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19 やっぱりネコが好き、かよ

 とりあえずプライデーZに手伝わせて、気絶しているカインとアベルをいている人工冬眠カプセルに押し込み、全員で司令室コマンドルーム後片付あとかたづけをした。その後、プライデーZにチャッピーの世話を頼んで、おれたち人間三人はミーティングルームで今後の事を話し合うことにした。

 テーブルを囲み、それぞれ椅子に座った。

「荒川さん、カインとアベルをドラードに強制送還きょうせいそうかんできませんか?」

 おれの提案に、荒川氏は渋い表情になった。

「中野くんの気持ちもわからんではないが、まだほんの子供じゃぞ」

「いえ、逆に子供だからです。心はおさなくとも、腕力わんりょくはおれ以上です。とてもコントロールできませんよ」

「思い切り遊べずに、退屈しておるんじゃ。アヌビス星に、アスレチック施設のようなものはないのかのう」

 シャロンが「首都ドンドには三十五箇所かしょあるわ」と、例によって超絶ちょうぜつ的な記憶力をひけらかした。

「そりゃ、ええじゃないか。中野くん、そうしようじゃないか」

「ダメですよ。おれたちの目的を忘れてもらっちゃ困ります。とにかく、捜査そうさ状況が好転こうてんするまで、カインとアベルは眠らせておきましょう」

 荒川氏は悲しげな表情でだまり込んでしまった。お気の毒な気もするが、そもそも誘拐ゆうかい事件の解決が目的のこの旅に、幼いドラード人を連れて来たのが間違いだと思う。

「あたしから提案があるんだけど」

 シャロンが話し始めてくれて、正直ホッとした。

「なんだい?」

「結局、早めに事件を解決すればいいんでしょう?」

「もちろん、そうだけど」

「だったら、グズグズしてないで、現場に行きましょうよ。事件はミーティングルームで起きたんじゃないわ」

「はあ?」

 シャロンは立ち上がって、両手でバンとテーブルをたたいた。

「事件捜査の基本は現場よ! 昔から現場百回って言うでしょう!」

「何だよ。おまえはベテラン刑事か」

 黙っていた荒川氏が、「そうじゃのう。やはり、一度バステト星に行った方がいいじゃろう。片道30分じゃし」とシャロンに賛成した。

「でも、行くとしても、誰をたずねて行くんですか? その辺歩いてるバステト星人に聞くわけにもいかないでしょう」

「それは警察じゃろう。中野くんが出会ったというジョージ刑事みたいな、先方の責任者がおるじゃろう」

「そういえば、ミシェルがどうのって、言ってました」

 すると、シャロンがちゅうにらみ、「バステト星の首都バリンの警察署員名簿に、ミシェル刑事の名前がってるわ」と告げた。どんだけ記憶してるんだよ!

「決まりじゃな。とにかく、当初の予定でも、先にバステト星に行くはずじゃったからのう」

 二人に押し切られ、そのままバステト星に出発することになった。ああ、マリリンに会わずに行くのか。おれは必ずアヌビス星に戻って来ると心にちかった。

 ちなみに、双子星ふたごぼしであるアヌビス星とバステト星は互いの周囲を回っているため、地球の月のように常に同じ面を向け合っている。もし、平和が維持いじされれば、それぞれの首都であるドンドとバリンの間に、直行の宇宙エレベーターを造る計画があるらしい。

 今はそうもいかないが、近いことは間違いなく、周回軌道に乗ったかと思ったら、すぐに着陸態勢になった。

 バリンのルドゴル宙港に近づくと、管制から通信が入った。

「スクリーンに出してくれ」

 おれが命じると、チャッピーと遊んでいたプライデーZが、張り切って返事した。

「アイアイサー、キャプテン!」っていうか、仕事しろよ!

 スクリーンには、上品な感じの青い目のバステト星人が映った。

《ようこそ、バステト星へ。渡航目的は観光ですね?》

「あ、ああ」

《それでは、誘導ビームに従ってご着陸ください》

 なんとか第一関門かんもん突破とっぱしたと安心したところで、「ああん」という今まで聞いたことのないようなシャロンの声がした。

 ギクッとして振り返ると、コックピットのシャロンがとろけるような表情で「か、わ、い、いー!」と叫んだ。

「ねえ、見た。見たでしょ、あの子。可愛かわいいわあ。あれ、ラグドールよ!」

「あのなあ。アヌビス星人もそうだけど、バステト星人だって地球のネコに似てるのは偶然で、おまえが言ってるドトールとかいう種類ってわけじゃないんだぞ」

「失礼なこと言わないで! ラグドールは別名ぬいぐるみネコって呼ばれてるのよ!」

「だから、違うって!」

 荒川氏が見かねて、「これこれ、ちゃんと着陸しておくれ、シャロンちゃん」とたしなめてくれた。

「もちろん、確実に着陸しますわ。ああ、早く見たいわ、あの子たち!」

 目的はそれかよ!

 シャロンの願いはともかく、無事、ルドゴル宙港に着陸し、ジュピター二世号からりたおれは、驚いてしまった。

 アヌビス星のヒズロ宙港に着陸した時には寒々さむざむしく陰鬱いんうつな天候にこちらの気分まで沈んだが、ここは真逆だった。

 抜けるような青空。照り付ける太陽。吹き渡る風にはほのかに甘い花の香りがする。

 おれの気持ちそのままを、シャロンが叫んだ。

「天国に一番近い星よ!」

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