35 おまえにも兄弟愛って、あるのかよ
そのロボットの言葉がどこの方言なのか知らないが、明らかに調子が狂っているようで、動きがパントマイムのロボットのようにぎこちない。
「オミャー、オミャー、ノノノ、自由自由自由ニハ、サセサセセセセ」
恐らく、プライデーZがされたように、倫理回路を反転されているのだろう。と、いうことは、元に戻しさえすれば、おれの味方になるはずだ。
おれは手すりの方へ、そろりそろりと近づいたが、不意にロボットがパラライザーを撃ってきた。幸い、当たらなかったが、見たところ最大出力だった。危ない危ない。
キャプテンハードロックはチャッピーの糸でグルグル巻きにされながらも、ロボットを褒めた。
「いいぞいいぞ、ブラックフライデー! もっとやれ! 君のハートにレボリ」
「ちょっと、待て! それは違うだろ!」
キャプテンハードロックが「いいじゃないか。一遍言ってみたかったんだから」と開き直った時、船内に警報と自動アナウンスが鳴り響いた。
《正体不明の飛行物体が接近中! 正体不明の飛行物体が接近中! 総員、直ちに戦闘態勢に入れ!》
総員と言っても、キャプテンハードロックとブラックフライデーというロボットだけじゃないか。
ブラックフライデーはパラライザーを構えたまま、何かのスイッチを入れた。
「オエリャーセンノウ!」
だから、どこの方言だよ!
ブーッ、ブーッと警告音に続いて《トラクタービーム準備! トラクタービーム準備!》と自動アナウンスが流れた。
ゴゴゴッという音がして、おれの立っている円形の床の真ん中に、ピーッと一本、筋が入った。これは、もしや。
おれの全身に鳥肌が立った。
「やっべー!」
おれが全力で手すりに向かってダッシュするのと同時に、床が傾き始めた。真ん中から二つに割れて開こうとしている。
手すりまで走り寄ったが、高さが二メートルぐらいある。ジャンプしても届かない。どどど、どうしよう。
と、キャプテンハードロックのところから、ピョンとチャッピーが跳んで来た。すぐに糸でおれをグルグル巻きにし、上に戻った。
もう完全に床が開き、おれはチャッピーの糸だけで支えられている状態になった。だが、チャッピーの力ではおれの重さに耐えられないんじゃないか。
「うーっ、重いぞ! ぼくにぶら下げるのはやめろ!」
上からキャプテンハードロックの文句が聞こえてきた。
怖くて下が見れないが、風を感じるから、完全に開き切っているのだろう。
まさに芥川のクモの糸の状態だが、残念ながら、おれは主人公のカンダタの方ではなく、便乗してぶら下がる亡者の立場だ。
「おい、カンダタ、じゃない、キャプテンハードロック! ふらついてないで、ちゃんと足を踏ん張って、おれの体重を支えてくれよ!」
「何を勝手なことを! ブラックフライデー、こいつを撃ち落とせ!」
ブラックフライデーが正常なら、おれの命は風前の灯火だが、返事は「ナンクルナイサー!」だった。これはわかる。確か沖縄の言葉だ。ケセラセラみたいな意味だと思う。
しかし、このままでは、キャプテンハードロックが耐え切れずに一緒に落ちてしまうだろう。何とかしなければ。
その時、おれの下の方から、「今行きまーす!」という声が聞こえて来た。プライデーZだ。助かった!
《トラクタービーム発射口に飛行物体が接近中! 直ちに閉鎖せよ!》
「コノ、バカチンガー!」
ブーッ、ブーッと警告音が鳴り出し、ゴゴゴッという音が聞こえて来た。
幸い、プライデーZは閉まり切る前に入って来て、おれの体を抱え上げ、手すりの内側に下ろしてくれた。
「もう安心ですよ、キャプテン」
「ありがとう。でも、ややこしいから、今はキャプテンとは呼ばないでくれ」
すると、「ナンデヤネン!」という叫び声と共に、ブラックフライデーがパラライザーを撃ってきた。
咄嗟にプライデーZがおれを庇ってくれたが、カバーし切れなかった部分が痺れ、おれは呻きながら蹲った。
プライデーZは両手を広げておれの前に立ち、ブラックフライデーに呼び掛けた。
「もうよせ。悪いことは止めるんだ、弟よ!」
ええっ、そーなのーっ!
「シャラクセエ、オトトイキヤガレ!」
「ならば仕方ない。愛の鞭だ!」
プライデーZのロケットパンチが飛んだ!
だが、同時にブラックフライデーのスプリングパンチも飛んで来て、空中で激突した!
「もらったあ!」
プライデーZのもう片方のパンチが、アッパー気味に炸裂した!
ブラックフライデーは、翻筋斗打ってダウンした!
ってゆーか、ビックリマーク、多すぎじゃね!!!




