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~突然の始まり~

序章


「早くしてぇーッ!」

リビングに響き渡る女の大声。

テーブルの上には簡単な朝食が準備されているが、

そこには誰もいない。

見るからにイラついている女と、静まり返ったリビングが対照的な空気を醸し出している…と思ったら、

「はよせぇ言うとるやろがぁッ!」

遠慮なくドアを開け、カーテンが閉まったままの暗い部屋へズカズカと進むと、ベッドで丸くなっている男の頭を軽く叩いた。


サッサと部屋を出ると隣の部屋へ行き、さっきと同じ事を繰り返した女は、やることはやった…という雰囲気で椅子に座り、朝食の味噌汁を静かにすすった。

が、おもむろに箸を置くと、

「えぇ加減に起きろやッ!」

外に声が漏れるんじゃないかというくらいの怒鳴り声で、さっきの部屋にまた入って行きカーテンを開け布団を剥ぎ取った。


「んーうん?」

まだ寝ぼけたままの龍斗がボサボサ頭のままでうっすらと目を開けた。

イケメン!

寝ぼけていても、ボサボサ頭でもイケメンはイケメン!

画面越しに見ていた時は単純に格好いい…とだけ思っていたが、生で見る龍斗は超絶イケメンだった。


のっそりと起き上がったイケメン1がバスルームへ向かったので、隣のイケメン2を起こしに行動を移す。

イケメン2の涼也はまだ夢の中だったが、容赦なく起こされる。

「俺、今日昼からなんだけど…」

眠そうなかすれた声で返事をする涼也は、名残惜しそうにベッドに別れを告げリビングに向かった。

こちらのイケメン2の涼也も超絶イケメン!

去年の国民栄誉賞を与えたいイケメン1位に選ばれている。


私、吉岡典子43歳。

数年前まではごく普通の会社員で、二人の子を持つシングルマザーだった私が、なぜ日本中の誰もが知っているイケメンたちと暮らすことになったのか、自分でも未だに納得できる流れではなかったが、運とタイミングと勢いで現在に至る。


シャワーから出た龍斗と入れ違いに涼也がバスルームに向かった。完全に目が覚めた龍斗はさっきの寝ぼけた青年ではなく、世の女性を虜にするイケメンオーラ全開で朝食を取っている。


「マネージャーさん、後30分もしたら来るから早く食べなよ。」

「分かってる…」

「支度できてんの?」

「うるさいなぁ、分かってるって。」

「分かってんなら、もっとはよ起きろやッ!」

「関西弁で怒鳴るのやめてよ、朝から怖いって。」

「うちの子は生まれた時から怒鳴られてたけどな。」

「俺、典子さんの子供じゃないし…」

「年変わらんやん、うちの子と(笑)」

「じゃ、お母さんって呼んでいい?」

「殴られたいんか?」

「出る支度してきまーす。」

笑いながら龍斗が自分の部屋へ向かった。


入れ違いに涼也が現れて、優雅に朝食を取り始める。

「おはよう。」

いい声で挨拶されて、ちょっと嬉しくなる私。

「おはよ。涼は今日って昼からなん?」

「うん。コウさんはまだ帰ってないの?」

「うん、今週がピークって言ってたから。」

「忙しいんだ…」

「涼だって、仕事忙しいやろ?」

「レコーディングだからね…」

「龍斗も撮影が大詰めみたいやしな。」

「あぁ、アイツ連ドラの真っ最中だもんな。」

「二人とも忙しいやろうけど全国のファンの為に頑張って。」

「俺達が忙しい方がいいんでしょ?」

涼也が切れ長の目でにやけながら私に言う。

「えっ?なんで?」

「コウさんとラブラブできて(笑)」

「うるさいッ!疲れてるから帰って来てもバタンキューやし。」

照れ隠しのように洗い物をキッチンに運ぶ私に涼也が、

「典子さん、本当ありがとね。」

「なに急に?」

おふざけモードから急に真剣な口調で感謝の言葉を口にされ、私はちょっと恥ずかしくなった。


そんな気恥ずかしい空気が流れるリビングに、仕事モードに切り替え準備のできた龍斗が完璧な状態でやってきた。

「おはよう、涼。なになに?何の話?」

「何でもないって。」

私が洗い物をしながら返事をすると、

「怪しいなぁ~?」

笑いながら龍斗が私の顔を覗き込んでくる。

「俺達がいない方がコウさんとラブラブできるって話。」

涼也が笑いながら龍斗へそう言う。

「あぁ~、なるほどね。」

龍斗もにやけながら私を見る。

日本屈指のイケメン二人からニヤニヤしながら見られている…

こんな状況、43歳の私からすると、

『見んな!私を見るなッ!』

と、叫びたくなる超恥ずかしい状態。


「とりあえず時間やろ?はよ行きなよ。」

「はい、はい。行ってきまーす。」

龍斗がオーラ全開で颯爽と玄関を出ていった。

「俺も支度してこようっと。」

涼也がご馳走さま、と言いながら自分の部屋へ消えて行った。


吉岡典子、43歳。

横山龍斗、22歳、若手No.1のイケメン人気俳優。

吉川涼也、25歳、ミリオンセラー連発の超人気アーティスト。

吉川光輝、38歳、ゲームクリエイター。

この4人で一緒に暮らしている。

ちなみに私、吉岡典子とコウさんこと吉川光輝が付き合っていて、涼也と光輝は甥と叔父の関係だ。

こんな私たちがなぜ、同居することになったか。

さかのぼること三年ほど前…




第1章ー1


目が覚めたら病室の天井が見えた。

ブザーを押して看護師さんを呼び、家族に連絡をいれてもらった。

一時間ほどで子供達が病室にやってきた。今年20歳になる息子と15歳の娘。二人とも半泣きで病室に入ってきたから、私も自然と涙が流れていた。

今日はもう遅いので担当医から明日詳しい説明をしてもらえることになり、私は子供達と家のことや会社のことなどを簡単に聞き、その他モロモロに関しては落ち着いてから話そう…と言い、一旦自宅に戻ってもらった。

そしてまた眠りについた。


翌日、担当医から自分の状態を聞いた。

あの日、夜行バスが居眠りトラックと衝突し、死傷者を出す大事故が発生。私は大きな外傷はなかったが、全身打撲と頭部への衝撃で意識不明。一時は心停止も起こり電気ショックの処置までされた様子。そして、事故から三日目の夜に目覚めたということだった。


亡くなった方もいたことを聞き、私はまた目覚めることができたことを心底神に感謝した。別に神様を信じている訳ではないが、単純に誰かに感謝したい気持ちになったのだ。


精密検査を受け、特に異常は見られなかったが、頭を強く打っていたため大事を取って一週間ほど様子を見てからの退院という流れになった。


意識がハッキリした分、全身打撲の痛みはさすがに辛かった。でもそのお陰で、事故にあってから目覚めるまでの三日間に自分が見ていた夢を鮮明に思い出すことが出来ていた…




第1章ー2


あの日、事故に遭う直前まで私はスマホで携帯小説を読んでいた。

だからだろうか、夢の中での私は異世界の冒険者となり映画のような体験をしていた。


とは言っても、S級やA級ランクの冒険者ではなく、やっとB級になった女剣士で仲のいい幼馴染みとパーティーを組んで経験値を上げている状態だった。剣士と言っても体力は男に敵わないし、魔法も簡単な回復魔法しか使えないのであまり役に立つ訳ではなかったが、亜眼という特殊な目を持っていたので何とかB級になれた部類だった。


その夢は、まるでハリー○ッターのシリーズ全話を一気に見たかのような、産まれてから19歳の若さで死ぬ女剣士リコの人生全てが詰まっていた。

映画の主人公にしては大して能力もなく英雄になるわけでもなく、ただ冒険者となって魔物と戦い、仲間と笑いあい、最後には町を救うため勇者の盾になって死んでいったリコのドキュメンタリーのようでもあった。


映画やドラマを見て、誰もが一度はまるで自分がその主人公になった気分を味わったことがあると思う。恋愛映画のヒロインに感情移入して泣いたり怒ったり、またアクション映画を見てカンフーの真似事をしたり。ホラー映画を見て作り物だと分かっていながらメチャクチャ怖がったり。

それよりもずっとリアルな映画を実体験のように感じた長編大作の夢だった。


「ヒール」

夢の中で唯一使えたリコの回復魔法。

それをふいに唱えてみた。

『典子とリコで似てるから、気持ち入ったのかも。』

そして、

『あんな終わりかた無いわ。リコ可哀想やん…』

と、夢の登場人物に同情しながら目を閉じた。


自分の体が一瞬光ったことに気付かないまま私は眠りについていた。



吉岡典子、43歳。一度死んで異世界で転生し、その異世界で亡くなった魂が元の体に戻るという、とてつもないイレギュラーな体験をした主人公。二人の子供を持つバツイチのシングルマザー。現在、吉川光輝38歳と"結婚しない"ことを条件にパートナー関係にある。



吉川光輝、38歳。バツイチのゲームクリエイター。物好きにも典子に惚れた落ち着いたイケメン。身なりに無頓着でちゃんとしたらモテるのに、敢えてオタクを装おっていた過去あり。吉川涼也の叔父。



吉川涼也、25歳。RYOと言う名前で活躍する超人気アーティスト。国民栄誉賞を与えたいイケメンNo.1。忙しかった両親の代わりに幼少の頃から親代わりに育ててくれた叔父の光輝をコウさんと慕い、現在一緒に同居中。吉川光輝の甥で横山龍斗の親友。



横山龍斗、22歳。若手No.1のイケメン俳優。テレビ、CM、映画と人気抜群の国民的スター。ただし15歳より前の過去は謎に包まれている。スキャンダルも人気のうちと流した浮き名は数知れず。それすら人気に繋がる、吉川涼也とは親友。





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