6 おれたち宇宙の迷子かよ
まだ痺れの残る体を騙し騙し、プライデーZと一緒にドクター三角を縛り上げ、空いている船室に押し込んだ。
司令室に戻ると、プライデーZと手分けして荒川氏とシャロンの縄を解いた。荒川氏は自分で猿轡を外すと、おれに握手を求めてきた。
「おお、ありがとう、ありがとう。いやあ、驚いたよ。突如として爆発音が響き、超光速エンジンが破損したと警報が鳴ったんじゃ。被害状況を確認する間もなく、いきなりパラライザーで撃たれ、縛られてしもうた。あやつ、どこに隠れておったんじゃろう?」
おれは、荒川氏に頭を下げた。
「すみません、おれが迂闊でした。人工冬眠カプセルが一個使用中だったので、おかしいと思ったんです。でも、気づいたのが安眠ガスが出た後で、目が醒めたら、この有様でした」
シャロンも自分で猿轡を外し、「まあ、一応、助けてくれたお礼は言っとくわ。でも、問題はこれからよ」と言いながら、手足を伸ばした。
ドクターが潜んでいたのをスルーしてしまったことを、シャロンから責められるだろうと覚悟していたおれは、ちょっと拍子抜けした。
チャッピーも麻痺が取れてモゾモゾ動き出したので、撫でてやりながら「ありがとよ」と声をかけると、嬉しそうにおれの手を舐めた。
荒川氏もストレッチ的なことを一通りやると、自らを鼓舞するように「よし!」と気合を入れた。
「では、まず故障箇所を調べよう。わしは一先ずエンジンを見る。爆発物はもうないと思うが、念のためプライデーZだけ一緒に来ておくれ。シャロンちゃんと中野くんは、協力して計器類や備品に異常がないか調べるんじゃ」
うーん、シャロンと協力するのか。
だが、今はそんなことを言っている場合ではない。
シャロンもそれがわかっているのか、無駄なことは言わず、テキパキと点検を進めている。いつの間にこんなに勉強したのかと思うほど、船内のことに詳しい。それとなく聞くと、「全部頭に入ってるから」とのこと。なるほど。
エンジンを調べ終えた荒川氏が戻って来たが、顔色は冴えなかった。
「超光速エンジンの被害は甚大じゃ。すぐには直せそうもないわい。しかも、亜空間通信機も破壊されておる。辛うじて通常エンジンは無事じゃが、これだけでは一番近い基地に行くにも100年以上かかるわい」
「ええっ、じゃあ、おれたちはどうなるんですか?」
「宇宙の迷子じゃ」
愕然とするおれの横で、シャロンが「そのことなんだけど」と言った。
「おかしいと思わない? あたしたちに復讐するのが目的だったとしても、ドクター三角はこの後どうやって逃げるつもりだったのかしら。何か秘密があるはずよ」
「なるほど、そうじゃな。尋問する必要があるのう」
おれとプライデーZで再びドクター三角を船室から出し、コマンドルームの空いている椅子に座らせた。ふてくされたように、横を向いている。
「わしが代表して訊こう。おまえさんは、これからどうするつもりじゃったのかの?」
「ぼくがそれを言うとでも思うかい?」
ドクター三角はニヤニヤ笑っている。やはり、何かあるのだ。
と、シャロンがドクターの前に立った。
「素直に言った方がいいわよ」
「おお、怖い怖い」
ドクターが皮肉な笑みで怖がるマネをした瞬間、シャロンの鉄拳が鼻っ柱を叩いた。
「ぐえっ!」
仰け反って倒れたドクターを、プライデーZが起こして座らせた。
荒川氏が苦笑して「これこれ、女の子が乱暴してはいかん」とシャロンを宥めた。
ドクターは鼻を赤くしながら、「覚えてろ! 大海賊ロベルティスさまが来てくれたら、おまえらを」と言いかけて、しまったという顔をした。
「ほう。その大海賊とやらが、助けに来る手筈なのかの?」
すると、ドクターは開き直ったように、「ふん」と笑った。
「そうとも。予めこの場所は伝えてある。おまえたちの命運は尽きた。精々首を洗って待っていろ!」
再び、シャロンのパンチが飛んだ。
「ぎゃお!」
再び仰け反って倒れたドクターを、プライデーZが起こして座らせた。
「お、おまえたち、ただで済むと思うなよ!」
三たびパンチをお見舞いしようと、シャロンが構えたところで、船外からの緊急通報が入って来た。
《ジュピター二世号に告ぐ! ジュピター二世号に告ぐ! 直ちにエンジンを停止し、接続ドックを開放せよ! こちらは、海賊ギルド最高司令、ロベルティスである!》