~同居開始①~
第2章ー2
「着いたぁ~。」
玄関に荷物を置くと大きくため息をついた。テレビでよく見るオートロック付きのタワーマンション。
何度来ても驚いてしまう。
「やっぱ部屋すごいなぁ。」
「一人では広すぎたから典子さんと一緒に暮らせるの楽しみなんだ。」
マンション2室をぶち抜いて改装したコウ君の自宅はマジで広過ぎ。
新婚だったコウ君と亡くなったコウ君の両親の2室分だから二人でも余りある広さだ。こんな広い部屋に一人でずーっと暮らしていたなんて、どれだけ淋しい時間を過ごして来たんだろう…
コウ君が家庭に憧れる気持ちがよく分かった。
そして今回私との同居をどれだけ楽しみにしているのかも部屋を見て感じ取れた。
急いで大掃除したのだろう。リビングからチラッと見えた隣の部屋にはゴミ袋が山積みになっていた。
「必要な物は一緒に買いに行こう。」
「うん、ありがとう。」
コウ君…仕事忙しいのに優しい♥️
数ヶ月前にコウ君は勤めていた会社を辞め友人と一緒に小さな会社を立ち上げた。PCに詳しくオタクっぽかったコウ君は、元々ゲームクリエイターになりたかったみたいで友人からの誘いを当然のごとく受け、立ち上げたばかりの会社でチーフとして忙しい毎日を過ごしていた。前の会社でのコウ君達の実績を知っている取引先はそのまま新会社に鞍替えしてくれたようだが、何せ人員不足で仕事をこなすために会社に泊まり込みも少なくない。そんな忙しい中、わざわざ休みを取って今日私を迎えに来てくれるなんて…
『私ってマジで愛されてるやん♥️』
今日から大好きな人との生活が始まる。
不安と期待が入り混じっているが私には幸運スキルがある。何とかなるはず…。
翌朝、鼻歌まじりで朝食の支度をしていた。
コウ君はまだ眠っていたが、出勤時間ギリギリまで寝かせてあげようとそっとしておいた。
昨日は久々にゆっくり眠れたようだ。
それだけでも私の決めた同居が間違ってなくて良かったと思える。
もともと夢中になると寝食を忘れて没頭してしまう癖のあったコウ君は、ある事故を境に軽い不眠症を患っていた。
原因を知った時には怒りと悲しみで本人以上に感情的になってしまったが、私のスキルで多少は良い影響を与えられたようだ。
亜眼の特性スキルで新たに手に入れた幻惑スキルと回復魔法で久しぶりの安眠を与えられたからだ。
ちなみに私は自分の能力を徐々に理解し始め、
実生活でも活用できるようになっていた。
唯一使える回復魔法だが、魔素のないこの世界で魔力もない私が使うには自分の体力を消費していた。入院していた時は無駄な体力の消耗もなく点滴を受け万全の看護態勢だったため回復が早かった。だが退院してから回復魔法を使うと怪我は治っても疲れが残る。
そこで私は代わりになるものを探した。
それが自然の"生命力"だった。
山や海、森の木々などから生命力を取り込むと魔素と同じ作用があり、魔力が使えるのだ。まぁ、使えても回復魔法だけなのだが…。それでも体力の低下を抑えられることが分かったのは儲けもん。私の回復魔法は簡単な風邪や怪我は治せても、生まれながらの身体の欠損などは無理だし、癌などの大病は進行を遅らせるくらいしかできない。なので大怪我を回復させる場合は自分もかなり体力を消費し弱ってしまう。
さすがB級…。
それでも周りの人達を助けられるのは嬉しい能力だ。
スキルも徐々に判明していたが、前世の私のように冒険に出て戦う訳ではないので日々の生活の中で使える便利なものをピックアップしている状態だった。
別格は幸運スキルだが、実生活で一番役に立ったのは言語スキルだ。これのおかげで新しい仕事を手に入れることができた。翻訳の仕事だ。小説は所詮私の日記なので終わりは見えてるが、翻訳の仕事はこれからの日本でかなり役に立つ。海外からの訪日が増える中、一度聞くとどんな言語も身に付くのだから翻訳や通訳として仕事にあぶれることはない。
実際、東京で生活することを決めた時に出版社の人と連絡が取りやすくなっただけでなく、数ヵ国堪能だと分かった別の部署の担当者から新たに翻訳の仕事をもらえた。これも幸運スキル様々か?
「おはよう。」
「あっ、起きた?おはよう。」
遅めの朝食を取りながら今日の予定をお互いに確認し合う。
コウ君は仕事へ、私は生活用品の買い物。
そして付近の探索。
冒険者時代の斥候役だった記憶があるので、
知らない土地を見て廻るのは懐かしい感覚だ。
天気予報では降水率0の快晴で絶好の探索日和。
私達は朝食を済ませるとお互い、
「行ってきま~す!」
と元気良くマンションから出掛けた。
吉岡典子、42歳。一度死んで異世界で転生し、その異世界で亡くなった魂が元の体に戻るという、とてつもないイレギュラーな体験をした主人公。スキル持ち。二人の子供を持つバツイチのシングルマザー。現在、吉川光輝と"結婚しない"ことを条件にパートナー関係にある。
吉川光輝、37歳。あだ名はヨッシー&光君。バツイチ。身なりに無頓着でちゃんとしたらモテるのに敢えてオタクを装おっていたイケメンSE。物好きにも典子に惚れた奇特な男。
リコ、享年19歳。亜眼持ちのB級女剣士。
唯一使えた魔法は簡単な回復魔法。現在、典子が書いている小説の主人公。




