16 運命の再会って、こういうことじゃないよ
おれたちは、一旦宙港に停泊中のジュピター二世号に戻って、今後の対策を練ることにした。
王子の執務室を出て大広間の横を通りながら、早速おれはシャロンに文句を言った。
「なんで王子の目の前で抓るんだよ!」
シャロンは皮肉な笑みを浮かべながら、おれを横目で見た。
「あら、感謝の言葉にしては、無礼な言い方ね」
「どうしておれが感謝しなきゃいけないんだよ!」
「まあ、そんなこともわからないの。いいこと、元子お姉さまは、あくまでも内密に捜査しろ、とおっしゃったはずよ」
「おれにはそんなに明確に言わなかったぞ。慎重にやれ、とは言われたけどさ。だから、王子にぐらいは本当のことを言ってもいいだろう。それとも、あの王子が怪しいとでも言うのか?」
シャロンは、ワザとらしく大きな溜め息を吐いて見せた。
「あんたって、どうしてそんなに考えが浅いの。あたしだって、ケント王子はたぶんいい人、じゃない、いいアヌビス星人だと思うわ。でも、見ず知らずの地球人にこんな大事なことを頼むようなお人好し、うーん、おアヌビス星人好しよ。本人に、いえ、本アヌビス星人に、悪気がなくても、人の口に、ああ、もう、アヌビス星人の口に戸は立てられないわ、って面倒くさい!」
いつものように、「まあまあまあ」と言いながら、荒川氏が仲裁に入ってくれた。
「そこは普通に、人、だけでいいんじゃないかのう」
って、そこかい!
「それは、さておき。中野くん、今回はシャロンちゃんの意見が正しいと、わしも思うぞ。キャットリーヌ姫が誘拐されたことは、どんなに隠してもいずれはバレる。そして、その時は再び戦争が始まってしまう。じゃから、絶対に秘密裡に、そして大至急、事件を解決せねばならんのじゃ」
「わかってますよ。だからこそ、早く協力者を見つけないと。何といっても、おれたちは部外者ですから」
「もちろんじゃ。じゃが、くれぐれも慎重に、じゃな」
ずっと黙って尾いて来ていたプライデーZが、「はい、座長!」と手を挙げた。
「なんだよ?」
「そのためにも、国立演芸場に出ましょうよ」
「はあ?」
「芸人一座という隠れ蓑を使って、協力者を探すんです。それと共に、わたしの名前を知らしめるんですよ。プライデーZ、ここにあり! ってね」
「目的はそれかよ! いいじゃないか、名前を間違われたくらい。おれなんか、何度ももっとヒドイ目に」
そこまで言いかけたおれは、息を呑んだ。似てる。というか、ソックリだ。
「チャッピー?」
「あら、あんたの可愛いチャッピーちゃんなら、まだ人工冬眠中よ」
シャロンが揶揄うのもかまわず、「先にジュピター二世号に戻っててくれ。おれは後から行く!」と告げて、走り出した。
「ちょっとお、何勝手なこと言ってんの。作戦会議はどうすんのよ!」
「先に始めててくれ!」
どうせ今までだって、作戦会議におれの意見が反映されたことなどないのだ。
おれは全速力で大広間を横切り、外の回廊部分に出た。素早く左右を見ると、右の奥に向かって業務用回転式床磨き機で清掃作業をしているアヌビス星人スタッフの後姿を見つけた。
「ちょっと、すみません!」
相手はビクッと体を震わせ、恐る恐る振り返った。その全体的に茶色のコーギーに似た顔には、鼻の両脇にだけ少し白い毛がある。
「チャッピー! あ、いえ、すみませんでした。知ってる、というか、知ってたイヌに、その、似てたので、どうしても顔が見たくなって」
相手はまだ警戒しつつ、「地球のお方ですか?」と聞いてきた。女性の声だ。
「ああ、失礼しました。ケント王子に呼ばれてここに来ました、中野といいます。決して怪しい者ではありません。実は、昔飼ってたイヌに、あ、ご存知かもしれませんが、地球にいるあなたたちアヌビス星人にソックリの動物で、ペットなんですけど、そのチャッピーにあなたが生き写しだったので、つい、声を掛けてしまいました。本当にすみません」
相手は、ホッとしたように微笑んだ。
「そうですか。それは本当に良かった。わたしは、てっきり立ち聞きしていたのがバレたのかと思って、ヒヤヒヤしましたわ。初めまして、ドラード救国の英雄にして特別暫定保安官補佐見習いの中野さま」
「えええーっ、なんでそれを! あ、何をするんだ!」
背後から、強い力で羽交い絞めにされた。
気がつくと、何人ものアヌビス星人がおれを取り囲んでいる。その中のボスらしい、獰猛なドーベルマンのような顔をした男が、「困るなあ、あんた。われわれの邪魔をしてもらっちゃ」と凄んだ。
「わーっ、咬みつかないでくれーっ!」
ドーベルマンは歯を剥き出していたが、どうやら、それは笑顔らしかった。
「そんなに怯えなくていい。一つだけ教えてくれれば、解放するよ。元子ってのは、いったい何者だ?」