表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/42

29 犯人は意外な人物って、誰が決めたんだよ

 おれは改めてメモを見た。文字情報は携帯翻訳機ウオークワンが読み取って、音声に変換してくれる。

【姫はあずかった。姫の命がしかったら、警察には連絡するな。追って身代金みのしろきんの連絡をする】

 実にシンプルで、紋切もんきがたおどし文句だ。とても、一国のお姫さまを誘拐ゆうかいして身代金を要求するという凶悪犯きょうあくはんの書いた文章とは思えない。もっとも、バステト星の文字を知らないおれでもわかるほど文字が角ばっているのは、定規じょうぎを使ったからだろう。そういうところは、誘拐犯らしい気遣きづかいだ。当然、指紋しもんも残していないはずである。

 どうして、シャロンはこれを見ただけで犯人がわかったのか。自慢げに鼻をヒクつかせているシャロンに聞くのはシャクだから、とりあえず、おれはおれで推理しよう。それには、もう少しヒントが欲しい。思いついたことを、サバスチャンに聞いてみた。

「この文章だけ見ると、今にも次の連絡が来そうだけど、結局、来なかったんでしょう?」

「はい、さようでございます。だからこそ、王はけ落ちを疑い、ケント王子の身辺しんぺんを探らせました。アヌビス星警察に、王のスパイがいるのです。確か、マリリンとかいう女でした」

 ええーっ、マジかよーっ、という言葉を必死で飲み込んだ。あの時、立ち聞きしていたのは、そういうことなのか。うーん、残念。だが、きっとむに已まれぬ事情があるのだ。そうに決まってる。ねえ、マリリン。

 おれがだまったタイミングで、荒川氏が「シャロンちゃんの推理が聞きたいのう」と声を上げた。

 シャロンは皮肉な顔で、「あら、いいのかしら、言っちゃって?」とおれの顔をのぞき込んで来た。

「なんだよ、おれに聞くなよ。言いたきゃ言えばいいだろ」

「あ、じゃあ、めとくわ」

 もやもやするー。くそっ。

「言えよ。どんなつまんない意見でも、それがヒントになるかもしれないし」

「もう、言わない!」

 荒川氏が面倒くさそうに、「まあまあ」と仲裁ちゅうさいに入った。

「わしが聞きたいんじゃ。シャロンちゃん、頼むわい」

 シャロンはニッコリ微笑ほほえんで、名探偵登場みたいな顔になった。

「簡単なことですわ。荒川のおじさまこそ、そのメモを見ればおわかりのはずよ」

 荒川氏は怪訝けげんそうな表情でメモを見ていたが、「ややっ」と叫んだ。

「すまんが、執事どの、このメモにさわってええかの?」

「少々お待ちください」

 サバスチャンは一旦シャトルを降り、すぐに戻って来た。手に小さな平たい箱を持っている。

おそれ入りますが、念のため、これをご着用ください」

 箱を開けると、白い手袋が入っていた。本来は礼装れいそう用のものだろう。

「おお、そうじゃな」

 荒川氏は手袋を着けて慎重しんちょうにメモを持ち上げ、照明にかざした。

「うむ。間違いない。中野くんも見てみたまえ」

 意味がわからぬまま、おれもそのメモを覗いた。

「あれ? これは」

 そのメモにはかしが入っていた。鼻の大きな人間の顔のようだ。

「わかるかの? ヘタクソじゃが、これはわしの似顔にがおもとにしたものじゃ。わしがドラードで紙幣しへいつくらせた際、やはり透かしがあった方がいいじゃろうと、こういう紙を用意した。実際には、紙幣自体がほとんど普及ふきゅうせず、紙が余ったので、わしらがメモ用紙として使っておった。その後、難民なんみんキャンプへの支援物資しえんぶっしの一つとして、分け与えたはずじゃ」

「と、いうことは、これを書いたのはドラードの難民キャンプにいた……」

 おれが言いかけた時、シャトルの中にかくれていたらしい人物が物陰ものかげから出て来た。

「そうですわ。その脅迫状きょうはくじょうは、わたしが書きました」

 アメリちゃんだ。手には麻痺銃パラライザーを握っている。可哀想かわいそうに少しふるえているじゃないか。おれはむしろ同情した。

 もっとも、パラライザーでたれるのはりているので、一応、両手をげた。

「やっぱりそうなのか。でも、きみは悪いじゃないはずだ。何か事情があるんだろう?」

 しかし、その返事は後ろから来た。

「もちろんでございますよ、中野さま」

 振り返ると、サバスチャンもパラライザーを構えている。

 シャロンと荒川氏が反撃しようと身構えた時、数名の衛兵えいへいらしき恰好かっこうのバステト星人が本物の銃を持って入って来た。衛兵たちの銃口は、ピタリとおれたち地球人三人に向けられている。サバスチャンは手袋を取りに行くフリをして、彼らを呼んで来たらしい。

 それだけではない。衛兵の銃は、何故なぜかアメリちゃんもねらっていた。

 サバスチャンは自分のパラライザーをしまい、「申し訳ございませんが、無駄むだな抵抗は、おやめください」と頭を下げた。

 えええーっ、おれたち、どうなるのー?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ