~朝は戦争だ~
第2章ー9
ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ・・・
「ん、うん~ん…」
まだすっごく眠たいがスマホの目覚ましはそんな私の気持ちなど関係なくいつもの時間に起こしにくる。
寝起き一発、思いっきり全身伸びをすると左足がつりそうになった、、、年だな。
あくびをしながらリビングに出ると
酔っ払いの屍3体が転がっていた。
馬鹿だなぁ、風邪引いてないやろなぁ?と思いながらトイレから出た私はハッとした。
『先にシャワー浴びとこう。』
急いで着替えを取りバスルームへと向かうと速攻でシャワーを浴び、出る頃には眠気も吹き飛んでいた。
今、朝の8時だ。
光君は10時出社だからそろそろ起こして…などと味噌汁を作りながらリビングに転がっている3体の処理方法を考えているとまず龍斗が気付いたようだ。
「なんかイイ匂いがする…。」
犬かっ?音じゃなく匂いに釣られて起きる?それもまだ目は開いてないのに。野生味溢れるイケメンやな。
と、そんなこと考えてる場合じゃない。
「光君、起きて。」
私は急いで光君を起こしにかかった。
残りの2人はどうか知らんけど一応会社勤めのまともな大人は、例え二日酔いでも仕事に行かねばならないのが宿命。
「ん━━━ん、うん…」
起きてない。寝ぼけたままだ。
「光君、起きて!仕事やで!」
「ぅん、ん・・・」
「光輝ッ!起きろぉ━━━ッ!!」
私は枕代わりにしていたクッションを引っこ抜き強制的に起こしにかかった。
リビングに雑魚寝状態で寝ていたため、光君の頭はゴンッ!と直で床に落下した。
「いってぇ~。」
「おはよう。もう8時やで。」
クッションを小脇に抱え、仁王立ちで見下ろす私がそう言うと、
「あぁ~典ちゃん、おはよう。」
半分寝ぼけたままで朝の挨拶をする光君。
可愛い♥️目覚めのキスをしたいぐらい可愛いが、デカイ子供が2人いるので我慢だ。
その間に残りの2人も気がついたようで、酔っ払い3人衆はごそごそと動き始めた。が、バスルームへ向かおうとしていた龍斗に気づいた私は、
「ちょっと待ったぁ━━━ッ!」
急いで龍斗の腕を掴んで引き留めた。
「先に光君!」
「へっ?」
「ゴメン、時間がないんや。」
急に腕を取られた龍斗は半分しか開いてない目を擦りながら、あぁ…と納得したようでソファーに戻って寝転がった。
「光君、急いでッ!」
もぞもぞしていた光君を叩き起こし、トランクスだけ握らせるとバスルームへ放り込んだ。
その間に残り2人の仕事の確認をした。
2人とも今は映画の番宣が多く入ってて今日もほぼ一緒のようだ。それに2人は同じ事務所だからどちらかのマネージャーに連絡すれば迎えに来てくれるはず。
私は二度寝しようとしている龍斗からスマホを取り上げ、マネージャーの名前を聞き出して急いで連絡を取った。
「もしもし?今どこなんだ?」
かけるや否や、マネージャーの郷田さんがワン切りする間もなく電話に出た。
「すみません、私は吉岡と言いま…」
「またかッ!龍斗の奴まったく。ちょっとスマホの持ち主と代わってくれるかな?それと龍斗とは金輪際関わらないってことで頼むよ。それから…」
問答無用で喋ってるよ…。
「すみません!私そういうのじゃないです。
郷田さんですよね?私は…」
一方的に喋っているマネージャーを遮り、私は昨晩の説明をして迎えに来てくれるよう頼んだ。もちろんRyoともどもだ。
「あっ、昨日の?確かRyoの叔父さんの彼女?」
「そうです、その吉岡です。2人とも酔っ払ってて大変なので迎えに来てくださると助かります。あと確認ですが、今日一番最初の仕事は2人一緒の番宣でいいんですよね?なら現場まで2人一緒に連れて行ってRyoのマネージャーさんに引き継いでもらえますか?」
「こちらこそ助かります。今すぐ向かいますので場所はどこですか?」
朝っぱらから仕事モードだよ、あたしゃ。
マンションの住所を伝えて私は電話を切った。
んで、本人達はまだ寝ぼけてるよ…。
「えぇ加減にしてよッ!」
リビングに響き渡る大声で酔っ払いを怒鳴りつけた私は、いかにイケメン芸能人だろうが容赦なく起こしにかかった。
ちょうど光君が出てきたので、
「次はアンタがシャワー浴びて!」
二度寝しかかっていた龍斗を起こし、バスルームへ無理矢理追いやった。次に天敵のRyoを起こそうとするが、一瞬気がついてまた夢の中に戻っている…。
「これじゃ、会社員は無理やな。」
半ば呆れながらどう起こそうか考えていたが、一発で目覚めるいい案を思いついた。
シャワーを浴びスッキリして目を覚ました光君はテーブルで味噌汁を飲んでいる。
「仕事行く前にアレ起こしてよ。」
私はRyoに背を向けたまま親指で彼を差した。
「マネージャーが迎えに来るまでにしゃんとさせとかんとマズイやろ?」
「確かに…。」
まともになった光君は昨日の酔っ払った状態と違って私と同じ常識人に戻ったようだ。
不眠症の気がある光君が朝まで飲み明かすのは分かるが、それに付き合った2人は大変だっただろう。特にRyoは3人の中では一番酒に弱いみたいだし。まぁ、これが普通だと思うけど。
「涼也、涼、起きろっ。」
大好きな叔父さんに起こされたなら素直に起きるだろうと考えた私は、Ryoは光君に任せて昨夜の残骸を片付けていた。
「おいっ涼也、起きろってば。」
「ん~、ぅん。」
「涼っ!マジで頼むよ。」
かまってチャンか?いい加減起きろよ。
「今すぐ起きんかったら出入り禁止にするで?」
ドスの効いた声で私はRyoの耳元で囁いた。
「はぁ?なんだそれっ!?」
「すぐ起きるんかい。」
呆れるぐらいの叔父馬鹿だな、コイツ…。
「とにかく起きてくれて良かったよ。」
光君は安心したのか自分の支度を始めた。
「あっ、涼起きたのか。」
ちょうど龍斗がバスルームから出てきた。
おっとぉ~、タオル1枚はヤバいやろ?
「龍斗!アンタは早何か着な。そんでRyo、アンタはサッサとシャワー浴びて!」
「態度デカイな。」
「お互い様やろ?昨日は初対面で色々あったけど、考えたみたらまだ子供やもんな?」
「誰が子供だよっ!」
「天下のRyo君でちゅよ~。(笑)」
怒らせた方が早かったな、起こすの。
ブツブツ言いながらやっと起きたRyoはシャワーを浴びにバスルームへ、出てきた龍斗は当然のごとく朝食を勝手に食べてる。
「龍斗、アンタもサッサと準備しなよ。」
「ふぁ~い。」
口にいっぱい入れ過ぎだろ?
「あっ!ちょっと聞いて。全員家出る前にすることあるから、よろしく!」
私はそう言って濡らしたタオルを絞り、電子レンジにかけ自分の部屋へある物を取りに行った。
「光君、こっち来て。」
歯磨きの終わった光君を捕まえ、チンした蒸しタオルを顔に押しつけた。1分ほどしてからタオルを外し、化粧水を浸したフェイスパックを顔に広げた。
『ヒール』
両手でパックを押さえながら心の中で回復魔法を唱え、光君の二日酔いという状態異常を正常モードへ戻した。
「なんかスッキリした気がする。」
「そう、良かったゎ。」
「ありがと。行って来るから後よろしく!」
「はいはい。行ってらっしゃい。」
光君を送り出した私は、残ったデカイ子供2人の支度に急いで取り掛かった。
龍斗のマネージャー郷田さんが着くまでに、この酔っ払いを誰もが夢中になる芸能人に戻さなきゃなんない。
「龍斗、いつまで食べてるん?服着てよ!」
「たぶんマネージャーが着替え持って来るから大丈夫だよ。いつものことだし。」
「いつもなんかいッ!世話のやける奴やな。ならアンタもこっち来て。いつまで食べてるん?準備しとくで。」
「二日酔いの朝に味噌汁ってイイね?」
褒めてくれるのは嬉しいけど、今はそれどころじゃないんや。大人として仕事に出せる状態にしとかんと郷田さんに申し訳ない。
「龍斗、こっち来て!」
さっきの光君と同様に蒸しタオルからのローションパックで回復魔法をかけた。その間もバスタオルを腰に巻いただけの姿の龍斗。酔っ払いからイケメン俳優モードにスイッチが切り替わってきた龍斗は鼻血もんの出で立ちだ。
金に近い濡れたままの茶髪がカーテン越しの朝日に照らされてキラキラって音が聞こえるくらい綺麗だし、昨日見たシックスパックの腹筋は太陽光で見ると改めてスゴい!鍛えてんなぁと感心しつつ、
「はい、これで大丈夫のはずだから。」
そう言ってソファーに座らせておいた。
本当はいちファンとして眺めていたかったけど最後の強敵がバスルームから出てきたのでこっちに集中しないとマズイ。
「Ryoも軽く朝ごはん食べたら準備するで。」
「・・・」
おいっ、声をかけたのに無視かいッ!
「まだ目が覚めてないん?」
「聞こえてるよッ!」
朝っぱらから不機嫌やな、と思いつつ本日3回目の電子レンジでチンをした。
出来上がった蒸しタオルを広げてRyoの元に近づくと、拒否る相手の顔面に有無を言わさず押し当てた。
「熱ッ!なにすん…」
「はい、黙って大人しくする。」
そして同じく3回目のパックをしながら回復魔法をかけた。
「よしっ、これでOK!」
私が出来ることはやりきった。
後は迎えを待つだけだ。
ホッとしたら急に今置かれている状況が冷静に見えてきた。昨日会うまでは2人とも私の"鑑賞用イケメンリスト"の中でツートップを張る大好きな芸能人だったのだ。そのツートップとまさかの朝を迎えている。まぁ、厳密に言えば一緒に朝を迎えたのは私じゃなく光君だけど…。
だが正直、目の保養なのは確かだ。
半裸のRyoと龍斗なんてヨダレもんやで。
2人とも目が覚めてスッキリしたようでソファーに座ってワイドショーを見てる。
9時を過ぎてそろそろ迎えも来る頃だろう。
私は私で仕事がある。いくら自宅で出来るとはいえ他人が、それもあんな人気芸能人が2人もいたら気が散って仕方ない。
早く帰ってくれぇ~、と願っていたらスマホが鳴り迎えが着いたことを知らせてくれた。
「うん、起きてる。今、開けるから。」
龍斗がマネージャーに部屋番号を教えているので、マンションのオートロックを解除して上がってきてもらった。
「どうもすみませんでした。」
ほどなくして部屋に来たマネージャーの郷田さんと軽く挨拶を交わし、持参した着替えを龍斗に渡した。Ryoは空き部屋になってる奥の部屋に入っていったと思ったら、ちゃんと服を着て出てきた。
「あの部屋にあんのアンタの私物?」
「だったら何だよ?」
ありゃ~、着替えまで置いてあるってことは何度も泊まりに来てたな、こりゃ。
そりゃ、今まで自分がいたテリトリーに他人が入り込んで来たら警戒もするわな。この叔父コンは手強そう…。
「ありがとうございました、吉岡さん。本当に助かりました。」
「いえ、こちらこそ。朝っぱらから無理なお願いをしてすみません。」
「それでは失礼します。行くぞ龍斗!」
「はぁ~い。じゃ、またね典子さん。」
「Ryoも早く来い。」
「分かってるって。」
「頑張って!行ってらっしゃ~い。」
ドアを閉めて鍵をかけた私は台風一過だな…と、さっきまでの状況を思い返して大きくタメ息をついた。
「あっ!忘れとった。」
誰もいなくなり1人になった私はおもむろにスマホを手に取り、昨日のコンビニでの出来事をしっかり苦情センターの電話口の相手に伝えていた。
こういうことを忘れないのが私だ。
電話を切った私は洗い物をしながら締め切り前の小説と翻訳の仕事を片付けなくちゃ、と今日の自分の予定を確認した。
今後、自分に降りかかる予期せぬ災難に気付きもせずに・・・。
吉岡典子、42歳。一度死んで異世界で転生し、その異世界で亡くなった魂が元の体に戻るという、とてつもないイレギュラーな体験をした主人公。スキル持ち。二人の子供を持つバツイチのシングルマザー。現在、吉川光輝と"結婚しない"ことを条件にパートナー関係にある。
吉川光輝、37歳。あだ名はヨッシー&光君。バツイチのゲームクリエイター。身なりに無頓着でちゃんとしたらモテるのに敢えてオタクを装おっていたイケメン。物好きにも典子に惚れた奇特な男。
吉川涼也、24歳。Ryoと言う名前で活躍する超人気アーティスト。国民栄誉賞を与えたいイケメンNo.1。忙しかった両親の代わりに幼少の頃から親代わりに育ててくれた叔父の光輝を光さんと慕っている。吉川光輝の甥で横山龍斗の親友。
横山龍斗、21歳。若手No.1のイケメン俳優。テレビ、CM、映画と人気抜群の国民的スター。ただし15歳より前の過去は謎に包まれている。スキャンダルも人気のうちと流した浮き名は数知れず。それすら人気に繋がる、吉川涼也とは親友。




