33 敵は海賊って、マジかよ
「あれって言われても、わかんないよ」
おれが当然のことを指摘すると、シャロンは苛立たしげにスイッチを切り替えた。
「とにかく、画像を前方スクリーンに映すから、見てよ!」
それは、第九地区の上空に浮かぶ、海賊船のような宇宙船の映像だった。
「あれ? ジュピター二世号って、外部から映すカメラってあったっけ?」
「何をバカなこと言ってんのよ! あれがジュピター二世号の訳ないじゃない。別の宇宙船よ!」
「へえ、似てるな。っていうか、そっくりだ。え、え、えええ、ってことは」
荒川氏が「二世ではないなら、一世か三世じゃろうな」と、のんびりした声で言った。
シャロンは宙を睨み、「記録では、ジュピター一世号は廃船になってるから、たぶん三世ね」と、これまた暢気な詮索をしている。
「いやいやいや、そこじゃないだろ。あれが一世だろうが、三世だろうが、関係ない。問題は、あれがホンモノだってことだろ!」
「あら、ホンモノじゃないわ。外壁はプラモデルで……」
「わかってるよ! そうじゃなくて」
おれたちがバカな言い合いをしているところへ、通信室で待機していたミシェル刑事が駆け込んで来た。
「大変よ! 今、元子さんから連絡があったけど、キャットリーヌ姫がドラードの難民キャンプにいるとの情報が、何故か宇宙海賊ギルドに漏れたらしいの。暴動のドサクサで混乱している内に、誘拐される虞があるわ!」
指令室にいたおれたち三人は口を揃え、「それだ!」と叫んだ。
そう言っている間にも、ジュピター三世号からは幾つものパラシュートが降下して行く。
荒川氏が「いかん。先を越されたぞ!」とおれの顔を見た。
さらにシャロンが、「何してるの。早くパラシュートで降りるのよ! 見る前に飛べ!」と急かす。
「なんでおれだけなんだよ! みんなで行こうよ。みんなで飛べば、怖くない!」
ミシェル刑事が呆れたように、「わたしが先に行きますわ」と告げて、サッサとハッチの方へ向かった。
それと入れ違いに、プライデーZが入って来た。
「どうしたんです? シャムネコ姉さん、メチャメチャ怒った顔でしたよ」
「そうか! プライデーZ、おまえ、飛べるよな?」
「ええ、まあ。それが何か?」そう言いながら、二三歩後退った。
「そんなに警戒するなよ。非常事態なんだ。キャットリーヌ姫の情報が宇宙海賊に漏れた。ジュピター三世号が来て、さっきパラシュート部隊が降下した。あいつらに捕まる前に、一刻も早く、こちらで身柄を確保しなきゃいけないんだ」
何を思ったのか、プライデーZはいきなり敬礼した。
「アイアイサー、キャプテン! 悪漢たちから姫を救出する、これぞヒーローの仕事、男のロマンであります!」
「まあ、張り切るのはいいけど、大丈夫なのか?」
「はい。優秀な部下もおりますし」
「部下?」
プライデーZは入口を振り返り、「カモン、ベイビー!」と言いながら、親指を立ててグイッと引いた。
「フーッ」「フーッ」という威嚇音と伴に、カインとアベルが飛んで来た。さらに、その後から、チャッピーが走って来て、おれに飛びついた。
「わかった、わかったから、もう舐めるな! プライデーZ、チャッピーはわかるけど、カインとアベルは、まだ赤ちゃんだろう?」
すると、コマンドルーム狭しと飛び回っていたカインとアベルが、おれの目の前に降りて来た。
「ぼくらはもう子供じゃないよ。なあ、アベル?」
「ああ、ガキ扱いはやめてくんな」
聖書とは逆に、アベルの方が悪ガキのようだ。
「まあ、いいけど、決して無理はするなよ。姫の発見が最優先だ。海賊と出くわしたら、とりあえず、逃げるんだぞ。臆病は、恥じゃない」
荒川氏が、「そうじゃ、よくぞ言った」と合いの手を入れたので、逆に恥ずかしくなって来た。
プライデーZは、「では、プライデーZ飛行部隊、行ってきます!」と告げてハッチに向かい、カインとアベルも続いた。
が、チャッピーは残って、おれのズボンの裾を引っ張っている。
シャロンが、「やっぱり、キャプテンも行かなきゃねえ」と皮肉っぽく笑った。
「そんなこと言われたって、あ、そうだ、荒川さん。おれ用のカラス天狗スーツか、河童スーツは持って来てないですか?」
「残念じゃが、『荒川清秀発明記念館』に寄贈したよ」
「何なんすか、それ?」
「ドラード政府が是非というので、造ったんじゃよ。第七地区じゃから、ちょっと間に合わんなあ」
「ああ、もう。じゃあ、無理です。パラシュートで降下なんて、おれにはできません」
言いながら、あれ、シャロンの姿が見えないな、と思った瞬間。
背後から、ごついリュックサックのようなものを背負わされた。同時にカチャッと音がして、自動的にベルトがロックされた。
「はい、装着完了よ。行ってらっしゃい」
「おーい! 勝手に何を……」
するんだ、と言う前に、おれの体は移動し始めた。
荒川氏が、「わしの新発明、自動運転式パラグライダーじゃ。ボンボヤージュ!」
「何が『いい旅を』ですか。ああ、やめて、あああ!」
おれの体は自動的にジュピター二世号を飛び出し、少し遅れてチャッピーが飛びついて来た。
「もう、知らんわあああ~っ!」




