7 海賊の欲しいものって、何なんだよ
「プライデーZ、防御シールドの出力を上げろ!」
「アイアイサー、キャプテン!」
プライデーZは嬉々として応えたが、喜んでいられるような状況ではない。おれは船外マイクのスイッチをオンにした。
「こちらはジュピター二世号、船長の中野だ! 不当な要求には断じて応じられない! 直ちに退去しろ!」
すぐに応答があったが、言葉ではなかった。レーダーを覗いていた荒川氏が、悲鳴のような声を上げたのだ。
「中野くん、相手の艦から光子魚雷が発射されたようじゃ!」
おれは大声で警告を発した。
「全員、衝撃に備えろ!」
腹に響くドドーンという爆音と共に、ギシギシと船体が揺れた。
「被害状況を報告しろ!」
テキパキと計器をチェックしたシャロンが、冷静な声で応えた。
「大丈夫よ。船体に異常はないわ。って言うか、随分パワーを抑えてるわね。これは、威嚇射撃よ」
ええーっ、これで威嚇かよ。本気で撃たれたら、どうしよう。
だが、動揺を見せてはいけないから「だと、思ったよ」と笑ったが、自分でも笑顔が引き攣っているのがわかる。
すぐに第二波の攻撃が来るかと思ったが、今度は言葉だった。
《ジュピター二世号に告ぐ! ジュピター二世号に告ぐ! 無駄な抵抗は止めよ! 直ちにシールドを下げるのだ!》
シャロンが首を傾げ、「ちょっと変ね」と言う。
「え? どういう意味だ?」
「だってさ、普通なら、こっちが参るまで撃ち続けるべきよ。あたしなら、そうするわ」
「おいおい、どっちの味方なんだよ!」
苛立つおれを、荒川氏が「まあまあ、シャロンちゃんの意見を聞こうじゃないか」と宥めた。
「あたしも資料でしか知らないけど、大海賊ロベルティスというのは強引で強情で強欲な男らしいわ。そうだとすると、あいつが攻撃を手控えるのは、何か理由があるはずよ。そして、それを知っているとすれば」
全員の視線が、鼻を真っ赤に腫らしているドクター三角に集まった。
ニヤニヤ笑って「ぼくが教えると思うかい?」と答えた瞬間、今度こそ三発目のパンチを繰り出そうとするシャロンを、プライデーZが間に入って止めた。
「手が汚れますよ、シャロンさま」
「そうね、わかったわ。この男に訊かなくても、だいたい予想は付くし」
どんな予想か聞く前に、船外から催促がきた。コマンドルームの正面スクリーンが不正侵入され、中年男の顔が大写しになったのだ。ロベルティスという名前からおれが想像したマフィアの親分のような顔とは、まったく違っていた。どう見ても、抜け目のない悪徳業者のような顔をしている。
《どうした、ジュピター二世号。何故素直にシールドを下げないのだ? もっと光子魚雷を撃ち込んで欲しいのか?》
シャロンがスクリーンの前に立ち、「やれるものなら、やってごらん!」と挑発した。おいおーい、大丈夫かよー。
案の定、ロベルティスの顔が怒りで真っ赤になった。
《後悔しても知らんぞ!》
ブチッと通信が切られた。
レーダーを見ていた荒川氏が「第二弾が来るぞ!」と警告した。
「全員、衝撃に備えろ!」
腹に響くドドーンという爆音と共に、再びギシギシと船体が揺れた。
「被害状況を報告しろ!」
シャロンが苛立たし気に、「だから、何ともないわよ!」と応えた。
「どういうことだよ! 勝手に相手を怒らせといて!」
「あんた、頭悪いんじゃない? どう考えたって、向こうに本気で攻撃するつもりなんかないのよ!」
「どうしてだよ!」
「この船が、というか、このジュピター二世号の外側の海賊船が、ロベルティスの欲しいものだからよ!」
「はあ?」
「見ててごらんなさい。もう光子魚雷は撃って来ないから」
シャロンの言葉どおり、第三波の攻撃はなく、再びスクリーンにロベルティスの顔が映った。
《おい、いい加減で諦めろ! シールドを下げて、接続ドックを開けろ!》
シャロンがワザとらしく肩を竦めて見せた。
「だから、やれるものなら、やれって言ってるじゃん。でも、そうすると、ヤタミのプレミア付き原寸大海賊船プラモデルは吹っ飛ぶわよ。いいの?」
《な、何故、それを知ってる? さては、ドクター三角、裏切ったな!》
縛られたままのドクター三角が大声で「違います! 違います!」と叫んだ。
シャロンは、勝ち誇ったように、ロベルティスに指を突き付けた。
「語るに落ちたわね。ちょっとカマをかけてみたのよ。あたしは、この船の部品全てのメーカー名を記憶してるの。外側の海賊船の部品は、全部ヤタミの製品だった。それに、あんたは最初から流暢に日本語を喋ってた。おそらく、日本製プラモデルの熱烈なマニアね。あんたたちの考えることなんて、まるっとお見通しだわ! さあ、こっちには降参する気はないわ! とっとと退去しなさい!」
あのー、船長はおれなんだけど。
その時、レーダーを見ている荒川氏が叫んだ。
「大変じゃ、周囲を大船団が取り囲んでおるぞ!」