38 どうして東京ドーム何個分って数えるんだよ
運んでくれるというのはウソではなく、でっかいクモに似たオランチュラたちが続々と現れると、おれの体を糸でグルグル巻きにして担ぎ上げた。
「あ、ありがとう。でも、なんか」
まるでエモノとして運ばれているみたいだ、という言葉は呑み込んだ。
おれが言い淀んだことをどう忖度したのか、横をついて歩いている代弁者役が伝声器を持ち上げた。
《遠慮することはない。いつもチャッピー単体がお世話になっている礼だ》
本来、多数のオランチュラの集合意識である『森の精霊』にとって、始めて単体として独立したチャッピーは、言わば、嫁に出した娘のようなものだろう。
そのチャッピーは、さすがに仲間に逢えて嬉しいようで、仲間の誰かれとなくキスしまくっていた。
その時上の方から、「ぼくらもついてっていいですか?」「どうすりゃいいんだよ、おっさん」という声が聞こえて来た。
見上げると、ムササビのように皮膜を拡げたカインとアベルが旋回している。
おれが答える前に、スポークスマンが伝声器を上に向けた。
《もちろん、おまえたちも来るがいい。それぞれの両親も来ているよ》
「わあ、ホントですか!」「マジかよ!」
歓声を上げる二人以上に、おれも驚いた。
「モフモフたちも来てるのか?」
《うむ。われらが呼んだ。ことは多星間に関わる。われらのようなOBではなく、現役の政府、すなわち、マムスターたちが対処すべき問題だ》
言うまでもなく、マムスターとはモフモフたち現在のドラード星人である。
「そうか、そうだな。あ、でも、難民キャンプの暴動はどうなったの?」
《中心になって暴れていたゴルゴラ星人の若者たちは強制送還された。元々、前回のきみの活躍で大部分のゴルゴラ星人は引き揚げていたのだが、一部の不良グループだけ残っていたのだよ》
小型肉食恐竜のようなゴルゴラ星人の不良って、どんだけコワイんだよ。
「じゃあ、それは解決済みなんだね」
《解決、と言っていいかどうか。せっかくマムスターたちが星連に貢献しようとして造った施設が台無しにされてしまった。こういう時こそ、きみに励ましてやって欲しいのだ。きみは英雄だからな》
手ばなしに褒められて、おれは、こそばゆい思いをした。
いや、違う、本当にくすぐったいぞ。
おれを運んでいるオランチュラたちが、おれを舐めているのだ。
「ひゃっ、ひゃめてけれ、く、くしゅぐったい!」
《おお、すまんすまん。チャッピー単体の想いが共有されてしまったようだ。もう少し辛抱してくれ。間もなく到着する》
おれは「はは、ひひ、ふふ」などと恥ずかしい笑い声を上げながら、ドームに運び込まれた。
大きさは、東京ドームの三分の一くらいだろう。ちなみに、面積が三分の一ということは、直径はルート三分の一、体積は九分の一である。これは大きい場合も同様でと、くすぐったさを紛らわすために、頭の中でくだらない持論を展開していたが、おれのよく知っている、少し腹の立つ声に邪魔された。
「あら、ずいぶん楽しそうじゃないの」
おれは、糸でグルグル巻きのまま、オランチュラたちの上から飛び降りて、相手を確認した。
肩の辺りで揃えた栗色の髪を片側だけ結び、紺色の少し大人びたワンピースを身に纏い、ちょっとばかり美人で頭がいいことを鼻にかけて態度のでかいハーフのJK、つまり……。
「シャロン! どうしてここへ!」
「もちろん、キャットリーヌ姫救出のためよ。あんたがうまいこと海賊に捕まってくれたから、邪魔されずにミシェル刑事が探すことができて、すぐにここを発見してくれたわ」
「おれは囮だったのかよ!」
すると、シャロンの後ろから、「囮も大事な役目じゃぞ」という荒川氏の声がした。
さらに、「まあ、カイン!」「アベル、こっちよ!」と呼びかけるモフモフとメイメイの声がした。
ちょうどおれの後からドームに入って来たカインとアベルは、「ママ!」「おふくろ!」と叫んで、それぞれの母親に抱きついた。
「いやいや、感激の再会もいいけどさ、おれがどれだけヒドイ目に……」
だが、またしても、おれの言葉はシャロンに遮られた。
「あんたの苦労話なんて聞いてる暇はないのよ。もうすぐ赤ちゃんが生まれるんだから」
「展開早すぎるよっ!」
シャロンは肩を竦めた。
「だってしょうがないじゃない。バステト星人の妊娠期間は、およそ二ヵ月なんですって。今、ムッシュ先生と、助手役を買って出たアメリちゃんが立ち合ってるわ。本来ならケント王子も立ち合いたかったそうだけど、状況的にちょっと無理ね」
その時、バリバリという変な音が、ドームの中に響いた。
驚いて音のした方を見ると、オランチュラの糸を編んだドームの一部を乱暴に引き裂きながら、全身黒タイツの人間が三人入って来た。例のキャプテンハードロックの手下たちだ。
「イー!」
「イー!」
「イー!」
しまった、つけられたのかと後悔していると、さらにその後ろからケント王子によく似た人物が現れた。手には暴徒鎮圧用の、ごっついパラライザーを持っている。
「出産の立ち合いなら、兄の代わりに余が務めようではないか」
そう言うと、ギルバート王子は犬歯を剥き出してニヤリと笑った。




