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32 救出の主役は、いったい誰だと思ってんだよ

「なにグズグズしてんの! 早くドラードに行くのよ!」

 呆然ぼうぜんとしているおれにれて、シャロンがドンとおれの背中を平手で打った。

「そ、そうか。そうだな。うーん、ジュピター二世号はエンジンをチェーンナップしたから、最速ならバステト星からドラードまで半日か。よし、とりあえず行こう!」

 あわてるばかりのおれたちと違い、さすがに荒川氏はきもわっている。ソファに座ったまま微動びどうだにしない。

 あれ。これって、もしかして。

 シャロンの平手が荒川氏の背中もとらえた。ドンと音が響く。

「荒川のおじさま! 何を暢気のんきに寝てるの! 緊急事態よ!」

「ふぇ、な、なんじゃと?」

 シャロンは地団太じだんだむようにして、「あんたが説明して!」とおれに振ってきた。仕方なしにおれが荒川氏に事情をかいつまんで話す間に、シャロンは矢継やつばやに指示を出した。

「ミシェル姉さん、すぐに元子姉さんに協力をお願いして。今こそスターポールの力が必要よ。ああ、それから、おばあさま、いえ、星連高等弁務官せいれんこうとうべんむかんの黒田絹代氏に連絡を取ってちょうだい。難民問題のエキスパートだから、きっといい知恵を出してくれるわ。ええと、そうだわ。サバスチャン、ムッシュやアメリちゃんを責めないで。今は、お姫さまの救出が最優先よ。そして、ネコジャラス王にも本当の事を教えてあげて。もちろん、ケント王子にもよ。ついでに、プライデーZも呼んで来てちょうだい。あ、それに、ムッシュとアメリちゃん、申し訳ないけど、あたしたちと一緒にドラードについて来てもらうわ。ムッシュ、お姫さまの出産予定日はいつ? ええっ、もうすぐじゃない。だったら尚更なおさらよ。アメリちゃんは難民キャンプの事情にくわしいんでしょう? 向こうに着くまでに、色々教えてちょうだい。さて、それで」

 シャロンは改めておれに向き直った。

「なに口をポカンとけてるの? ここからはあんたが指揮しきるのよ。くさってもたい、あんたはドラードの英雄、スーパースターなのよ。あんたが顔を見せるだけで、ドラード人は安心し、士気しきがるのよ。しょぼくれた顔をしないで、シャキッとしてちょうだい」

「あ、はい」

 思わずそう言ってしまった。

 シャロンはなおも手をゆるめず、荒川氏に「おじさま、エンジン全開でお願いよ!」と念を押した。

「ああ、無論、フルスロットルじゃよ」

 みんなが各自の役割分担やくわりぶんたんで動き出した時、フッとシャロンがつぶやくのが聞こえて来た。

「生まれてくる子供は、あたしが絶対に守るわ」

 へえ、自分だって子供のくせに、と思って、おれはハッとした。敵対する勢力の後継者同士の子供。それは、まさに、シャロン自身だった。

「そうか。うん。おれも全力で守るよ」

 ひとごとを聞かれたと知って、シャロンはプッとっぺたをふくらませた。

「なに言ってんの! サッサと準備して!」

「もう、わかってるって!」

 またにらみ合いかけたところへ、プライデーZが「すみま、せん」とくような声で入って来た。何故なぜか、あしがフラフラしている。

「気持ち、良すぎて、つい、過充電かじゅうでん、してしまいまして。頭がガンガンして、大きな金盥かなだらいを、のべつまくなしに頭上から落とされているみたいなのですが、もしかして、わたしの頭、割れていませんか?」

 ずっとうつむいていたアメリちゃんが、顔を上げてプッと吹き出した。

 おれもホッとした。

「よし! 少しは元気が出たかい?」

「すみませんでした」

 チラッとシャロンを見たが、ワザとなのか、いそがしそうに行ってしまった。

 まあ、いいか。

 人数が多くなったため、サバスチャンがリムジンで宙港まで送ってくれることになった。アヌビス星のものより、ずっと豪華ごうかだ。

 みずから見送りに来たネコジャラス王は、何度もおれたちに頭を下げ、「娘を頼む」と言い続けた。

 少し元気の出て来たプライデーZが「大船おおぶねに乗ったつもりで、おまかせください」と言うのを背中で隠し、おれは「全力をくします」とだけ告げた。

 宙港に着き、スタッフに頼んで、繋留けいりゅうされているジュピター二世号にタラップを掛けてもらった。

 おれ、荒川氏、シャロン、プライデーZ、ムッシュ、アメリちゃん、そして、是非ぜひ自分も行きたいと志願して来たミシェル刑事が最後に乗り込むと、タラップが外された。

「よし、じゃあ、行くぞ」

 だが、おれが言う前に、シャロンが叫んだ。

発進エンゲージ!」

 だからそれは船長の役目、と言おうとした時には、猛スピードで上昇が始まった。アッというに大気圏を抜け、今まで経験したことのないような速さでラー星系を離れて行く。

「す、すげえ」

 おれの感嘆の声を聞いて、荒川氏が計器から顔を上げた。

「まだまだ通常エンジンじゃよ。これから最新式の超光速モードに入るぞ。早く着席して、シートベルトを締めるんじゃ」

「わかりました」

 コックピットのシャロンは、気持ち悪いくらい言葉が少ない。思うところがあるのだろう。

 プライデーZは、バステト星人三名を居室キャビンに案内し、ついでに人工冬眠中のチャッピーやカインとアベルの解凍かいとうを始めた。向こうに着いたら、すぐに活躍してもらわないといけないからだ。

 おれもわずか半日なので、人工冬眠どころか、仮眠も取らずに、情報の収集しゅうしゅうつとめた。

 やがて、大陸のほとんどを森林におおわれた惑星が前方スクリーンに映った。

 荒川氏が「おお、ドラードか。何もかもなつかしい」とわりと大きくつぶやいた。

「なに言ってんですか。つい二三日前じゃないですか」

 おれがツッコミを入れると、荒川氏は「これくらい、いいじゃろ。いっぺん言ってみたかったんじゃ」と、照れたように笑った。

 おれたちのアホな会話など聞こえぬように、コックピットで航行用ビューワーを睨んでいたシャロンが、「このまま第九地区に直行するわ」と告げた。

「え、あそこじゃ着陸できないだろ?」

 おれが当然の疑問を口にすると、シャロンは怒ったように言い返した。

「そんなこと、わかってるわよ。とりあえずホバリングして、パラシュートで降下するのよ!」

「ええっ、マジかよー。おれは、高所」

 恐怖症と言う前に、シャロンはビューワーを見て顔色を変えた。

「ちょっと待って! あれは何?」

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