感謝
雪が降り始めてから少しの時間が経ったとき
「まずい、遭難した」と高い草木をかき分けるのを止めてAが言った。
BとCそして俺も薄々気づいていたが、Aの一言で本格的に遭難したという実感が湧いた様だった。
「そんな、俺たちどうすれば」「帰れなくなっちゃったよ」「ここは圏外だし救助も呼べないな…」次々に不安な声が上がった。俺だって不安だがここであれこれ言っても意味は無い。
「とりあえず、雨風をしのげる場所を探そう」と俺は周りに指示した。目標を見つけると、皆の表情は少しだが明るくなったてきた。
太陽も完全に落ち、冷え込んできてからどれくらい時間が経ったかは分からなかったが、俺らは1つの山小屋を見つけることが出来た。
「もう夜も遅いがここで皆が寝るとどうなるか分からない、俺ら4人で部屋の四隅に行き順番に肩を叩いて起こしあおう」Aは冷静に指示を出した。正直俺は集まって猥談をした方が気分も明るくなり希望が見えてくると考えた。しかし、この状況でそれは言えなかった。皆はAの指示を実行した。
あれからどれくらい回っただろうか、そう考えていると小屋の屋根の隙間から日が差して来た。
「朝だ!」「やった朝だ!」人をここまで安心させることが出来る太陽は偉大でる。吸血鬼には悪いが俺も太陽を見て安心してしまった。
俺らは山小屋から出てできる限り下へ下へと険しい山道を歩き続けた。
街が見えてきた。俺らは4人とも無事に帰ってくることが出来たのだ。お互いが自分の家に帰り十分な休憩を取った。
あれから丁度2年の月日がたった。
俺はあの頃の事を思い出していた。
考えれば起こし合いをするには4人ではなく5人必要だった。俺らはあの時4人だった。
だとすればあと一人は……そう考えた。おそらくは幽霊だろう。
一瞬ゾクッとした。同じ空間に幽霊が居たということに。そう考えると俺らはその幽霊に命を救われたことになる。あの幽霊は1人寂しく死んだのだろうか。しかし俺らを道連れにせず助けてくれた。心の中で何かが噴出した。暖かさだ。
ある事を思った。
「助けてくれた幽霊の分も全力で生きよう」と
そう思い空を見上げると雲ひとつない青空が俺に微笑みかけているように感じた。