28 こんな気を遣う朝食は、いやだよ
アメリちゃんのエメラルドグリーンの瞳がみるみるウルウルしたかと思うと、大粒の涙がポロポロ溢れ落ちた。ヤバい。
「あ、ごめん、そんなつもりじゃ」
「もう、いいです!」
おれの言い訳も聞かず、アメリちゃんはターッと走り去ってしまった。
どうしようとオロオロする気持ちの一方で、おれの灰色の脳細胞は、こう告げていた。こりゃ、ますます怪しいぞ、と。
幸い、朝食の会場は中庭のオープンテラスだったので、すぐに見つけることができた。
すでに、荒川氏とシャロンはテーブルに座っていた。プライデーZは、また充電中らしい。それだけならまだしも、元子もちゃっかり席に着いている。しかも、シャムネコの耳みたいな携帯翻訳機まで付けて。
「どうして、あんたまでいるんだ?」
すると、奥にいたネコジャラス王が、「余が呼んだのだよ」と告げた。その声は、昨日よりも一層弱々しかった。
「すまんな。別にきみの力を信じていない訳ではない。だが、こと此処に至っては、スターポールの協力を仰ぐ他ない。小柳捜査官は、以前から格闘技の指導に来てもらっておるし、信用の置ける相手だ。場合によっては、大々的に公表することも辞さないつもりだ」
そう言うと、ネコジャラス王はワザとらしく片目を瞑って見せた。スパイが聞いているはずだから、これは本心ではないぞ、と言いたいのだろう。
まあ、実際、味噌汁を王さまのお椀によそっているのは、スパイのサバスチャンだ。当然、今の言葉は聞いているはずだ。
だが、わからないのは、元子がどこまで内情を喋っているのか、だ。おれがスターポールの依頼でここに来たことは、言っていいのだろうか。それとなく、元子を見ると、微かに首を振った。まだ言うな、ということだろう。
おれの頭はこんがらがり、誰に何を言ってはいけないのか、誰に何を言うべきなのか、訳がわからなくなって来た。
とりあえず、当たり障りのない意見を言ってみた。
「ええっと、それはどうでしょうか。姫の身の安全を考えると、あまり大掛かりに動くより、民間人であるおれが調べた方が」
「おお、無論それはわかっておるさ。スターポールの力を借りるのは最終手段だ。しかし、いざ、という時には犯人たちに鉄槌を下す所存である。犯人たちも、あまり焦らせてはならないことを知るべきだ」
ネコジャラス王は、また大げさにウインクした。もう、ええっちゅうに!
朝食は和洋自由に選べるようで、シャロンはトーストを齧りながら、「王さま、ちょっと、いいかしら?」と、小さく手を挙げた。
「シャロンくん、何か名案があるのかな?」
「名案、じゃないですけど。とにかく、事件の舞台となった王室専用の自動操縦シャトルと、そこにあったというメモを見せていただけませんか? それでだいたいの目星がつくと思うので」
「おお、さすがに天才だな。では、朝食後すぐに案内させよう。サバスチャン、手配してくれ」
サバスチャンは給仕の手を止め、「かしこまりました」とお辞儀をして出て行った。たぶん、ここまでの経過をアヌビス星のジョンに伝えるのだろう。やれやれ、こっちの気が疲れる。
鶏のササミが入った野菜サラダを食べていた元子が、「先ほども申し上げましたが」とネコジャラス王に話しかけた。
「いずれにしても、今回はスターポールの捜査官としてではなく、格闘技の師範として参っておりますので、一度本部に戻って上層部に相談します。尚、これだけは予め申し上げて置かないといけないのですが、スターポールは全面的にバックアップは致しますが、基本的に惑星内の事件には関与しません。犯人が他の惑星の者であったり、惑星に属さない宇宙海賊などの非合法勢力であることがハッキリするまで、直接介入はできませんので」
「わかっておるよ」
王さまが頷くのをボンヤリ見ていたら、いきなりシャロンに太ももを抓られた。
「痛ててて!」
夢中で目玉焼きを食べていた荒川氏が「お、中野くん、どうした?」と尋ねた。
「あ、いえ、ちょっと筋肉痛かなあ」
おれはトボケて返事をし、シャロンを睨んだ。
シャロンは作り笑顔で「これ美味しいわ」と果物の入ったヨーグルトを食べながら、おれにだけ聞こえるように「お姉さまは、あんたに言ってんのよ!」と囁いた。
ああ、もう、面倒くせえ!
おれには腹芸とか腹の探り合いとか、そんな権謀術数は向いてない。それより、泣いたアメリちゃんの姿が見えないことの方が、よっぽど気になっていた。
朝食を済ませると、元子は例によってサッサと帰ってしまい、おれたち三人はサバスチャンの案内で、そのシャトルを見に行った。
シャトルと言っても、さすがに王室専用、JRの豪華列車以上に贅を尽くしてある。中も、超一流の調度品に溢れていた。
溜め息を吐いて見惚れているおれと荒川氏の横で、シャロンだけは冷静だった。
「サバスチャンさん、こういうシャトルって、何台あるの?」
「はい、もう一台ございますが、現在は修理のため、ドックに入っております。それから、そのテーブルの上にあるのが、例のメモでございます。発見されたままの状態にしてあります」
そのメモを見た瞬間、シャロンはニヤリと笑った。
「事件は解決したわ」
え? どゆこと?




