっと来てくれ。」
前の会社を辞めた後、今の会社を一緒に立ち上げて代表となった真鍋から呼び出された。真鍋は以前からRyoのことを知っていた数少ない1人だ。高校からの友人で付き合いは20数年に及ぶ。
「どうした真鍋?」
真鍋の部屋に入るとブラインドを降ろし周りから見えないようにした。一応代表なので会社の中で唯一個室のある部屋だ。
「見たぞぉ~。さっそく女どもが群がって来てるな。で、彼女の反応はどうだったんだよ?」
「お前までそれかよ…。」
「そりゃ、気になるじゃんか。あれ以来まったく女っ気のなかったお前が一緒に暮らすと決めたくらいの相手なんだろ?」
「まぁな…。」
「昨日の放送は俺も見たけど、キャラ強いのは確かだな。(笑)」
「パワフルな人だよ。だけど嘘のない人だから、思ってることも感じたことも全部言ってくれて助かってる。」
「そんな感じはするな。(笑)」
「昨日も涼と揉めたよ。(苦笑)」
「今のアイツと揉めるってスゴいな?天下のRyoを相手に昨日のあの感じで揉めたのか?」
「ある意味、あれ以上かな。」
「スゲぇな典子さん、俺好きだわ。(笑)」
「だろ?安心できるんだよ。シッカリと自分で立ってる感じがして。俺に乗っかって人生他人任せって人じゃないし。年上ってことを除いても、自立してて助け合いが自然にできるんだよ。」
「じゃあ、香とは大違いだな?」
「ッ!・・・そうだな。」
しまった!珍しく吉川がよく喋るからつい出てしまったが、前の嫁さんの話はNGだった。
「あれから連絡は?」
「なかったけど、、、昨日の放送見たんだろうな。メールが来てたよ。」
「えっ?マジか?」
「あの頃は俺の甥っ子がこんな有名人になるとは思ってなかったんだろうな。まだ中学生だったから、あの時の涼也は。」
「昨日の放送であのRyoがお前の甥っ子だって分かったから連絡してきたってことか?」
「たぶん…。」
「そこまでくると香もスゲぇな。」
「それだけじゃないけどな…。」
「えっ?」
「俺に新しい相手が出来たことが気に入らないって感じだったよ。」
「何だそれ?そんなこと言える立場かよッ!」
「もう10年も前のことだから俺は別にイイんだけど、周りに迷惑かけたくないんだよ。」
「・・・。」
「話はそれだけか?もう仕事に戻るぞ。昨日休んだからやることイッパイあるんだ。」
「あぁ、悪い。」
部屋から出て行った吉川の後ろ姿を見て俺は今度こそ幸せになってくれと本気で願った。
「お疲れさまでしたぁ~。」
「お疲れさまです。」
「ありがとうございました。」
次々と声を掛けられる中、俺は頭を下げながら龍斗を次の現場へと誘導していた。その後ろにはRyoとそのマネージャーの五十嵐もいる。今回の映画の番宣が一通り終わるまで龍斗とRyoはセットの仕事がたくさん入っている。Ryoはまだしも龍斗はプライベートが模範的とは言い難い。同じ事務所とはいえ、自分の担当しているタレントが他のタレントに迷惑をかけるのを見過ごす訳にはいかない。それに今日はたまたま間に合ったけど、今までみたいに連絡がつかないことが今後もあるかもしれない。
どうにかしないとな…。
「乗ったか?」
「はい、大丈夫です。」
「じゃ、出すぞ。」
龍斗とRyoは後部座席で何か喋って盛り上がってるが、隣の助手席にいるRyoのマネージャー五十嵐はどこか悩んでいるというか、考え込んでいる感じがする。
「どうした五十嵐?」
「えっ?あ、はい。」
「考えごとか?」
「いや、うちのRyoと龍斗はプライベートでも仲いいですけど一緒に飲んだ翌朝って毎回大変だったんですよ。龍斗は酒に強い方だからまだマシですけど、Ryoはいつも顔がむくんじゃって。私も色々頑張ってたんですけど、後でスチールとか見ると写りがヤッパリ良くなくて。」
「そりゃ大変だな…。」
「でも今日はむくみもなくメイクのノリも良くて助かったんですよ。これで社長に怒られなくて済むなって。」
「じゃあ良かったじゃないか。」
「不思議に思ってRyoに聞いたら、例の叔父さんの彼女が出掛けに色々してくれたって。私達が迎えに行くまでにシャワー浴びさせて、二日酔いにいいからって味噌汁まで作ってくれて・・・」
「あぁ、それは俺も思ったゎ。Ryoと違って龍斗は普段からプライベートがメチャクチャだから捕まえるのも大変なんだけど、今日はあの…吉岡さん?だっけ。あの人から連絡あったから迎えも着替えも時間に余裕持って行けたんだ。」
「でしょ?でしょ?で、私考えたんですけど…」
「何を?」
五十嵐は後部座席の2人をバックミラー越しに見ながら小声で俺に囁いた。
「郷田さんでも手を焼く龍斗は、Ryoの言うことなら聞きますよね?」
「そういやそうだな…。」
「で、そのRyoは私達でも知ってるくらい叔父の吉川さんには従順じゃないですか?」
「確かに…。」
「で、今日ですよ!吉川さんと彼女が揃うと、朝まで飲んだ翌日でもあの2人がここまでスケジュール通りに出来たんですよ!」
「お前、、、何が言いたいんだよ?」
一息ついた五十嵐は後ろを気にしながら、
「叔父の吉川さんのところに預かってもらうんですよ。いわゆる"同居"ですよ!」
「五十嵐、お前バカかッ!?」
この女、Ryoの手綱が握れないからってマネージャーの仕事を親戚に任せようって無謀なこと言ってやがる。
「私だって嬉しかったんですよ?あのRyoのマネージャーを担当させてもらえることになって…。だって日本中の女性の夢じゃないですか?"国民栄誉賞をあげたいイケメンNo.1"の顔を毎日見ながら仕事できるなんて!」
「なら良かったじゃないか?夢が叶っ…」
「最初だけですよッ!」
五十嵐は食い気味に反論してきた。
「画面越しに見ていたRyoと違って、いざ本人と仕事してみたら愛想はないし、冷たいし、時間にルーズだし、俺様全開だし、…」
「お前、愚痴が止まんねぇな…。」
「もう無理です!私、社長に呼び出されるたびに言い訳考えるのも疲れましたぁ。」
コイツ、入社2~3年の新人マネージャーが1度は陥る沼にはまりやがったな。
「私、ナメられてるんですよぉ。」
だろうな…、見たら分かるよ。
「同い年だからって何言っても右から左だし、いくら注意しても聞き入れてもらえないし…」
「タレントの管理もマネージャーの大事な仕事のひとつだぞ。出来ないからって家族に丸投げして逃げ出すのは違うだろ?」
「だって、あの彼女?吉岡さんでしたっけ?昨日会ったばっかりなのにRyoも龍斗もきちんと言うこと聞いてるじゃないですかぁ。ヤッパリ年上であれぐらいキツく言える人でないと無理なんですよぉ~。」
勝手な言い草だな…。
お前がそんなんだからナメられるんだよ。
「そうは言ってもあちらも仕事があるだろうし、任せっきりなんて無理だろ?」
「そこで郷田さんに相談なんですよ!」
「相談?」
「郷田さんにも悪い話じゃないですから…」
それからは五十嵐なりに無い知恵絞って考えたという"いい案"を俺にグイグイ説明してきて一緒に社長に提案してくれという流れになった。
俺達の後ろではRyoと龍斗が呑気にくっちゃべっていたが、、、さてどうなることか・・・
吉岡典子、42歳。一度死んで異世界で転生し、その異世界で亡くなった魂が元の体に戻るという、とてつもないイレギュラーな体験をした主人公。スキル持ち。二人の子供を持つバツイチのシングルマザー。現在、吉川光輝と"結婚しない"ことを条件にパートナー関係にある。
吉川光輝、37歳。あだ名はヨッシー&光君。バツイチのゲームクリエイター。身なりに無頓着でちゃんとしたらモテるのに敢えてオタクを装おっていたイケメン。物好きにも典子に惚れた奇特な男。
吉川涼也、24歳。Ryoと言う名前で活躍する超人気アーティスト。国民栄誉賞を与えたいイケメンNo.1。忙しかった両親の代わりに幼少の頃から親代わりに育ててくれた叔父の光輝を光さんと慕っている。吉川光輝の甥で横山龍斗の親友。
横山龍斗、21歳。若手No.1のイケメン俳優。テレビ、CM、映画と人気抜群の国民的スター。ただし15歳より前の過去は謎に包まれている。スキャンダルも人気のうちと流した浮き名は数知れず。それすら人気に繋がる、吉川涼也とは親友。




